【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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タイトルオチな気がする閑話です。


【閑話】お酒に目がないボクと節分

 

 節分。それは、大抵の人にとっては、季節のイベントの一つ。程度の認識だと思う。恵方巻とかいうよくわかんない海苔巻きを、恵方なる方角を向いて無言で一本食べたり、「鬼は外、福は内」のお決まりのフレーズで豆を投げたり。んで、最後には投げた豆を掃除して、豆をむしゃむしゃ食べる。

 まあそんな感じのイベントのはずだ。

 だが、このボク、童部鬼灯にとっては違う。この節分というやつは、一年で一番面倒なイベントである。何故かって? そりゃあボクは鬼だもの。

 そう! 豆を投げられる側の存在なのだ! 

 ……投げられる側の存在なのだ……orz

 

「……というわけで、今年も頼むよ」

「はーい……」

 

 朝から早乙女さんに呼び出されたボクは、嫌そうなのを隠そうともしないで返事を返した。これには早乙女さんも苦笑い。

 どういうことかというと、毎年恒例になっている『白の騎士団(ホワイトナイツ)』の本部近くにある中学校への節分イベントの参加依頼だ。

 つまり、ガキンチョども相手に豆まきの的になる仕事である。

 この仕事が嫌じゃないやつとかいるぅ!? いねぇよなぁ!?

 とはいえだ。これはこれで割と大事な仕事ではあるっていうのが面倒なんだよなー……冒険者っていうのは、やっぱり一般人と距離ができやすい。そもそも関わる機会が少ないしさ。その上、こっちの方が圧倒的に強いわけで、まあ怖がられてる立場だったりするんだよ。街中に猛獣がいるみたいなもんなんじゃないかね。

 ぶっちゃけボク的には、「勝手に怖がっとけばええやん。どうせ関わることなんてほぼないんだし」くらいにしか思わないんだけど、それだとなんか色々アレらしい。だからこういうイベント事に、トップクランが参加することで冒険者を身近に感じてもらおう。的な感じらしい。俗に言う有名税ってやつ……! ちげーか。

 こういう取り組みも色々やってて、雪国の方では馬力や魔法を活かした雪かきだとか、イベントの余興だとか(サーカスみたいなことやるらしい)、年末特番のバラエティーとかもやってる。ボクもどうせなら年末特番の方に参加したいんだけどなぁ……ぜってーおもろいじゃん。ケツしばくの。罰ゲーム持って追いかけてもいい。鬼だけに。

 とまあ、そんな感じの取り組みの一環なのだ。それでも嫌なものは嫌である。あいつら手加減とかなく本気で投げつけてくるもんだから結構鬱陶しいんだぞマジで。痛くはないけど、服の中に入ったり、目に当たったりするとそれなりにイライラする。相手は一般人のガキンチョだし、反撃するわけにもいかんし。豆なんて避けてもいいけど、それだと節分っぽくないしさー……いっそ、ドッジボール形式にして全部避けてもいい感じにした上で、時間ギリギリになったら一発だけ当たりに行くとかじゃダメか? ダメな気がする。どうせ最後にめっちゃ投げられるわ。 

 

「今年は別のとこだから、ね?」

「おん……?」

 

 ありゃ? 今年は違うところなんかい? でもさー、結局やることも変わらんし、行くところが変わったところで真新しさもないしさー。結局気が乗らねー……

 そんな考えを隠そうともしないボクに苦笑したまま、早乙女さんがやる気出してよ。なんて言ってくる。いや、やる気にならないのはそうなんですけど、今こうしてるのは甘えてるだけです。早乙女さん優しいしさー。仕事は仕事なんでしっかりやらせていただきますとも。

 

「ここなんだ」

「……? 結構遠いですね」

 

 早乙女さんが地図を出して、ここだよーって示してくれた。

 中学校は中学校なんだけど、結構遠い。わざわざそこまで行く意味is何? まーあれかな。同じとこばっか行ってると偏っちゃうとかそういう話かね。いろんな人と交流しなさーい。みたいな?

 と思っていたら、早乙女さんが意外なことを言い出した。

 

「淳平君の母校なんだ。ちょうどいいと思ってね」

「あー、OB挨拶的なアレですか」

「そういうアレだね。今回は2人で行ってきてね」

「はーい。ん? あれ、じゃあ淳平は?」

「昨日のうちに伝えたよ」

「なんでボクは当日なんですか!?」

「だって鬼灯ちゃん昨日実家帰ってたじゃない」

「……そうでした」

 

 そうだったわ……いや、節分とか関係なく普通に実家に帰ってて、今日の朝に「今年も頑張るのよ?」ってお母さんに言われたから思い出したんだったー……

 ま、淳平と一緒なら別にいいか。めんどくさくなったら投げれば何とかしてくれるだろ。淳平だし。

 

「じゃあ、頼むね」

「はーい。いってきまーす!」

 

 とりあえず、準備して淳平と合流するか。連絡だけ入れとこ。予定だと午後だしな。そういや、今年もリポーターとカメラマンとか来るんだろうか? いつもの人だと楽でいいんだけどなー。四年目ともなると普通に仲良しです。

 準備をした後で門の前で集合して、中学校に向かう。ちょっとした距離だったからランニングで行くことにした。バス乗っちゃダメなんだよなー、冒険者って。あぶねーからしゃーないけど。

 向かってる途中で、淳平から母校について聞いてみたけど、なんの変哲もない普通の中学校って言われちった。

 てことは、普段行ってるあそこみたいなもんかねー。ガキンチョに豆投げられるのは変わらんだろうしな。ま、淳平の話でもして盛り上げればええか。

 そう思ってけけけと笑っていたら、淳平から不審者を見る目で見られた。後で覚えておけよ。

 

「それにしても、母校、ねー……」

「……」

「おん? ……あ、すまん。別に変な意味はねーよ? ボクにとってはどこになんのかなーってだけで」

 

 こういうところで気を遣うよなー、こいつは。それができる男というやつなのもしれんが、僕としてはなんだかなって感じである。だって、学校なんか行ったことないけど、別に行きたいと思ったことがない。勉強なんて家で出来るし、他人と接するならどこでもいいじゃんって。実際今のとこそうだし。若干問題があるとするなら、同年代と会話が噛み合わんくらいだけど、そもそもそれだって大した問題にならんし。冒険者としての会話なら別に出来るしな。流行りものとかが分からんだけで。

 どう思ったのかは知らないが、そのまま会話は続行してくれるらしい。

 

「候補はあるのかい?」

「『魔女の大鍋(コルドロン)』か家」

「……その2択なら『魔女の大鍋(コルドロン)』の方が近そうだが……」

 

 すげー微妙な顔するじゃん。いや分かるけどな? 確かにあそこを母校呼ばわりするのは大分アレなのは分かる。

 まー、実際勉強してたとこって考えると家になるし、色んな人と出会った場所ってなると『魔女の大鍋(コルドロン)』なだけで。あと、同い年の幼馴染ってのが出来たのが『魔女の大鍋(コルドロン)』だからな。多分真面目に母校に一番近いのは『魔女の大鍋(コルドロン)』なんじゃねーかなーとは思ってる。

 『白の騎士団(ホワイトナイツ)』は現在進行形だから母校じゃねーもんな。

 しばらくランニングを続けていると、それっぽい建物が見えてきた。四角い三階建ての建物がいくつかと、かまぼこみてーな形してる体育館がひとつ。これがデフォっぽいから、マジで普通の中学校なんだな。 

 

「アレか?」

「ああ、あそこだ……」

「懐かしい?」

「あぁ、意外とね。そんなに経ってないはずなんだが」

 

 なんだか意外そうに呟いている淳平に呆れてしまう。何言ってんだお前……

 

「いや、5年前だろ? 人生の4分の1も前なんだから、そりゃ懐かしいだろ……」

「……そう言われると確かにそうだね」

 

 自分でもおかしいと思ったのか、笑い出した淳平につられて笑う。

 笑いあったまま道を走っていたら、道端の幼児から「変な人ー!」って言われたのでそれからは2人とも黙って走った。心がいてぇ……

 

 

 

「失礼します」

「失礼しまーす」

 

 玄関? らしきところから中へ。ボクはここからしか入ったことがないけど、淳平はこっちから入るのは初めてらしい。先生たちとか業者さんとか保護者みたいな来客用なんだとさ。

 中に向かって声をかけると、ちょっと頭の薄くなったおじさんが出てきた。

 

「はーい、ただいま……? おや、小糸くんかい!? いやあ、立派になったね!」

「お、お久しぶりです。先生」

 

 あ、なんか知り合いの先生っぽいぞ。しどろもどろな淳平は珍しいな。やっぱ恩師とか相手にはこうなるのかね。

 しばらくそのまま話している間ボクは蚊帳の外だけど、お気になさらずー。いつ死ぬか分からんからなボクたちは。出会えたなら満足するまで話すが良い。あ、なんか木彫りの熊のでっけーのがあるじゃんこの学校。なんで木彫りの熊って鮭咥えてるのばっかなんだろ? 川から鮭叩き出してる瞬間とかの方が躍動感出そうなのにな。

 そんなことを考えつつ時間を潰そうと思ってたのに、淳平が早々に会話を切り上げてしまった。なんでや……

 

「今日は仕事で……」

「あーあれか! いやぁ、ありがとうね。君も、蚊帳の外にしてしまって申し訳……」

 

 ボクの姿を視界に収めて、頭の角を見たとたんに動きが止まった。目をまん丸にして固まってる人って面白いよな。

 

「あ、お構いなくー。あと、今日にはぴったりでしょう? ボク」

「いやぁ、驚いたよ! 本当に鬼が来るなんて……小糸くんの後輩さんかな?」

「いえ、淳平が後輩です」

「え!?」

 

 おじさん先生が驚きの声を上げて淳平とボクを行ったり来たり。そんな驚くことか? なんかマズったかな?

 

「クラン内で先輩なだけで、年齢は僕の方が上ですよ」

「そ、そうか。びっくりしちゃったよ」

 

 淳平がそう声をかけた後、控室的なところを教えてもらったので、淳平の案内でそこに向かう道すがら、さっきのおじさん先生の反応について聞いてみる。

 

「……もしかしてあの言い方マズった?」

「普通、年下の先輩は想定しないからね。君を年上だと思ったんだろう」

「なーる。今度から気を付けるわ」

 

 なるほどねー。そういうことなら気を付けよう。別に問題あるわけじゃないだろうけど、望月さんと同類に見られたくねーしな。

 控室扱いになっているという音楽準備室なるところについて中に入ると、見知った面々がすでにいた。安心感あるわー。

 

「あ、鬼灯ちゃん、今年もよろしくね!」

「お、椿ちゃんお久ー。スタッフさんたちもお久しぶりでーす」

 

 毎度おなじみリポーターの椿ちゃんだ! あと、スタッフの皆さん。いつもお世話になってます。

 

「本日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 あっちではディレクターさんと淳平がお堅い挨拶してた。いつもならアレもボクがやってんだけどね。今日は淳平に任せるとしよう。

 走ってきて喉も乾いたし酒のも……はー生き返るー……お? 音声さんも飲む? 

 

 ゴスっ!

「いっでぇ!?」

 

 飲みたそうにしてた音声さんに酒を渡そうとしたら、淳平に頭をドつかれた。結構マジでやっただろお前……抗議のつもりで淳平の方を見たら結構キレてた。

 音声さんもディレクターさんからめっちゃ怒られてたわ。

 ちょっとした思い付きだったんだよ、マジでごめんて……

 

 

 

「本日は、こちら――」

 

 リポーターの椿ちゃんの前振りでカメラが回る。淳平と2人で並んでそれを見てる。出番はこの後だからね。

 

「『白の騎士団(ホワイトナイツ)』所属の小糸淳平と申します。本日はよろしくお願いします」

「どうもー。毎年恒例の鬼灯ちゃんでーす。よろよろー」

 

 淳平がすげー顔してておもろ。何度目だと思ってんだよ。4度目だぞ。なんなら、ここ以外でもやらされたことあるから、カメラの前でどうこうするのは7回目だぞ。流石に慣れてるし、どこまでならいいかくらい学習してるわ。あと、生放送じゃないからマズいところはカットしてくれるんで気が楽。

 でこの後、淳平が教室に行って、後輩たちに相手に先輩風をびゅーびゅー吹かせているところをカメラに映して、最後に体育館でボクに豆を投げつける感じである。なので、さっさと体育館へごー。やることないんだもんよ。酒飲んでてもいいけども。

 授業なんかもないらしいし、どのくらいスペースあるのかは見ておきたい。動き回る可能性あるし。

 

「へー……なんか、マジでどこもこんな感じなのな」

 

 かまぼこ型の建物の中に入ると、何の臭いかちょっとわからないけど変なにおいがした。そんで、床にある色とりどりのテープ。バスケのゴールが4つ、端っこに寄ったネット、狭い二階の通路、一番奥のちょっとした高台。

 なんていうか、多分どこもこんな感じなのかね? あ、天井にボール挟まってら。取っといたろ。

 二階の通路までジャンプして、通路の柵から天井へジャンプ。天井の柱を掴んでボールをはじく。雲梯みたいに動きながら、ボールを落としていく。結構楽しいなこれ。つか、挟まりすぎだろ何個あんだよ。

 とまあそんな感じでボールを落としてたら、ボクはすっかり時間というものを忘れていたらしい。

 

「わ、なんかすげぇ!」

「え、ボール散らばってる!」

「あやべ」

 

 扉があく音と子供の声がしたのでそっちを見たら、普通に入ってきてた。こっちには気づかれてないっぽいけど、どうすっかなこれ。あ、淳平と目が……ohキレてる……

 もうしゃーねぇ! こうなりゃヤケだ!!

 天井から手を離して飛び降りる。普段はやらないヒーロー着地とかいうのを決めて子供たちの目の前に着地してやった。そのまま立ち上がってかっこつけたポーズを取る。いや、膝いってぇなこれ……

 

「鬼だ!」

「太陽で燃えるんじゃないの!?」

「食べられちゃう!」

「だぁれが人食い鬼だこらぁ!」

 

 人食い鬼扱いされたので流石にキレる。フリだけどな。ついでに両手も振り上げると、ガキンチョどもは悲鳴を上げて逃げていく。体育館の範囲でだけどな。調子のいいガキンチョどもだよ全く。

 ま、ガキンチョどももきゃーきゃー楽しそうだし、大成功だろこれ。さっきまでのヘマはこれでチャラっと。

 そのあと、淳平と一緒に軽く子供たちの前で小粋なトークをかまして、節分イベントってことで豆まきの的になった。まさかの淳平が投げる側に回った上に結構ガチで投げてきやがったので、全力で逃げてやった。ガキンチョどもならともかく、お前のはいてーよ流石に!

 ガキンチョどもはガキンチョどもで、どうにかして高速移動するボクに豆を当てようと楽しそうだったし、椿ちゃんたちは滅多に見れない冒険者の全力に驚きつつも大興奮していたから、今回の仕事は大成功である。

 あ、最後にはちゃんとガキンチョどもの豆に当たってやったよ。あいつら何度も投げつけてきやがってからに……これだからガキンチョは。

 

 

 

「鬼はー外ー!」

「いったぁ!?」

 

 そんな感じで仕事を終えてクランに帰ってきたら、早々に豆を投げつけられた。

 ニヤニヤしやがってちくしょう、投げ返してやるからなぁ!? いったー! ちょ、大勢で一気にくんじゃねーよ! 上等だやってやらぁ! おら、淳平ガード!!

 …………とまあ、そんな感じでクランの中でも鬼役を演じきって……

 

「あ"ー、疲れた……」

 

 自分の部屋でシャワーを浴びようとして服の中から大量の豆が出てきたのになんだか笑ってしまったりっていうのはあったものの、今はもうベッドの上でダウンである。

 疲れたけど、みんなで騒いで楽しかった。やってることは豆まきなんだけどな。本気でやると楽しいんだよなこういうのって。それはそれとマジで疲れた。

 まー、こんだけ色々したんだ。明日にはみんなに酒をみついでもらわにゃわりにあわん……

 あしたは、たくさんさけのむぞぉ……zzz

 

 

 なお、後日放送された今回のイベントは結構な反響があって、話題にもなった。あ、炎上はしてねーぞ。ちゃんとポジティブ寄りだ。ネットなんかでも切り抜きとか結構見るしな。

 なんだけど、なんでか早乙女さんには淳平ともども説教されちったよ……一般人の前で暴れてんじゃないって。みんな喜んでたじゃんって言ったら説教が倍になった。なんでだ……

 

 




節分と言えば鬼じゃん。
鬼と言えば鬼灯じゃん。
節分の話書くか!!

ってなった昨日の深夜。

この後、鬼灯ちゃんはみんなから酒を貢いでもらいましたとさ。
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