【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
金守さんのところから帰還した私は、2人にダンジョンに行こうと声をかけたのだが、返ってきたのはまさかの返答だった。
「大変申し訳ありませんが、わたくし達はしばらく夢希さんとダンジョンには行けませんわ」
「…………え」
花奈さんからの言葉で私は足元が突然揺れているような気がした。な、なんで……? 一体何が? 私なんかしたっけ。餃子のせい……?
彩音さんと花奈さんが何か言っているが耳を右から左に通り抜けていくだけで、何を言っているのか分からない。
2人の声という音の中でしばらくの間ふらふらと揺れ動いた後、私は地面に倒れこんだ。
おそらがあおい……
「夢希ちゃーん!?」
「夢希さん!?」
「…………はっ!」
「あ、起きた」
目を開けたら、彩音さんの顔が目の前にあった。どうやらベンチで寝てしまったらしい。
「彩音さん……どれくらいたったの?」
「ほんの数分くらいかな」
よしよし、ならこれからダンジョンに行っても問題ないはずだ。それくらいの時間はある。問題ない。
さっきのことは多分悪夢だ。らしくなく昼寝なんかしたせいである。そうに違いない。
「……何か変な夢見てた気がするけど気のせいだよね」
「気のせいではございませんわ……」
花奈さんの申し訳なさそうな声を聞き、そちらに視線をやる。
「な、なんで……?」
思ったよりも動揺した声が出た。彩音さんも花奈さんも、そんな申し訳なさそうな顔するくらいなら一緒にダンジョン行こうよ! 何がそんなに嫌だったんだろう……
そのまま花奈さんは切り出した話は、私の想像していないものだった。
「実は午前中、彩音さんとダンジョンに向かったのですが、そこで冒険者の方にそれなりに声をかけられ、マスコミの方々にもインタビューをされまして……」
え、何それ? 一体どういう……?
あまりにも予想外すぎて頭が追い付かなかった。何故インタビューなんてされるんだ? 今回の件でされるにしても、例えばだけど警察署から表彰された後とかならわかるんだけど、本当になんで? 昨日の今日で突然そんなことになる?
「相手の配信に顔がガッツリ乗ってたから、私たち有名人になっちゃったみたいなの。それで夢希ちゃんのこととかも結構聞かれて……。あ、もちろんパーティーメンバーってこと以外は何も話してないよ。変に隠しすぎると逆にマズイかもって思って」
「今のところ、夢希さんを特定するに情報が少ないようでしたわ。あの配信に映り込んだのも一瞬で、まともに映っていたのは杖くらい。魔法の行使も浮遊魔法と《ガイアウォール》のみ。あとは壁の向こうの爆発音程度。流石にこれで特定するのは厳しいでしょう」
あー……そっか、そもそもあの事件自体が配信されてたから、こんなに反応が早いのか……
それと、私に関しても情報を集めている人たちがいると……凉辺りはこのことに気付いてそうだし、何かしてそうだけど、私には心配かけないようにするつもりで何も言わなかったな?
まさかそんなことになってるなんて。なんだって私を特定しようなんてことに……やっぱりネットって怖いよね……使いこなせる気がしないよ。
「そんなわけで、ほとぼりが冷めるまでは別行動の方がいいよねって花奈ちゃんと話してたの。夢希ちゃんには悪いなって思うんだけど、それ以上に夢希ちゃんが特定される方がマズイかなって」
「顔はメイクである程度の変装が出来るとはいえ、装備に関しては流石にできませんし、それで特定されては変装の意味がございませんので……夢希さんも、有名になりたくないと常々おっしゃっていましたから、このような対応しか思いつかず……」
2人とも私をかばってくれて本当にありがとう。有名になりたくないのは本当にそうなんだよね。だってお母さんみたいな扱いされることになったら、凉と愛依にまで迷惑かかるのが確定してるし……
お父さんとの関係も今のところ隠しているわけだから、私の周辺ってなると『
「なるほどね……」
2人の説明に理解は示せる。だが、納得がいかない。2人に対してというか世間に対して。なんで人助けをして私たちの方が迷惑かけられてるんだ!
それに、これ雄志さんたちが知ったら気に病みそうだしなぁ……
少なくとも、私だったら胃が痛くなってる。命の恩人を特定しようぜ! ってネットでお祭りになってるんだよ? 自分たちの配信が原因の一端で。
世間に対するあれやこれやでうなっていたら、花奈さんが声をかけてきた。
「夢希さん、少しお話があるのですが……」
「うん?」
「『
「私もちょっと話しかけられる度に夢希ちゃんの話されるから、ちょっとでもやっておくといいと思うな……溜まりに溜まって爆発したら怖いよ……?」
「あぁうん……確かに……」
2人からの心配の声に、ちょっとだけ声が震える。今まで身内じゃなかったのにアレだったんだから、身内になったら遠慮なんかしないよね……。最悪、実験終了まで監禁されるくらいまで考えた方がいいかもしれない。理屈がどうこうとかいう問題をすっ飛ばして出来そうだし。
……ちょっとでも依頼をやった方がいいか。2人が潜れないとなると、私も潜る気にならないし。
しばらくダンジョンに潜るのは休みにしようかな。ソロで潜るのもいいけれど、万が一それでバレるようなことになったら意味がない。それに、引っ越しの準備もしないとだからちょうどいいのかもしれない。買い物だってそれなりに時間がかかるもんね。
それにしても、私がダンジョンに潜るのをしばらく休みにするだなんて、明日は雪でも降るかもしれない。
「金守さんのところにもう一回行ってくるよ」
「いってらっしゃいませ」
「いってらっしゃい!」
というわけで、先ほど退出したばかりだというのに再び金守さんのもとへ。何度もすみません。
「というわけなので、何か依頼を……」
「そうか、それは大変だったな……ちなみになんだが」
「はい」
「来るときにマスコミに囲まれたりしなかっただろう?」
「そういえば、そうですね……」
言われてみればその通りである。花奈さんの話を聞いた限り、『
いったいどういうことなんだろう? と首をかしげている私に、金守さんがちょっと歯切れ悪く話してくれた。
「その、小川さんがいくらでも話してあげるからと、全員を中に招き入れたんだ。それでまあ……そういうことだ」
「あ、あぁ……」
「そして、未だに彼らは誰も部屋から出てきていない」
なるほど、全員あのガトリングトークの餌食になっていると。現在進行形で。しかもあの小川さんのことだ。いくらでも話すとは言ったけど、質問に答えるとは言っていない。という感じでひたすら相手の話を聞かずにしゃべるだろう。その中に、ちょっとだけ私たちのどうでもいい情報をねじ込みながら。好きな食べ物とかね。
だから、招きこまれた人たちも最後まで聞くしかなくなる。情報を少しでも持ち帰るのが彼らの仕事だから。小川さんを気持ちよくしゃべらせようとする人たちもいるかもしれない。情報こぼしてくれないかなって。
だが、彼女を舐めてはいけない。何もしなくても半日はしゃべり続けられる彼女相手に、そんなことをしたら一体いつになったら解放されるかわかったものじゃない。私は以前そうなったし、お母さんの時に来た人たちもそうなった。
そこまで考えたところで、おかしなことに気が付いた。
「ん、あれ?」
「どうかしたか?」
「あの、私ここに入ってきたときに小川さんに挨拶したんですけど……」
そうなのである。私がここに来たときにはすでにその人たちはいなかった。そして、今も続いているなら、エントランスにいた小川さんは一体……?
そう疑問を投げかけたとき、金守さんと目が合った。彼は、いつになく真剣に。そして、若干の呆れと恐怖の混じった目をしていた。
「……彼女は、『
「……そうですね」
目線で金守さんと分かり合った。そうだ、彼女には触れてはいけないのだ。命が惜しいのならば。
いや、本当にあの人がどういう人なのか気になってしょうがないんだけどさ。命かけてまでは知りたくないよね。そもそも人なのかも怪しくなってきたけども……
この話はこれで終わりと言わんばかりに、机の横にあった棚から、金守さんが辞書? みたいな分厚さのバインダーを取り出した。
「君宛ての依頼で、問題なさそうなものの一覧はこれだ」
ドスン! 机の上に大きな音を立てて置かれたそれが、私宛の依頼らしい。え、嘘でしょ? 辞書とは言ったけど、これほぼ広辞苑だよ!?
「え、これ全部ですか……?」
「……そうだ」
目線をそらしながら答えた金守さんに、顔が引きつる。
「……で、出来そうなものからやっていきますね……」
「そうしたほうがいいだろうな……君が正式に加入したとわかった途端、一気に増えたよ。以前の量が可愛く見えるほどに」
「…………一応聞いておきたいんですけど」
「……なにかね?」
「何件ありました? 依頼の申請」
「ふぅ……千から先は数えるのをやめたな……」
「そう、ですか……」
眉間を揉みこむようにしている金守さんを見て、なおさらこの人に何か疲れに効くものを届けようと思った。いや、千件て。どうやったらそんなことになるの……? ここの人たちの発想は一体どこから湧いてくるの?
「先に言っておくが、無理をしないようにすることだ。出来る範囲で構わない。君の健康が第一だ」
「わかりました。ありがとうございます」
私の身を案じてくれる金守さんに、深々と頭を下げてから部屋を出た。いやでもこれどうしよう……?
「というわけで、これ貰って来たんだけど……」
「……もはや厚さが広辞苑では?」
「お、重そう……どんな依頼があるの?」
とりあえずで中庭に戻って2人にも見せたんだけど、ドン引きしていた。そりゃそうだよ。おかしいじゃんこれ。
彩音さんの言葉に従い、適当にめくって目についた依頼を読み上げていく。
「えっと……光源魔法の実験。光学魔法の実験。光学迷彩魔法の付与式の確認。モンスター素材の圧縮。製品の原料の調整。素材特性の抽出……」
光源魔法……というか、光を発生させる魔法流行りすぎてない? どういうことなんだ。
ちなみに、光属性の奇跡の中に、ビームだとかレーザーカッターみたいな奇跡はすでにある。これらの奇跡は攻撃専用なので、今こうやって実験している光源魔法とかちょっと違う。そもそもこれは魔法であっちは奇跡だしね。奇跡だと私は使えないし。
あと、素材の圧縮だの調整だのは自分たちでやればいいじゃないか……《錬金》スキルは全部を設備で賄えることで有名なんだぞ? そして、それらを作ったのも『
「魔法系と《錬金》使うやつって感じなんだね?」
「そういえば、夢希さんは《錬金》も持っていましたね。しかし、あのスキルはその……」
へー、なんて言いながら手元の大量の依頼書を眺めている彩音さんと、ちょっと言いにくそうにした花奈さん。いいんだよ別に。本当のことなんだから。
とはいえ、多分私にこういった《錬金》の依頼が来ているのにはちょっとしたわけがある。
《錬金》スキルはユニークスキルの中でもはずれの扱いである。何故なら、スキルを使ってできるすべてのことを、別の加工系スキルや設備で補えてしまうからだ。しかしながら、《錬金》スキルは、
私はもっぱらダンジョン内での加工だとかに使っているけれど、本来はそういう使い方をするスキルなのだ。
そして、本来ならこの前のスラ玉みたいな、予想外のことは起こらないスキルでもある。イメージの外だからね。
で、私の場合何故それが起きるのかというと。
「私の場合、《錬金》のイメージが錬金術士のゲームで固定されてるから、かなり色々出来るんだよ」
「ああ、あのゲームですか……いや、それはそれで凄まじいですわね!? 何故それでイメージを!?」
「友達が《錬金》使えるならこれいいんじゃない? って貸してくれた。結果、大体なんでも大鍋さえあればいけるようになった」
錬金術士が主人公で、いろんなアイテムを作って冒険をするゲームを凉にやらせてもらった結果である。だってあのゲーム、大鍋に材料入れてぐーるぐるー! ってやると何でも出来るし……《錬金》って、こういうのも出来るんだ! なんて思ってしまったのが運の尽きってやつである。
結果、大鍋に入れてちょちょっとやれば大体のことができる、意味の分からない《錬金》の運用をする魔法使いがここにいるのだ。その弊害として、イメージ外のことも起きるようになってしまったのである。あのゲームでも、なんかよくわかんないけど爆発したとか起きてたし。だったら、何が起きてもおかしくないなー……なんて思ってたら、本当に何でも起きるようになってしまったのだ。若干怖いけど、それはそれ。
「あ、それであの大鍋持ち運んでるんだね……」
「あの大鍋はそのためのものだったんですのね……運搬用だと思っていましたわ」
「……確かに最近は運搬にしか使ってないけどね」
なるほど……なんて頷きながら反応を返す2人。
2人からの大鍋に対する評価よ……いや、まさにその通りで、最後に《錬金》するためのものとして利用したのはスラ玉の時だし、2人の前では一切使っていないからね。運搬用に使ってるのもその通りだし。そもそも普段からあの中に冒険用品放り込んでるしな……椅子とか机とかも
その後もバインダーをめくりながら依頼を眺めていると、彩音さんが思い出した。みたいな感じで話し出した。
「確認なんだけど、夢希ちゃんもしばらくダンジョン潜らないんだよね?」
「うん。そのつもり」
「じゃあさ、一緒に装備預けようよ。一度がっつりメンテナンスしてもらうのと、エンブレム入れてもらおう?」
彩音さんの提案に、それもいいかもと思った。装備にガタが来ているなんて思ってもないけど、実際メンテナンスはしてもらえるならしてもらった方がいいし、エンブレムも入れてもらう必要があったし。
うん、確かに丁度いい機会かも。どうせ潜らないって決めたんだし、そうさせてもらおう。
そのあと、3人で装備品のメンテナンスなんかを請け負ってくれるという工房に向かって、装備品を預けることにした。家に帰ってからだと遅くなっちゃうと思って、全部収納魔法の中に入れてきてよかった。
その工房からの依頼もあったので、今日はそこでの依頼をこなすことにして、2人とは別れた。
まったく次冒険できるのはいつになるのやら……まあ、その前に引っ越しの準備をすませちゃおう。家具や家電見繕うのに時間かか……るかなぁ?
『|魔女の大鍋(コルドロン)』の七不思議の1番目にして最も意味の分からない女、小川