たった一人でシャーレの天才たちを倒します   作:はるです

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#5 ブラックマーケット

 

「ここが噂の……」

 

 目が痛くなるほどの果てなき旭光に照らされながら私はフードを深く被りなおす。

 現在朝の五時、一般的には通行人などほとんどいない時間帯だというのにここブラックマーケットでは入口付近であるのにも関わらずちらほらと人やロボットなどが歩いているのが確認出来てその異常さを私は体感していた。今日から二日間の休日となり、現在は新学期ということもありクラブ活動も行っていない為私は自由だ。

 

「……」

 

 そんな自由を満喫する為に私は今ブラックマーケットへ来ている。私の住んでる寮からブラックマーケットへ行くには距離的に駅を使う必要があるが安全面の問題からブラックマーケット付近には駅が無い為、ある程度ブラックマーケットに近い駅で降りて後は徒歩で行くしかなかった。だからそんなこんなして遠目からでも確認出来たハイカラでネオンなブラックマーケットの入り口につく頃には五時になっていた。私の希望だと朝日が昇る頃にはどこもかしこも活発になると思っているのでもう少し落ち着いて暗がりの多い時間に活動したかった。しかしないものねだりをしても意味はない、オシャレという言葉には程遠い適当なTシャツとズボンに黒いパーカーを上から羽織り、目立つ私の金髪がちゃんとフードの中に隠れているのを横目で触りながら確認して私はこの危険な場所へと足を踏み入れた。

 しかし歩いてみると案外普通だ、トリニティの煌びやかな街路と比べてしまうと落ちてるゴミの数や建物の廃れ具合は明らかにこちらが酷いけど想像していたよりも雰囲気は落ち着いている。意味の分からないグラフィティや通行人の目つきの悪さ、道の脇で立て札を置き謎の店を構えている犬など退廃的な要素はあれど全て視覚だけで完結するものだ。音で騒がしいということは今のところ無く銃声一つもしないのは事前情報で身構えていた私からすると逆に違和感があるくらいだった。

 

「……これ、何売ってるの?」

 

 さっき謎の店を構えている犬がいたと思うけどその先にまた別の犬が店を構えていたので何の店か聞いてみると『タバコだ』と一言言ってから口を噤んだ。

 

「……なるほどね」

 

 無法地帯と呼ばれるブラックマーケットらしい存在に私は自然でいて不自然なほどに納得出来た。『タバコとお酒は二十歳から』なんて言葉はどこでも有名だけどそれをお利巧に守る人もそう多くはない。ここブラックマーケットではこういう何らかの理由で規制があるものに容易に手を伸ばせるんだろう、でなきゃ違法弾丸なんて出回らない。

 

「分かったわ、ありがとう。少し考えさせて」

 

 そう言って私はその場を後にするが、タバコを買う気は毛頭ない。ただ波風立てずに事を終わらせるに適した言い方をしただけだ、タバコなんて興味ないし吸いたいとも思わない。私が今興味あるのはシャーレだけなのだ。

 

「……あ」

 

 少し歩いたところでふとしてそう言えば口調を正してなかったなと思う。

 トリニティにおける私というのはおとなしくてあまり目立つ人じゃない。もちろんそれはどこに行っても同じだけど、少なくとも友達や先輩などに対して礼儀を弁えて話をしているつもりだ。しかしここではそのようなものを気にする必要が無く自然と口調がオフのモードになっていた。人と接する機会が多いのでいつもある程度の敬語で喋っているけれど、元々私はあまり敬語が得意な人間ではないのだ。出来ることならオフモードをいつもの口調として過ごしていきたいけど高校デビューを果たした私にはもう遅い話だし敬語(コレ)で話すことに慣れてしまった人生に今更修正なども利くはずがなく私は今までもこれからも微妙な敬語で過ごしていくことになるだろう、少なくともトリニティでは。

 

「……」

 

 更に歩いてブラックマーケットの少し内部に入ると普通にどこかの学園の制服を着た人がいるのに内心驚いている。こういうところって後ろめたさしかないし普通は身元がバレないように顔なり髪なりを隠して行く場所なのでは……?そんな私の警戒心と通行人のギャップに私の考えが覆されるような感覚を覚えていた。

 しかしそれとは別に死人が出るとか噂されてたブラックマーケットにしては何も無さ過ぎて面白みがないというのも事実で、元々今日ブラックマーケットに来たのってブラックマーケットがどんなところなのかを下見に来たって感じだし夜中、或いは朝方がこんな感じなんだったらあまり面白い成果は得られなさそうな気がする。道徳を爪弾きにしたから無法地帯って呼ばれてるのにブラックマーケットに来るような連中が普通の学生みたいに朝起きて夜寝るみたいな一般的な生活をしているのは一つの矛盾ではないだろうか、それともまだそんなブラックマーケットの深部に入っていないから何も見れていないだけか、シャーレが捜索しているという違法弾丸の影すら感じないしブラックマーケットのブラックマーケットらしい部分を見る為には歩くだけじゃダメなのかもしれない。

 

 

 

 

「収穫はあまり無いわね……」

 

 携帯の電源をつけるとブラックマーケットを入った時間から二時間くらいが経っていた。

 あれからずっと散策をしていたけど私が満足出来るようなものは得られなかった。薄暗い路地裏から通じるガンショップに入ったりしてみたけど別に違法なものは売られてないし店長はかなり気さくでいい人そうだった、ただカスタムした銃を売りたかったけど販売免許みたいなのを持ってないからブラックマーケットで販売してるとかで、他には屋台で食べ物を買ってみたけど法外な値段はしてなかったし毒も多分入ってなかった。ただここら辺ではほとんど見ないような食べ物を使っているだけでそれを売っているだけみたい。他にも煽情的な服装を専門的に扱う店とかこんなところで店を開くにはもったいないくらいのオーセンティックなバーに入ってみたりとかしてみたけどそこで行われるのは店と客のやり取りだけで何も犯罪的要素は浮かんでこない。本当にこのままじゃちょっと治安が悪い街でショッピングを楽しんでるだけになってしまう、下見という観点からはそれでも別にいいんだけど欲を言うならシャーレが活動しているという痕跡が欲しい。どこら辺にいたとか何を追っているとかそんな情報でも知れたら動きやすいんだけど、中々上手くはいかないらしい。

 

「……!」

 

 そんなことで悩んで顎に手を当てて考えているとどこからともなく銃声が聞こえてぱっと顔をあげた。

 方向は――後ろ、銃声は多分三つくらい。現在も加速度的に銃声の激しさが増していて後ろを向くと既に視界の奥に放たれる弾丸から逃げる誰かがこちらへ向かってくるのが確認出来た。

 

なんでこうなるんですかー!?

 

 思い浮かべるのは入学式の時。あの時も突然こちらへ人が走ってきたし誰かに追われていた。しかし今回はその時とは少し状況が違うらしい。

 

「なにあれ……」

 

 変な鳥みたいなフードを被って変な鳥みたいなリュックサックを背負いながら変な鳥みたいなグッズを持って走るオタクみたいなのとそれを追いかけるいかにもチンピラみたいな風貌をした人三人がこちらへ向かってくるのを見てまず困惑する私。入学式の時と同じくこちらへ走ってくる人とは距離が空いてるので避けるだけなら数歩ズレればいいだけなんだけどただ今回はどうしようか、多分だけどあのオタクっぽい人は悪行をしたとかじゃなくてただ追われてるだけなような気がするしそれを追ってる人たちはカツアゲとかしようとしてるだけな気がする。

 

「……」

 

 ――とは思いつつもとりあえず私は道の脇へとズレて通り抜けてもらうことにした。しばらくしてオタクっぽい人もチンピラっぽい人も通り抜けたのを確認して私はすぐさまホルスターに収まったハンドガンを手に取る――前回は真正面から対応したけどあれは相手が一人だけだったし追われている側が対象だったから距離も近かった。しかし今回は複数人いるし距離も遠い、だから無関係を装って私は距離が近くなるのを待ったのだ。

 そして距離が離れない内にハンドガンを構えたと同時に発砲――そうすると放った弾丸が一人に命中したことで足を止めた。だからこれ幸いとそこからノンストップでチンピラまで距離を詰めてチンピラが振り返ったところで頭部に蹴りを入れた。薙ぎ払うかのような回し蹴りだ、蹴りをくらったチンピラは脳震盪で横になる。それを見て驚く残りのチンピラの内真ん中にいるチンピラに片手でハンドガンを速射するけど基本的にこの銃の単発火力は人を倒すには至らないので銃弾を受けて怯んでいる隙に背負い投げ。地面に叩きつけられた衝撃で気を失ったのを確認して私は残った一人のチンピラに向かって言う。

 

「……まだやる?」

 

 そう威嚇すれば気絶している二人を引きずって向こうへ走り出したから追撃はしないでおく。こんなところで三人全員転がってもらっても困るだけだし自ら立ち退いてくれるのなら重畳。一応他に仲間がいないか、後は逃げた振りしてやり返してこないかを確認しどちらも確認出来なかったところで私はこちらへ向かってくるオタクみたいな人に意識を向けた。

 

「あ、あの助かりました!」

「いえ……」

「今の一瞬で二人も倒してしまうなんてすごいですね!」

 

 オシャレは一応してるようだけど白くてものすごい目立つ変な鳥みたいなパーカーで全てが台無しのこの人。顔を隠す気があるのかないのか被ったフードからは顔が丸見えだしまずその大荷物の時点で身元を隠すような変装もクソもない。

 そもそもその変な鳥?は何なんだろう……。多分なんかのキャラクターなんだろうけど、それにしてもブサイクだ。

 

「……すごい恰好してるのね」

「あはは……そう思います?でもブラックマーケットならこのくらいで丁度いいんですよ。ここでオシャレをするっていうのは攫ってくださいって言ってるのと同じようなものですから」

「……そうなの?」

「はい、ブラックマーケットに来る人は変人ばかりですからね。このくらい尖った格好してる方がむしろ浸透してるくらいなんですよ」

 

 そんなバカなとは思うけどこれから昼になるにかけてこういう人が増えるのかな。深夜から朝方しかブラックマーケットで活動していない私にとって今確かめる術はなく現状半信半疑だ。

 しかしこの人の口ぶりだとまるでブラックマーケットに何回も来たことあるような感じだけどこの人はブラックマーケットに詳しい人なのだろうか?

 

 

「あ、申し遅れました。私は阿慈谷ヒフミと申します!改めて助けていただいてありがとうございました!」

 

 

「……」

 

 そんな開けっ広げに自分の名前を言っていいのかと思うけどこの人は私みたく身元を隠そうとしているわけじゃないのだろう。元より目立つし仮にブラックマーケットの風景に溶け込めているのだとしてもその特徴的なキャラクターで固められた姿は何かと記憶に残る、根本的なところから考えれば最初から分かっていたことかもしれなかった。

 

「……えっと、もしかしてあれですかね……?何か目的があって名前とか言えない感じですか……?」

「……いいえ、ごめんなさい。少し考え事をしていたの、私の名前は東風マリ、助けたのは偶然だから気にしないで」

 

 正直なことを言うなら色んなリスクを考えて名前は言いたくはないけど相手が名乗ってきたのにこちらが名乗らないのは明らかに何か訳アリですよと言っているようなもので仕方なく名乗ることにした。仮名を使うことも考えたけどそれはそれでリスクがあると考えて正直に言う、人を見る目に自信は無いけどこの人はいい人そうだ、別に何かされるということは無いと思いたい。

 

「それにしてもなんで追われてたの?」

「あぁえっと、普通にカツアゲされそうになっただけです」

「……抵抗はしないの?」

「したいんですけど見ての通り両手はこのペロロ様グッズで塞がってますし、仮に両手が使えたとしても相手は三人いて勝てるか分からなかったので逃げるしかなかったんです」

 

 ヒフミさんのその両手に持ってる変な鳥の名前はペロロ様というらしい。

 世の中色んな人がいるわけでこの世は多様性の時代だ。そういうわけで完全に目がイッてる気味の悪い鳥を好きになる人もいるということもあるだろう、かくいう私だってあのシャーレに喧嘩を売ろうとしているわけだし世の中には色んな人がいるのだ、うん。

 

「このペロロ様が気になりますか?これはあのシャーレとコラボしたペロロ様人形なんです!数量が決まってる限定品で今日が発売日なんですけどブラックマーケットにある支店では数量が多く販売されるらしいので朝一で行ってきたんです!可愛いですよね?」

 

 ……気持ち悪い鳥だなと思ってヒフミさんの手にある人形を見てたら私がそれに気になっていると解釈したようでヒフミさんはシャーレコラボモデルのペロロ様人形をぐっと近づけてきた。そこまでは別にいいんだけどそのペロロ様に対して可愛いの同意を求めてないでほしい……。

 

「……そうね」

 

 ここでそうは思いませんと言える勇気は私には無いので私は逃げに走る。

 今の話を聞いてヒフミさんは本当にただただブラックマーケットに遊びに来ただけなんだなと実感した。ただ悪い噂が絶えないブラックマーケットに遊びに行くというのもなんだか変な話で、ヒフミさんの言動を見る限りではブラックマーケットに初めて来た人ではなさそうだからおそらくブラックマーケットの危険性は理解しているはず。それでもここへ来るというのはよほど危機管理能力が無いか実はものすごく強いかの二択なんじゃないかと考える。私の勘では後者だと思うけど実際はどうだろう、名乗る時に黙ってたのを見て訳アリと察した辺りもなんとなくそういうのに慣れてるような印象を受けるけど確認する術はないからなんともムズ痒いところだ。

 

「それにしてもマリさんはどうしてここへ来たんですか?お買い物ですか?」

「まぁ、そんなところね」

 

そんなわけないのだけどここに訪れた体裁を保つ理由としては丁度いい。

 

「ヒフミさんはここに詳しいの?」

「うーんどうでしょうか、人並みにはってくらいですよ」

「……情報屋とかは知らない?」

 

 私は少し危険だけど踏み込んでみることにした。

 探偵とかそういう存在は表社会にいるけどそれは犯罪を助長する者ではない。あくまでも法律の範囲内で行えることに限るし、そもそも探偵って使った時点で契約とかなんだとかでこちらの存在も探偵からしたらマークされるわけだしそれなら裏社会とやらで活動している情報屋の方がよっぽど安心できる。お金さえ払えばこなしてくれる情報屋とかそういうのを私は求めているのだ。

 

「情報屋ですか?それならとびっきりオススメな情報屋を紹介出来ますよ!」

「……とびっきりオススメな情報屋?」

「はい!私の知り合いなんですけど腕はとてもいいので胸を張ってオススメ出来ます!」

 

 とびっきりオススメな情報屋というどこかキラキラした字面に訝しむもののなんでも腕はいいらしい。ヒフミさんはあんまり情報屋とかそういうのと無縁そうな存在だと思ったんだけど言ってみるものだ、まさかこうもあっさり情報の伝手を獲得出来るかもしれないというのだから渡りに船だ。

 

「場所はですね、えっと――――」

 

 位置情報を共有する為に連絡先を交換する私たち。

 ……これ、連絡先とか交換してよかったのかな。使用してるアプリがモモトークだから本名以外個人情報がバレることは無いけどいつか私が指名手配でもされた時にヒフミさんの行動次第で足を掴まれそうな気がしなくもない。しかしながら連絡先を交換した方が何かと楽だしコラテラルダメージだろうか?分からないままヒフミさんの説明は続いていき、情報の共有が終わった私はすぐさまヒフミさんにお礼を言ってその情報屋に会いに行く為に踵を返すのだった。

 

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