【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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感想、お気に入り登録、誤字報告ありがとうございます。

気づけば100話を超えておりました。皆様のおかげでございます。これからもよろしくお願いいたします。

それと、今回の悪質配信者は底の底ですので、普通?の悪質配信者はこんな邪悪じゃないです。


お酒が人生なわたくしと譲れない戦い

 

 安心したのか泣き始めてしまった瑞希さんと、彼女を穏やかな表情で撫でている雄志さんを隠すように、ドローンと彼らの間に立ちます。

 乙女の泣き顔も、このてぇてぇ光景も、世界に晒すものではございませんので。決して、独り占めしようとしているわけではございません。ええ決して。

 

「さて、皆様はじめまして。わたくしたちは『魔女の大鍋(コルドロン)』所属の冒険者です。お見知りおきを」

 

 "流れ変わったな…”

 "おっと…?”

 "助かってない説ある…!”

 "やべぇとこ引いてて草”

 "どうすっぺこれwww”

 

 夢希さんの指示通りに、逃げてきたお2人の救助は成功。怪我に関しても問題なしです。左手にひどい火傷をしていた彼に関しては跡は残ると思いますが、許容範囲内でしょう。

 とはいえ、まさか《ガイアウォール》による分断から殲滅まで5秒ほどとはとんでもないですわね……結界を飛び出してから10秒かかっておりませんわよ? 夢希さんの本気を垣間見ましたわ。普段はちょっと抜けているところもあるとはいえ、流石深層踏破者。格が違いますわね。わたくしも精進せねばなりません。

 彩音さんには、すでに夢希さんの方へ向かってもらうようにお願いいたしました。お助けしたお二人が配信者であり、かつ今も配信している以上、こちらも同じように配信していると分かれば間違いなくこちらの配信に人が殺到するでしょう。リスナーさんたちはお礼のつもりでしょうが、それによって有名になるのは避けたいところです。

 わたくしが動くわけには参りませんからね。今は特に。

 

「まず、皆様が気になさっていることから、お話させていただきます。お二人のお怪我は間違いなく、完治いたします。また、破傷風などの病に関しても、このスキルで防げることをお約束いたします」

 

 まさしく視聴者の皆さんの気になっていることでしょうからね。間違いなくファンだけでなく野次馬を多数いるでしょうが、それでもまずはここからでしょう。

 

 "サンキュ!”

 "よかった…”

 "うおおおおおお”

 "やったぜ”

 "マジでよかったー!”

 

 ドローンから聞こえる喜びの声が耳を打ちます。うんうん。やはり大事ですわよね。

 とはいえ、ここからその喜びに水を差さねばならないのは心苦しいですね。

 

「とはいえ、どうしたものでしょうか……。イレギュラーとはいえ、トレインをされたのは事実。被害なしでめでたしめでたし……というわけにも参りませんわよね?」

 

 モンスターを誘導し特定の人物にぶつける、所謂トレイン行為は、冒険者法の違法行為です。

 しかしながら、除外条件が3つあります。1つ目は、故意ではなく、かつ小規模の場合。感知系スキルがいないパーティーが陣形を立て直そうと後退したら、別のパーティーとかち合ってしまった。という事例は枚挙に暇がございませんので、当然と言ったところ。こんなものを一々罰していたら、それだけで1日が終わりますわ。

 2つ目は、同一クランのパーティー場合。こちらはまあ、大規模なクランの金策としての回避条件と言ったところでしょうか。1か所殺し間を作っておき、そこに向けてトレインをすることで効率よくモンスターを狩る。そういった行為を合法にするためのものですわね。

 3つ目は、緊急事態の場合。簡単に言ってしまえばイレギュラー発生時と、悪意のある冒険者に襲われた場合。流石にこれらの時は仕方がありませんからね。特にイレギュラーなど、1パーティー程度でどうにかなる方が珍しいですからね。

 ただし、これらの行為で除外されるのは、あくまでも冒険者としての罰則について。つまり、ギルドからの罰則のみ。除外されたとしても、その行為によって何かしら損害が発生した場合は、個人間、クラン間で。ということになっております。

 そして、今回の件では一切の損害は発生しておりません。が、わたくしたちにだけ負担が偏りすぎているのも事実。一方的である以上、ある程度のものはいただかなくてはなりません。()()()()

 

 "イレギュラーなんだししゃーなくね?”

 "協力義務でしょそれは”

 "努力義務なんだから、強制じゃないぞ”

 "は?”

 "なんだいきなり”

 "金目的でしょこれ”

 "やらせか?”

 

 一部の大分よくない方々もいらっしゃいますが……まあそこはしょうがないでしょう。人数が増えておりますし、ファンの方々ならある種当然の反応と言ったところです。

 

「確かに皆様の言う通り、イレギュラーには皆で協力するもの。しかしながら、今回の件で言うなら、わたくしたちは活動しておりますが、彼らは? 一方的にわたくしたちにトレインし、その上怪我の治癒まで。流石にこれ何もなしでは、クランとしての面子に関わりますから」

 

 "それはマジでそう”

 "まあ、確かに…”

 "緊急時なんだからいいだろ別に”

 "イレギュラーとはいえ、完全に後処理押し付けただけだからな…”

 "一方的に助けられただけってのは事実ではあるな”

 

 そして、これこそ、わたくしがなすべき仕事。ここに残った意味。戦うべき戦場。

 夢希さんは間違いなくその辺の機微などわからないでしょうし、彩音さんも経験が浅い。故にわたくしがやるしかない。負けるわけにはまいりません……!

 

「それに良いのですか? 『魔女の大鍋(我々)』を相手に貸しを一つ。など。この場で終わるならともかく、上まで持っていったら『ダンらぼ』の皆様に何が起きるか分かりませんわよ……!」

 

 "それはマジでそう!!!!”

 "声震えてて草”

 "お前がおびえてどうすんねん!!”

 "草”

 "当人がビビってんの草”

 "流れ変わったな…” 

 "新手の脅迫かな???”

 

「身内のことなのに!?」

 

 後ろから雄志さんの困惑した叫びが聞こえますが、実情を理解しておられない人はこれだから……! その身内になったからこその感想だというのです!

 

「身内だからこそですわ! このスキルの効果を確かめたいと申して、目の前でフグ毒やらカエンタケを呷るような方がおられるのが『魔女の大鍋(コルドロン)』ですので、その辺りご理解していただけると……!」

「狂気の沙汰すぎるだろ!?」

「こわ……」

 

 "こわwwwwwww”

 "終わってて草”

 "流石コルドロン俺たちにできないことをやってのけるぜ…”

 "そこに痺れる憧れは……いいです”

 "草”

 "瑞希ちゃんドン引きで草”

 "引くだろそりゃwww”

 "コルドロンってそんなとこなんだ…”

 "そうだゾ”

 "マッドサイエンティストしかいないゾ”

 

 もはや脅迫に近いですが、致し方ないことです。わたくしたちの手で終わりにしておかないと、どこまで転がっていくか分かりませんからね……!

 ここで飲んでいただかなければ、『魔女の大鍋(コルドロン)』の社会的評価が地の底まで落ちかねません。彼らがその辺を気にするなどとは全く思えませんので。

 故に、これは戦い。そこに所属しているわたくしたちの尊厳を守るための大一番なのです……!

 

「んんっ……なので、ここは一つ、宣伝などさせていただければと存じます」

 

 咳ばらいを挟み、こちらの要求を提案いたします。そう。宣伝です。良くも悪くもわたくし『魔女の大鍋(コルドロン)』探索部門は、まだまだ知名度の低い部門。また、クランの特殊性から考えて、今後も表立ってどうこうということはしないでしょう。

 となれば、人員を確保するためにも、こういうところで宣伝をするのが吉です。それに、『ダンらぼ』様のチャンネルで行うわけですから集客もばっちり。ここまでそろっているのですから、今回の件の手打ちとしては妥当程度ではないかと。

 ああ、これが個人の、それこそクラン加入前でしたら、雄志さんと瑞希さんのツーショットでも要求したいところなのですが……

 

「せ、宣伝?」

「はい。宣伝です。当クランの」

 

 "まともじゃないもの出てきそうwww”

 "今ここで宣伝…?”

 "やばいもの出てくるだろ絶対にw”

 "怖い…”

 "ろくなもの出てこないな確実に”

 "ボロクソ言ってて草”

 

 コメントの皆様がボロクソに言っておられますが、それはわたくしも理解できるところですので何も言いません。事実なので。認めたくはないですが事実ですので……!

 だって今そこにターボ火力(火炎放射)機能付きの小型コンロなるものがありますからね!!

 わたくしの提案に、雄志さんと瑞希さんは顔を見合わせ、困ったように答えてくださいます。ああ、その見つめあう姿、てぇてぇですわね……

 

「あー……俺たちじゃ判断出来ないですねそれは……」

「ちょっとマネさんに聞かないと無理ですね……」

「ええ、それはそうでしょうね。ですので、確認をお願いできますか?」

「あっはい……」

「ついでに、報告もどうぞ」

「! ありがとうございます」

 

 流石にこの配信を見ておられるでしょうが、直接連絡を入れるというのは大事ですからね。同時にしてもらいましょう。

 ふう。ここまでやればわたくしの勝利と言っていいでしょうこれは。勝利の美酒を飲みたいところですわ……。まだ餃子は残っておりますし、焼いてもらいましょう。そしてビールを飲みましょう。

 心の中で勝利を噛みしめていたところ、誰かが地面に着地する音ともに、声が聞こえてまいりました。こ、この声は……!

 

「その話、私が許可するよ」

「桐生先輩!」

「桐生さん!」

 

 "パイセン!!”

 "パイセンじゃないか!”

 "到着はっやw”

 "流石パイセンはっやいぜ…”

 "もう終わってるんですけどね”

 "流石にアレを想定するのは無理だろwww”

 "アレは失礼だろって思うけどアレ以上の呼び方が思いつかねぇw”

 

 そこにいたのは、美しい赤いショートヘアをなびかせた麗人です。甘く中性的な顔立ち、聞き惚れてしまうさわやかな声。そして、冒険者としての圧倒的な実力。彼こそが『ダンらぼ』の一番手。桐生綾人様でした。

 まさか直接お会いできるとは……。感無量です。しかも今話しかけられましたわよね??? それに、今からわたくしこの方と会話を……? 明日には死んでしまうのでは?

 

「……桐生様。よろしいのですか?」

「なに、その程度で済むなら安いものだと思うよ。上から何か言われたら後で私が頭を下げればいいだけだしね」

 

 それだけいうとふっと息を漏らし、綾人様らしくもない遠い目をいたしました。あ、その顔ちょっと写真に収めさていただくことできませんか……?

 

「それに、私も一度『魔女の大鍋(コルドロン)』で痛い目を見たからね……」

「なるほど、そうでしたか……ところで、そちら側には2人いたはずなのですが、彼女らはどちらに?」

「彼女たちは今、今回の下手人の引き渡しをしているよ」

「げ、げしゅにん……ってなに?」

「あー……簡単に言えば犯人ってこと」

「? はんにん?」

 

 後ろでお二人がてぇてぇやりとりをしておられますがそれはさておき。

 下手人の引き渡し。つまり、今回の件は人為的なものであるということですわね? あれだけの数のオークを人為的にトレインした阿呆がいると?

 なるほど、夢希さんがあれだけ怒るわけです。あの方はそれなりに物騒な思考をしておりますが、性格は非常に温厚です。怒りよりも先に呆れ、もしくは萎えが来るタイプと申しましょうか。しかし、命にかかわることでは身内であろうと容赦がないことは承知しております。その方があれだけ怒っていたのですから、何かあるとは思っておりましたが……地雷を踏みぬくにもほどがありますわね本当に。

 ということは、あの壁は今あちらで行われていることを隠すためのもの? どこまで先のことまで考えておられるのやら。末恐ろしいですわね。まだ17歳というのに。

 

 "は?”

 "誰かがぶつけたのか?”

 "ぶっころ案件やろそれ”

 "許せん”

 "犯人〇す”

 "〇ね”

 "規制くらいまくってて草”

 "おまえら落ち着け”

 

「その件については申し訳ないが私たちの口からは話せないんだ。明日辺りのニュースを見てほしい」

 

 コメント欄大荒れですわね。当然ですが。わたくしも今怒りを抑えるのに必死でしてよ。冒険者は死の危険と隣り合わせ。しかし、だからこそ助け合って冒険をするべきであると、先人たちは示してくださっていますのに、それを何だと思っているのでしょうか。

 わたくしが怒りを飲みこみ、対応ができると判断してくださったらしき綾人様がこちらに話を振ってくださいます。細やかな気配りも人気の秘密でしょうね、ふふ。

 

「さて、宣伝と言っていたけれど、何の宣伝なのかな? 何かの製品かい?」

「わたくしたち、『魔女の大鍋(コルドロン)』探索部門の宣伝ですわ」

 

 "探索部門なんてあんのあそこ”

 "いや、なかったと思うが”

 "今調べたらあったわ”

 "一か月前に出来た部門みたいだわこれ”

 "なるほど、新規部門の宣伝ね”

 "視聴者多いし、いいんじゃね? 別に誰も困らんし”

 

 やはり、視聴者の皆様も知りませんわよね。ほとんど話題になっていないのが実情なのです。良くも悪くも有名なのが『魔女の大鍋(コルドロン)』なのですが、探索部門の話題はほとんど出てきておりません。待遇の良さや条件、また、『魔女の大鍋(コルドロン)』の新規事業となればある程度話題になってもおかしくないのですがね……

 そんなこともあり、まさしく誰も損をせずかつ貸しは回収できるという、まさに完璧な勝利……!

 

「探索部門?」

「新しく創設された部門でして、主にフィールドワーカーを募っております。仕事といたしましては、ダンジョン内での実証試験や素材の収集が主となります。しかしながら、コルドロンは技術者のクラン。そのようなイメージが先行しているためか、なかなか人が集まらず……」

「狂人のクランの間違いじゃないんすか?」

「命の恩人を狂人呼ばわりとは……炎上するかなこれは?」

「雄志のばかー!」

「いって!」

 

 "はい炎上ー”

 "拡散するか!”

 "切り抜け切り抜け!”

 " 雄志 ”

 "なんでいつも雄志は燃えてしまうん?”

 

 即座にこういったやり取りをし始める辺りが慣れていらっしゃいますわね。暗い雰囲気も払しょくされましたし、いいことですわね。

 本来宣伝など、打ち合わせを行ってからするべきですが、対応してくださっているのは流石としか言いようがございませんわね。

 

「やめろリスナー燃やしに行くな!」

「まあ、狂人のクランというのは否定は致しませんが……」

「いたさないんだ……」

「入団条件等はホームページをご覧いただけると幸いです。待遇自体はかなりいいですので、ぜひ入団していただけると嬉しいです」

「何か必要なものはあったりするのかな? スキルや装備等で」

「そういったものはありませんが、レポートなどの書類業務がある程度ありますので、その点はご了承ください。そのうえで強いて言うなら……強い心でしょうか。ええ、心を強く持っていただきたいですわね。入団たった2日で思い知りましたので……」

「ヤバ……」

「勧誘の宣伝になってんのかこれ……?」

「ちなみにですが、わたくしは今日が入団2日目ですわ」

「マジかよ……!」

「怖いよー!」

「ははは……」

 

 "遠い目してて草”

 "今日が二日目!?”

 "え、二日目にして目の前で毒を飲まれたんですか!?”

 "狂ってやがる…”

 "二日間のエピソードじゃねぇよそれwwwwwww”

 "終わってて草”

 "全員ドン引きじゃねぇか!!!!”

 "綾人様が引いてるwww”

 "乾いた笑いしてて草はえる”

 

 と、ともかく宣伝はおこないましたので、ある程度人も増えるでしょう。なぜここまで人を増やしたいかと言えば、そんなものは簡単で、わたくしたちの負担を減らすためですわ!

 夢希さんが学校に行っている日中、わたくしと彩音さんはダンジョンに潜ってレベリングや技術の向上に努めておりますが、その間にクランに顔を出した結果があれですので。人が増えればその分負担が分散すると見越してのものになります。いや、本当に。

 とはいえ、一番負担が軽減されないのは夢希さんでしょうけど。軽減してほしいと願っているのも夢希さんでしょうけどね……彼女のスキルが唯一無二のものにもほどがありますから……

 完全勝利から遠ざかった気もしなくはないですが、ミッションコンプリートですわ! とおもっていたら、綾人様から話しかけられてしまいました。

 

「クランとしての対応は分かったが……個人的に何かないかい?」

「……はい?」

「彼らの治療は君がしてくれたんだろう? 彼らの先輩として、個人的にお礼をさせてもらえないだろうか?」

 

 え? は? な、なん……?

 あ、綾人様が個人的にわたくしにお礼を……!? え、本当に? 明日どころか今死にませんかわたくし???

 と、とはいえ、お礼をしてくださるというのなら引き下がるのも失礼。ここは何か、何か……!

 

「………………」

「めっちゃ悩んでる……」

「……では、桐生様とのツーショット写真を一枚とらせていただけませんか……? 拡散などは絶対にいたしませんので!!」

「ははっ、いいよ」

 

 "は???????”

 "くっそ羨ましい!!”

 "何それ許せんが????”

 "貢献度が貢献度だけにとがめられねぇ!!”

 "ああああああああああああああああ”

 "発狂してるやつら多くて草”

 

「……っ!!」

「めっちゃガッツポーズしてる!」

「そりゃ先輩とのツーショットはガッツポーズしたくもなるだろ」

「確かに!」

 

 この後、綾人様とのツーショット写真を撮らせていただきました。しかも、何故か雄志さんと瑞希さんのツーショットも撮らせていただくことができました。

 この2枚は印刷して額縁に入れて家宝にしませんと……!! 半端なものではいけませんから、相応のものを家で見つけ、いや新たに買いましょう! いくらでも出しますわ!

 

 




実食ネキ、書いてるとどんどん暴走するんですよねこいつ……かっこいいところだけ書くつもりだったのに……
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