ジュンコと出会ってから一週間が経過し、俺は相変わらず飲食店巡りに明け暮れていた。
そろそろ貯金が尽きそうなのでバイトでも始めようかと思っていた矢先────
「お、あった」
ここが今日の戦場、蕎麦処「げへな屋」だ。50年以上前から続く老舗で、シンプルなかけ蕎麦が一番人気…と、例のモモックスアカウントが言っていた。
「でもなんだか店の中が騒がしいような…」
店からは外に居ても余裕で聞こえるほど大きな声が響く。例えるとスポーツスタジアムの観客席の声援に近い。
何かイベントでも行われているのだろうか。
うじうじしていても仕方がない。ここは迷わず店に入ろう!
「はいどんどん、はいじゃんじゃ──あっ!いらっしゃい!」
店のドアを開けるとそこにはカウンター席でわんこそばをする少女がいた。どんぶりで。
もう一度言おう。
どんぶりで、だ。
流石に頭と胃袋がおかしいとしか思えないが、証拠としてカウンターテーブルには沢山のどんぶりが並んでおり、店員であろう獣人がボウルに替え玉を入れて給仕をしていた。
他の客も自分が注文した蕎麦はそっちのけで少女の奇行に目が釘付けだ。
そして、蕎麦を食べている少女───金髪にツノが生えた背丈の高い女性は涼しい顔をして蕎麦を味わっていた。
「あっ!そろそろ店の蕎麦粉が切れちまうよー」
おい店員、それは店としてどうなんだ。
店内を一望してみると、年季の入った壁に貼り紙が貼ってあるのが見えた。
そこには、『どんぶりでわんこそばチャレンジ!完食できたら料金はタダ!』と書かれている。てかこの催し物店が開催してんのかよ。
「悪いが嬢ちゃん、最後の一杯だけあそこの坊ちゃんに譲ってやってくれねぇか?チャレンジは成功でいいからよ」
困惑する俺を見兼ねて店員が少女に語りかける。
「う〜ん…まだまだ食べ足りないですが──仕方ないですね。今日は気分が良いので、最後の一杯はそこの男の子に譲ってあげます☆」
そう言って少女は蕎麦が一玉入ったどんぶりを俺に手渡す。
俺はそのどんぶりを渋々受け取り────ん?これ間接キッスでは?
危ない危ない。この女の毒牙にかかるところだった。どうせ美人局かなんかで後から『間接キッス料』とか取り立てに来るんでしょ?俺は情強だからそんな罠には引っかからないぜ!
「あっ!もしかしてタダのかけ蕎麦はご不満ですか?店員さ〜ん、この男の子に海老天追加で!」
違う、そうじゃない。
まあいいや。わんこそばをどんぶりでやる美人局なんて居ないだろうし、人からの施しは素直に受け取ろう。
俺は半ば諦めたように海老天入りのかけ蕎麦を受け取り、人啜りする。
旨い。素直にそう感じた。つるんと喉越しが良く、麺の温度も絶妙だ。この品からは老舗の誇りと長い歴史で積み重ねてきた精巧さが感じられる。これならどんぶりわんこも──できる訳が無いが、食欲が増していくのは間違いない。
「どうだ坊ちゃん、旨いだろ!」
ハイペースで蕎麦を啜る俺に対して、店員が嬉しそうに声を掛けてくる。
「はいっ!流石老舗というか、麺のコシ、喉越しの良さ、全てにおいて数値が高いというか───てかこれって十割そばですよね?つなぎが無い分すぐ切れるのが普通なのに、ここまで絶妙に作れるとは、感服です!関東風のカツオ出汁も良い香りがして食欲が止まらないし、醤油とカツオの比率が巧みで、こんな蕎麦今まで食べたことがありません!」
「おっ、おう…」
店員が若干引き気味に返事をする。
事実を述べただけなのになぜそんな反応なのか、不思議だ。
「やはり──あなたがそうでしたか」
不意に少女から声を掛けられる。
「え?俺っすか?」
「はい、貴方は最近、ゲヘナの飲食店で有名人ですよ?何でも『ゲヘナ中の飲食店で正確かつ熱意を持った食レポをして回る男子生徒が居る』って。キヴォトスでは珍しい男子が入店してきたのでまさかとは思いましたが」
「マジか…」
俺そんなに有名人だったのか…まだ一週間しか活動してないのに…
「ハルナさん──私が所属する団体のリーダーも大変興味を持たれていました!機会があればスカウトしたいって」
もしかして、”あの人”もその団体に所属しているのだろうか──まあこの広いゲヘナのことだ。可能性としてはかなり低いだろう。
「あっ!申し遅れました。私はゲヘナ学園三年の鰐渕アカリです☆」
「俺はゲヘナ学園一年の新谷ユウタです。宜しくお願いします、アカリ先輩」
俺達は握手を交わし、モモトークを交換した──ん?なんかこの流れデジャヴを感じるな。
今日も“食”によって同士が増えた。
明日は何を食べに行こう
めちゃくちゃ急いで書いたので誤字脱字あればご報告お願いします。
•追記(11月28日)
私用により一週間ほど休載します。