短期間で続けてランクアップを行ったベルくんは、Lv3となった身体に慣れていないようで、また身体の動きがぎこちなくなっていた。
急速な成長で、身体の感覚にズレが生じているベルくんには、まず思いっきり身体を動かしてもらって、自分の今の全力を把握してもらうことから始めておく。
身体を動かすついでに、素手での戦い方をベルくんに仕込んでいたジーンは、私にも協力してほしいらしい。
【名のある探偵】のスキルでバリツが使用可能となっている私は、素手でジーンと軽く戦って見本を見せておき、バリツをベルくんに教えてみる。
新たな技術を直ぐに身につけるのは難しいだろうが、1歩ずつでも確実に進んでいけるのなら、いずれは身につけることができる筈だ。
ボクシングと日本の柔術が組合わさったような武術であるバリツ、その投げ技の1つを根気よく教えていくと、なんとかベルくんは技を身につけることができた。
人型のモンスターや、対人戦で使える技術ではあるので、きっと無駄にはならないだろう。
ジーンと私が素手での戦いの手ほどきをしている内に、Lv3になって向上した身体能力にも慣れてきていたベルくん。
高まった身体能力に振り回されることも無くなってきていたベルくんに、ジーンと私だけではなくゲドも加わって、今度は武器を使った手合わせが始まる。
基本的には素手だが、短剣や大剣を使うこともあるジーンの豪快な力技。
剣や槍に適性があり、斧や脇差なども使えるゲドの高い技量。
スキル【白銀の剣】により、白銀の剣士となった私の剣の腕前。
それら全てを存分に発揮してベルくんを鍛え上げていく日々。
「僕は強くなりたいんです!」と頭を下げてきたベルくんの頼みを、私達が断ることはない。
農作物を食べる度にステイタスが微上昇する【牧場物語】のスキルは、ベルくんに貸し出したままなので、日々の食事でもベルくんはステイタスが上昇している。
腹一杯ゲドの料理を食べて、消化が終わったら鍛えて、また腹一杯食べての繰り返しが続くと、ベルくんのステイタスは僅か2週間でオールSまで到達。
この調子ならベルくんのステイタスがオールSSSになるのも、そう遠くはないだろう。
努力を続けて飛躍していくベルくんを見ていると、私もこのままではいられないと思う気持ちがあった。
そう思っていたのは私だけではないようで、ジーンもゲドもダンジョンに向かうつもりらしい。
ベルくんに今日は身体を休めておくように言っておき、私達はゲドの詠唱変化魔法【ムードメーカー】の空間転移で一気にダンジョン50階層にまで移動。
1階層ほど上がり、49階層の大荒野に向かうと、私達を待ち構えていたのは、強化種のフォモール達。
そして新たにダンジョンの壁面から生まれたのは、漆黒の阿修羅のようなバロール。
上の階層から降りてきた強化種のリザードマンエリートの群れには、漆黒の頭目が存在していた。
更に追加で、下の階層から上がってきたのは、黒い剣を持つ黒騎士のような漆黒のモンスターが1体。
第1級冒険者だろうと、相対すれば殺されてもおかしくはない強力なモンスター達がひしめく49階層。
漆黒の阿修羅バロールはジーン、黒騎士はゲドが相手をすることになり、私はそれ以外と戦うことになる。
6本の腕を持ち、3つの頭部を持つ単眼の黒い怪物を相手に、拳を振るうジーン。
時おり3つの頭部の単眼から放たれる光線の弾雨を避けながら間合いを詰めたジーンの拳と、単眼の怪物の腕が打つかり合って、周囲に凄まじい衝撃波が広がっていく。
黒騎士と剣を交えるゲドは凄まじい速度で斬り合っており、斬り合いに巻き込まれた強化種のフォモールが、呆気なく細切れとなるほど激しい剣撃の嵐が止まることはない。
より鋭く、より速く、より巧みになっていく剣撃は続いていき、黒騎士とゲドは剣を振るい、互いの剣から火花を絶え間無く散らす。
私が相手をする強化種のリザードマンエリートの群れは、完璧な連携を覚えており、流れるような巧みな連携で襲いかかってきた。
無詠唱魔法【ガンスミス】で作り出したリボルバーで弾丸を放つが、全て避けて此方に接近し、天然武器の骨斧を振り下ろしてきたリザードマンエリート達。
Lv7の私が【ガンスミス】で作り出した銃の弾丸の速度は、かなりのものだが、それを避けることが可能なほどに強化されているリザードマンエリート達は、強力な怪物だ。
鞘から剣を抜き、白銀の剣を構えた私は剣士として戦うことを決め、精鋭の蜥蜴人達へと斬撃を繰り出す。
最上級のアダマンタイトを使用してジーンが作成した剣を振るい、骨斧を斬り裂いていくと、此方に素手で攻撃を行ってきた蜥蜴の怪物達。
斬撃と拳打の応酬が続き、ボロボロになりながらも強化種のリザードマンエリート達を倒した私に、最後に残っていた精鋭蜥蜴人の頭目が襲いかかってくる。
頭目の漆黒のリザードマンエリートは、見覚えのある黒剣を装備していたが、あれはウダイオスの黒剣で間違いない。
驚異的な速度で黒剣を振り下ろしてくる漆黒の怪物の一撃。
白銀の剣を用いてなんとか黒剣を受け止めた瞬間には、既に動いていた漆黒の怪物の足が前蹴りを放ち、此方の腹部を蹴り飛ばす。
凄まじい威力で蹴られて地を転がる此方に、容赦なく黒剣を叩きつけようとしてくる漆黒の精鋭蜥蜴人。
跳ね上がるように立ち上がった私は、黒剣を避けて踏み込み、白銀の剣を閃かせる。
漆黒の怪物へと刻んだ裂傷は浅く、命にも魔石にも届いていない。
白銀の剣と黒剣の打ち合いが始まり、互いに繰り出す斬閃。
私と漆黒の怪物の身体が傷付いていき、傷だらけとなった身体で、それでも剣を振るう。
数え切れないほどに振るった剣で繰り出した斬撃。
横薙ぎに振るわれた黒剣を潜り抜けて、間合いを詰めた私は白銀の剣で刺突を放った。
漆黒の怪物の鱗に覆われた外皮を貫き、魔石へと到達した剣先。
魔石を砕かれた漆黒の精鋭蜥蜴人は灰となり、残るものは黒剣だけだ。
此方はなんとか倒せたが、ジーンとゲドは大丈夫かと思って確認してみた。
漆黒の阿修羅バロールの外殻を完全に砕き、バロールの胸部に拳で大穴を開けて倒した傷だらけのジーン。
防具が完全に破壊されていて、身体に幾つか裂傷があるが、黒騎士の首を斬り落としたゲド。
私を含めて全員ボロボロだが、怪物に勝利することができていたヘスティア・ファミリアの面々。
ドロップアイテムや魔石を回収してから階層を降りて、50階層からゲドの魔法で一気に戻ってきたヘスティア・ファミリアのホーム。
その後、ヘスティア様に恩恵を確認してもらったが、全員がランクアップ可能になっていたらしい。
私とジーンは全てのステイタスがSで極まっており、ゲドに至ってはSSSにまで到達していた為、全員が希望したランクアップ。
ジーンはLv7となって、私はLv8で、ゲドはLv10に至る。
ヘスティア様が「皆がランクアップしたお祝いをしようぜ」と言い出したので、食材などの買い出しに行く全員。
買い込んだ食材を使ってゲドが作った豪勢な料理の数々が並ぶテーブルに「美味しそうじゃないか」と喜んでいたヘスティア様。
「それじゃあ、モビタくんとジーンくんにゲドくんのランクアップを祝って、乾杯!」
コップを掲げて言ったヘスティア様に合わせ、ヘスティア・ファミリアの全員が飲料の入ったコップを持ち上げて、行った乾杯。
始まったホームでのお祝いの最中、私達がどんなモンスターと戦ってランクアップしたのかが気になったのか、聞いてきたベルくん。
それぞれが戦ったモンスターを知り、驚きながらも大興奮していたベルくんは「僕もいずれは皆さんみたいに」と言っていたな。
お祝いが終わった翌日、今回私達がランクアップしたことと、どんなモンスターを倒したのかも、ギルドに伝えに行ったが担当職員のエイナさんは「3人全員がランクアップ!」と驚いた後に、頭痛薬と胃薬を使用していた。
とりあえずエイナさんには追加の薬を渡して立ち去っておいたが、ヘスティア・ファミリアの担当がエイナさんから他の人に変わることは無さそうだ。
ちなみに今回倒された阿修羅のようなバロール以外の漆黒のモンスターは、今度は異端児として生まれてくる可能性が高いです