うちは呪術師専用図書館じゃないんですけど   作:月日は花客

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東京旅行編は私が東京に詳しくなさすぎた……。
久しぶりの伏黒姉弟。






番外編:外の子の成長は早い

 朝起きたら毒虫になっていた……とはならず、すこぶる健康な寝起きだった。

 本日は仕事は休みで、特に予定も無い。

 積読の消化、買い物、遠出。やれる事は色々ある。別に私も、毎日ずっと本のことを考えているわけでは無い。

 新作コスメや、話題のスイーツを見にいく時だって多くある。読書には、本だけでは無い、世界の様々な知識があるからこそ、魅力を理解できる内容も多いのだ。

 

 いつもよりラフな部屋着に着替えて、のんびりコーヒーを啜った。朝ごはんは昨日焼いた薄っぺらいパンケーキである。

 しろくまちゃんが食べていたようなふんわり分厚いホットケーキもいいが、私は薄めのしっとりしたパンケーキが好きだ。「ちびくろサンボ」みたいなやつである。

 虎はバターになるが、虎製バターは有塩なのか無塩かどちらなのか。

 

 ダラダラしつつ近所の書店の公式SNSを眺めていたら、時刻は午前11時になっていた。少々のんびりしすぎたようだが、近々好きな本が新装カバーになって重版されるらしく、楽しみと満足感がある。

 そろそろ新潮文庫の夏のプレミアムカバーも買わねば。毎年のそれは夏の楽しみの一つで、どの作品が選出されたかも楽しみの一つとなる。

 今年は川端康成の「雪国」が薄水色の綺麗なカバーに惹かれた。もちろん全冊買うが、数年前の「人間失格」や「こころ」とはまた違ったカバーが同じプレミアムカバーとして出ているので、本棚に同じ本がまた増えることになる。

 中身は同じでも外見が違えば印象は変わる。

 新潮文庫プレミアムカバーは箔押しの豪華なものなので、是非買いたいところ。

 

 と、思考を巡らせていたあたりで、書斎から物音がした。

 おそらく、また客人だろう。今日は五条くんか夏油くんか。

 慣れたもので気にせずドアノブを捻る。

 

「わぁ! あの時のお姉さんだ!!」

 

 花のように可愛らしい声が耳に飛び込んでくる。少し調子は違うけれど、その声には覚えがある。

 

「津美紀ちゃん?」

「お久しぶりです! またここに来られるなんて!」

「……お久しぶりです」

「お、恵くんも」

 

 そこには、長い髪をポニーテールにした女の子と、ツンツンヘアーの男の子がいた。どちらも制服を着ている。

 昔……まぁそこまで前では無いけれど、もっと幼い二人には会ったことがある。そこから、もうすっかり大きくなっていた。

 五条くんは、たった二週間で数年大きくなっていたからあまり感じた事はなかったけど、こうして二人を見ると大きくなった親戚の子どもを見るような気持ちが湧く。

 二人とも、幼い頃の面影ははっきり残っていた。

 

「久しぶり。大きくなったね〜、今は高校生?」

「私が高校で」

「俺はまだ中学です」

 

 二人の制服は型も色も違うから、まぁそうだろうとは思った。昔は確か小学生だったか? そう考えるとやはり成長も見張るものがある。

 

「津美紀ちゃんは入院してたって聞いたけど」

「あ、はい。でもちょっと前にすっかり良くなったんです。かかってた術? も取れたみたいで」

「へー、大丈夫そうで良かった」

「……」

 

 術がかかっていたって事は、なにやらあちらの世界の呪術絡みで意識不明になっていたのだろうか。恵くんの長い顔からもそれが読み取れる。

 まぁ、今元気なら良いんじゃないかな。

 

「実は、起きた時は結構記憶が曖昧で……ここのことも、寝てる間の夢だったのかなってちょっと寂しくて。でも恵も覚えてるし、こうしてもう一度お姉さんに会えて良かったなって」

「小学生の時の記憶って、案外薄いものだしね。私がちょっとだけ高専にいた時は、恵くんいなかったし」

「え、来てたんですか?」

「うん、五条くん達には会ったし、助けられたけど……」

「……あの人は……」

 

  にしても、私と関わったのってたった数時間だけなのに、こうして覚えて懐いて貰えてるとは。読み聞かせにガッツリ付き合ったのが効いたのかな。

 私としては、嬉しい事だから特に何も言うまい。

 恵くんは私が高専に来てたことを知らなかったらしい。あの時は割とピンチだったから、五条くんは気を遣って恵くんに言わなかったのか……単純に面倒で行ってなかったのか。

 どっちもあり得るから、藪蛇はしないでおこう。

 

「それにしても、変わらずここは本がすごいですね」

「なんだか、昔より増えてるような?」

「あー、君たちが前回来た時から……」

 

 記憶の中で、何の本をいつ買ったかぼんやり数えてみる。

 呪術のことを知ってから、なんとなくそっち方面の本も多めに買い始めたんだよね。「日本現代怪異辞典」とか、ラヴクラフトの本とか。

 前からそう言う本も無くはなかったけど、「遠野物語」とか近代的なものが多かったから。

 海外の創作神話は、ちょっと違う矢印かもだけど。

 怪奇小説は海外の方が層が厚かったりするんだもの。

 

「に……ひゃく、は……ギリギリいってない筈」

「やば……」

「やっぱり、書斎広くなってますよね?」

 

 元々本棚はギッチギチだったので、冬のボーナスで買い足した棚もある。イケアの本棚は組み立てるのに一苦労だ。どうしていつもネジが数本余るのか。

 地震対策の突っ張り棒なんかも買わなきゃだったから、ボーナスは大体消し飛んだ。

 

「これでもセーブしてる方なんだよ。ただ、買う本の量と欲しい本の量が釣り合わないだけで」

「うちの近所の図書館よりも本が多い気がするもの」

「図書館は閉架図書があるからねぇ」

 

 需要が無い本は有る本のために閉架に仕舞われる。割と図書館の棚は取り合いが激しいのだ。

 

「どうせなら、何か読んでいく? あの時の絵本もまだあるよ」

「あはは……、なんだかすっごく読み聞かせをねだった覚えが……」

「あれはすごかったねぇ」

 

 お姉さん喉イカレるかとおもったよ。

 世の中のお母さん方はあれから逃げれないわけだから、ほんと頭が下がりますわ。母って偉大。

 

「でも、絵本って声に出して読むことが前提になってるものも多いから、読み聞かせが楽しいのは当然と言える」

「『こんがらがっち』『パンどろぼう』……見慣れない絵本も増えてますね」

「買ってるからね。こんがらがっちは良いよ。主人公はイルカともぐらがこんがらがった生物『いぐら』」

「もはや元の原形が無い」

 

 津美紀ちゃん達は、なんだか懐かしいテーマパークにでもやってきたみたいに、瞳を輝かせて本棚を見ている。

 苦労が多そうな二人だけど、ここを楽しい場所と思ってくれるのは嬉しい。図書館なんて退屈な場所、と思う人も少なくないわけだしね。

 

「俺は最近は、近代文学を読んでます」

「お、渋いね。気になってるやつはある? 近代文学は有名なやつ大体あるけど」

「『黒死館殺人事件』はありますか」

「うおっ……日本三大探偵奇書に挑むか……あるけど」

「五条さんに読んでみろと煽られまして」

「何やってんだアイツ」

 

 「ドグラマグラ」を勧めなかっただけマシなのだろうか。

 恵くんを近代文学の棚に案内すると、近くの現代文学の棚で津美紀ちゃんが立ち止まっていた。

 

「何か気になる本はあった?」

「はい! これですね」

 

 手にあったのは「キッチン」。吉本ばななの文庫本だ。

 名作として有名だし、落ち着いた表紙がかわいらしい。

 

「ああ、面白いよ、それ」

「えへへ……実は、進学先が料理の学校なんです」

「へぇ、将来は料理人にでもなるの」

「そこまでは、まだ考えてないですけど……私が寝てる間、恵、寝食も惜しんで頑張ってたみたいで」

 

 私を起こすために。と、津美紀ちゃんは囁くような声を漏らす。近くの恵くんには聞こえていないだろう。

 

「だから、今までの分美味しいもの食べて欲しいし、食べさせてあげたいなって」

「それで、キッチンってタイトルに惹かれたんだ?」

「うん、あ、恵には内緒ね?」

「勿論」

 

 初夏、ステンドグラスから漏れる光は本棚を眺める二人を色鮮やかに照らしている。

 なんとなく、その光景に安心して、三大奇書全てを取ってきた恵くんにほうっとため息が出た。

 

「姉弟仲良きは美しきことかな……ねぇ?」

「? はい」

 

 恵くんは頭にハテナを浮かべながら黒死館殺人事件を開き、眉間に皺を寄せていた。

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