【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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前話から少しだけ遡ります。


真面目なだけの私と夢希ちゃんの特技(謎)

 

「うわ……」

 

 壁に飛び乗った私は、目に飛び込んできた光景に驚愕してしまった。

 いくつもの爆発痕、飛び散ったモンスターの肉片。それに、焦げ臭い。なかなか見たことない光景だ。これを数秒で作るんだから、夢希ちゃんはホントにすごい。

 普段どれだけ手加減して私たちに合わせてくれてるんだろうかホントに……ちゃんと追い付いて、隣に立たないとね。

 地面を確認しつつ着地して、夢希ちゃんを探す。すぐに見つかったけど、何してるんだろう? ロープで何か縛ってる?

 近づいて何をしていたのか分かった。人を縛っているようだ。男性を三人である。状況は把握したけど、うーん……いや、なんで? それに、なんかその人たち顎の辺りが赤黒いんだけど……

 

「ユキちゃん、何してるの?」

「ん? 見ての通りだよ」

「それはそうなんだろうけど、そうじゃなくてね?」

「……」

 

 ずっとこっちを見ないで、厳重に3人の男性を縛っている手つきがやたらと慣れてる。当たり前のように三人まとめて縄でこう、いい感じに縛っている。いや、わかんないよ縛り方なんて! 多分いい感じなの!

 夢希ちゃんはいつも平坦な声だし、さっきみたいに怒ってるって感じじゃないけど、それでもなんだかいつもの夢希ちゃんの声とは違う感じがする。怒りじゃなくて何か別の感情があるような……

 

「いや、なんか顎がさ……」

「気絶させるついでに骨砕いたからそのせい」

「骨砕いた!?」

 

 い、いや、わかるよ? 顎揺らして気絶させるのは分かるんだけど、骨砕くはやりすぎじゃない!?

 ツッコミを入れるかどうかちょっと迷っていたら、夢希ちゃんから補足説明が入った。

 

「話せないようにしておかないと、冒険者相手だと危険すぎるんだよ。口が動けば魔法が使える人多いし」

「! 確かにそうだけど、猿ぐつわとかでいいんじゃ……?」

「気絶させるついでに出来るし、あとムカつきもぶつけられて一石三鳥だから」

「えぇ……ムカつきって、この人たちが何かしたの?」

「今回のこれはこいつらのせいだから」

 

 いや、それ大丈夫なの? だいぶ問題発言じゃない? ついでにできるっていうのは理解できるし、理由についてもホントにわかるんだけど、その部分だけは問題あると思うんだよね。

 それと、今、こいつらのせいって言わなかった? まさか……

 

「……この人たちがトレインしたの?」

「そう」

「……そっか」

 

 端的に、感情のない声。いつも以上に何も感じない声だった。夢希ちゃんはそもそも声が平坦だけど、感情が乗ってないわけじゃない。ある程度慣れてくるとわかるくらいには乗っている。

 でも、今のは、何も乗っていなかった。というより、乗せないようにした感じだった。あんまり深く突っ込むのもアレだし、私も怒りがわいてきたし、なるべく早く花奈ちゃんの言伝を伝えよう。怒りで伝え忘れたらまずいし。

 

「ユキちゃん、カナちゃんがね。配信切ってカメラを隠すようにって」

「? 何かあった?」

「助けた子たちが配信者なの。だから、こっちも配信してるってわかると相手側の人がこっちに来るかもって」

「……わかった。リスナーさん、そういうわけだからじゃあね」

 

 スマホを取り出して切るまでが早すぎるよ……カメラもさっと外して収納魔法の中に入れてしまうし。リスナーさんたちは慣れてそうだけども。まあ、挨拶するようになっただけ成長してる……って言っていいのかなぁ……?

 それと、助けた子たちを配信者だって言ったとき、一瞬だけ手の動きが止まった。もしかして、配信者に嫌な思い出でもあるのかなって思ったとき、視界の端に何かが映った。

 そっちに注意を向けると、壊れた機械がそこにあった。モンスターに踏まれたのか大分ボロボロになってるけど、多分ドローンだと思う。助けた子たちのドローンはあっちにあるから、ここにあるドローンは……?

 そう思った時、急にハッとした。そうか。この人たちのものかこれ。モンスターをトレインして、その様子を撮影、もしくは配信してたんだ。人が死ぬかもしれないのに、それを、遊びに、楽しみにしたんだ。

 そんな人たちが大勢いる。それが事実として、そこにある。そう感じた。

 

「彩音さん」

「! 何?」

「手、血が出てる」

「あホントだ……」

 

 ドローンの方を向いてて気づかなかったけど、夢希ちゃんがこっちを向いていた。夢希ちゃんの視線が下を向いていたのでそこを見ると、握りしめた私の右手があった。

 強く握りしめすぎて爪が手のひらに食い込んで血が出ていた。ご飯食べるときに小手を外して、そのまま来ちゃったから素手だったんだ。奇跡を使ってさっと治そうとして、うまくいかなかった。ダメだ。冷静になり切れてない。

 深呼吸してもう一度。と思ったところで、複数人の足音がした。そちらを向くと、男性が5人。こちらに向かってきていた。そのうち4人が同じように左手で手帳のようなものをかざしている。もう一人やたらと華やかな赤い髪の美青年は、どこかで見たような気が……?

 

「対冒険者犯罪捜査部です!」

「怪我は……大丈夫ですか」

「だ、大丈夫です。ちょっと……」

「……《祝福の施し》。はい、これで大丈夫ですね」

「ありがとうございます」

 

 さっとこっちに近づいて治してくれた。手慣れてるなぁ……。私の怪我を治してくれている人、近くのドローンの残骸の回収をしている人、夢希ちゃんのところに行った人が2人。赤髪の人だけが少し離れたところでスマホを見ていた。うーん、やっぱりどこかで見たことがあるような……。しかも結構最近。どこだっけ? 街中だったようなそうじゃなかったような。

 彼の正体について考えている横で、夢希ちゃんの会話に耳を傾ける。

 

「怪我はありませんか?」

「大丈夫です」

「トレインしていた冒険者はこいつらですか」

「はい。()()()()済みなので、このまま持って帰ってください」

「え? ほ、本当だ……」

  

 ……ん? 今処置って言ったよね? それに、捜査部の人ちょっと引いてるよね? 何したの夢希ちゃん?

 何が起きてるんだろうと思ってよく見たら、犯人たちの手足が縛ってあるけど変な方向に曲がってるような……まさかと思うけど、手足も全部折ったの? 

 

「夢希ちゃん、やりすぎじゃない……?」

「『手足が動けばスキルが使える。口が動けば魔法が使える。だから全部潰しておかないといけない。地上に戻ってから回復させればいい。』そう捜査部のOBのエッセイに書いてあったからこうしてる」

「ああ……まあ、確かにそうかも……?」

「よく読んでらっしゃいますね……」

 

 夢希ちゃんの説明に、周りの捜査部の人たちも苦笑い。でも、否定しないってことは、ホントのことなんだろうな。言われてみればその通りなんだよね。格闘系のスキルなんかは素手でも使えるし、口が動けば魔法が使えるし。夢希ちゃんみたいに、何も言わず、発動まで超高速の魔法使いとか見たことないし。

 あれ、もしかして夢希ちゃんを捕縛するのってとんでもなく難易度が高いんじゃ……? まあ、そういう事態にはならなそうではあるけどね。

 それと同時に、夢希ちゃんが何で誰かを助けてるのに、事情聴取されるかが分かった気がする。

 例えば今回みたいに、夢希ちゃんがダンジョン内で襲われてる誰かを助けたとして。犯人は毎回こんな感じになってるはず。それで地上まで連れてきて事情の説明がされて、捜査部の人に引き渡される。

 で、この時。犯人を一方的にボッコボコにしたっぽい子が、無傷どころか汚れてすらいなかったら? とりあえず、一旦他の人から事情を聴いた上で本人にも確認取るよね……。どう考えても一方的に襲撃した可能性が消えないもん……

 ダンジョン内は物的証拠がまず残らないから、他の犯罪よりも証言が重要視されるし、矛盾がないかの確認なんかは念入りにする。場合によってはユニークスキルで嘘を見抜いたりもするとか。

 うん。夢希ちゃんの友達は正しい判断をしたよ。映像が残ってればそれはもう疑いようのない証拠になるし。

 

「被害者の方にも事情をお伺いしたいのですが、どちらに……?」

「あの壁の向こうです」

「あー、あれの。では早速」

「あの、少し待ってもらえませんか?」

 

 夢希ちゃんが作った壁の向こうを指すと、捜査部の人がそちらに向かおうとする。そこに、さっきまでスマホを見ていた赤髪の人が話に割り込んできた。

 

「『ダンらぼ』所属の桐生綾人です。今回巻き込まれたのは私の後輩なんです。それに、今もまだ配信しています」

 

 桐生綾人! そうだ、思い出した。今、冒険者募集のポスターになってる人だ! 確か配信もやってて、かなり人気があったはず。こうしてみると、ルックスも華があるし、声もいい。そりゃ人気出るよねって。王子様みたいな。私と同じくらいの身長だし、カッコいいなぁ……。私も服とか調整したらあんな感じになれるのかな?

 

「先に私が行って、視聴者へ事情の説明をして、彼らの配信を終わらせたい。その後でもいいでしょうか?」

「……そうですね。こちらとしても、配信に乗るわけにはいきませんし……分かりました。お願いします」

「ありがとうございます」

 

 捜査部の人たちがあんまり映像に乗るって良くないのかな? あんまり関係ないような気もするけど……もしかしたら秘密警察! みたいな人たちだったりするのかな? だとしたら、今レアな体験してるってことだよね。事態が事態だから喜べないけど……

 2人の捜査部の人を残して、他の2人が縛られた犯人たちを運んで行った。うん、運びやすいように取っ手まで作る縛り方だったみたいで、持つときにも驚いてた。もはや職人芸の域じゃないかなそれは……。夢希ちゃんってホントに意味の分からないところに特技があるよね……

 捜査部の人との会話を終えた桐生さんは、こっちに向かってきた。え、なになに!?

 

「後輩を助けてくれてありがとうございます。『ダンらぼ』を代表し、お礼申し上げます」

 

 私たちの目の前で深々と頭を下げる桐生さん。いや、お辞儀すらめっちゃ綺麗! 様になりすぎてるよすごいな……配信者ってもっとラフな人たちだと思ってたよ。

 

「クランとして、今回の件のお礼は必ずいたします」

 

 きっちりと顔を合わせて言ってくる桐生さんに、困惑を隠せない。こういう場でのクラン同士の貸し借りは、基本的に地上に戻ってから上の人たちが行うもので、私みたいな下っ端がすることじゃない。だから全然わかんないんだけど、返答しないのも悪いし……

 そういえば、花奈ちゃんが何とかするって言ってたっけ。桐生さんには悪いけど、丸投げさせてもらおう。

 

「……申し訳ありません。私そういったものに疎くて……壁の向こうにもう一人、私のパーティがいますので、そちらにお願いできますか?」

「わかりました。それと、個人的にお礼をさせてくれると嬉しいですのですが……何かありますか?」

「わ、私はホントに何もしてないので……」

 

 今回の件で私がしたことはホントに何もない。ちょっとだけ治療のお手伝いはしたけど、あれで何かもらうのは流石になあって感じ。もらうなら夢希ちゃんだと思う。

 そう思っていたんだけど、桐生さんは微笑みながらこう続けた。

 

「奇跡を使ってくれていたでしょう? 彼のスキルは自分も傷つけてしまいますから」

「え、えーと……か、考えておくので、先に彼女からで……」

 

 その夢希ちゃんはというと、なんでか知らないけど桐生さんが近づいてきたときに私の後ろにさりげなく隠れた。夢希ちゃんって人見知りだっけ? 口下手ではあると思うけど、そんなそぶりなかったような……

 当然だけど、普通に桐生さんには見つかってるから、夢希ちゃんも桐生さんに見つめられてる。夢希ちゃんはその視線には反応せず、ジトっとした目で私を睨んでいた。

 私もキラーパスした自覚はあるけど、だって何も考え付かなかったんだもん!! 何もらえばいいのかさっぱりだよ!? 有名人相手だし、無難にサインとか……? 書くものなんてどこにもないし……ほ、ホントにどうしよう……?

 夢希ちゃんは、どうしようか考えている私の陰から顔だけ出して、少し突き放すように桐生さんに返答した。

 

「……私は助けるために動いたわけじゃないので」

 

 虚を突かれたらしい桐生さんが一瞬固まる。私もちょっとびっくりした。

 

「……うん?」

「あいつらがムカついたからぶっ飛ばした。それだけですから」

「……ふ、ははっ、そうか。なら、しょうがないか」

 

 夢希ちゃんの余りの返答に考えていたことがどっかにいってしまった。いや、それはそれでどうなの? 会話を聞いていたらしい捜査部の人が苦笑いしてるじゃん。

 桐生さんはというと、その返答に笑みをこぼした。多分、今の感じが素なんだろうな。さっきまでの礼儀正しさが少しだけ緩和されてるし。それに、今の方がとっつきやすくて個人的には好印象かな。

 そして、雰囲気を砕けさせた桐生さんが、言い募る。

 

「とはいえ、助けられたのは事実なんだ。本当に何かないかな? 私の心の平穏のためにも、何かあると嬉しいのだけれど……」

「でしたら、私に何かあったときに助けてください」

「……ああ、必ず助けるよ。必ずね」

 

 右手を握って胸に当て、軽く微笑みながら宣言するその姿は、何かの舞台を見ているようだった。

 でも、それでもいいんだ。だったら私もそうしてもらおうかな。本当に何も思いつかないし……

 

「じゃあ、私も同じく。万が一の時は助けてくださると嬉しいです」

「分かったよ。桐生綾人の名にかけて、必ず」

 

 いや、セリフまでカッコいいなこの人!? まるで劇の主役みたいだ。私もあんな風に……似合わないかなぁ……でもな、カッコいいんだよね、ああいうの。ちょっと憧れるなぁ。

 会話を終えた桐生さんは、軽々と壁を飛び越えて向こう側に行ってしまった。やっぱりあの人もなかなか強いんだね。というか、武器持ってなかったけど、徒手空拳なのかな?

 桐生さんを見送って、夢希ちゃんに声をかける。

 

「いい人だったね」

「……そうだね」

 

 なんだろう? さっきから夢希ちゃんの反応がなんかおかしい。さっきもそうだけど、配信者って言葉に反応しているような……桐生さんも配信者だし、何か嫌な思い出でもあるのかな……

 

「すみません、お二人にお話を伺ってもよろしいですか。報告書を作る必要がありまして……」

 

 私たちの話が終わるのを待っていたのか、手に手帳とペンを持った捜査部の人が話しかけてくる。長々と話してしまってすみません……。最初に名前と所属を聞かれたので、そのまま答える。

 

「美空彩音です。所属クランは『魔女の大鍋(コルドロン)』です」

「物前夢希です。彩音さんと一緒です」

「美空彩音さんと物前夢希さんと……あぁ、あなたが物前さんなんですね……」

 

 手に持っていた手帳に名前を書き込んで、夢希ちゃんの名前を見て、なんだか納得した。みたいな反応をした。

 

「? 何か?」

「い、いえ、その……何でもありません」

 

 多分、処置だなんだかんだで有名になってるんだろうな夢希ちゃん……変なところで名前が売れてるよね。しかも間違いなく良くない意味で。

 そのあとも、しばらく話を聞かれて、その話が終わったころに、桐生さんから合図があったので夢希ちゃんが壁をもとのように地面に戻して花奈ちゃんと合流した。

 

 

 合流した花奈ちゃんは、とってもいい笑顔でスマホを掲げてくるくると回っていた。その側では、桐生さんと助けた2人がその姿を何とも言えない目で見ていた。

 ……いや、ホントに何があったの……?

 思わず夢希ちゃんと顔を見合わせてしまったんだけど、多分夢希ちゃんも同じように思ってるんだろうな……

 




これ、前話と逆にしても良かったんじゃないか疑惑があるんですけど、どうなんですかね?

次は夢希視点に戻ります。

活動報告の方でネタ募集をしていますので、よろしくお願いします!

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