ランクアップした私達は、上昇した身体の感覚を慣らす為にダンジョンに行き、3人で身体を全力で動かしながら手合わせしてみた。
ジーンと素手で戦ったり、ゲドと剣で打ち合ったりして、ランクアップによる身体の感覚のズレを正していくと、短時間で完全に今の身体能力に慣れてきた全員。
ゲドの魔法を用いて手早くダンジョンを出て、ヘスティア・ファミリアのホームに戻ると、どうやら来客が来ていたようだ。
ヘスティア様が言うには来客は歓楽街の主であるイシュタル様と護衛のフリュネさんで、やはりジーンがお目当てらしい。
かつてフリュネさんは、3頭身でありながら巨体で、ヒキガエルと言われるような外見をしていたが、ジーンを襲った結果返り討ちとなり、その時発現していたジーンのスキルの実験台となった過去がある。
ジーンの【肉体変化】のスキルにより、巨大な頭を普通のサイズに変化させられて、ついでに顔と身体も変化させたことで、8頭身の美人に変化させられたフリュネさん。
鏡を見て「こ、これがアタイ」と言いながら驚いていたフリュネさんは「これはこれで悪くないね」と喜んでいたな。
変貌したフリュネさんを連れて、ヘスティア・ファミリア団長である私と、団員のジーンは歓楽街に行き、フリュネさんをイシュタル様に引き渡したが、イシュタル様がかなり困惑していたのは間違いない。
そんなイシュタル様がジーンを見た瞬間、存在しない記憶でも脳裏に流れ出したのか「どうやらわたし達は、夫婦であったようだな」とジーンに対して言い出すイシュタル様。
「いや、初対面だが」と冷静に言うジーンに「ふふ、お前の誕生日には、毎回好物のアップルパイを作ってやったが、今年も作ってやるとしよう」と言ったイシュタル様は上機嫌。
何故初対面のイシュタル様が、ジーンの好物がアップルパイだと知っているのかが怖いが、イシュタル様に悪意はなく、ジーンに対する好意だけしか感じないので、害は無さそうだ。
そんな訳で、ジーンはイシュタル様から一方的に夫婦扱いをされており、定期的にイシュタル様がヘスティア・ファミリアのホームへとやってくるようになった。
性愛の女神がホームまでやってくる度に、処女神であるヘスティア様はイシュタル様に文句を言っていたが、イシュタル様がジーンのことを心から愛していることに関しては嘘ではないと感じていたらしい。
ついでにジーンの魔法やスキルなどに関して、教えていないのに何故か全てを詳しく知っているイシュタル様には、口止めが必要だと思ったヘスティア様。
そこで、イシュタル様とヘスティア様が行った話し合いの結果、互いの眷族の情報を漏洩しないように約束した女神達。
今のところは約束は破られていないが、時おりイシュタル様に改宗をしないかとジーンが誘われることもあり、それを見たヘスティア様が怒ることも多かったな。
そんなことを思い出しながら、来客のイシュタル様と護衛のフリュネさんが待つ客間に、私はヘスティア・ファミリア団長として団員のジーンを連れて向かった。
「待っていたぞ」
客間に入った私達2人を見て、そう言ってきたイシュタル様の視線は、ジーンに集中している。
やはり目当てはジーンかと考えて、それでは後は任せましたよジーン、と言いながら退出しようとした私の肩を「いや逃がさねぇからな」と言って掴んできたジーン。
ジーンだけに用があるみたいですから私は退出した方がいいでしょう、とジーンに伝えても「団長として立ち会っとけばいいだろ」と言うジーンは肩を離してくれない。
逃がさん、お前だけは、と言わんばかりに私を同席させようとするジーンに、貴方なら1人でも大丈夫だと思いますが、と言っても「ヤダ、コワイ、サミシイ」と何故か片言の言葉が返ってくる。
私達のそんなやり取りを見たイシュタル様は大笑いしていて「ふふ、お前達は仲がいいな」と微笑ましいものを見るかのような眼差しで此方を見ていた。
「我が夫のジーンに対等な友が出来たことに関しては、ヘスティアに感謝しても良いかもしれんな。ジーンの友モビタよ、お前なら同席しても構わん」
イシュタル様からの許しまで出てしまったので、ここで退出するのは逆に失礼かと思った私は客間に留まって同席することにして、着席。
始まった話によると、以前イシュタル・ファミリアに引き取った春姫という狐人に、イシュタル様が戯れに恩恵を授けてみたところ、階位昇華と同じ効果をもたらす魔法を発現した春姫。
つまりは一時的に相手をランクアップさせることが可能な魔法を使えるようになった春姫を、どう育てるかという話になった時、相手を超絶強化することが可能な魔法を持つジーンが思い浮かんだイシュタル様。
どうやらイシュタル様はジーンに春姫を鍛えてほしいようであり、ジーンに渡す報酬として、春姫の魔法を装填魔剣に幾らでも装填する権利というものを考えていたそうだ。
階位昇華魔法は確かに役立ちそうな魔法ではあるので、ジーンの装填魔剣に装填できるなら装填しておきたいところではあるが、今回の依頼を引き受けるかどうかはジーンに決めてもらう。
「イシュタルの頼みをオレは引き受けるが、春姫に指導する場所はイシュタル・ファミリアか?」
「うむ、そうなるな。それでは行くぞジーン」
「待て待て、1日で指導は終わらんだろ、着替えぐらい用意させろ」
「ふっ、365日分のジーンの着替えは、既に用意してあるので問題はあるまい」
「いや1年間も居るつもりはねぇよ、せいぜい2週間だ。というか何で365日分の俺の着替えを用意してるんだよイシュタルは」
「夫を愛するわたしの愛が思わず溢れてしまっただけだ。気にするな」
「気にするわ。365着の着替え用意する金があるなら、自分の眷族に何か買ってやれよ」
「それはそれで別枠で買ってやってはいるぞ。だが、夫と眷族を同じ扱いにする訳にはいかんだろう」
「文句を言う眷族は居ないのか?」
「今のところはおらんな、まあ居たとしても、冬のなまずのように大人しくさせてやろう」
意外と相性がいいのか楽しげに会話をしていたジーンとイシュタル様。
このままジーンとイシュタル様とフリュネさんは、イシュタル・ファミリアのホームに向かうようで、ジーンが帰ってくるのは2週間後になる。
とりあえずジーンが帰ってくるまでの間は、ゲドとベルくんの2人でダンジョンに行ってもらった。
その間に、ヘスティア・ファミリア団長として、ギルドに提出する書類や税金などを用意してからギルドに向かった私は、担当職員のエイナさんに用意したものを渡す。
僅か4人の超少数のファミリアであっても、等級がAのヘスティア・ファミリアは少数精鋭のファミリアだと考えられているそうだ。
ギルドにヘスティア・ファミリアに所属する眷族を増やすように言われようが、オラリオで戦争遊戯を吹っ掛けられまくったことで、あまり仲間を増やそうとは考えていなかったヘスティア・ファミリアの私達。
それでも新たに増やした仲間のベルくんが凄まじい速度でランクアップしていることを知ったギルドは、ヘスティア・ファミリアが育成が得意だとでも思ったのか、傘下のファミリアを作ってほしいとも考えているみたいだった。
エイナさんからそんなことを話された日から3日後、自分の眷族がヘスティア・ファミリアの2人に怪物進呈をしたと馬鹿正直に謝ってきたタケミカヅチ様。
土下座までしようとしていたタケミカヅチ様を止めて、詳しい話を聞いてみると、どうやら中層で仲間が負傷したタケミカヅチ・ファミリアは、仲間を助ける為にゲドとベルくんにモンスターを押し付けて逃げ帰ってきたらしい。
Lv10のゲドとLv3のベルくんは、まだ帰ってきてないが中層で怪物進呈された程度で、死ぬような2人ではないのは確かだ。
ゲドが「18階層でベルくんに野営のやり方を教える」とは言っていたので、恐らくそのまま18階層でキャンプして泊まってから、普通に帰ってくるであろうことをタケミカヅチ様に教えると安心してくれた善良な武神様。
それはそれとして「俺は謝る気はない」と言ってきたタケミカヅチ・ファミリアの団長は殴り飛ばしておいた。
血を吐きながら吹き飛んだタケミカヅチ・ファミリア団長には、治療をしながら軽く説教もしておく。
無言でも頭を下げたのなら私は許したが、主神のタケミカヅチ様が本気で申し訳なく思って謝っていたのに、全く謝ろうとしていないタケミカヅチ・ファミリアの団長は、親だけに謝らせて自分は謝ろうとしない子どもと同じだ。
タケミカヅチ様が善良な男神であるのは間違いないのに、その眷族達の団長が、謝罪の1つもできない男に育ったことが不思議で仕方がない。
ジーンが居れば、私よりも容赦が無かったのは確実なので、この場にジーンが居なかったことは幸いだったんだろうな。
そんなことがあった日から2日後、無事に帰ってきたゲドとベルくん。
どうやらダンジョンの18階層でゲドとベルくんがキャンプをしていると、何故か安全階層の18階層に漆黒のゴライアスが現れたらしく、ベルくんが単独で漆黒のゴライアスを倒したそうだ。
Lv5相当はあった漆黒のゴライアスという格上を、なんとか倒したベルくんはLv4にランクアップすることが可能になっており、ステイタスもオールSSSに到達。
発展アビリティを疾走に決めて、さっそくランクアップしたベルくんは、これでLv4となる。
2ヶ月もしない内に3度もランクアップしたベルくんのランクアップする速度は、オラリオ最速で間違いない。
私達に追い付きたいと考えて努力を続けているベルくんが、強くなれたのは良いことなのだろう。
今後もベルくんは無茶をしそうな気がするが、ヘスティア・ファミリアの誰かが同行していたなら、ベルくんを死なせることはない筈だ。
まあ、とりあえず無事に帰ってきてくれたベルくんがLv4になったお祝いもしておかないといけないな。
ジーンを一目見たその時に、女神イシュタルの脳内に流れた存在しない記憶って感じになって別世界の記憶を宿した女神イシュタル様は、ジーンを夫扱いするようになり、眷族にも優しくなったようで、春姫に殺生石を使うつもりもないようです