【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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段々、サブタイトルがハリポタに思えてきました。


配信に興味のない私と下層到達RTA

 

 学校を終えて、家に帰って準備を整え、私は渋谷ダンジョンに向かった。

 

 渋谷ダンジョンは、東京のダンジョンの中で一番大きくまた人気のダンジョンだ。人工的に作られた石造りの遺跡みたいな感じをしていて、それっぽい罠なんかも配置されている。出っ張った石を踏んだら大岩が転がってくるとか、矢が飛んでくるとか、そういうやつ。モンスターの出現分布もかなりオーソドックスなので、罠やモンスターへの対処、ダンジョン探索の基礎などをきちんと学べる初心者向けの研修ダンジョンとして優秀なダンジョンだ。

 そして、他にはない特徴として、何故か()()()()()()()()。中身は、基本的に役に立たないものだけど、加工職には役立つものがあったり、売却すると良い値段するものがあったりするとか。あと、噂だと中で死んだ冒険者の遺品なんかも入ってたりするらしい。初心者だけでなく、ベテランも宝箱開けるときは楽しい(私も)ので、そこにも人気がある。また、人気があるため、人が多く、イレギュラーが発生したときの対処もしやすいというものがある。一人でどうにかしないといけない。という状況はまず発生しないくらいには人がいるからね。

 そういった理由が複合され、渋谷ダンジョンは初心者からベテランまで、すべての層から凄まじい人気を誇っている。正直、私からすると人が多すぎてあんまり来たくないダンジョンなのだが、東京にあるダンジョンで、今日の目的であるミノタウロスが出てくる下層まで最速で辿り着けるのが、このダンジョンなのである。下層に行ってミノタウロス倒してベルト作って帰って来るまで3時間以内でこなさないと行けないのが、今日のつらいところだ。じゃないと、夕飯に間に合わなくなっちゃうからね。

 

 いつも通り、メインの通り道から外れた小部屋で配信の準備をしているのだが、なんだか緊張している。初めて配信をやったときと同じくらい緊張しているというか、憂鬱だ。挨拶である。挨拶かー……どうすればいいんだろう?本名言うのは……嫌だしなぁ……そのへん相談するの忘れたぁ……どうしよう?そろそろ始めないと時間が……もういいや。なんとかなるだろう。カメラを起動して、配信開始だ。

 

「……映像よし、音声よし……」

 

 "ぬるっと来たぜ…”

 "「よし」ホントにすこ”

 "あれ?動かんぞ?”

 "どうした?”

 

「あー、えーっと……その……」

 

 "おん?”

 "なんだ?トラブルか?”

 "カメラ止まってる?”

 "音声しか来てない……わけじゃないよな?”

 

 …………こうやって見てみると、みんなちゃんと反応してくれてるし、今まで無視してたのが申し訳なくなってきたな…

 

「私が動いてないだけで、映像も音声も大丈夫だよ」

 

 "!?”

 "コメントを見てる……だと!?”

 "だ、誰だお前!?”

 "であえーであえー!”

 

「君たちノリ良いね……」

 

 "マジで見てるじゃん……”

 "な、何故突然……”

 "明日槍でも降る…?”

 

 みんなしてノリよく反応してくれるから、結構楽しいかも……いや、まずは理由の説明しないと……

 

「その……昨日やらかしたから、その対策でちゃんと配信をしてるんだって意識を持ったほうがいいかなって思って」

 

 "あー、昨日のは確かに”

 "炎上してもおかしくなかったもんねあれ”

 "突然のモンスター食はやべぇのよマジで”

 "あの人が良い人でホントに良かった”

 

 みんなから見てもそう思えるくらいにはヤバかったみたいだね。本当に昨日の私って……

 

「うん。そのとおりで、配信に詳しい友人たちからもそういうこと言われたから、最初と最後だけでもちゃんと配信の形をとろうかと思ったんだけど……」

 

 "雲行き変わったな…”

 "だけど…?”

 "どうした…?”

 

「とりあえず、挨拶と今日の目的を話せって言われたんだけど、今日の目的はともかく、挨拶って何すればいいのかなって……」

 

 "そこ!?www”

 "まさかのwww”

 "そんなことある???”

 

「いやだって、配信とか見たことないし……」

 

 "なるほど?”

 "確かに見たことなさそう”

 "時間帯の挨拶+自己紹介が多いかな”

 "人によっては、名前に関係ある口上言ったりするよね”

 

「えっと……こんにちは、〇〇です。今日は何々をやります。みたいな感じ?うーん……」

 

 "テンプレートはそう”

 "個人だから、それでオッケー”

 "名前に関しては、なるべくなら本名がいいかな。ギルドに救援要請送る時に必要だからさ”

 "冒険者カードに登録した読み方だけでいいからね。漢字まで言うと特定されかねないし”

 "配信者として活動するつもりじゃなそうだし、フルネームじゃなくても大丈夫”

 

「そうなんだ……ありがとう」

 

 私、本当に無知すぎないか…?今度、凉に詳しく教えてもらおうかな。というか、なるほど。愛依が言ってた、訓練されてるから大丈夫そうってこういうことか……私って本当に人に恵まれてるな。それに、リスナーさんたちからギルドに連絡してくれるとかスゴイな…

 

「えっと、じゃあ改めて。こんにちは、ユキです。今日はミノタウロスの革を使ってベルトを作ります」

 

 "ユキちゃん!”

 "名前かわよ”

 "今日は食べないのか”

 

「今日は家でご飯食べる予定だからね」

 

 砂ウツボの蒲焼きが私とお父さんを待ってるからね!

 

 "学生だもんなぁ”

 "むしろ、学生なのに大抵ダンジョン内で飯食ってんのがおかしいのよ”

 "それはそう”

 

「なんでみんな私が学生だって知ってるの…?」

 

 面白い人たちだなって思ってたのに、ちょっと怖くなってきた……

 

 "むしろ、何故分からないと思ったのか”

 "未成年で冒険者やってるのは学生以外ほぼおらんのよ”

 "14以上、18未満なんだからそりゃあね…”

 

 …………知ってたし?ちょっとみんなのこと試しただけだし。や、ヤバい!時間が!!

 

「えっと、時間がないから、これで一旦終わりね」

 

 "おけおけ”

 "逃げたな…”

 "というか、今から下層行くの?”

 "下層到達RTA開始ー!”

 "RTA草”

 

「……下層到達RTAって何?」

 

 切り上げようとしたのに、ちょっと気になる文言を見つけてしまった。RTAってなんだろう?

 

 "説明しよう!下層到達RTAとは!!”

 "下層に辿り着くまでの時間を競う競技だよ!”

 "R(リアル)T(タイム)A(アタック)の略だぜ!”

 "ちなみに、最高タイムは32分47秒だぜ!!”

 

「へー……楽しそうだね、それ」

 

 どうせなら、キリのいい30分を目指そうかな。楽しそうだし。配信企画?とかいうやつになるのかなこれ。なんていうか、リスナーのみんなとは、少しずつ会話してみようかな。私の知らない楽しそうなことたくさん知ってそうだし。軽く屈伸して準備運動。よし!やるぞ!!

 

「よし、行こう!」

 

 "くっそはえぇwww”

 "全力ダッシュ草”

 "ユキちゃんノリノリである”

 "本人が出した記録を更新できるのか!?”

 

 東京のダンジョンに置いて、最も速く下層にたどり着けるダンジョンが渋谷ダンジョンだと言ったが、それには理由がある。人工的な遺跡のようなこのダンジョンには、当然お馴染みのあの罠があるのだ。

 《魔力探知》のスキルで、下の階層でモンスターが密集しているところを探知し、その上の、今いる階層の変な形をした石畳を踏み抜く。床がパカリと開いて、下に向かって落ちる。そう、()()()()である。本来なら、モンスターハウスに直行というかなり危険な罠なのだが、場所がわかっていて、対策さえしてしまえばただのショートカットでしかない。自然落下では遅いので、浮遊魔法で加速しながら落ちつつ、視界にモンスターを入れた瞬間、その全てを《魔力の矢》で殲滅して、着地、モンスターハウスの扉の向こうに誰もいないことを《魔力感知》で確認してから、扉を蹴り破って突っ走る。

 いちいち殲滅しているのは、開けた扉からモンスターが流れ出てきたら、他の冒険者が危ないからである。

 

 "全力で落とし穴を踏み抜いたー!”

 "モンスターハウスへ直滑降!《魔力の矢》で殲滅!”

 "扉を蹴り破って、再び猛ダッシュ!”

 "ガチでRTAやってて草”

 "くっそ速いwww”

 

 渋谷ダンジョンは、上層5層、中層5層、下層3層、深層2層の15層で出来ている。つまり、11階層目が下層なので、そこまで駆け抜ければいいはず!一階層ごとに3分以内でいいなら余裕だ!

 同様の手法でひたすら駆け抜けていく。時折、階段の方が近かったので階段を駆け下りつつ、どんどん下に向かって降りていく。すごい楽しいなこれ。時たま、記録更新目指して挑戦してみようかな。

 

 "階段の降り方草”

 "上から一気に飛び降りて、踊り場の壁蹴り返してそのまま下まで降りてるからなw”

 "中層到達ー!”

 "計測班!今、何分!?”

 "えー、8分34秒ですね……(ドン引き”

 "はっやwwwww”

 "全力だとこんな速いんかwww”

 

 渋谷ダンジョンはピラミッドみたいな感じで、下に降りれば降りるほど広くなるので、ちょっと次の落とし穴(ショートカット)を見つけるのに時間がかかる。上層と違って、中層のモンスターたちの一部は、魔力の威圧だけでは逃げて行ってくれないので、邪魔なモンスターは杖で殴り飛ばして壁のシミにする。正確には、殴った瞬間に《魔力放出》のスキルで魔力を叩きつけることで吹っ飛ばしてるんだけどね。

 

 "おい魔法使えよwww”

 "魔法職が物理攻撃でモンスター消し飛ばすなwww”

 "どんな腕力してんねんwww”

 

 魔法を使わないのは、流れ弾が他人に当たる可能性があるからだ。普段ならともかく、今の速度重視だと、威力を見誤る可能性はある。たまに冒険者とすれ違うが、気にしない。今の私は最速で下層に辿り着くまで止まらない。

 中層の一番下、10階層目のモンスターハウスの扉を蹴り破る。下層への落とし穴はないので、階段を目指すしかない。

 

「次でラスト…!」

 

 階層を駆け抜け、階段へ飛び込む。踊り場の壁を蹴り抜いて、下層の床に着地する。とりあえず、周囲の安全だけ軽く確認する。モンスターも人影もない。よし。スマホを取り出して、配信画面を確認。

 

「タイムは!?」

 

 "計測班!!”

 "デレデレデレデレデレデレデレ……”

 "デン!!!”

 "22分8秒です……”

 

「おお、随分更新したね。やった」

 

 楽しかったし、記録の更新も出来たし、良い冒険だったな。次やるときは、20分を目指そうかな。渋谷ダンジョンあんまり来ないけど。

 

 "うわぁ……”

 "さすがにちょっと……”

 "ははは……”

 "えぇ……”

 

 あ、あれ?みんなの反応がおかしい。なんていうか、こう記録更新おめでとう!とか、やったー!とか基本的に喜ぶものだと思ってたんだけど……なんで引かれてるの…?おかしくない…?あ、もしかして……

 

「そうだよね、みんなごめんね……」

 

 "謝らないでー!”

 "こっちこそすまん!”

 "ちょっと男子ー”

  

「次は……20分切れるように頑張るよ…!」

 

 "判断がおかしい”

 "違う、そうじゃない”

 "そういう意味で引いてるんじゃないのよ”

 "自重して???”

 

 ……………拗ねた私は、いつもみたいに彼らを無視して目的を果たすために下層を探索し始めた。ミノタウロスに八つ当たりしてやる…!

 

 "ちょっと男子ー”

 "拗ねてしまわれた……”

 "いや、確かにまずはおめでとうとか言うべきだったな…”

 "でも、流石に22分はやべぇのよ”

 "深層にソロで行ける冒険者の本気ってあのレベルなんだ……”

 "ソロで深層探索じゃなくてソロで踏破だからな、ユキちゃんは”

 "未成年でやった人他にいんの?”

 "他は『女帝』だけ”

 "あらゆる記録におるなあの人”

 "流石歴代最強の冒険者と呼ばれるだけあるな…”

 "それが死ぬんだから、未探索領域ってやべぇんだなって”  

 "ここはユキちゃんのチャンネルやぞお前ら”

 "せやな、すまん”

 "ミノタウロスが消し飛ばされてるっぽいんだけど、速すぎて見えねぇ……”

 "これは八つ当たりですねぇ……”

 




死んでるやつの強さはいくら盛ってもいい
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