たった一人でシャーレの天才たちを倒します   作:はるです

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#1 マナ先輩

 さて、心の中でそのようにして宣戦布告をしてみたのはいいものの結局あの『サクラコさん』って人はシャーレの何者なのだろうか。恥ずかしい話だけど、本当にドがつくほどの田舎から来たものでシャーレに関することはほとんど上辺だけしか知らない。キヴォトス最強の集団で、所属することがとても難しい。進学する上でシャーレを意識することはこのご時世では当然で私もその当然に感化されてここまで来た身だ。本能の赴くままに動き、駆け出した惰性をそのままに今日この場にいる、シャーレと戦うことは決定事項だけど急ぐ理由は今のところない。つまり少し情報収集をしたい、相手が誰なのか、どんな相手なのか、いつどこでどのような活動をしているのか、最低でもこの三つは知りたいかな。

 

「……あの、大丈夫ですか?」

 

 思い耽るのもそこそこにふと横に意識が向くと未だサクラコさんの後ろ姿を見つめてぼーっとしている『桜田さん』と呼ばれていた人がいた。見惚れているといえばそうなのかもしれないけど、顔を固定してずっと動かなくなってしまっていたので心配になって声をかけた。

 

「……あぁいえ、大丈夫ですわ。少し見惚れていただけですの」

 

 この人は片手を頬に当てて微笑んだ。だから私も『ならよかったです』と言いながら軽く笑う。

 

「それにしてもあなた……初めてお会いになられたというのにいきなりサクラコ様にお褒めいただけるなんてすごいですわ……」

「えっと……?」

「あぁ申し訳ありませんわ、こちらの話です。サクラコ様……また最近になってますます遠いお方になられてしまって寂しいです……」

 

 特にこちらが何かすることなく自分の世界に入り込んでしまったもので私はたじたじ。サクラコさんが只者ではないというのは分かっているつもりだ、ならそれについて深く考えてこんでしまうこの人はそのサクラコさんを慕うファンのような人なのだろうか?

 

「あのサクラコさんって一体何者なんですか?」

 

「サクラコ様を知りませんの!?!?」

 

「っ!?」

 

 詳しく知っているならちょうどいい機会だし知りたいな、くらいに考えて発言してみるとどうやらこの人にとっては何か気が触れるモノだったようで大きく目を開きながらぐっと顔を寄せて私に近づいてきた。

 

「サクラコ様は初代シャーレメンバーにして戦闘においても頭脳においても完璧の超人と呼ぶに相応しいお方ですわ!天が贔屓をしたとしか思えない美貌も備えどの団体のどの部分に所属しても超一流で更に癖の多いシャーレメンバーの中でも特に人格に優れ広報担当も行っている見た目も中身も能力も全てが完璧……もう完璧としか言いようがありませんわっ……!なんて尊い方なんでしょうか……!!」

 

 早口で語りだしたと思ったら勝手に感極まってなんと忙しい人だろうか。この様子を見るにこの人はかなり重度で盲目的なサクラコさんのファンなのだろう。

 

「……ふむ」

 

 ただそんな他愛のない情報とは別に私にとって有益な情報も得ることが出来た。

 戦闘においても頭脳においても完璧の超人……ね。美貌に関しては私も認めざるを得ないけどそれ以外に関しては半信半疑なところがある。というかそもそもサクラコさんのことを話してる本人が狂信者じみてるので脚色されている可能性の方が高い、超人なんてあの消えた連邦生徒会長じゃあるまいしどれだけ強くても例えば戦闘、頭脳、その他のステータスが最高5のところを全部が4くらいの人なんじゃないかと予想しておく。

 

「……はっいけませんわ、またやってしまいましたわ……。えっとマリさんでよろしかったですの?」

「はい、東風マリと申します。よろしくお願いします」

「よろしくお願いいたしますの、わたくしは桜田マナですわ」

 

 どうやらこのサクラコさん狂信者の名前は桜田マナさんと言うらしい。金髪に縦ロールとお嬢様の典型例ともいえる髪型だ、背は一年生の私よりも断然高く先ほどいたサクラコさんより少し低い程度で十分高い身長と言える。体も出るところは出てて同性である私から見ても魅力的だと思う。

 

「……」

 

 ただ、女性としては魅力的だけど本気で力を入れたら折れてしまいそうなほっそい二の腕や漂白されたみたいに白い肌を見ると戦闘はそんなに得意じゃないんだろうなと見て取れる。さっきも走って息を切らしてたし多分そんなに強くないんじゃないかと、私の悪い癖が分析していた。

 

「よろしくお願いします、桜田先輩」

「桜田だなんて呼ばないでくださいまし、そこは気軽にマナ先輩と呼んでほしいですわ!」

「分かりました、マナ先輩」

 

 そう言うとものすごい嬉しそうな顔をするものでなんと可愛い先輩なこと。まだ出会ってそんなに経っていないけどそれでもマナ先輩がいい人だっていうのはひしひしと伝わってくる。自分で自分を偽ることが出来なさそうでこれで全てが演技だというのなら大したものだろう、それは間違いなくこの世代を代表する天才にも匹敵しうる。

 

「もうすぐ入学式ですわ、こんなところで立ち話も難ですしよろしければわたくしと一緒にあちらまで向かいましょう」

「はい、よろしくお願いします」

 

 そう言ってそこそこ長い道をマナ先輩と歩む。

 

「よければシャーレの話、もう少し聞かせてもらえませんか?」

「ええもちろんですわ、どういったお話が聞きたいのですの?」

「サクラコさん以外のシャーレに所属している方について聞かせてほしいです」

 

 情報収集は出来る時にするべきだろう。この三年間、トリニティでは普通に過ごしていく、波風立てず何かになろうともせず平々凡々に過ごすつもりでいる。しかしその最中で私にはどれだけの友達が出来るだろうか、私自身あまりコミュニケーション能力は高いとは思っておらず友達100人なんて夢のまた夢。だからシャーレに詳しいと思わしき先輩が知り合いになってくれて僥倖だった、今や情報なんてネットで調べればいくらでも出てくるけどこういうのって客観的な視点が必要だと私は考える。ただ強い弱いの二元論に至るのではなくてマナ先輩のようなファンの視点は誰がどのような行動をしているのかをより高度に知ることが出来るのではないだろうか。

 

「サクラコ様以外の……ですか、そうですわね。まずシャーレに所属している方は主要人物の先生を除いて16人いらっしゃいますの」

「16人」

「はい、16人です。三年前からシャーレに所属出来る生徒の枠が出来て毎年5人の生徒を迎え入れていますの、ですが去年だけは例外的に6人目の方が所属し16人となっていますわ」

 

 シャーレの規模はそんなに大きくはないだろうと思っていたけど答え合わせをしてみると私の予想は合っているようで合っていないものだった。

 シャーレに所属する為の条件としてはある程度の戦闘能力、または事務作業が出来る人とされていてまさか16人全員が戦闘能力に秀でているわけではないと思うけどそれでも予想よりかは全然多い人数だった。

 

「16人全員を紹介するとなるととんでもない時間が必要になってきますのでそうですわね……その中からサクラコ様以外をとなるとやはり三大巨頭と呼ばれるお三方は有名ですわ」

「三大巨頭?」

「はい、シャーレの中でも特に戦闘能力に長けている三人のことですわ。小鳥遊ホシノ様、空埼ヒナ様、聖園ミカ様です。たった一人で一つの学園の全ての勢力を相手に出来るほど強いと言われていますわ、とんでもないですわね」

 

 その話を聞いて思わず口がにやけてしまった。

 ――あぁ、私はその情報が聞きたかった。マナ先輩の言っていることが本当なんだとしたら私がしようとしていることはとんでもなく無謀なことだろう。しかしそれでも自分の力を確かめたいと思う私がいて――

 

 

 ――――正義よりも悪になりたいと思う私がいる。

 

 

 その心に従えば躊躇うことは万に一つもない。例え相手が超人だろうと神だろうと私は前に進むだけだ。

 

「後はトリニティで言えばナギサ様は外せませんわ。シャーレ広報担当の一人でかつてはトリニティに入学しティーパーティーのホスト……じゃ新入生には伝わりませんか、トリニティの生徒会長をしていた方でして戦闘こそ得意ではないと言われていますがその欠点を補うには余りありすぎるほど頭脳に特化しているとされています。人を扇動する力や交渉や取引といった場面で言葉巧みに主導権を握るその手腕から人によっては三大巨頭のお三方よりもナギサ様を恐れている人もいるみたいですわ」

「なるほど」

「シャーレは本当に天才という言葉だけでは表しきれない人ばかりですわ、実のところわたくしもシャーレ所属志望なのですがサクラコ様を見ているとどうも気後れしてしまいます……」

 

 感情の起伏が激しいのかマナ先輩は突然しょんぼりした顔で俯いてしまうものだから急いでマナ先輩にかける言葉を探す私。マナ先輩がどんな人なのか分からないので何とも言えないけど、基本的に世代の代表と言われるシャーレに所属するという道は誰にだって無理に等しく、それこそ一般の生徒となれば所属出来る確率は0に近いではなく正真正銘0だろう。そこのところを理解しながら『頑張ってください』っていうのはなんか違うような気がするし、『きっとマナ先輩なら!』みたいな言葉をかけるのも無責任すぎる。ならなんて答えるべきだろうか、考えて、迷う。

 

「……私はシャーレのこともマナ先輩のこともよく分からないですけど、本気で所属したいと思うなら可能性はゼロじゃないと思います。見たところマナ先輩は戦闘よりも勉学の方が得意だとお見受けします、ですからそっち方面に強みを伸ばしていくのがいいかなって思います」

「マリさん……そんなわたくしの心配に留まらずアドバイスまで仰ってくれますの……!?」

「え、ええと余計なお世話でしたらごめんなさい」

「いえ、いえいえ!そんなこと決してございませんわ!あぁもうなんて素敵な後輩なんですの!?可愛すぎて抱きしめたくなってきますわ!!」

「え、ちょ……」

 

 抱きしめたくなると言いながら抱きしめてくるのは反則だ。

 

「わたくし、こんなに可愛らしい後輩に気を遣わせてしまったことを今とても悔いていますの。ですからマリさんが自慢の先輩だと仰ってくれるような立派な先輩になってみせますわ!そうですの!わたくしは桜田マナ!来年度のシャーレトリニティ代表になる生徒ですわ!!」

 

 私が必死に考えた言葉がマナ先輩の助けになったならよかったけど、それはそれとして私を抱きしめながら大声で宣言するのは一緒にいる私まで恥ずかしくなるからやめてほしい。

 ……でも、悪い気はしなかった。結局のところシャーレどうこうは関係なくマナ先輩のことは大切にしたいと思う。田舎という閉鎖空間から都会という大海に来て初めて知り合うことが出来た先輩だ、だからマナ先輩が満足いくまで私は抱き枕でいた。

 ……ちなみに校舎入口ではしゃいでいたせいで近くにいたティーパーティーの人に怒られました。

 マナ先輩……立派な先輩というのは基本的には誰にも怒られない先輩だと思いますよ……。

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