たった一人でシャーレの天才たちを倒します   作:はるです

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#7 シャーレに行きます

 

「ほへー」

 

 木曜日の放課後、シャーレからいくつかの都合のいい日を提示されたので今日をピックしてシャーレがあるD.U.地区へ向かう。トリニティとは対極に位置するような機能美で溢れた街並み、ガーデンランプもガス灯もなければレンガの道もないし装飾も白やグレーなどの無彩色を基調としていてシンプルながら上品な雰囲気だ。トリニティも大都会だったけどこちらもまたそれに負けず劣らずの大都会、それでいてまだ建設途中の建物が多く存在しているのだからこの規模にしても伸びしろしかない状態となっている。そんなトリニティでほんの少し慣れた都会の街並みを根底から覆す真新しすぎる街並みに私からは間抜けな声が漏れていた。電車の窓から流れる高層ビル群や時代の最先端を紹介する建物の看板やポスター、ふと公道を見ると確認出来るどこかのお店から出来てる行列など飽きない景色は続き、まもなく~と停車の知らせを聞いて車両内に顔を戻すとここにいる人たちも様々な制服を着ていることに気がついた。当たり前だけどトリニティ総合学園の最寄り駅にはトリニティの制服を着た人ばっかだったけど、ここでは色んな地域の人が何かを求めてやってきているのだ。

 

「……別世界みたい」

 

 それがこのD.U.地区に足を踏み入れてまず放った言葉だった。元々住んでいたところともトリニティとも全く違う世界に圧倒され、左を見ても右を見ても人人人でバスやタクシーも多く散見される。私と同じ電車に乗ってここまでやってきたであろうどこかの学園の制服を生徒たちは各々の目的地へ向かってぼったつ私を通り越して歩いていく。だからそれにつられるように私も携帯を開き、シャーレのビルの位置を確認して歩みを進めた。

 携帯で位置を確認した時からなんとなく分かっていたけど私が下りた駅からシャーレのビルまでの距離はかなり短く少し歩いただけで分かりやすく存在感を放つシャーレのビルについた。後に調べてみると元々この駅はシャーレの為に造られた駅らしく随分とお金のかかっている組織だ、それが公的に出来てしまっているのだからシャーレという組織の存在は私が思っている以上に凄まじく恐ろしい。

 

「……」

 

 シャーレの人たちが働くオフィスはこのビルの三階にある。じゃあ他の一階や二階には何があるのって話なんだけどビル内マップを見た感じ二階にはゲームセンターや教室?があるらしくて決して仕事をするだけのビルではないみたい。

 

「失礼します」

 

 『活動中』と書かれた立て札がぶら下がっているシャーレのオフィスの扉を開け中にいる人がこちらを向いたのを確認して私は挨拶をする。

 

「本日当番の東風マリです、よろしくお願いします」

「はい、お待ちしておりました」

「あなたは……」

 

「初めまして、私は伊落マリーと申します。本日はマリさんの当番のご説明をさせていただきますのでどうぞよろしくお願いします」

 

 ――まさかの当番一日目にして推しと邂逅してしまった。

 向こうのデスクからやってきたマリーさんは雑誌で見た時の姿と全く同じシャーレの姿で、なんと実物の方がむしろ綺麗で可愛いくらいだった。これは『マリー様』かもしれない……別にこだわりとかはなかったけど一目見て私は『マリー様派』の人間になったことを自覚した。

 

「まぁマリさんではありませんか、当番として来てくれたのですね。歓迎いたします」

 

 そしてデスクの向こう側にはもう一人シャーレの人がいたみたいで見知った顔の人(サクラコさん)が私を歓迎してくれたので挨拶を返す。相変わらずこの人も綺麗で、マリーさんといい雑誌で見たシャーレの人たちといいここは女性として魅力的な人が多すぎるかもしれない……。

 

「サクラコ様、お知り合いですか?」

「ええ、トリニティの入学式で少し。射撃の腕前が非常に良くて是非マリーにも見てほしいくらいなんですよ」

 

 顔や名前を覚えられるだけならまだしも能力で覚えられると後々戦った時に感づかれそうでイヤなんだけど見せてしまったものは仕方ない。カナメさんが狙撃には自信があると言ったように私も射撃には自信がある、だからそれを認められて悪い気はしない。

 

「そうなんですね、もし機会があれば是非私にも見せてください」

「えっと、はい。もし機会があれば……」

 

 『私もマリさんと同じく拳銃なんですよ』と言いホルスターに収まったハンドガンに手を当てるマリーさん。それにつられてそのマリーさんのハンドガンを見ると金と黒の塗装がされているのが確認出来たけど“私と同じ”というには見た目がごつくて銃口が大きいので多分はこれはマグナムだろう。確かにハンドガンではあるけど……なんか穏やかそうな見た目に反してマリーさんは結構危険な武器を使う人らしい。

 ハンドガンはライフルやランチャー系統のように大きくないし重くもないので移動にも動きにも制限がかからないコンパクトさが最大の利点で、ハンドガンの多くは反動が少なく扱いやすさに関しても右に出るものはないくらいで火力こそ低いと言われがちだけど体術やガジェット次第でどうとでもなるので私にとってはとても頼りになる銃だ。後もう少しタイトなところを言うとハンドガン本体の値段や維持費のお手軽さからコスパにも優れているところも私にとっては大きい。

 それに対してマグナムはハンドガンのコンパクトさを備えながら従来のハンドガンでは再現のしようがない破壊力を持つのが特徴だ。大口径と呼ばれる大きな弾丸を使う為のモデルで、そこから放たれる弾丸は当たり所が悪ければ一発で気絶させることも出来る。しかしそれの威力に反比例するように反動の大きさが目立ち連射をすると肩が外れかねない他、マグナムは弾丸の維持費が高いので色々な面から扱いにくい武器だ。しかしそれを扱ってきたと思われるマリーさんはカナメさんが言っていた噂通り多分強い人なんだと推測出来る。

 

「では早速当番のお仕事についてご説明いたしますね。本日は珍しく当番がマリさんしかいませんので私と一対一で進めていく形になっています」

「分かりました、お願いします」

「はい、ではこちらへ――」

 

 サクラコさんやマリーさんがいたデスクとは別にパソコンだけが置かれた質素なデスクに案内されマリーさんから仕事の説明を受ける。仕事内容は応募の段階で確認してなんとなく想像はしていたけど今日はパソコンでかたかたデータを入力するだけでいいらしい。これなら全然難しくないし他に考え事をしながら出来るくらいで、特に接客とかせずこれで仕事が終わるなら私にとっては天国のようなものだ。シャーレ自体も静かなもので私の隣でパソコンと向き合っているマリーさんと向こうのデスクで何かしてるサクラコさんしかいないので基本打鍵音しかしない。

 

「マリさんはトリニティの方なんですね」

「え?」

「あ、ごめんなさい。邪魔でしたか?なんだか暇を持て余してそうだったのでよければお話をと思ったのですが……」

 

 退屈そうにしていたつもりはないしただただ真面目にやっていただけだったんだけど、このデータ入力を始めてから二時間以上は経ってるし傍から見れば喋らないし困った様子も見せないしかたかたしてるだけだしで確かに暇と見受けられるかもしれない。だからそんな私を気遣ってかマリーさんは突然会話を始めようとしていた。

 

「……はい、是非私とお話をしてください。こちらの仕事はお話をしながらでも出来ますので」

「もちろん喜んで。マリさんはトリニティの方ですよね?」

「はい」

「ふふふっ実は私もトリニティ出身なんですよ、あちらにいるサクラコ様も同様に」

「はい、知っています。私の友達にシャーレがすごく好きな人でいてその人から色々聞きました」

 

 カナメさんやマナ先輩がいなければマリーさんの話は素直に驚けたんだろうけどサクラコさん狂信者とナギサさん信者の前でシャーレを知らないなどというのは無理がある。その影響もあって私の反応はシンプルにつまらない反応になってしまった。

 

「そうだったんですね、なんだかトリニティの制服を着た方を見ると懐かしく思えてしまって……マリさんはどうしてトリニティへ入学したのですか?」

「えっ……」

 

 ……どうしても何も、根本的なことをお話するならあなたたちを倒す為に入学したんですよと心の中で返答するけどそれは決して口に出していいことではない。正直な話入学する学園はどこでもよかったのだ、ゲヘナでもミレニアムでもどこでも。ただトリニティは由緒ある学園なだけあって品性がある、その為例えば『どこかの学園の生徒が問題を起こした時』、まずトリニティの生徒が疑われることは無いだろうと私は思ったのだ。治安の悪さから『どうせゲヘナ』とレッテルを貼られたり『ミレニアムもやりそうじゃない?』みたいな一番新しいから何者でもない故に警戒されそうだったりと私の正体を少しでも隠しやすい場所は私の中ではトリニティだった。だから私はトリニティへ入学したのだ。

 

「……新しい自分になりたくて、トリニティへ入学しました」

 

 しかしそれを口にすることは未来永劫無い。私の内側は決して誰にも知られてはいけないのだから。

 それに私が口にした理由もまた真実ではある。今まで秘めてきた内側を解き放つことの出来る場所へ入学した、それを新しい自分になりたいと形容したとしてそれのどこが間違っているのだろうか。15年の集大成――ここまでずっと付き合ってきて輪郭が定義された私という存在を思いっきりバカにしたい。私は本当に――――変わりたいのだ。

 

「なるほど、素敵な理由ですね。マリさんのその新しい自分探し、応援しております。もし何かお力になれることがありましたら是非私やサクラコ様、他シャーレの職員の方に相談してくださいね」

 

 因果関係を辿ればマリーさんは私を応援してはいけないけど、もうそれに関しては何もかもが言わぬが花だ。

 

「ありがとうございます。マリーさんはどうしてシャーレへ所属したのですか?」

「シャーレへ……ですか?そうですね……理由はいくつかありますがやはり人を助けるお仕事がしたかったというのが大きいと思います。シャーレでは人を助ける手段を多く有しています、強大な武力から物理的に人の助けになれたり、広報や宣伝活動、ボランティアなどで誰かの助けになれたり、時にはシャーレの権限で雁字搦めを打破する一手にもなれたりと、とにかく私は常に誰かの助けになりたいんです」

 

 あまりにも崇高で綺麗すぎる理由、純粋すぎるが故一周回って嘘か本当か分からないマリーさんのその言葉に私は正直なところ怪訝な反応しか出来なかった。これは私の猜疑心が悪いのだろうか、いや流石に違うと思いたい。マリーさんの持つ願いは誰にとっても綺麗すぎると思う、しかしマリーさんの言動や雰囲気からは本当に心からそう願ってそうだと感じれてしまうのが恐ろしく、私は横板に雨垂れだった。

 

「それにシャーレには……いえ、なんでもありませんっ」

「……?」

 

 突然顔を赤くして両手で頬を押さえるものだから私は疑問符を浮かべた。マリーさんの言葉と様子から察するになんだかまだ理由があるみたいだけどそれはあまり言いたくないことらしい。

 

「マリさん、私には先ほど述べた願いとは別にもう一つだけ叶えたい願いがあるんです。それは私の中では何より重要な願いで……ですからお互いに目指す道へ向かって頑張って歩んでいきましょう」

「は、はい」

 

 よく分からないけどマリーさんには秘めた大事な願いがあるらしい。そんなこと雑誌には書いてなかったし仄めかしたい部分があるんだろうけどそんなに大事な願いなら私は素直に応援するだけだ。何なのかは知らないけど。

 

「そういえばサクラコ様から射撃の腕前がいいと聞きましたがマリさんはどこかに所属してたりしていたんですか?」

「いえ……特には所属してないです」

「では師から学を得たり?」

「そういうのも特には」

 

 戦闘に対する意識が高い人は早ければ小学生の時にどこかに所属する。武器の使い方、近接戦闘のやり方、ガジェットの説明など一人の講師が複数の生徒に対して教える講習会などもあれば実際に体を動かして誰かと戦う実践的なもの、後はエンジニア方面に特化して銃を弄くったりするものと多岐に渡る選択肢があるけど私の場合はそのどれにも所属した経歴はないし誰かに教えを乞うた覚えもない。私にあるのは100%の独学と才能だけで、元より幼い頃からある意味心を閉ざして生きてきた自分がどこかに所属出来るはずもないのだ。

 

「それはまた……すごいですね……」

「……どうでしょうか」

「とてもすごいことだと思います。私やサクラコ様は直近だとトリニティのシスターフッドという団体で戦闘技術や知恵を培ってきました。そこでの経験が無ければ少なくとも私は今ほど戦える人ではありませんでしたし頭も良くなかったと思います、しかしマリさんは私とは違ってそういった指標や導がなくとも強くなっていける……とても羨ましいと思うと同時に尊敬します」

 

 まだほんの僅かに会話をしただけだけど、マリーさんは私のことを随分と高く買ってくれているらしい。雑誌のマリーさんに関するコラムとかを見る限り自信家ではないと思っていたけどやはり想像通りの謙虚な人だ。強さを一切誇示しなくて、だからこそ実力がどのくらいなのかが全く分からない。武器のチョイスだけなら強そう……というよりもいかつそうというイメージなんだけどどの道実際の強さは分からないので案外こういうタイプは分かりやすく強い三大巨頭よりも厄介かもしれない。

 

「はい、お電話ありがとうございます。シャーレのサクラコがお受けいたします」

 

 マリーさんとお話をしていると向こうの方で電話が鳴り、それに対応をするサクラコさんに目がいった。マリーさんも電話が少し気になったのか私と一緒にサクラコさんの方へ顔を向け話を中断したことで、オフィスには電話対応するサクラコさんの声だけが響く結果となり特に意識せずとも会話が聞こえてしまっていた。

 

「はい、はい……って、え?公道で戦闘ですか?」

 

 サクラコさんは苦そうな顔してこちらを一瞥する。

 

「……かしこまりました、すぐ現場に向かいます。決してそちらの戦闘には参戦しないようお願いいたします」

 

 『失礼いたします』と重ねて申し上げた後サクラコさんはまた苦そうな顔をしてこちらを向いた。

 

「マリー、出動です」

「はい、場所はどちらですか?」

「シャーレから東、駅とは反対側です。デパート近くにある立体駐車場付近の公道にて戦闘発生との通報がありました。規模は通報した方の話では15人以上は確認できていてそこそこ大きいとのことなのですが……」

 

 サクラコさんはそこまで言って三度苦い顔をする。

 

「現在シャーレで動けるのがマリーしかいません……先生も他の皆さんも遠方で他の仕事をしていてすぐに向かえる状況ではありませんし、私も非常時を考えてここに残らなければなりません。ですから至急ヴァルキューレへ応援を頼みますのでまずはマリー一人で向かい、救助に当たってください。その際余裕がありそうであれは無理のない程度で鎮圧及び無力化をお願いします」

「私一人……かしこまりました、お任せください」

「まだシャーレに所属してそこまで経っていないというのにこんな無理を押し付けて本当に申し訳ないばかりです、決して無理はしないでくださいね」

 

 ――そういえば、ここにはマリーさんとサクラコさんしかいないんだ。

 サクラコさんの話を聞いてふと思った。すごく単純的にシャーレの半分を実働部隊だと考えたらもう半分は事務員だ、それなのにここシャーレにこんだけしかいないなんておかしな話だった。目的の一つであった先生もいないし、他のシャーレの人たちもいない。サクラコさん曰くみんな遠方で仕事中らしいけどこっちの人員がほとんどいなくなるリソース配分は大丈夫だったのだろうか……?

 ……いや大丈夫じゃないだろう。

 

「あの、マリーさんサクラコさん」

「はい、なんでしょうか?」

 

「その救助と鎮圧、私も行かせてください」

 

 ――――私は正義よりも悪になりたいんだけど、正義になりたくないわけじゃない。

 私の二面性の内の表側よろしく『助けたい』と言っている。

ここで知らんぷりをするよりも私はここでお節介を焼きたい。

 

 ――例えこの後いつか私がシャーレを倒すとしても。

 

 少なくとも表側の私で過ごしている時は助けたい。無視なんて出来るはずがないんだ。

 

「そんなっ、許可できませ――」

「許可してください」

「……!」

 

 マリーさんが『許可できない』と言おうとしてるところに食い気味で言葉を返す。まさか私がそんなこというと思ってなかったのかマリーさんは目を丸くして怯んでいた。

 

「……分かりました、私サクラコがマリさんの同行を許可します」

「サクラコ様!?」

「マリー、今は猫の手も借りたい状況なのです。それに先程も言ったでしょう?マリさんは射撃の腕がとても良いと。ですからマリさんが同行するのは戦力的な面で不当も不足もありません。安心してください、何かあったら私が責任をとります」

 

 見ず知らずの生徒を危険な戦場に連れていくことが出来ないという戦闘員の考えとシャーレそのものの立場から見た指揮官の考えの相違――その末に指揮をとるサクラコさんの意見が通りマリーさんは覚悟を決めて私の同行を認めた。

 

 ――それでいい。

 

 サクラコさんが何かあったら責任を取ると言っているが何かを起こすつもりは一切ない。負けるつもりも被害を出すつもりもないのだから。

 

「それでは向かってください、こちらからの報告は全てマリーに飛ばしますのでマリーは報告が入り次第迅速にマリさんへの共有をお願いします」

「かしこまりました」

 

 マリーさんがインカムの装着具合を確認した後私たちは戦闘が発生しているという現場へ向かう。現在は19時半だ、外はもう暗く空の色を確認した私は帰る時間がものすごく遅くなる覚悟をした。自宅からD.U.地区はものすごく遠いので電車で一時間くらいはかかるだろう、だから最低でも21時半くらいまでに終わってくれないと困るので私は速く走る。マリーさんが私を気遣ってくれて足並みを揃えようとしながら走ってくれているけどそんなのお構いなしにぐんぐんスピードをあげてマリーさんを追い抜いた。それを見てかマリーさんも徐々にスピードをあげて現場には約10分ほどで到着した。

 

「これはっ……」

 

 歩道に突っ込み煙をあげる車、現在も鳴り響く銃声、丁度今起爆して公道を吹き飛ばすグレネードなど私たちがついた頃の現場は大惨事となっていてマリーさんは絶句。

 

「……」

 

 その間に私は戦場の状況を確認する。

 報告で聞いていた通りどこかの学園の制服を着た生徒が15人以上はいて、それが丁度半分半分くらいで分かれて銃撃戦をしている。サブマシンガン、アサルトライフル、スナイパーライフルと使われている武器の種類は様々でグレネード系のガジェットも使用されているのでかなりの乱戦具合となっている。

 逃げ遅れた人、倒れている人は確認できない。きっと銃声してみんなすぐに逃げたんだろう。救助優先でここにやってきたけど、これなら私としても都合がいい。不馴れな人命救助よりも慣れてる銃撃戦の方が私としてはやりやすい。

 

「マリーさん、私はこのまま乱戦の中に突貫して一人ずつ無力化していきます。マリーさんは私の後方から援護をしていただけますか?」

「え?そ、そんな危険です!」

「大丈夫です、勝算はありますから」

 

 そこまでいってマリーさんの言葉を聞かずに私は丁度真っ直ぐにいるスナイパーライフルを持った生徒に向かってひた走る。歩道の手すりにスナイパーライフルを固定してこちらも見ずに狙撃とはなんと悠長だろうか、私は走りながらその隙だらけの頭に向かってハンドガンで狙い撃ち――頭に銃弾を受けた生徒は気絶とはいかずとも大きく怯んだのでその隙に走り込み顔面に蹴りを入れて気絶させた。そしてそのまま間髪いれずに左斜め前の公道にいる生徒に向かってハンドガンを速射、顔と胸に数発の弾丸を受けたことで倒れこむように気絶したところで後方から鈍重な銃声が雄叫びをあげるかのように響いた。

 

「一人、やりました」

 

 言葉にしてマリーさんは再度トリガーを引く。

 両手ではなく片手で構えてその雄叫びをあげるいかつい銃を制御するマリーさん。それは先程見ていた清楚な姿には似つかわしくないワイルドな様で、マリーさんのマグナムの弾丸を受けた生徒はたった一発で気絶した。

 

「マリさん!どんどん行きましょう!」

「……!はい!」

 

 想像を軽く凌駕していたマリーさんの戦闘に見入ってしまっていたけどマリーさんの言葉で我に帰った。

 戦闘の意識を研ぎ澄ました私はまだ公道にいるたくさんの生徒を一度見渡してから一番近くにいる正面の生徒に近づきながらハンドガンを数発入れる。それで正面の生徒は倒れたのを確認してすぐに右斜め前にいるアサルトライフルを持つ生徒に対して距離をつめる。ここまでくればこの戦場にいる全員が私たちを認知し警戒しているので現在進行形で戦場を荒らす私に射撃はするものの、公道の暗さが味方をして私には当たらない。だからこれ幸いとゼロ距離まで近付いたら回し蹴りで構えていたアサルトライフルを叩き落として、その慣性をそのままにもう一度回し蹴りで頭部に鋭い衝撃をいれて気絶させた。そこからノータイムにほぼ確認せず決め撃ちのような形で私の後方にいる生徒に向かって片手で残りの弾丸を全て連射。

 

「なっ……すごい……!」

 

 それで私の後方にいた生徒が倒れたところでマリーさんが鮮やかな一連に対して感嘆の言葉を漏らす。どこかの学園のちゃんとした組織ならともかくここにいるのは有象無象。それ相手ならこのくらい造作もない。

 

「マリーさんっ!リロードします!」

「は、はい!援護は任せてください!」

 

 このハンドガンの弾倉は15発。継戦能力には優れない為リロードは必須なので私は歩道にいるマリーさんと合流して街路樹に身を隠す。

 

「二人、倒してます」

 

 その間にちゃんと戦果を出すマリーさんには流石としか言いようがなく、そんなマリーさんに感謝しながら私は公道に戻る。

 ――残りの生徒は六人。この時点で既に片方の勢力は全滅しているので現在の構図は私とマリーさん対六人だ。なので攻撃は前線にいる私にしかこないが――

 

「当たらない!?」

 

 相手にしている生徒がそんなことを嘆くよう口にした。

 これまで私に弾が当たってないことから相手がそこまで強くないことを知った、なら私はなるべく銃弾が当たらないようにと大きく半円を描くように走り全ての生徒のヘイトを奪う。

 

「一人……倒してます!」

 

 私が一人ならこの行動は厳しかっただろう、だけど今の私の味方にはマリーさんがいる。だから私は全力で注意を惹き付けマリーさんに戦局を委ねた。

 マリーさんが一人倒したことによりその驚異的な火力から今度は私ではなくマリーさんに注意が向くが、それは私がフリーになった瞬間でもある。だからこの機会を逃さずマリーさんの対岸位置にあたる歩道にいた生徒の顔面を蹴りあげて一発KO。その間マリーさんがもう一人を倒してくれているおかげで相手の注意がごちゃごちゃになっている。だから追い打ちをかける為一番近い生徒にハンドガンをスピード重視で乱射――それを受けて気絶した生徒の武器であるアサルトライフルを即座に拾って乱射。初めて使う銃だけど何も扱えない訳じゃない、この相手を倒すくらいなら何も問題はない。

 

 

「わっ!?」

 

 短い悲鳴をあげて倒れていく生徒。この時点でマリーさんが一人倒してから三人の生徒が気絶した。残りは後一人で、このアサルトライフルを使ってそのまま薙ぎ倒そうとしたところで空砲の音がなり舌打ちをした。

 

 

「くらえっ!」

 

 

 残る生徒がいる方から声がしたのでそちらを向くと既にトリガーを引いた後で、やけに長くて太い一つの弾丸が私の肩にとてつもないほどの衝撃を与えた。

 

「っ……」

 

 その衝撃で倒れはしなかったものの手に持っていたアサルトライフルとハンドガンがこの手を離れ後方へ吹っ飛んでいくのが知覚できた。

 

 だけど大丈夫。

 

 この状況でも私は笑っていた。

 今の私には――

 

 

「……倒しました」

 

 

 最強の味方がいるのだから。

 マリーさんの弾丸を受けて最後の一人も気絶した。

 銃声が止み戦闘が終了したことを確認すると、今まで全く聞こえてなかったパトカーのサイレンの音が段々と大きく聞こえるようになり、私は大きく息を吐いて脱力した。

 

「マリさん!大丈夫ですか!?」

 

 後方へ吹き飛んだ私のハンドガンを拾い上げる頃、マリーさんは急いでこちらへやってきて私の心配をしてくれた。

 

「はい、大丈夫ですよ」

「よかった……肩を撃たれた時はどうしようかと思いました……」

「大袈裟ですよ」

「大袈裟なんてことはありません!いいですか?元々こんな戦場に一人で突貫するなんて――」

 

 私の言い方がマリーさんの琴線に触れてしまったのか突然公道のど真ん中でお説教が始まってしまった。無茶にも限度がある、自分の強さを過信しすぎないでください、自ら身体を傷つけに行くような真似はしないでほしいなど世界平和のようなことを望むマリーさんらしい言葉で口を酸っぱくするけど、畢竟それは叱咤だ。マリーさんの言葉のそれどれもが私を労わる言葉で、マリーさんは本気で私のことを心配してくれていたらしい。だから悪い気はしなくて自然と顔が笑みの方向へ向かっていた。

 

「……ってなんでそんな笑ってるんですか?」

「……そんな顔してました?」

「もうっ本当に心配してるんですからねっ」

 

 ぷくっとほっぺを膨らませて怒るマリーさんは『マリーちゃん』かもしれない……。

 ……確かにこれはマリー様派とマリーちゃん派がいるのも頷ける。美しいと可愛いの両翼は思った以上に難儀なことなのかも、とマリーさんの魅力を感じれたところでヴァルキューレの人がこちらへやってきたので話は中断。明日は普通に登校日だし出来ることならこのままお金だけもらって帰らせてもらいたいんだけどこの騒動にがっつり絡んでしまったのではい帰ってどうぞなんてことにはならずこのまま私とマリーさんは時間帯責任者であるサクラコさんを介してシャーレで事情聴取となった。

 

「はい、ですから私とマリーさんは――」

 

 とはいえ戦闘に出向いた私とマリーさんは関係者ではあるもののただ単に制圧を行った者でしかなく事件の発端や当時の様子などは何も知らない身だ。だから向かった際の状況や私たちがどのようなことをしたかという説明をした後解放された。戦闘が終わり解放されるまでの時間にして約一時間だ、思っていたよりも早い時間である。

 

「サクラコ様、どうやら先生方が戻ってきたようです」

「本当ですか!?よかったです、では私は先生に引き継ぎをした後マリさんを自宅までお送りします」

 

 ひとまず事情聴取から解放されてこれからどうなるんだろうと思いながら携帯で時間を確認していると横からそんな会話が聞こえて思わず『えっ』と声が漏れる。

 ――私を自宅まで送っていくの?

 シャーレの人とはあくまでもトリニティの学生という体を保つ範囲で関わっていきたいと思っているのだけどその予定は即行で崩れそうだ。『いや大丈夫です、一人で帰ります』なんて言葉を言いたいけどもう既にオフィスを出て戻ってきたという先生の元へ駆け出したサクラコさんを見るとそれも許してくれなさそうで私は無表情のまま何とも言えない気持ちになった。

 シャーレの人に自宅の場所を知られる……それは何でもないように思えて一つのリスクだ。例えばシャーレの人が自宅に上がった時何を知られるか分からないことだ、これからシャーレの人と戦っていく上で変装だとかを必ずするだろう。その時に使った衣服を確認されたりすると言い訳が難しくなるのでシャーレの人には所在はトリニティという情報だけで止めておきたかったけど流れ的に無理そうだ……。

 

「マリさん、本日は本当にありがとうございました。もうしばらくしたらサクラコ様が戻ってきますのでそうしましたらようやく退勤となります。給与の方はサクラコ様からまたお話があると思いますので詳しい話はそちらでお願いします」

 

 サクラコさんが駆け出した後、隣にいたマリーさんは慈しみがたっぷり詰まった微笑みでそう言った。そういえば今日はアルバイトをしにここへ来てるんだった、さっきの戦闘から今に至るまでの情報量ですっかり失念していたけど給与は現在の私にとって一番大事なことの一つだ、勤務時間はそんなに長くなかったのでそんなにはもらえないとは思うけど今日という一日は思ったよりも充実感があったのでよしとする。

 

「こちらが本日分の支給額になります」

「……え?」

 

 後にサクラコさんからいただいた明細書を確認すると確定していた私のもやし生活を余裕で救済出来るレベルのクレジットをいただいて私は目が点になった。

 

 これならこれからの生活をかなり余裕を持ったものに出来る……!

 

 全く期待していなかっただけにすごく幸運を掴んだような気分だった。

 

「本日はありがとうございました!」

 

 まさに棚から牡丹餅。予想だにしていない臨時収入に本日最大の笑顔を見せてサクラコさんにお礼を言う。今日がたまたまそういう日だったのは分かっているけど、シャーレのバイトは存外悪くない。

 バイトしている際にああいうイベントが一定確率で起こるというのなら尚のこと良いと思えてしまっているのでまた近いうちにシャーレで当番をしに行こうと私は密かに考えを固めるのだった。

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