【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
モブ視点に挑戦!
俺は『
まあ、まだまだ経験が足りなくて魔道具の方の仕事で経験積んでるところなんだけどな。これがまた奥が深くて、先輩方のところまで行くのにどれだけかかるか分かったものじゃないって感じだ。
今は魔法の研究についての知識の勉強をしながら、実際に魔道具を作っている。魔道具にも大きく分けて二種類あって、自分で魔力を流さないと使えないものと、魔力を流さなくても使えるものだ。
前者は冒険者にしか使えないけれど、後者は誰にでも使える。動力源が魔力なだけの家電みたいなもんだ。電気を魔力に変換するなんてどうやってるのか未だに理解できないものの、コンセントにつないで充電して使う。なんてことも出来るんだ。
で、これらをどうやって作るのかというと。大体全部手作業になる。機械で量産できるのはパーツまでで、そこに魔術式を刻むのは人の手がいる。魔術式っていうのは電子回路みたいなものだと思ってくれていい。そこに魔力が流れると魔法が発動する感じだ。
機械で量産出来るように研究も進んでいるから、そのうちそうなるとは思う。しかし、今はこれが俺の仕事だ。決められたように、魔術式を刻む。そして、それで何が起きるのかをちゃんと理解する。そうやっていくつもの知識と経験を積み上げていく。
そして! 真面目に日々の仕事をこなしていた俺に、一つの研究の仕事が舞い込んだ。それは、最近製作された光源魔法に関するもので、光学迷彩の技術を応用して体の傷跡なんかを隠すアクセサリーの研究だ。初めての研究の仕事、絶対にうまくこなしてやるぜ!
まあ、メインじゃなくて助手なんだけどな。それも、単純に経験積んでこーいみたいな感じだ。俺も流石に出来ると思えるほどうぬぼれていない。
メインの担当は、魔法研究部門の部長である大森誠一さんの娘さんの大森美弥子さんだ。基本的に白衣の人が多い中で、唯一何故かオーバーオールが基本の服装な人である。あと、声が大きい。
噂だと、好きな人がいてその人に何度も告白しているのだとか。そして毎回断られているらしい。俺にはどうにもできないけど、心の中ではうまくいくように願っておくことにした。
そんな美弥子さんの助手として研究しているのが、光学迷彩眼鏡である。まずは顔の傷を隠そう。ということで眼鏡に光源魔法を付与するという話になったのだが……まあ、問題点は山積みで、どっから手を付けたらいいのやらって感じだ。
問題としては、魔術式をどうするんだ? ってだけなんだが、それがどうにもならない問題として立ちはだかっていた。
まず、眼鏡の面積が少ないせいで魔術式を刻む場所が少ない。新しい魔法なのもあるんだが、それ以上にフレームにしか刻めないからな。めっちゃ細かくしないといけない。
次に、動力源の問題。俺は本人の魔力によって発動するタイプを想定していたんだが、美弥子さん曰く「広く誰にでも使って欲しいので電気で動くようにします!」とのことだった。その分の魔術式も必要だしってことで、さらに面積問題が発生した。
最後に、個々人に向けての調整が必要なこと。どこを隠したいかは人による以上、その部分を指定できるように余白を残す必要がある。これもまた面積が……
とまあこんな感じで、今はどうやってこれを圧縮するか、日々頭を悩ませている状態だ。
そして、悩ませ続けていたある日、美弥子さんがやけにテンション高く、「どうにかできるかもしれない人が来てくれます!!」と叫んでいた。何でも、新しく探索部門に入ってきた冒険者が魔法の専門家なのだとか。よくよく話を聞いてみれば、そいつは未成年らしい。
俺はなんだかそれが面白くなかった。だって未成年だぞ? 俺よりも年下なのに、魔法の専門家なんて呼ばれて、美弥子さんにすら頼られる存在だって?
内心にそんな思いを抱えて進まない研究に頭を悩ませて過ごしていたある日。その時はやってきた。
「こんにちは。依頼で来ました」
扉を控えめにノックした後、1人の女の子が入ってきた。高校生なのか、学校の制服を着ている。背は低めで体も薄い。髪は真っ白でふわふわって感じ。そしては顔は……凄まじく美人だった。今まで見た中でもあんな美人見たことないぞ……!?
少々覇気のなさのようなものは感じるものの、透き通った白い肌に吸い込まれそうな蒼い目。すっと通った鼻筋に薄い唇。ドレスでも着てたら、西洋人形と間違えそうなくらいに整っていた。
あまりの衝撃に固まっていたら、一緒の机でうんうん唸っていた美弥子さんがいつの間にか彼女の目の前に移動していた。
「夢希ちゃん! 今日はどうしたんですか!?」
「光学迷彩眼鏡製作の手伝い。美弥子の担当だったんだねこれ」
「ええ! ですが、少々行き詰っていまして……」
なんだか仲がよさそうに話しながらこちらにやってくる2人。というか、距離が友達って感じじゃないような……?
机に戻ってきた美弥子さんが、俺に手のひらを向けて大声を出す。
「あ、紹介します! 助手の磯野さんです!」
「初めまして、物前夢希と言います。美弥子の従妹です」
「はじめまして、磯野です」
物前さんが無表情のまま自己紹介。あ、愛想って知ってます……? いやさっきからずっとこうだから、この人はこれがデフォなのかな。
美弥子さんの従妹なのか……そりゃ仲いいよな。と思っていたら、美弥子さんがぶっこんだ
「そして未来の妻です!」
「へ、え、はぁっ!?」
「美弥子の言葉は無視していいです。そんな未来はないですから」
「まだ好感度が足りませんか……! やはり身長を伸ばすしか……」
「そこは関係ない」
突然の結婚発言にびっくりして周りを見たら、ああまたやってるよ……。みたいな視線で彼女らを見ている人たちが大多数だった。
なるほど、何度も告白して断られてるってこういう……謎の納得を得た俺の目の前で、もはや堂に入ったと言っていい漫才を繰り広げる美弥子さんと物前さん。大分お似合いな気がして来たよ俺。物前さんとしては不服だろうけど。
そしてそのまま仕事の話にシームレスに移行した。切り替えとんでもないな!?
「図面はこれなのですが!」
「……いつもよりもさらに細かいね?」
「眼鏡に搭載するものですからね! どうしても小さくなります!」
「ふんふん……」
机の上に、今作ろうとしている眼鏡に書き込む魔術式の書かれた紙が置かれる。めちゃめちゃ細かい上にデカい。この仕事に慣れてきた俺も読み解くに苦労するレベルなのだが、物前さんはそれを見てふんふんと軽く頷きながらそれを眺めている。
そして、数秒ほどたったあと口を開いた。
「……ん? これさ、眼鏡かけたら前見えなくない?」
「むむ!? あ、本当ですね。流石夢希ちゃん、見抜くのが早い……」
「……」
マジか……確かに、言われてみればそうなんだけど全然気づいていなかった。その後も、ちょっとした問題点をささっと見つけて指摘していく物前さん。
……もはや嫉妬なんかしていられなかった。この人は、物前さんは間違いなく魔法の専門家だ。俺なんかじゃ想像もできないほどに。
俺が心の中の整理をつけている間に、物前さんはささっと修正するための魔術式を書き足していく。マジでとんでもないぞこの人。
「えっと……こうか。こうやってこうなるから……これ全部記入するの難しくない? 場所がないよ?」
「そうなんですよ……そこも問題点でして! 今の不具合で記述式がさらに増えましたので!」
美弥子さんの発言に物前さんが腕を組んで考え込み始めた。
結局のところ、これをどうにかできないとどうにもならないんだよな。そもそも機能しないということになるわけで……ぶっちゃけ、面積を考えないのなら簡単なんだ。仮面にでもして、それに書き込めばいいからな。でもそれじゃ目立ちすぎだし、そもそもの目的である顔の傷を隠すの達成するのに魔術式がいらないとかいう本末転倒っぷりだしな。
しばらくそうやって悩んでいた物前さんだったが、やがて考えがまとまったのか口を開いた。
「…………うん。とりあえず、記述式を短縮するんじゃなくて、まずは面積を増やそう」
「え、面積をですか?」
「はい。ゴーグルみたいにしましょう。ちょっとごつくなりますけど、その分書き込む面積は増えて、レンズの部分だけを見えるようにすれば済むようになります」
「なるほど……」
俺たちは、眼鏡ってことに拘り過ぎていたのかもしれない。確かに、そういったゴーグル、いやスポーツグラスみたいな感じにすれば面積も増えるし、かけた側から見えるようにする魔術式も減る。見た目にしたって、そこまで変なデザインでもないし、冒険者なんかだとそっちの方が使いやすいだろう。それに、スポーツグラスなんかだと、後ろで止めるパーツなんかもあるから、さらに書き込む範囲も増える。
大森部長が、行き詰ったら一回外から考えてもらえって言ってたのはこういうことなんだろうか。たまにある素人だから気付く視点、っていうのは失礼か。でも、それに近いものがあるかもしれない。
ふんふんと納得しながら、スポーツグラス型の模型でも作らないとなってメモ書きをしていたら、とんでもないことが起きていた。
「えっと、魔力の通り的には、ここがちょっと変だからこっちに変えて、ここはこう迂回したほうが他と干渉しないし……」
目の前で、物前さんが
魔力の放出くらいなら、割と誰にでもできる技術なのだが、空中に固定するとなると出来る人を見たことがない。魔力というのは……例えるのが難しいが、水とか電気みたいなもので、流せはするけどレールを用意しないと制御ができないものっていうのが定説だ。
だからこそ魔法というのは、魔術式に対して魔力を流して魔法が発動しているわけで。これは普通の魔法でも変わらない。だから、今物前さんがやっているのは、水を空中に浮かべて操っているみたいなものだから……ど、どうやってるんだそれ!?
「いつも思いますが、それどうやってるんですか!?」
「どうって……出来るからやってるとしか……」
「わかりました!」
「何が……?」
「夢希ちゃん以外には出来そうにないということが!」
美弥子さんの発言に心の中で大いに頷く。めちゃくちゃ練習すればワンチャンあるかもしれないけど、その時間で研究するべきだと思うしな……成功する確率の方が低いだろう。神業と言った方がいいレベルだ。
そしてそのまま、空中の魔術式をいじくり始めた。
「…………ここはこうして、こっちをこうすれば短縮できて、後ここの魔法はこれとこれに変えよう。式も短いし、まとめると同じような効果になる」
「なるほど……あ、ここも変えましょう! 固定するための紐のところにスイッチとか充電とか全部入れ込みます!」
「あ、そう? じゃあこれは削って……」
「範囲指定の術式を書くので、ここは開けておいてもらえますか?」
「わかりました。えっと、ここと干渉しないようにここをこうして……」
「あ! ここはこんな感じに出来ますか!?」
「う、うん……」
「強度上げもしたいのでここに……」
「は、はい……」
美弥子さんと一緒に物前さんによって空中に書かれた魔術式に意見を出しまくる。せっかくできるんだ。思いつく限りを試さないともったいない! こうやって空中に書かれると、それぞれの位置まで見えるから、まだ空いている空間もよく見える。硬度上げだったり、軽量化だったり、やりたいことはいくらだってある。レンズの部分にも傷がある場合の措置なんかも考えないといけないし、バッテリー部分の改良なんかもやりたい。
そのまま美弥子さんと一緒にひたすら案を出し続け、それに物前さんが対応するという形で開発は続き、そしてついに。
「………………これで、どうかな……?」
「はい! 一度作成してみましょう!」
「じゃあ、この眼鏡を使ってください。用意しましたので」
「どうも!」
出来上がった図面をもう一度平面に落とし込み、模型として作った眼鏡に美弥子さんが魔術式を書き込んでいく。
物前さんは疲れたのか、椅子に座ってぼーっと虚空を見上げていた。目、目が死んでる……ちょっと要望出しすぎちゃったか……流石に申し訳ないので、コーヒーを持ってくる。物前さんにお礼を言われてけれど、こんな程度で申し訳ない……でも、茶菓子はないんだこの部屋。みんなが糖分を欲して無限に食べちゃうから、この部屋には持ち込まないようにするのがルールになってしまった。一時期、全員健康診断で引っかかって、運動漬けだった時期があったらしい。
美弥子さんにも持ってきたが、全くの無反応だった。集中してると周りが一切目に入らなくなる人だからな。
「…………」
手元に集中し、額から流れる汗も気にせず作業をし続ける美弥子さんを見ていたら、物前さんから話しかけられた。
「磯野さんは、美弥子とは長いんですか?」
「いえ、この研究の時に初めて話したくらいで……」
「そうですか」
う、物前さん無表情すぎるし、口調も淡々としてるせいで今のが正解だったのかわかんねぇ……! 若干気まずいと思っていたら、物前さんが口を開く。
「美弥子は猪みたいなやつなので、苦労してませんか?」
「い、いえ特には……研究に対する姿勢とか、勉強させてもらっています」
「そうですか……」
両手でマグカップを持った物前さんは、コーヒーをちょっとだけ口に含んだ後呟くようにこう言った。
「これからもよろしくお願いします。この通り、集中するとこうなので」
「……はい」
さっきの時は塩対応だったけど、物前さんも美弥子さんのことは気にかけているみたいだ。まあ、あれか。結婚とかが対象外なだけで、従妹としては仲良さそうだったしな。さっきも、色々魔術式を弄っているときは楽しそうに話していたし。
実際、集中しすぎて飯食べなかったりするから、俺も出来るだけ美弥子さんの健康に気を遣おう。俺の健康にもつながるし。
「……ふぅ、出来ました!」
「お疲れ様」
「お疲れ様です!」
俺が物前さんと話している間に美弥子さんは魔術式を書き終えたらしい。
物前さんが出来上がった模型を受け取り、おもむろに装着する。まだバッテリーが付いていないから、魔力を流せる自分がまず試すって。何かあったら《魔力障壁》で防御も出来るからと、さっとつけてしまった。
「……どう?」
「ええ、完璧ですねこれ!!」
模型を身に着けた物前さんの顔を見て、確かに、完璧な仕上がりだと思った。……多分大丈夫だと思う。
そして、さっと物前さんから美弥子さんが模型を奪い取り、自分でかける。
「ほら、見てください!」
「うわっ、のっぺらぼう!?」
物前さんが驚きの声を上げる。まあ、そうだよな、驚くよなこれ……でも、これで今は完璧だと思う。顔前面にきちんと光学迷彩が機能しているってことだから。
「……え、これ成功なの?」
「もちろん!! こちらからは鮮明に周りが見えますし、全面隠せるんですから、あとは個人に合わせて調整するだけです!」
「あとは空いてる隙間とかに書き込むだけでどうにかなりそうですから」
物前さんは驚いているけど、実際美弥子さんの言う通りなんだ。ここまですらできていなかったのが、一気に進んだ。
にしても……のっぺらぼうになれる上に、ちゃんと向こうが見えるって……
「……お化け屋敷とかによさそうっすねこれ」
「! 充電機能をオミットして、使い捨てにして売り出しましょう! 研究費の確保です!!」
お手柄ですよ! なんて美弥子さんに褒められてなんだかなあって感じだ。褒められたことは嬉しいんだけど、内容が内容だしな……みたいな。いや、研究費の確保ってめっちゃ大事なんだってわかるんだけどさ、その、な? もっと別のところでほめられたかったというか。
というか、一瞬で充電機能オミットからの使い捨て販売っていう発想が出てくるの手慣れすぎてるだろ……物前さんもなんだかなー……って感じの遠い目してるじゃないか。
「今日は本当にありがとうございました夢希ちゃん!」
「本当にありがとうございました。また来てください」
「はい……気が向いたら来ます」
「気が向いたらなんですね……」
「……私宛の依頼の数がちょっとシャレになっていないので……」
そう言って収納魔法から広辞苑かと見まがうほどの分厚さのバインダーを取り出されて唖然としてしまった。それは、確かに気が向いたらとしか言えないよな……というか、よく来てくれたなそんだけの数がある中で。確かに、光源魔法そのものが夢希さんの案だというのは聞いていたから、それでだろうか?
そのあと、少しだけ会話をして、物前さんは帰って行った。
それにしても……そうか、あの人が、『
いつから夢希が七不思議に入っていないと錯覚していた……?