【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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リクエスト第一弾。犬束陽向の生活をお届けします。

勢いそのまま書いてたらいつの間にか文字数がヤバかったので分割です。


【閑話】成長中の私と『魔女の大鍋(コルドロン)』での日常・前編

 

 私、犬束陽向はスマホのアラームで目が覚めた。

 半分寝ている頭のままアラームを止めて、ベッドから起き上がる。ほぼ開いていない目をこすりながら洗面所へ。シャワー浴びて顔を洗えば大体目も覚めてくるっすからね。

 私が今いるのは、『魔女の大鍋(コルドロン)』にある寮の一室。もうちょっとしたら出来るっていう探索部の寮までのつなぎで、研究者の方々が使っている寮を使わせてもらっている。ま、他の住人いないっすけどね! みんな自分の研究室とか実験室に寝泊まりしてるんで。ここが防音じゃなかったら、夜中も鳴り響く爆発音で寝られたもんじゃなかったっすよ。

 シャワーを浴びながら、ふととりとめのないことを考える。

 私がこの体になって、他人に大変なご迷惑をかけた上に助けてもらい、今の生活になったのは少し前のこと。あの時二人が助けてくれなかったら、自分はいったいどうなっていただろう? なんて意味のないことが頭をよぎる。

 過去を見ていてもしょうがない、前を向け。ただ忘れるな。って爺ちゃんにも言われてるっすからね。前を見ないといけないっす。2人に借りを返すのは、冒険者としてっすからね。ほっぺたをぺしんと一発叩いてから、浴室を出る。そして、髪をささっと乾かしてくくって、ポニーテールに。そして着替えるんすけど……。

 うーん、最近食べ過ぎてるのかちょっとキツくなったような……? あんまり買い替えるとかするとお財布にダメージ入るんで勘弁してほしいっすね。

 ご飯は食べず、壁にかかったままのナックルを横目に部屋を出る。こいつをまた使うのが楽しみっすね。もうちょっと待っててくれっす。

 

 今の私は、三食のメニューを管理されている。というのも、何のモンスターを食べたらどうなるか。っていうのを実験中だからっす。例えば、ブレイクレッグでは《蹴撃》と《豪脚》が出るとかっすね。どのくらい食べるとどうなるか。スキルの威力や時間に影響するのか、体そのものが変化するのか。 

 よくわかんないっすけど、めちゃくちゃ実験項目あるみたいなんすよねぇ……モルモットってこういう気分なんすかね? とはいえ、変なものは食べさせられてないっすよ。料理のレシピは夢希ちゃん監修らしいっすから。味が良くて嬉しい限りっす。たまに変なもの食べさせられるんすけど……ま、そこは『魔女の大鍋(コルドロン)』クオリティってやつっす。

 そんな中でも、バロメッツ食べるのは勘弁してほしかったすけど、食べたら《頭突き》っていうまんま頭突きの威力を強化するスキルが出たっす。今の時点でも、岩とかなら余裕で砕ける威力が出るっす。けど、別にこっちの強度が上がるわけじゃないんで、《頭突き》かましたら額から血が出たっす。回復魔法様々っすよホント……

 最初のブレイクレッグの時もそうっすけど、自分の体がスキルの出力に負けてる! というわけで、目下《身体強化》の魔法の練習中っす。何とか維持できるくらいにはなってきたんすけど、動きながらってなると中々厳しいっすね。とはいえ、ユニークスキルのおかげなのか、モンスターから得たスキルを発動することは簡単にできるんで、魔法さえどうにかなればって感じっすねー。いやあ、楽しみっすよ。いろんなモンスター産スキルを同時に発動しての大技とか出来そうですし!

 とまあ、今の私はこんな感じっす。実験もなんだかんだ楽しみながらやってますし、退屈とは無縁にもほどがある場所なのもいいっす。どっかで何かしら起きてるんで。

 ほら、今も横で爆発が起きたっす。扉と一緒に人が飛んできたので扉は避けて、人をキャッチ&リリース。軽く手を振ってお別れっす。

 いやもう慣れすぎてこの感じっすよ。最初は結構びくびくしながら過ごしてたんすけどねぇ……人間、慣れるもんすね。

 いつものように白石さんの実験室前に来ると、鍵を取り出す。もう合鍵渡されてるっすからねぇ……呼び鈴に気付かなかったら悪いからって。なんか理由がおかしい気がするんすけど、気にしたら負けっす。気になることは全部、ま『魔女の大鍋(コルドロン)』だから。で流さないとやってけないっすよ。

 

「おはようございまーす!」

 

 いつものように白石さんの実験室の扉を開けて元気に挨拶! やっぱ挨拶は大事っすからね。

 

「ああ、おはよう。今日も元気そうで何よりだ」

 

 む、いつもよりも化粧が濃い。隠せるほど上手じゃないんだから、隠すのやめたらいいと思うんすけどねぇ……ちょっとブラフはりますか。

 

「白石さん、また目の下にクマ出来てるっすよ。徹夜っすか?」

「む? 先ほど化粧したはず……あ」

 

 ふ、間抜けは見つかったようだな……!

 

「もう、ダメっすよ、健康には気を使わないと!」

「はいはい。わかったわかった」

「……あんまり酷いと夢希ちゃんに言いつけるっすからね」

「それは本気でやめてくれ。頼むから」

 

 前に無茶して倒れた時は、夢希ちゃんがマジ切れしたらしくて、それ以降無茶しすぎるたびに夢希ちゃんが強制的に寝かせに来るらしいっす。気絶させに来るとも言うっす。

 そんなに嫌なら、無茶しなければいいのに……とかいう常識は通用しないっす。実験や研究に夢中で気が付いたら二日経ってた。とか平気でのたまう人しかいないんでこのクラン。

 

「今日の朝ご飯は何すか?」

「今日はミノタウロスだよ。朝から少々重いかもしれないが、カレーだね」

「おお! 自分朝カレー全然いけるタイプっすよ! いただきまーす!」

 

 夢希ちゃん監修のレシピによるミノタウロスのカレーはマジで美味いっす。よく煮込んだ牛筋カレーって感じっすね。臭みとかも感じないし。野菜多めなのは夢希ちゃんの趣味らしいっす。料理上手で、健康に気を使ったメニューも作れて、しかも新しい料理にまで挑戦するとか、もういいお嫁さん過ぎないっすかねマジで。引く手数多だと思うっす。美人だし。本人が恋愛に興味なさそうっすけどね。

 まあ、多分自分以外わからない謎の味はするんすけど。なんだか、魔素(マナ)自体にも味があるみたいで、その味がするんすよね。ミノタウロスの味は何ていうか……ちょっと酸っぱいっすね。てことはこいつはちょっとだけ地属性ってことっすかね。

 大体傾向としては火属性が辛味、水属性が渋味、風属性が苦味、地属性が酸味って感じっす。だから、ミノタウロスはちょっとだけ地属性ってわけっすね。ちょっとだけ地属性ってなんだよって感じもするんすけどねぇ……ちょっとだけなのが意味わかんないっす。なんすかちょっとだけって。

 ちなみに、火と水、地と風が反対属性なんすけど、別段弱点とかだったりするわけじゃないっす。火←水←風←地←火って感じっすね。光と闇は双方弱点みたいっす。

 

「ごちそうさまでした」

 

 美味しく朝ご飯をいただいて、味の感想を白石さんに話した後、毎度恒例の記録結晶の出番っす。毎日これで測って測って測りまくるのが今の自分の日々っすからねぇ……いやあ、冒険者になった頃はこんなに触るものだと思わなかったっすよ。そのうち触りすぎて削れちゃうんじゃないすかね? ご利益ある石みたいな。

 

「ふむ、今回の上昇幅は12……やはり、モンスターが強力になればそれだけ上昇幅も増えるね。スキルとしては《剛腕》《剛体》《突撃》の三種……素晴らしい! やはり君のスキルはロマンに満ちている!!」

「あー、はいはい、ロマンっすねー」

 

 テンションの高い白石さんがガリガリと手元のノートに結果やら考察やら書き連ねていくの見ながら、私は投げやりに返答する。聞いてないっすけどね、白石さんは。

 もはや、いつも通り過ぎてこんな反応になっちゃうっす。毎日聞かされてますからねこれ……

 ちなみに、入団当初。つまり夢希ちゃんたちに助けてもらったときは70だったレベルも、今じゃ200超えてるっす。ご飯食べてるだけなのに。

 スキルに関しても、増えたり消えたりしてたんすけど、最近ブレイクレッグ由来の《豪脚》と《蹴撃》が消えなくなったんで、一定量以上食べると定着するのかもしれないって話になってるっす。目指せ、同時発動! 今わかってるだけでも、《豪脚》《蹴撃》に《身体強化》の魔法を合わせるだけでかなり威力出るっすからね。そこに他のスキルも組み合わせて……こう考えると、ロマンに満ちてるのは事実っすね。デメリットがキツイ分、メリットも大盛りな感じで嬉しいっすよ。

 外食できないのが悩みの種っすけど。回転寿司に焼肉に。全部自宅ですし、その上絶対にレンジで……なんていえばいいんすかね? いや、チンでいいか。しないといけないんですし。

 ま、その辺はおいおいどうにかしてくれると祈りましょう。この人たちに。

 で、今日の私の仕事は何すかねー? ま、まずはこれの確認でしょうけど。

 

「とりあえずスキルの確認からでいいっすか?」

「ああ、さっそく行こうか」

「了解っす」

 

 『魔女の大鍋(コルドロン)』の地下にはたくさんの実験場があるっす。それこそ10を超えるような。ぜーんぶデカいっす。夢希ちゃんが自由に飛び回れるくらいのサイズだそうで。学校の体育館の倍くらいのサイズだと思ったらわかりやすいと思うっす。でけぇっすよマジで。

 にしても、どうやって作ったんすかねこの広さの実験場……そもそも、空間を10倍くらいに拡張してるって話でしたけど、それってほぼダンジョンっすよね? モンスター出てきたりしたらどうしよう……

 いや、『魔女の大鍋(コルドロン)』の発明品の方が出てきたとき怖いっすね。絶対にまともなものじゃないんで。前に出くわしたのはロボ狼らしき何かだったっすけど、私が結構ギリギリくらいの強さだったんすよね。そういうのを開発してるとわかった以上、もはやあの噂は真実であると言わざるを得ないっす。

 私は真相究明なんかしないっすけどね! 自分の命が大事なので!

 

「えっと、まずは……うん。《剛体》からにするっす」

「わかった準備しよう」

 

 というわけで、今日は四番の実験場で検査を開始。どこも同じ感じなので、いつでも実験ができて楽でいいっす。待機時間みたいな、暇な時間って好きじゃないんすよねぇ。常になんかしてたいタイプっす自分は。そういう意味でも、『魔女の大鍋(コルドロン)』は性に合ってたっすね。

 

 今日出てきたスキルを全部試した結果、《剛体》は体の強度を強化、《剛腕》は腕力の強化、《突撃》は突進するときの速度と威力の強化って感じでしたね。モンスターのスキルは基本バフ系が多いみたいで、なんと重ね掛けも出来ちゃう。白石さんじゃないっすけど、ロマン感じるっすよ。

 今回のミノタウロスなんかだとわかりやすいっすよね。強靭な肉体と圧倒的な腕力。ピンチになったら大技の突撃。それぞれスキルで支えられてたってわけっす。ま、全部私が使えるようになったすけどね! とはいえ、レベルがまだまだ低いんで、流石にまだミノタウロスと同レベルの身体能力にはならないっすけどね。

 他はともかく、《剛体》だけはさっさと定着してほしいっすねー。常時発動しておけば怪我も減りそうですし。少なくとも、《剛体》を発動しておけば今使えるスキルは何使っても怪我しないくらいまで強度が上がるみたいなんで。

 そうだ。ちょっと試してみたいかも。今の全力。

 

「試しに今出せる全力出していいっすか?」

「もちろんだとも!!」

 

 白石さんから許可が出て、実験場の真ん中くらいに的が出てくる。威力計測してくれるらしい。やってやるっすよ。

 実験場の端まで移動してから、ふぅーっと息を吐いて、集中する。一気に色々使うなら、やっぱりちゃんと集中しないと厳しい。

 まずは《身体強化》を使ってそれを維持。次に《剛体》と《豪脚》を発動。全身がちょっときしんでる感じはするっすけど、まだいける。最後に、《蹴撃》で地面を蹴りつけて走りながら、《突撃》を使って加速加速加速!! 的の目の前までかっとんで、最後にもう一回《蹴撃》を使って全力ドロップキック! これが私のライダーキックだぁ!!

 

「おりゃああああ!!」

 

 とんでもない音とともに、蹴った的が壁まで吹き飛んでいく。これだけの威力で蹴り飛ばしても壊れないあの的何で出来てるんすかね……?

 蹴り飛ばした結果、こっちにもダメージがちょっとだけあるっすね。身体が軋んでるっす。でも、軋んでるだけ。これはもう必殺技として運用していいんじゃないっすかね!?

 手元に持っていたタブレットとにらめっこしていた白石さんが声を上げる。

 

「…………かなりの威力だね。威力だけなら、この前測定した彩音さんの《地砕き》と大差がない」

「え゛、そんなに威力あるんすかこれ!?」

 

 そ、そこまで威力出るんだこれ……いや、彩音さんの《地砕き》レベルって結構じゃないっすか? レベル差800くらいあるんすよ?

 とはいえ、コレ今だけの期間限定なんすよねぇ……普段から使えるようにするには、ミノタウロスをどんだけ食べないといけないんすかね? まあ、ガンガン色々食べて強くなるっすよ! 夢希ちゃんたちについていくには必要っすからね!

 

「一応、怪我がないか確認はした方がいいな。一度検査しよう」

「はいっす」

「自覚症状は?」

「軋んでるような感覚はしてるっす」

「ふむ……《剛体》はとんでもないね。道理であれだけの強度になるわけだ」

 

 検査室に向かいながら、白石さんと話していく。こうやって分析してるときとか、怪我の心配をしてくれてるときはこんな感じで静かだし、研究者って感じで尊敬できるんすけどね。なーんでテンションが上がるとロマンしか言わなくなってしまうのか……

 検査結果としては別に問題なかったっす。筋肉に負荷がかかったぐらいで。骨にも異常なし。

 そのままお昼を食べて(これは普通のご飯っす)午前中の調査は終了。で、午後の予定はパシリっす。いや、結構大事なんすよパシリ。資材の持ち運びに人探しに書類の提出。あとは研究室間の連絡。電話があるだろって? そんな着信音程度で集中乱すような人はここにいないんすよ。

 それに、顔つなぎというかなんというか。結構いろんな人と顔見知りになったんで、悪くないっすよ。じゃ、行きますかー。

 

 




陽向「最終目標は『夜ガイ』っす!」
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