高空の守護者   作:シェフの気まぐれ侵略

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MISSION 1 RETURNED

 

 

 

 AWACSからのレーダー情報が更新されるのを見ながら、無線周波数を上下させ、味方部隊からの情報を拾う。戦線はかなり逼迫しているらしく、友軍の支援要請や半ば悲鳴じみた報告がひっきりなしに飛び交っている。そのうちの一つが引っかかり、部隊全体に共有する。

 

《ドローンだ! ガンシップ、退避しろ!》

 

《こちらDE-201、退避は不可能!既に肉薄されて───》

 

《ガンシップ? どうしたDE-201? …クソ!》

 

 戦線は既に激化していた。怪物だけではない。空では陸上支援機の天敵、戦闘用のドローンが地上・空を問わず攻撃を加えている。

 

『こちらレンジャー7、既に半数がやられた!』

 

『エアレイダー、支援はまだなのか!』

 

『頼みの綱がやられたんだ、何も出来ない!』

 

 地上に立つ航空戦力の目であるはずのエアレイダーは、しかしガンシップにその攻撃の大半を頼る都合で陸戦能力には乏しい。故にレンジャーの援護を必要とし、空の味方が消えれば無力に等しい。

 

《スコーチャー1、作戦は既に破綻している。俺たちの仕事は無いのか?》

 

《とにかくドローンを落とせ、スコーチャー3。スコーチャー隊、行くぞ!》

 

《了解! E・D・F!》

 

 三機は一斉に散開し、ドローンを包み込むように展開する。ドローンの驚異的な点は、なんと言ってもその飛行能力にある。

 まさにUFO、円盤とも呼ぶべきそれは、下部に拡散ビーム機関砲が取り付けられており、プライマー研究学者によると空力特性に劣るはずの設計にもかかわらず、未知の能力で一定以上の推力を得ているという。

 

 戦闘機のフルスロットルには流石に追いつけないものの、ガンシップのような鈍重な機体ならば加速前に追いついて撃ち落とせてしまう。

 

 ターゲットを鋭く見据え、ミサイルをロックオンする。機動戦闘以上に迎撃機としての能力も持つハーベスターは、特に兵装搭載能力にもその機体性能を発揮している。大型化したウェポン・ベイは、ガン(機関砲)もミサイルも、三十分以上は補給無しで戦闘できるほどに豊富な弾薬倉として働く。

 

《スコーチャー2、FOX1!》

 

 前時代から続く、誘導ミサイルによる攻撃。アクティブレーダー誘導を利用した、高精度のミサイル攻撃。回避機動を取る事が無いドローン相手ならば、ミサイルが腐ることは滅多に無い。使い捨てのような挙動をするドローンは、敵にとってはただの大量生産品でしかないのだろうが、1機残っているだけで友軍の航空機にとっては非常に大きな脅威となる。

 

 ミサイルは吸い込まれるように着弾し、文字通りの木っ端微塵になる。しかしドローンそのものは無数に点在し、味方戦力を食ってしまう。

 

《こちら戦闘爆撃機カムイ、後三分で戦線に到着する。ドローンの残数は?》

 

 後ろからやってきた味方の爆撃機からの質問に隊長機が答える。

 

《こちらはファイター、スコーチャー1。カムイへ、ドローンはまだ健在、数え切れん。戦闘空域への進入は勧められない》

 

《カムイよりスコーチャー1へ、悪いが雛鳥が腹を空かせて待ってる。どうにかこの機が追いつかれない程度に減らせないか?》

 

《…了解した。もとよりそれが任務だからな》

 

《恩に着る、カムイ、オーバー・アウト》

 

 通信が終わり、作戦内容が更新される。漫然とドローンを排除するのみではなくなり、爆撃機カムイの到着までに敵残数を可能な限り減らすという明確な目標が出来上がる。

 

《聞いていたな? 二人とも気合いを入れろ!》

 

《スコーチャー2、了解!》

 

 ミサイルをもう一方のタイプに変更する。

 主力兵装がアクティブレーダー誘導方式であり、射撃から着弾までに回避されると外れやすいのに対し、こちらは低速域弾速の赤外線誘導弾頭を使用する高機動ミサイルである。

 陸戦兵器となるコンバットフレーム・ニクスの対空戦闘モデル、ニクスミサイルガンと同様の小型ミサイルを流用した安価生産品となるこのミサイルは、赤熱、つまり高い熱を持つ物体に対し誘導する。

 

 それが怪物に有用であると知られたのは、歩兵用のパーソナル・ミサイルランチャーの誘導方式が元々対空戦闘用であったはずが、怪物相手にロックオン可能であることを一部のレンジャーが発見したからという理由である。

 

 そこからはトントン拍子でハーベスターへの搭載が開始され、今に至る。元になったミサイルはMLRAランチャー。小型弾頭を大量発射する、対大群用兵器らしい。

 

《スコーチャー2、カムイが来る、畳み掛けるぞ》

 

《そうだな。ミサイルを連射タイプに切替える。タイム・アタックと洒落こもう》

 

 2機のファイター(ハーベスター)がドローンの弾幕を掻い潜るように機動する。ドローンは搭載されているコンピュータが未熟なのか、あるいはそれで完成系なのかは知る由もないが、予測射撃を行わない特徴がある。

 数で圧倒するのがプライマーの方針なのか、それはわからない。少なくとも、兵士の質ではEDF側が上だ。

 

《スコーチャー2、FOX2!》

 

 翼部下部に取り付けられたミサイルベイから、20発もののミサイルが連続発射される。それは左右で独立しているため、合計すれば優に40発もの弾幕となる。

 それらが個別の敵をそれぞれ攻撃するため、2機、あるいは3機による同時攻撃を行う事が出来るのであれば、それはまさに大群を屠る牙となる。

 

《スコーチャー3、FOX2!》

 

 僚機からの攻撃同期による、圧倒的な面制圧。爆風は小規模のため他の敵を巻き込むことはない。ただし、それを補って余りある火力で、ドローンを落とし続けていく。

 

 一機また一機などという言葉では済まない、低速で確実に着弾するミサイルは、一基のメインブースターと併設された八基の小型バーニアを駆使する緻密な姿勢制御システムによってその高い命中率を維持している。

 威力もまた、従来の戦闘機を超えた全長26メートルに及ぶ大型戦闘機としての能力に恥じないクラスまで引き上げられ、装甲貫徹力並びに破壊力はコンバットフレームのものより強力になっており、追尾性能に関してもさほど性能を落としていない。

 

 コストの高さは、生存能力や殲滅能力に直結していると言っても良い。ハーベスターは、今までの戦闘機とは一線を画す高性能戦闘機というべき存在だった。

 

《スコーチャー1、FOX2!》

 

 隊長機からの追い討ちがかけられ、ドローン群はその数を着実に減らす。

 

 地上部隊の奮戦が、市街を飛び交う曳光弾からも見て取れる。ドローンはいつの間にか地上部隊を攻撃する事を辞め、空の脅威であるスコーチャー隊を先に撃破する判断を下したのだろう。

 

《油断するな、力ではなくチームワークで圧せ》

 

 味方機との相互援護は、航空戦では必定である。単機で突出した機というのは、得てして落とされるものだ。

 

《こちらカムイ、作戦エリアに侵入!》

 

《カムイ! こちらスコーチャー2、まだドローンが残っているぞ!》

 

《地上部隊の支援が優先だ、援護を頼む! エアレイダーは攻撃目標をレーダーに投射してくれ!》

 

 戦闘爆撃機カムイは、その機体速度の高速性から戦闘エリア内への素早い突入と離脱が可能であり、パイロット及び機体の帰還率は高い。しかし爆薬搭載数に若干の難がある事が欠点である。

 

『こちらエアレイダー。目標を指示した、頼む!』

 

《こちらカムイ、了解した。スコーチャーチーム、援護を要請する!》

 

《ドローンは俺とスコーチャー3で請け負う。スコーチャー2はカムイの脇について行け!》

 

《了解!》

 

 カムイの速度域に合わせ、機体を減速させる。ドローンへのミサイル攻撃で先制し、接近された際の負担を減らす為に遠距離からミサイルを射出する。

 

《カムイよりエアレイダー、突入する。爆撃予定エリアから離脱せよ》

 

 爆撃機カムイのボムベイから10個ほどの爆弾が投下される。300キログラム爆弾は比較的小型で搭載しやすい兵装だ。故に重量的観点から見ても嵩張る事は無く、機体速度の維持能力にも優れる。

 

《投下!》

 

 パイロットの目線からは、機体下部のカメラユニットからしか情報を得られない。それでもコンピューターが叩き出した演算結果の通りに投下され、三百メートル真下で火柱が立ち上る。

 

『ヒャッホォウ! やったぜ!』

 

『ぬか喜びになる前に怪物を殲滅するぞ!』

 

 地上部隊の僅か30メートルほど前方を正確に薙ぎ払った事からも、パイロットの正確な飛行能力と判断力が窺えた。

 

《カムイは戦域を離脱し待機する。エアレイダー、必要になったら呼んでくれ》

 

『エアレイダーよりカムイへ、感謝する!』

 

 カムイが戦域を抜け出すまでのエスコートを終わらせれば、後はドローンを殲滅して作戦完了となる。市街地を抜ければ山岳地帯に入るが、待ち伏せが少ない地形である以上、不意の遭遇戦は避けられ、単機戦闘性能の無いカムイでも安全に待機できるようになる。

 

 もう間もなく、市街を抜けるというタイミングだった。

 

《スコーチャー2、すぐ戻ってくれ! 隊長が未確認の大型ドローンとドッグファイトしてやがる!》

 

《何!? …カムイ!》

 

《聞いてた、すぐに向かってやれ! ここなら襲われる心配もない!》

 

《恩に着る!》

 

 スコーチャー隊に合流するべく、エンジン推力を最高まで上昇させ、身体に悲鳴を上げさせながらも高速飛行する。

 

 大型のドローン。恐らく、戦争中期に出現したタイプ2ドローンと呼ばれる大型機だ。図体は円盤型のタイプ1と比較して三倍以上の大きさだが、問題はその射撃特性だ。

 大型のエネルギー弾を連続で拡散発射して広範囲を加害するというものであり、マッハ3という世界最速に近い戦闘機では直線的な回避挙動しか取れない為、運悪く巻き込まれて戦死するパイロットも多かった。

 かと言って亜音速での低速回避機動では、対単機性は高いものの大群相手では無力であるから、生き残ったパイロットは必然的に高い判断力を求められた。

 

《スコーチャー2早くしてくれ! 2機がかりで落とせないんだ!》

 

《あと30秒! 持ちこたえろ!》

 

《こいつ、装甲だけじゃない…レーザーでっ、うあ!》

 

 隊長機から無線越しに爆発音が聞こえる。

 

《スコーチャー1被弾! 離脱できるか!》

 

《エンジンはやられたが脱出装置は生きてる!》

 

 AWACS搭乗員の離脱指示が下る。スコーチャー1のシグナルがロストするが、パラシュートが開くのが遠目に見えた。

 

《すまん、遅れた!》

 

《遅いぞ相棒! 新型ドローンだ、集中して落とすぞ!》

 

 レーダーに捉え、ガンで射撃しながら目視で確認したそれは、記憶にある大型ドローンとは違っていた。

 酷く歪で、まるで生物的にも見える不気味な造形のそれは、枝分かれした五本の砲塔を携えていた。

 

《熱源反応…!? 回避!》

 

《うわっ、危ねぇ!》

 

 スコーチャー3が機首を捻った数瞬後に、元いた場所にレーザーによる照射攻撃が通る。

 

 レーザーとは、言ってしまえば強力な光を極限まで収束させ、一束の線として放ち焼き切る兵器。光だから弾速の概念は無い。射撃イコール即命中の、恐ろしい兵器だ。

 ウイングダイバーの光学兵器は、光ではなく熱した重金属粒子をジェネレータコアで生成し装填、高熱状態で射出するもので、言わばビームというものらしく、それらは大抵距離減衰が著しい。

 だが光の兵器というものは、大気圏内であっても実射程距離は脅威的なものだ。

 

《距離を離すな! レーザーが相手なら逃げた背中を撃ち抜かれる!》

 

《やれってのか、ドッグファイトで!》

 

 2機で取り囲むように新型ドローンを相手取る。オールドタイプのエイリアンにありがちなドローンらしく、空中での高速機動と静止を繰り返す独特の挙動で、手が出しにくい。

 それでもしつこく狙い続けていればチャンスは巡ってくるものだ。スコーチャー3にレーザーの照射光を向けたタイミングを見計らい、ミサイルとガンを同時に射撃する。

 

《スコーチャー2、FOX1!》

 

 ロックオンされたミサイルを追い抜かし、ガンが命中する。

 …だが。

 

《スコーチャー2、敵は機関砲を跳弾してるぞ!》

 

《当たったのに弾かれた…重装甲かつ高機動? プライマーめ、厄介なものを!》

 

 回避に次ぐ回避で視界が赤く染まりながらも、レーダー確認と目視確認を頻繁に繰り返して敵の位置を見失わない。

 ミサイルが続けて着弾する。

 だが、装甲片が若干剥がれるものの、爆煙から抜け出てきた新型ドローンは大したダメージを受けていない様子だった。

 

《どういう事だ…効いていないのか!?》

 

《撃たれるぞ、スコーチャー3、退避しろ!》

 

《大丈夫だ…避け、れ…る…!》

 

 速度を上げ、機首を下げて急降下し、スコーチャー3がレーザーの加害範囲から逃れようと試みる。

 だが、努力虚しく五本の光条のうちひとつがエンジン基部を貫く。

 

《畜生やられた! ベイルアウトする!》

 

 スコーチャー1に続いてスコーチャー3までもが戦線を離脱し、残るは俺一人だ。敵機を正面に見据え、レーザーの射線を読んで回避する。ただしそれは曲芸じみた変則飛行によって撹乱しているからに過ぎず、無茶を繰り返していてはやがて無理が来る事は目に見えていた。

 

 残る案はたった一つ。

 一か八かの、正面攻撃。

 一体何に拠って飛行のためのエネルギーを得て、どうやって飛んでいるか分からないが、全面を装甲で覆うなどという芸当は到底不可能なはずだ。

 どこか装甲に守られていない部分を狙わなければならない。そしてその予想範囲はただ一つ。

 

《落ちろ…落ちてくれ!》

 

 悲痛な叫びを洩らしながらも、トリガーを引く。重々しい連射音と共に30ミリ重機関砲が火を噴き、装甲に弾かれていく。

 レーザー砲口が輝き始め、無茶を悟って離脱を試みようとするが、そこで違和感が生じた。

 毒々しい緑の爆発を起こし、新型ドローンはゆったりと墜落していったのだ。

 

《やった…のか?》

 

《こちらAWACSエアキーパー、生きていて何よりだ。墜落した二人の信号もキャッチしている。歩兵が回収に向かってくれているよ》

 

《ああ…それは良かった。だが…》

 

《新型ドローンか…戦闘機を2機も瞬く間に落としたあの能力は、現行機でさえ大きな脅威になる》

 

 入射角さえ正確ならば戦車の正面装甲をも貫き得るはずの30ミリ重機関砲が、新型にあっては弾かれてしまった。独特の形状からするに傾斜装甲を強く意識した設計なのは間違いないが、ミサイルを耐えたのは傾斜では説明がつかない。

 

 …すなわち、現行兵器では貫く事が出来ない程の重装甲でもある、という事だ。

 

《連中、人類を確実に滅ぼしたいらしいな》

 

 AWACSの言葉は、今どうして俺が過去体験したはずの作戦を追体験しているのか、その答えを表しているように思えて仕方なかった。

 

 

 

 

 

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