【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
今回地の文めっちゃ多いです。
私には嫌いなものがそんなにない。
いや、嫌いなものがたくさんある人の方が少ない気もするけど、それでも私は少ない方だと思う。
というのもお母さんから、興味のあるものはやってみてから好き嫌いを判別するするように教わったからだ。そして、どうにもしっくりこなかったら、それは自分には合わなかったのだと思って別のことをしてみなさいと。
だから、私には嫌いなものが少ない。大抵のものは嫌いになる前に興味をなくすから。そして、それはきっと、私以外の誰かには合うんだろうなって思えるから。分かりやすい話だと、凉とか愛依の好きなものも、私にはよくわからないものだから。
そのうえで嫌いなものは、悪意で人を傷つける人とか、ちくちくする服とか、美味しくないご飯とか。まあ、わりと一般的にも嫌われているものというか……そういったものばかりだ。
それらは、生活するうえで私が触れて、接して、食べて、着て、飲んで……そうやって嫌いになったものだ。
でも、ダンジョン配信者だけは違う。
彼らと私は、接したことがない。配信を見たことも、話したことも、会ったことすらもない。今日が初めてだ。
だけど、私は彼らが嫌いだ。大嫌いだ。
自分のために、他人を傷つけることを喜んでやる人たちだから。悪意を持って人を傷つける人たちだから。
そう思ってた。接したこともないのに。ネットで、テレビで、雑誌で。いろんなところで報道される彼らによって起こされた事件を見て。それで嫌いになった。
でも、じゃあ彼らは?
今日助けた、雄志さんと瑞希さんは? 2人を助けたことに真摯にお礼を言った桐生さんは?
あの3人は、悪意で人を傷つけたか? その瞬間を私は見たのか? 聞いたのか?
答えは、ノーだ。だって、今日初めて知った人たちだ。確かに、桐生さんだけは見たことはあったけど、名前は今日知ったし、どこの所属で配信者をやってることを知ったのも今日だ。
むしろ、彼らは彼らなりに他人を慮って、楽しませることに尽力している人たちだ。
じゃあ、なんで。
私は、あの3人すら嫌いなんだろう?
色々なことが終わって戻ってきた結界の中で、私はかなり変な顔をしていたらしい。
「夢希ちゃん、大丈夫?」
「……うん」
「どう聞いても大丈夫ではございませんわよ、その反応は」
「ううん……」
満面の笑みでスマホを掲げながらくるくると回っていた花奈さんと合流した後、私は結果的に助けた2人冒険者から感謝されていた。
「本当にありがとー!!」
瑞希さんという女の人に思いっきり抱きしめられながらお礼を言われる。胸に埋もれる形になって息ができない。
苦しいので肩をタップしているんだけど、感謝の言葉を言い続けている彼女は気付いていないらしい。もう、どうしようもなくなったら《魔力放出》で吹き飛ばそうと決意した。
「むごご……」
「おい、それ息できてねぇんじゃねぇのか?」
雄志さんがそれに気づいて瑞希さんを引きはがした。謝る瑞希さんの横で、申し訳なさそうに後頭部をかきながら、雄志さんも謝罪を口にする。
「いや、マジでごめんな。あいつに悪気はないんだ……」
「……いえ、別に」
「それに、今日は本当にありがとな。おかげで俺たちは生きてるよ」
「……え、と……」
「あー……一個貸しってことで。なんかあったら、なんでも頼ってくれな!」
「わかり、ました……」
私が人見知りか、男性が苦手だと思ってくれたのか、早々に話を切り上げ、桐生さんと捜査部の人たちの元に向かう。彼らはこれからあの三人に護衛されて地上に戻り、そこで話を聞かれるそうだ。
私たちも一緒にと言われたが、ご飯を食べている途中だったこともあり断った。片付けとかしないとだしね。
「じゃあまったねー!」
「またな!」
「では、また会おう」
元気よく冒険者らしい再会の言葉を口にしながら去っていく3人に、私はどうしても、いつものように挨拶が出来なかった。
「またねー!」
「またおあいしましょう!」
「……ではまた」
ということがあって、今はとりあえず食べている途中だった餃子を片付けている。
でも、さっきからずっと考えてしまうのだ。なんで、私はあの3人に対して、ここまで嫌悪感を抱いているのだろうか? と。
「先ほどもなんというか……」
「桐生さんともなんか微妙な感じだったし、何かあったの?」
彩音さんの問いかけに言葉に詰まる。
「……いや、何にもないんだけど……」
「でしたら、少々礼節にかけますわよ?」
「うん……」
花奈さんの言う通り、いくら何でもかなりひどい対応だった。そこに自己嫌悪しているのもある。
「悩みごとなら聞くよ? 解決できるかは、わからないけど……」
「そこは、解決してみせるというところでは?」
「そこまではちょっと自信持てないかな……」
2人のやさしさが身に染みる。彩音さんの自信のなさというか、そういう素直なところ結構好きだよ私は。どうにかしてみせるから! って言われたら多分話さないもん私。
「……そのね」
「うん」
「私、
「ぅ……はい」
「ごめん、切り出し方間違えた」
花奈さんに思いっきりパンチを放ってしまった。いや、ごめん。本当にごめん。そうだよね、ファンだもんね。私たちの配信を見つけてリスナーになって、パーティーに入ろうとするくらいだもんね。好きだよね、ごめん。
いやでも、切り出し方他にあるか……? どうあがいてもこの話をせざるを得ない以上、先にさっさと話してしまう方がよいのでは?
「いやごめん、やっぱりこれ以外思いつかない」
「そうですか……いえ、そういう方がいらっしゃるのは仕方がないので大丈夫です。先ほどはこう、突然だったのでモロに食らったと言いますか……」
「ごめんね……」
不意打ちになってしまったのがダメだったらしい、本当に悪いことをした……餃子たくさん焼くから許してほしい。
花奈さんに申し訳なく思っていると、彩音さんから当然の質問が来る。
「前に、配信者の人と何かあったの?」
「
「は?」
「ニュースで見たことがあるだけ。でも、嫌い」
「ニュースで見ただけ……ああ、事件だけ見て嫌いになったと」
「うん。でも、今日会った3人が、ああいう事件を起こすと思えない」
「それはそうだよね」
「当然ですわね」
一瞬花奈さんが凄まじく怖かったけど、理解はしてくれたみたいでよかった。
2人も、あの3人がそう見えなかったってことだから、私の考えというか、目は節穴ではなかったみたい。
「でも、どうしても、頭でわかっても、嫌悪感が先に立っちゃって……」
「ふむ……」
「そっか……」
そこが問題なのだ。どうしても、彼らと嫌いな『ダンジョン配信者』を切り離せない。いや、確かに彼らもダンジョン配信者なんだけどさ。そうじゃなくて……
この部分がどうなっているのか自分でもよくわからなくなってきた。
「……そういう時は、原因を切り分けて考えるのです」
「切り分ける?」
「はい。詳細に分析する。と言い換えても構いません」
「それで何とかなるものなの? もっと嫌いになりそうだけど……」
花奈さんの言ってることってつまり、嫌いな理由をちゃんと見つめていこうって話だよね? もっと嫌いになるだけじゃないのそれ?
「確かに、その可能性はあります。ですが、その場合はそれらは合わなかったというだけのことなのです。しかし、分析によって切り分けることができれば、解消される可能性は高いです。夢希さんの、嫌いなダンジョン配信者と今日お会いした3人は違う。という発言から考えても、3名に対しての嫌悪感は拭い去れると思います」
お母さんの教えに近い言葉が花奈さんから出てきてちょっとびっくり。お母さんって、まともな人生論も私に教えてくれてたんだ……いや、流石に言いすぎ……かなぁ? 普段がなぁ、ちょっとなぁ……当時3歳の鬼灯に、鬼なら酒だろとか言って果実酒渡すような人だし……
いや、ユニークスキルのおかげで勘が恐ろしくいい人ではあったから、結果的には正しかったんだけど、まあ怒られてたよね。
お母さんのことを思い出しちゃったけど、でも、それで改善する可能性があるならやってみよう。
「……どうすればいいの?」
「単純ですわ。わたくしと彩音さんの質問に答えてください」
「あ、私もするんだ」
「わたくしだけだと思いつかない視点もありますので」
「なるほどね」
「……わかった」
では。と背筋を正す花奈さんに、自然と私と彩音さんの背筋も伸びた。なんとかなるといいんだけど……
「まず、何故嫌いなのですか?」
「……自分の利益のために他人を傷つける人たちだから」
「それは、ニュースで得た知識だよね?」
「うん」
2人の質問に答えていく。まずは事実の確認からって感じなのかな。現状認識って大事だもんね。
その後も、ダンジョン配信者っていうのはどういうものを指すのかとか、そんな質問にいくつかは即答し、いくつかは悩んで答えた後、花奈さんがこんな質問をした。
「夢希さんのいう人を傷つける。というのは、具体的にどのようなものを指しますの?」
「具体的に……?」
「例えば、暴行。誹謗中傷。殺人。性加害。などでしょうか」
指を立てながら例示していく花奈さん。ああ、なるほど、具体的ってそういう……うーんでもなぁ……
「……攻撃すること自体が嫌いだから、その辺は全部かな」
「では、その中でも一番嫌いな行為は?」
その中でも一番嫌いな行為。なるほど……うん。なんかすぐに結論が出たな。
「……殺人」
やっぱり人を殺すのって駄目だよね。というかなんというか。他はまだこう、取り返しつく可能性があるけど、死んじゃうと無理だし……
私の答えを聞いて、彩音さんと花奈さんが一定の結論を出す。
「あー……確かに、ニュースの冒険者関係の事件って殺人というか、人が死んでることが多いかも……助かった話もあるけど、その前の暴行とかくらいじゃニュースにならないっていうか」
「……つまり、夢希さんにとっての、もっとも嫌いな行為を行う冒険者の象徴。それが、ダンジョン配信者であると」
「そうなる、かな……」
うーん……と2人とも悩みだしてしまった。結局話が戻っちゃったもんね……やっぱり徹底的に合わないというだけなのだろうか? でも、今までの人生振り返っても、あの3人と合わないっていうのはちょっとよくわからないというか……
だって、瑞希さんはスキンシップが激しいっぽいけど、そもそも私はスキンシップ自体に嫌悪感は特にない。自分から行かないだけで。というか、嫌いだったら髪を触らせるとかしないし。
雄志さんだって、なんていうか……うん、気のいいお兄ちゃん的な感じだったし、鬼灯じゃないもう一人の幼馴染と似た感じだから、苦手ってわけでもない。
桐生さんは……ものすごく申し訳ないけど、最初の丁寧な感じはともかく、その後のやたらイケメンっぽい演技のしぐさは『
思考がドツボにはまった感じがしている中、彩音さんがふと疑問を口にした。
「夢希ちゃんはさ」
「うん」
「どうして、殺人が一番嫌いなの?」
「どうしてって……それはそうじゃない?」
それはそうとしか言えなくない? 常識的に考えても、取り返しのつかない行為であることを考えても。
そう思ったんだけど、彩音さんの考えは違ったらしい。
「だから、どうして、『それはそう』なの?」
どういうことだ? と固まってしまった。
そんな私を見ながら、彩音さんは言葉を続ける。
「確かに、私も殺人は嫌い。だけど、一番嫌いなのは陰口。だって、私にとっては一番身近にあって、実際に私も被害にあったから。夢希ちゃんと出会った頃はホントに苦しかったし……」
「そういうことでしたら、わたくしは……嘲笑でしょうか。夢の否定。とでも言うべきかもしれませんが」
「なんていうかさ。私たちって誰かが死ぬこと自体には、もう慣れちゃってるみたいなところがあるじゃない? 冒険者だし。でも、だからなのか分からないけど。殺人が……というか、人が死ぬのが一番嫌いっていうのはなんか……うん。やっぱりちょっと違う気がするんだよね」
「……確かに、人が人を殺す。ということに対して、距離がありますわよね。人が死ぬならモンスターのせいという意識がありますし。そして、人が死ぬことはあまりにも日常ですしね」
「そうそう。だから、何か他にあるんじゃないかなって」
「言い方はあれですが、そもそも人の死が嫌いなら冒険者をやめればよい。と言う話にもなりますものね」
「でしょ? だから、何かあったんじゃないかなって。夢希ちゃんの近くで、人が死ぬことが嫌いになる、決定的な出来事が」
彩音さんと花奈さんの意見に少し思考が止まった。確かに、言われてみれば、私たちは普段、人がよく死ぬ場所にいる。
じゃあ、何故私はここまで人が死ぬことにこだわるんだ? そもそも、それが嫌なら冒険者なんてやらない方がいいはずだ。もっと人の死から遠い場所はたくさんある。
「…………あぁ……」
思考を回して、思い当たったことがある。いや、きっと、今までずっと目をそらしていただけなのかもしれない。
すごく単純だった。人が死ぬのが嫌いなのは。身近にあったじゃないか。その出来事が。
「お母さんが死んだから」
「! それは……」
「私のお母さんは冒険者で、強かったんだよ。本当に強かったんだ。でも死んだ」
実際はあっけなくなかったのかもしれない。でも、人が死ぬときはきっとあっけないものだと思う。だって、どう頑張っても、その人は死にました。以外の表現にならないから。
確かに、名誉の死とかいろいろあるだろうけど、そんなのはその人が他人だから言える話でしかない。家族の死に何が付こうが、それは大切な人が死んだ以上のものじゃないんだ。本来なら。
「だから、嫌い。人を殺そうとする人が。それが楽しいと思える人が嫌い。人の死を楽しむ人が、嫌い」
本来なら。そう、本来ならそうだったはずなんだ。死んだ故人の関係者が悲しんで、お別れをして、日常に戻っていく。時間はかかるけど、その人がいない生活に慣れていく。それだけのお話だったはずなんだ。
でも、お母さんの時は違った。お母さんは強くて、有名すぎたんだ。
お通夜とかお葬式とか、本当に色々あったけど、その中でもたくさんあったのは、一緒に潜っていた冒険者の人たちやお父さんへの取材だ。お父さんはお母さんを亡くしてあんなに苦しんでいたし傷ついていたのに、周りはそれを寄ってたかって攻撃した。
テレビやネットで連日それを楽しんでいた人たちがいて……あの時、白石さんや叔父さんが私のことを気絶させてでも止めてくれていなかったら、記者会見場なんかで大暴れしていただろう。
あの時の私は、お父さんを傷つけて笑っている周りの人たちが許せなくて。何よりも、お母さんの死を自分たちのおもちゃにした人たちが許せなかった。
その延長にあるんだ。この気持ちは。
「ダンジョン配信者は、その人だけじゃなくて、その向こうにも人がたくさんいる。だから、嫌いなんだ」
「……」
「……」
「でも、あの人たちは違う。だから、多分次会ったときは大丈夫だと思う。2人ともありがとうね」
「……」
「……」
今だってそうだ。私は、『人の死を楽しむ人』が嫌いなんだ。
いや、それがフィクションの中とかだったら別にいいんだけども。カタルシスとかあるし。復讐譚とかまさしくその感じのテイスト多いしさ。凉に貸してもらって好きになった漫画なんかにも、そういった描写はある。
でも、それを現実に持ってくるのは違うと思う。被害者も、その周りも、みんな傷ついて……それを見て笑える人なんて、大嫌いだ。
次、会う機会があるかわからないけど、ちゃんとあの3人には謝ろう。いや、事務所とかに謝罪の手紙とか出した方がいいのかな? 凉に……いや、花奈さんに聞いてみよう。詳しいだろうし。
なんだかすごくすっきりした気分だ。晴れやかとまではいかないけど、それでも胸の中にあったつかえがとれた気分と言うか。
……なんだけど、2人の空気がものすごくどんよりしている。何故……? 2人のおかげで問題は解決したんだけど……?
「……あの、どうしたの?」
「うん……その……」
「ええ、その……」
なんだかすごく気まずそうな顔をして顔を見合わせる2人。いや、本当にどうしたの……?
「ものすごく重い話が出てきてちょっと追い付けてない……」
「夢希さん、お母さまを亡くしておられたんですのね……」
「あぁ……確かに言ったことなかったね。でも、もう7年も前の話だし、気にしなくて大丈夫だよ」
確かに、一般的に母親がなくなるって重い話か。でも、それ自体はもう乗り越えてるから別に平気なんだけどな。だって私にはたくさんいい人が周りにいる。さみしくなる時があるのは事実だけど、それだってどうにかしてくれる友達がいる。頼りになる大人だって。
相談に乗って、解決してくれて、一緒に夢を追いかけてくれる仲間もいる。
私は恵まれていると思うから、気にすることはないんだけど……
2人にとってはそうじゃなかったらしい。
だ、ダメだ。さっきのフォロー程度では暗い空気からまったく抜け出せていない……!
「よ、よし! この話終わり! 餃子もっと焼くから食べようよ。ね?」
こういう時は美味しいご飯! オーク肉の餃子よ、この空気をどうにかしてくれ!
「そ、そうだね! 食べよう!!」
「そうですわね、ここは祝勝会など!!」
結論。どうにかなった。空元気だとは思うんだけど、とりあえずなんとかなった。多分。
この後、新しく餃子を作るくらいには食べて盛り上がった。2人ともべろんべろんに酔ってたけども。
ご飯の後片づけをして、今日の冒険も無事楽しく終わることができたのだ。明日はどうしようかなぁ……
しかし、夕飯を食べている最中にイレギュラーの対処をして、さらにそのあとご飯を食べたこともあり、家に帰る頃には余裕で門限をぶち抜くどころか日付すら変わっていた。
こういう時、ちゃんと連絡さえ入れれば許してくれるのがお父さんである。連絡さえ入れればね。
そう、私はお父さんに連絡を入れるのを完全に失念していて、言い訳もむなしくアイアンクローをもらった。
これも全部、
次回から地上の話が増えます。ダンジョンはしばらくないかも。
活動報告の方でネタ募集をしていますので、よろしくお願いします!
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