私は意識が回復したあと、病院で精密検査を受けた。
正直、不安だった。
音楽をやめないといけないと思うほど思い詰めてしまっていたのだが、お医者さんからの回答は意外なものだった。
「親御さん、ひとりさんの診断結果は拍子抜けするほど正常でした。有毛細胞なども損傷していないし、聴力検査などもすべてにおいて正常でした。おそらくストレス性の難聴だと思われます。」
「じゃあ、一時的なものだったんですか?」
「ええ。ただ…脳のMRIに少し気になる影が映っています。ですが、形状が通常とは異なり、私たち大学病院の医師でも診たことがないものなので、おそらく機器の誤作動だと思われます。ひとまず経過観察としましょう。」
脳のMRIに...影...
その事実だけで不安になった。
ついつい脳の血管が損傷していて、その影響で聴覚に異常が出たのだと考えてしまう。胃の奥から酸っぱいものが上がってくる感覚に襲われたが、ここで吐くわけにはいかないと必死にこらえた。
お母さんとお父さんは大丈夫と励ましてくれたが、私の気持ちは晴れなかった。
また音が聞こえなくなって、結束バンドのみんなに迷惑をかけるんじゃないか。そう思うと、私なんかこのバンドに必要ない存在なんだと考えてしまう。
ああ、だめだ。またネガティブな感情が思考を包みこんでゆく。
いつのまにか虹夏ちゃんにスタ練を休む連絡を入れてしまっていた。
私という人間は本当に価値がない。
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その頃、STARRYにて
「ぼっちちゃん,スタ練休むって。」
「やっぱり、ひとりちゃんにライブパフォーマンス求めちゃった私が悪いですよね。何かあったらどうしよう。」
「ごめん虹夏、遅れた」
「リョウ、10分遅刻だよ!」
「あれ、ぼっちは?」
「ああ、ぼっちちゃんは体調悪いから休むって。」
「ぼっち、大丈夫かな。最初に病院で見たときは過呼吸起こして気絶してたし。」
「まぁ、ぼっちちゃんなら大丈夫でしょ!」
「虹夏って時々鬼畜だよね…」
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ギターをかき鳴らしているときだけ、私は不安を忘れることができる。
少し弾き疲れたので、横になって仮眠を取った。
こんな夢を見た。
音が少しずつ消えていき、最終的には自分のギターの音さえも聞こえなくなる。自分の存在価値が消えてしまうようなとても苦しい夢だった。
起きたら、寝汗と冷や汗で全身に服が張り付いていてとても不快だった。
次のスタ連と学校…どうしよう。
流石に2回連続で休むのは申し訳ないと思い、の虹夏ちゃんに「次のスタ連は必ず行きます」とロインで連絡を入れたあと、不安を忘れるためにまたギターを弾いた。
そんな生活を2,3日続けていたら、学校で私は倒れてしまった。
保健室のベットで目を覚ますと、隣には喜多ちゃんがいた。
「うぇ!?喜多ちゃん!なんでここに!」
「ロックのやべーやつが倒れたってみんな噂してて、もしかしたらひとりちゃんじゃないかって思って来たの。」
わざわざミジンコ以下の私のために喜多ちゃんは優しいなぁと思っていたら、急に核心をつく質問をしてきた。
「文化祭ライブのダイブの影響で何かあったのかなって。ほら、スタ連も休んでたし。」
「な、何もないですよ!」
「嘘。私ね、ぼっち胞子を吸い込んでからひとりちゃんの考えが大体わかるようになったの。何かあったなら話して。相談に乗るから。」
この話をしたらバンドが壊れてしまう気がした。
「ごめんなさい...喜多ちゃんにはまだ話せないです。でも来たるべき時が来たらちゃんと話します。」
喜多ちゃんは少し困ったような顔をしたが、頷いてくれた。
「そう...わかったわ。でも本当に辛いときは相談してね、私の胸を貸してあげるから。」
「貸せる胸は喜多ちゃんにはないのでは」という喉まで出かかった言葉を飲み込んだが、喜多ちゃんが私に憎悪の感情を向けたような気がした。
まぁ、多分気のせいだろう。