縛りプレイはもう止めだ。TS転生令嬢は放蕩する   作:ほっとも

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1 放蕩令嬢、依頼を受ける

 思い返せば、前世はとんだ縛りプレイだったと思う。

 自由なんてものが、ろくにない生き方をしていたのだ。

 社会人になって、一日の大半をやりたくもない仕事に費やされ。

 休日だって、疲れからか無為に過ぎていく日が殆どである。

 正直、生きている意味なんて本当にあるのかとすら考えた。

 

 そんな人生は、唐突に終わりを告げた。

 

 多分、死んだのだと思う。

 正直記憶は曖昧だが、そんなことはどうでもいい。

 気がついた時には、”私”の人生は激変していた。

 

 そこにあったのは、幼い相貌。

 鏡の前に、美しい銀髪の少女が映っている。

 年の頃はまだ幼く、五つに届くかどうか。

 おそらく、物心がつくと同時に前世の記憶が蘇ったのだろう。

 

 鏡に写った少女は、あまりにも鮮烈だった。

 美しい、なんて言葉では表現しきれない。

 どころか、少女の周囲には物理的に淡い光が飛び交っている。

 後にそれは”私”自身から漏れた”マナ”であることを知ることになるが。

 とにかく、光に照らされた少女は、思わず見惚れてしまうほどだった。

 

 それが自分だと気付いたのは、ひとしきり目の前の少女に魅入られてしまったあとのことだ。

 

 美しい容姿に加えて、私は才能にも恵まれていた。

 マナを可視化できるというのは、非常に稀有な才能なのだという。

 転生特有のチートと思えばある意味自然なことだが、幸運であることに違いはない。

 

 前世はつまらない、いいところなどなにもない凡庸な”男”だったが。

 生まれ変わった私は、才能にも容姿にも恵まれた非凡な女だったのである。

 

 そう認識したとき、ふと思ったのだ。

 これほどあらゆるものに恵まれていて、どうして不自由な生活をする必要がある?

 私には、私のしたいことを何だってできる力がある。

 だったら前世みたいな、つまらない生き方は――

 

 

 縛りプレイは、もう止めだ。

 

 

 かくして私、アメリア・フェスティは誰よりも自由に、気ままに――

 

 ――放蕩に生きることを決めたのだ。

 

 

 +

 

 

 異世界と言えば冒険者ギルド。

 ……と言わんばかりに、私が転生した異世界にも冒険者ギルドが存在する。

 ただまぁ、冒険者ってのはならずものだ。

 治安の良い冒険者が多い街ならともかく、場末の冒険者ギルドなんてそれはもうひどいものである。

 

 具体的に言うと、入った瞬間に不埒な視線で見られる。

 

 どんだけ女に飢えてるんだよ、と言わんばかりに私の乳尻太ももを凝視してくるわけだ。

 ついでに、顔も。

 ヒュー、じゃないんだよバカども。

 とはいえ、私は小柄で胸はそこそこ大きいけど全体的にスレンダー気味で細い。

 中には顔はいいんだがなぁ、みたいな視線も感じた。

 悪かったね。

 

「素材の買い取りをお願いしたいんだけど」

「あん?」

 

 ともあれ、目的はこの街にやってくるまでに倒した魔物の素材を売っぱらうことである。

 これが結構バカにならない。

 受付のおっさんは、私を見て面倒そうにテーブルの上を指さした。

 そこに素材を置けということだろう。

 

「これで全部」

「ああ」

 

 そう言って、袋に手を突っ込んで取り出した素材を並べた。

 正確には袋の中でアイテムボックスのスキルを起動させた、が正しいけど。

 んで、おっさんはそれを受け取って奥に引っ込んでいった。

 これでギルドの職員がいなくなる、人手不足はんぱないな。

 というわけで、案の定というべきかむくつけき冒険者どもが私に寄ってきた。

 

「なあなあ、俺はお前を買い取りたいんだけど、いくらだよ」

「売り物じゃない。というか、仮に買うとしてアンタに払えるわけ無いよ」

「ははは、お高く止まってんねぇ。けどよぉ、俺は珍しく人にやさしくしてやってるんだぜ? お前の買い取り価格をタダにしてもいいってのによ」

 

 うーん、テンプレ。

 すでに私の周囲を複数の冒険者が囲んでおり、逃がすつもりはないようだ。

 これ、あのおっさんが帰ってきても「問題ごとは起こすなよ」ですまされそうだな。

 あんまり人相良くなかったし。

 ちょうどいい流れだし、このまま叩きのめしてしまおうかと、手近な一人に視線を向けたところで――

 

 扉の開く音がした。

 

 全員の視線がそちらへ向く。

 いや本当に、きれいなくらい視線が入口に向いた。

 私も思わず向けちゃったよ。

 そしてそこに立っていたのは――

 

「……魔族?」

 

 幼い年頃の少年である。

 薄汚れた服装、茶色の肌。

 それから特徴的な灰色の髪と、角。

 魔族だ、珍しい。

 一般的に、忌避される存在だ。

 当然、冒険者達も侮蔑と嘲笑の視線を向けている。

 そして、多くがこの子供の方を私より優先するようだ。

 まぁ、私は素材の買い取りが終わるまでここにいるしね。

 

「あ、あの……依頼があって、来ました!」

「おい坊主、来るところを間違えてるぜ! お前らうすぎたねぇ魔族が行くべきはゴミ捨て場だ!」

「ギャハハハハハ! 違いねぇ!」

 

 と、いうよりも。

 男たちの視線はただ魔族を忌避しているというには、攻撃的すぎる。

 その様子を見て、昔学園で習った知識が少しだけ脳裏をよぎった。

 確かこの辺りは昔魔族が治めていて、それを人間が奪い取ったわけだけど。

 生き残った魔族は、未だに差別の対象とされているんだったか。

 

「ど、どうしても……助けてほしいんです! 僕達の集落を魔物が襲って……大人たちも、怪我しちゃって」

「ははは! 魔族を餌にする魔物なんて、随分利口じゃねぇか」

「魔族なのに魔物にやられるってのはなぁ、笑えるぜ」

「このまま全員食べられちまえば、少しは街もキレイになるんじゃねぇか?」

 

 正直、私は魔族にたいして好意的な感情も悪化尿もない。

 というか、さして興味はない。

 ひどい話だが、私は自分が自由に生きるということが人生における最大目標だ。

 他者まで意識を向けている余裕は、あまりない。

 むしろ、他人との関わりは柵が増える。

 だから、こういった面倒事は避けるべきなのだ。

 

 そう、それが自由というもの。

 だから、こそ。

 

「……買い取り終わったぞ」

「ありがとね」

「何があったんだ?」

 

 受付のおっさんが返ってくる。

 訝しげな視線で、周囲から罵倒されている少年を見た。

 その視線にも、どこか魔族を嫌悪する感情があった。

 

「あの子が依頼を受けたいんだってさ」

「へへ、そんなんどうでもいいだろ。姉ちゃんは今から俺と二人きりの依頼をこなすんだからよ」

「――その依頼、私が受ける」

 

 腰に手を回そうとしてくる、さっきからしつこいおっさん冒険者の手を払い除けて、私は言った。

 ――そう、だからこそ。

 

「あ?」

「理由は単純、アンタらのその眼が気に入らない」

「おいおい姉ちゃん、そいつは魔族――」

「だから、何?」

 

 気に入らないものを、気に入らないままで済ませるのは。

 眼の前の我慢ならないことを我慢するのは。

 むしろ、よっぽど自由じゃない。

 

「私はこの街の人間でも、冒険者でもない。眼の前で依頼があって、それを私が受けたいと思った。それは誰にも邪魔させない」

「ははは! お笑い草だなぁ! てめぇみてぇなガキに何ができるってんだよ」

 

 さっきまで私を口説こうとしていたおっさん冒険者が、今度はバカにするように笑ってきた。

 それに対し、私も笑みで返す。

 

「ねぇおっさん」

「あ?」

「さっきから、気の利いたこと言おうとしてるみたいだけど、おっさんが馬鹿すぎて逆に気持ち悪いよ」

「てめぇ――」

 

 その瞬間。

 瞬間的に沸騰したおっさん冒険者が、私の胸ぐらを掴もうとしてくる。

 それを、

 

「先に手を出したのは、そっちだから」

 

 私は、勢いよく蹴り飛ばした。

 

「ごっ」

 

 鈍い音が口から漏れて、おっさんは勢いよく壁に叩きつけられた。

 床を転がることすらない、完全に吹き飛ばされたのである。

 

「んで」

「…………」

「依頼、受けてもいいよね?」

 

 私の言葉に、受付は少しだけ引きつった顔をしたものの、断ることはない。

 周囲の冒険者は、完全に唖然としている。

 眼の前にいる私を、化け物みたいな魔物かなにかとでも思っているかのような顔だ。

 正直、爽快である。

 

「し、しかし……いいのか?」

「何が?」

「ここの領主は、大の魔族嫌いだ。魔族の依頼を受けたなんてしったら、どんな嫌がらせをされるか」

「ふぅん、領主が魔族嫌いねぇ」

 

 なんとなく、この街の人間が冒険者も受付も、うっすら魔族を嫌っている理由がわかった。

 一番上の人間が露骨に嫌悪しているから、雰囲気で流されているだけなのだろう。

 受付のおっさんも、視線に若干嫌悪が交じる程度で、そこまで魔族を嫌っている様子はない。

 だったらその一番上の人間をどうにかしたら、多少は悪感情も収まるのではないか?

 そうでなくとも、アレだな。

 下手したらここの冒険者をけしかけてくるだろう。

 今すぐ全員を相手取って、邪魔をするなと言い聞かせてもいいけど。

 すでに、私に対する見下す視線や好色な視線は消えている。

 これ以上ここで暴れるのは面倒なだけだ。

 とすれば、取るべき選択肢も増えてくる。

 

「別に、私は気にしないよ」

「……それでお嬢さん、依頼を受けるためにはアンタの名前が必要なんだが」

「私の名前?」

 

 その言葉で、私はテーブルの上に置かれた依頼を受けるための書類に視線を落とす。

 そこに、自分の名前を書きながら――

 

 

「アメリア・フェスティだよ」

 

 

 そう、伝えた。

 途端。

 

「アメリア……あの放蕩令嬢の!?」

「嘘だろ……冒険者になって最速かつ最年少でAランクまで駆け上がった?」

「言われてみりゃあ……噂通りの銀髪のガキだ」

 

 冒険者達が騒がしくなる。

 毎度毎度、私の名前を明かすと一気に周囲がこうなってしまう。

 あと、銀髪のガキは余計だ。

 これでも十八だよ、この世界じゃ成人だ。

 

「それで、君」

「……え、あ、……は、はい」

 

 魔族の少年が。

 先ほどから、ここまでの流れについていけていなかったのだろう。

 ポカンとしていたが、声をかけたらハッとした様子で答えた。

 

「依頼の内容を、詳しく効かせてもらえるかな?」

「……あの、本当にいいんですか?」

「いいんだよ。だって私がやりたいと思ったんだから」

 

 視線を合わせて、少年と言葉を交わす。

 ここに来るまで、色々と悲壮な決意を抱いていたのだろう。

 私の言葉に、少しだけ安堵が溢れかけて……それを我慢している。

 

「で、でもその……報酬も、殆ど出せませんし」

「いいかい、私はね。我慢が嫌いなんだ」

 

 だから、私は少年の頭を撫でて、いう。

 だって、それが――

 

「私は、私がやりたいからやるんだよ。我慢はしたくないからね」

 

 それが私――アメリア・フェスティの生き方なのだから。




自由に生きて理不尽は正面からぶん殴って押し通る女が好きです、TSしてるとなおいいです
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