この素晴らしき世界に星王を! 作:星王の信者
石造りの街中を、馬車が音を立てながら進んでいく。
「ん、ここが異世界、なのか?」
「獣人に、あの人はエルフ?アンダーワールドとは随分違う感じなのね」
「ん?」
何も入っていなかったはずのポケットに何かが入っている感じがして探ってみると、
『キリト様、アスナ様。もう必要ないでしょうから天命凍結は解除しておきました。これで何事にも配慮することなく生きられると思います。後、そちらに転生者方がいらっしゃいますので、何かあればそちらをお頼りください』
うーむ、あの天使様、結構気が効くな。
なんてことを考えていると、
(なんだ?強い苛立ちを感じる。何かあったのか)
「どうする?キリトくん」
「アスナも気付いたか、・・・まぁ、行ってみるか」
そして、厄介ごとの気配を感じつつも二人は駆けて行った。
*
「よし、じゃあいくぞ!」
「え、ちょっ、まっ、」
言い返しこそしなかったがすでに我慢の限界だった俺、カズマはショートソードを鞘付きのまま振りかぶり、
パシッ
軽い音を立てて止められた。
「抜いてはないとはいえ、街中で何してるんだよ」
気づいた時には黒髪のイケメンが間に入ってそれぞれの剣を押さえていた。
「これ以上街中で闘るなら俺が相手になるけど?」
勇ましいことを言ってくるイケメンにイラッとはしたが、俺もミツルギも剣を持つ手を全く動かせない程の筋力とその黒髪からしてこいつはおそらく転生者だ。敵対したら俺たちみたいなポンコツパーティは簡単に叩きのめされるだろう。それは勘弁だ。
「いやー、俺は大丈夫。喧嘩を売られたから買っただけだし、そっちが話つけてくれるなら文句はないさ」
「なっ!?おい!逃げるな!」
「はぁ、その意気は認めなくもないけど熱くなりすぎだぜ?」
「くっ!・・相手になると言ったな、なら彼の代わりに僕と勝負だ‼︎」
「まぁ、落とし所してはそれが妥当か。いいぜ、受けてやるよ」
うーむ、やっぱり厄介ごとに巻き込まれてしまった。アスナの呆れたような視線が痛い。
*
「さて、ここらでいいかな」
「ああ、僕が勝ったら彼との勝負を認めてもらうぞ」
「勝ったら、な」
剣を抜く相手に合わせて、俺も剣を抜くと、
「ミツルギキョウヤだ、参る!」
「ああ、来い」
腰に掛けた鞘から剣を抜き、ミツルギは果敢に立ち向かう。
ソードマスターという上級職に就いているだけあり、ミツルギの剣技の腕は決して悪くはなかった。
そう───悪くはなかった。その程度の感想しか出でこないだけの腕前でしかなかった。ただ、その“四旋剣”と同等は固いと思わせる筋力に反し、その技量は上級修剣士になれるかも怪しいと言った所だった。
はぁ、と小さな溜め息を漏らすと共に、キリトは振り下ろされた剣に自身の剣を当ててそらし、空いた左手で無防備な懐に
「フッ!」
「ガハッ!?」
ミツルギはこの日初めて剣士に、それも人間にくの字に殴り飛ばされた。鎧は凹んでいない。鎧には傷こそあれ、破損した様なものはない。にも関わらず、ドグッ!と光を伴った拳が突き刺さり、まるで腹を貫かれたかの様な衝撃と共に殴り飛ばされた。
「さて、まだやる気は失ってないよな?」
「くっ、まだまだぁ!!」
「なら良し、胸は貸してやるよ」
「せやぁぁ!!」
裂帛の気合いと共に右下段から切り上げる。
──斜め斬りで叩き落とされる。
左中段の水平斬りがくる。
──鎧で受ける。
光を纏った蹴り上げがくる。
──頭を振って避けるが、距離を取られる。
真っ直ぐ突進して斬り下ろす。
──フェイントで避けてられて、浅く左肩を斬られる。
───
*
もはや決闘と言うよりは荒稽古と言った方がしっくりくる様相を呈し始めた二人の戦いから目を離し、
「さて、私たちも始めよっか」
シュインと、美しい音で抜き放たれた刀身はその音に見合う美しさと強さをまざまざと思わせた。
「えっ」
「?えっ、どういうこと?」
この状態で剣を抜いたならばその答えは一つ、
「決闘よ、あなた達もこのままお荷物状態でいいなんて思ってないんでしょ?」
「「なっ!?」」
「単純な話よ。愛する者の隣に並んで戦う女の覚悟を、叩き込んであげる」
「っ!舐めないで!!」
クレメアは戦士であり、フィオは盗賊だ。
だが、その実力は決して高くなく、平凡の域を出ない。少なくとも心体技の体は満たしているミツルギと比較すれば一つとして満たしていない彼女達はあまりにも弱過ぎる。
クレメアの槍が勢いよく突き出される。けれど、それはあまりに遅く、力がなく、工夫もなかった、アスナは避ける事もせずに槍を正面から突きげてクレメアをあっさりと押し返した。
フィオは盗賊のスキル『潜伏』を用いて隠れ、奇襲せんと背後から襲い掛かった。
だが、彼女は幾ら華奢で可憐であろうとも、『
「技量も力量も足りていないわね。あなたはどうしたいの?倒したいの?守りたいの?そこをハッキリさせなさい。役目が曖昧だから攻撃も防御も速さも重さも中途半端。攻撃重視なら私に押されても二撃三撃があった、防御重視ならそもそも押されなかった。少なくとも、私にあそこまで余裕を持って背後の強襲に対応させなかった」
「狙いが分かりやすすぎよ、消えてから体勢を崩した時に狙ってくるのも背後から襲ってくるのも定石。飛び道具なりなんなり工夫しなさい。汚い卑怯は生き残ってこそ言えるもの、彼について行きたいならあなたはその甘さを捨てていきなさい」
ここに血盟騎士団鬼の副団長が再臨した。
*
「はぁはぁ、・・参り、ました」
鎧を傷だらけにしてどさっと倒れたミツルギは数多の敵を葬ってきた、はずである。なのに名も知らぬこの青年は傷一つ負わずに自身を打ちのめした、その事実にただ息を切らして倒れるばかりでもはや苦笑すら漏らせない。
「どう、でしたか、僕は・・」
「・・まぁ、身体能力は悪くなかったよ」
「・・逆にそれ以外はまるで足りていない、というわけですか」
戦っている中で感じ取れていた彼我の距離、ソードマスターという言葉を体現したような存在、自身の圧倒的上位互換に自身の未熟さとその未熟さで己を勇者と豪語した傲慢を恥じらうしかなかった。
「そんなに卑下するほどしゃない。ただ、その剣に見合うものだ、とは言ってやれないな」
「はは、・・そんなに気を遣わなくていいですよ、あなたと戦ってよく分かりました。僕はまだ、グラムを使えてすらいない。使われていただけだ」
体力だけでなく気力すらも萎えていく、異世界に来てからこんな経験は初めてであり、同時にそれだけ魔剣グラムに頼りきってきたのだと思い知らされる。
「キリトくん、そっちも終わったの?」
「ああ、キョウヤを治してやってくれ」
ミツルギは己を跨いだ会話に顔を向けると、ミツルギほどではないにしろボロボロとなったクレメアとフィオの姿があった。
「キョウヤ!大丈夫!?」
「キョウヤ!ちょっとやり過ぎなんじゃないの!?」
「フィオ・・クレメア・・・」
ミツルギは回復の光に包まれつつ、二人に謝ることしか出来なかった。
「二人とも、ごめん。二人を守るって約束してたのに、僕は自分のことで精一杯で、ははっ、これじゃあ世界を救う勇者だなんて笑い話だな・・・」
「・・ううん、これはキョウヤだけの問題じゃないわよ。私たちもただ守られる存在じゃなくて、一緒に戦えんだってあなたに示さなきゃいけなかった」
「彼女に言われてやっと気づけたなんて、情けない限りだけどね」
「・・・あの調子なら大丈夫そうかな」
「ええ。・・まったく、君はいつもこうなるんだから」
「いや、でもしょうがないだろ、あれは」
「まぁ、ね」
ミツルギのやり方はゲーム的にはキャリーと言ってしまっても差し支えないものであり、デスゲーム攻略者たるキリト達にとってはシリカの時のような一時的なパーティならまだしも継続的にするのは避けるべき行動なのである。
そして、その状態が続くことを危険視したキリトがミツルギがかつての
「・・・えっと、すみません。お名前は・・」
「あっ、そういや自己紹介も出来てなかったな。俺は桐ヶ谷和人、キリトって呼んでくれ」
「私は結城明日奈、アスナって呼んでください」
「私はクレメアよ」
「私はフィオです」
「僕は御剣響夜、好きに呼んでもらって大丈夫です。・・・その、すいません、迷惑をかけてしまって、」
彼はまだ若いと言うだけであって、普段は常識的で善良な人間である。今回は少々、頭に血が上り過ぎていただけのことであり、無理な勧誘は良くないということは分かっているための謝罪であった。
「気にすることはないさ、こっちの自己満足でもあるし」
「で、でも、このままというのは・・・」
「あー、なら、冒険者登録を手伝ってくれないか?俺たち、こっちに来たばかりなんだ」
「」
ミツルギ達は宇宙猫になった。