【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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時間空いちゃってすいませんでした。


配信に興味のない私と引っ越し

 

 配信を休止し、ダンジョンに潜ることもしていなかった私は、それでもなんだかんだあわただしく日々を過ごしていた。引っ越しの準備をしたりクランの依頼をこなしたり友人たちと遊びに行ったり。この一週間は充実していると同時に結構精神的に疲れるものであった。

 しかし、それはもう終わりだ。今日は引っ越しの日。明日からダンジョンに潜ることを再開するのだ。即時の対応がよかったらしく、私を特定しようという動きは一応止まったらしい。一部にそういう人たちはいるようだけど、一般人が冒険者相手に特定作業をするというのは思ったよりも困難だそうなので、割と大丈夫だということだった。

 まあ、生活範囲が違うしね。良くも悪くも、冒険者と一般人は差が大きい。

 今の時代に剣やら鎧やらで武装するのは冒険者くらいだし、そういったところにやってくるのも冒険者しかしない。魔道具なんかも買い求めるのは冒険者ばかりで、一般人はほぼいない。一部の魔道具だったら一般にも公開されているけど、そもそもそれだって普通の量販店に売っているものだから、冒険者用の専門店にはやってこない。

 逆に、冒険者側も食料品の買い物や役所への届け出くらいでしか一般人と会わなかったりするし……あとは飲食店くらいかな? 私みたいに普通の学校に通ってる人もいるけど、それはごく少数。普通はみんな冒険者学校に行くからね。

 彩音さんと花奈さんも、街で話しかけられたりしなくなったって言ってたし、これはもうダンジョンに潜っていいだろう。いいよね? まあ、ダメって言われても潜るけど。流石に我慢の限界だし。明日は日曜日だから一日潜ります。絶対に。だから、今日中に引っ越しを終わらせないとね。

 段ボールの箱がいくつも並んだ自分の部屋で決意を新たにしていると、背後に人の気配。これはお父さんだね。

 カッコつけたけど、2人暮らしだから当たり前なんだけどね。

 

「忘れ物はないか?」

「……うん、これでいいかな」

 

 荷物の最終確認をして、お父さんの方を振り向くと、手に何やら布でくるんだ細長いものを持っていた。なんだろう?

 

「夢希、これを持って行ってくれないか?」

 

 差し出されたそれを受け取って、布を取り払うと、中にあったのはお母さんの位牌だった。

 

「え、いいの……?」

 

 これは、お父さんにとって大事なもののはずだ。それこそ、一番だと思っている。だって、お母さんの位牌だよ?

 そう思ってちょっとあわあわとしていたら、お父さんがふっと笑って私の頭を撫でた。

 

「流石にこれは他人に触らせたくはないし、片手で磨くのは難しいからな。頼むぞ」

「うん、わかった」

 

 お父さんから位牌を受け取って、念のためにタオルでくるんでから荷物の中へ。寝室に置いておこうかな。寝る前に報告も出来るし、その時に掃除もすればいいだろう。

 収納魔法の中に荷物をしまって玄関に向かう。靴を履いて、お父さんの方を振り向く。

 

「…………えと……」

 

 今日が最後だと思うと、いつもの挨拶が出てこない。

 

「行ってらっしゃい」

「……行ってきます」

 

 お父さんからの挨拶にはなんとか返事を返す。う、最後なのに……

 

「いつでも帰ってこい。俺は待ってる」

「! うん、行ってきます!」

 

 お父さんの声に顔を上げる。そうだ。何も最後じゃない。帰ってくればいいんだ。変に考えちゃってたな。

 私は笑顔で、今まで過ごしてきた家を後にした。

 

 

 

「よし、出来た。最低限の家具しかないしね……」

 

 寮について荷解きをささっと終わらせた。寮の構造は一回陽向の部屋を見させてもらったので把握してたしね。

 そもそも量が少ないけども。何が必要なのかだけ見てそれだけしか用意してないんだよね。時間無かったのもあるし。これから買い足していけばいいかなって思うけど。

 まあ、そもそもミニマリストってわけじゃないけど物を買うタイプじゃないので、物がないのは間違いない。服入れるためのタンスとかクローゼットの中に全部入っちゃうくらいだし。そのこと話したら、愛依から普通はもう一個くらいあるだろって謎にキレられてしまった。そんなに服買ってどうするんだ……?

 あと、冷蔵庫とベッド以外は収納魔法に入ったので、運ぶのが自分っていうのも大きいかな。その2つも一旦コルドロンの方で預かってくれたし。

 

「さ、2人の手伝いに行こ」

 

 彩音さんと花奈さんのお手伝いに行こう。2人とも荷物多かったし、大変そうだからね。荷解きそのものはともかく、配置やらは浮遊魔法でパパッと出来るのだ。私の家具配置もそれで終わったしね。

 ちなみに、部屋は私、彩音さん、花奈さんの並びで、花奈さんが一番端っこだ。そして、私の反対隣は陽向だった。陽向は陽向で、昨日のうちに引っ越し完了してたらしい。まあ、すぐそこだしね、元の部屋。

 

「というわけで来たよ」

「早すぎない……?」

 

 まずは彩音さんからである。私が来るのが早くて驚いていたけども。2人と違って物がないから余裕なのだ。冒険者としての装備もここにあるし、調理器具やらなんやらも白石さんにあずかってもらっちゃったからね。使ってない部屋だから物置にしていいよって鍵渡されたんだよね。

 ちょっと引き気味の彩音さんを前に腕まくりをする。さあ、やるぞ。明日のために。

 

「どこに運ぶのか教えてくれたら全部運ぶよ」

「えっとね、じゃあ、これとこれとこれは寝室に」

「はーい」

「こ、これとこれはそっちに……」

「はい」

 

 言われたとおりに家具家電やら段ボール箱やらを浮遊魔法で浮かせて移動させる。こういう時本当に便利だよこの魔法。重量も大きさも関係ないし。なんなら、段ボール箱を縦に重ねたままでも移動させられる。こんなに引っ越しに便利な魔法は他にないよ。

 体が大きかったら、そもそも使わなくても同じくらい運べるとか言わない。実際、彩音さんは似たようなことを普通に出来るんだから。

 

「ありがとね夢希ちゃん。あとは自分でどうにかするよ」

「どういたしまして。花奈さんのところ行ってくるね」

「はーい」

 

 彩音さんのところでやることは終わったから、次は花奈さんのところだ。花奈さんの方が荷物多いから、結構時間かかると思うんだよね。前の家のサイズは彩音さんと大して変わらなかったけど、お酒の量がすごかった。この前二棚しかないって言ってたはずなのに、普通に各種類で棚一個分くらいずつあったよ。行ったとき彩音さんと二人で唖然としちゃったもの。

 当人はどこ吹く風で棚の整理してたけども。全部持っていくつもりだったみたいなんだけど、多分入りきらないって話になって、それをどうしようかって……

 結局、他の探索部門の皆様と顔合わせなどあるのでしょう? ということで、私が貸してもらった白石さんの部屋にその分が入っている。顔合わせで当然のようにお酒を飲む想定なのが花奈さんらしいけどね。ほどほどにお願いね。

 

「花奈さん、手伝いに来たよ」

「夢希さん、ありがとうございます! 早速お願いいたしますわ」

 

 彩音さんの時と同じく浮遊魔法で家具やらを配置していく。本当に棚が多いなぁ……その中身もね。段ボールが彩音さんの倍くらいあるのに、その中身がほぼお酒なのはどうかと思い始めた。趣味のものにしたって多いでしょ。

 どうせなので中身も片っ端から棚に放り込んでいく。箱から出して、浮遊魔法で持ち上げて、そのまま突っ込む感じだ。うーん、一気に棚が埋まっていくのが気持ちいいなこれ。

 流石にワインセラーに入っていたものには触れないけども。絶対高いやつばっかりじゃん。

 

「これで大丈夫?」

「はい、後は自分で何とかしますわ。ありがとうございました」

「どういたしまして」

 

 さて、私は料理でもしようかな。3人で引っ越し完了と前回の事件の余波が大体収まった記念に宅飲みなるものをすることになったからね。ピザでも取ろうか、みたいな話をしていたけど、別に手料理だってかまわないだろう。

 まだ昼過ぎだし、今から作れば結構凝ったものを作れそうだ。頑張るぞー!

 

 

 

「はい。というわけで、かんぱい」

「かんぱーい!」

「乾杯!」

 

 すでに太陽が落ち切った夜。私の部屋に3人で集まって、グラスを掲げて打ち付ける。割らないように軽くだけどね。

 私はオレンジジュースを、他二人はビールをそれぞれグラスに注いでいた。始まりはビールなんだってさ。

 テーブルの上には、私が作った料理が所狭しと並んでいる。オードブル系がいいかなって思って、揚げ物が中心だけども。唐揚げとかポテトとか。さっぱり要員にサラダとマリネを作った。さらに、初挑戦のピクルスも用意した。ちょっと味薄いけどね。もうちょっとつけないとダメみたいだ。次回までの反省点である。

 そして、最大のメインとして、ブレイクレッグの胴体を丸々使ったピラフ詰めである。やってみたかったんだよねこれ。部屋にオーブンまであったしさ。張り切って作っちゃった。ダンジョンの中で作るには時間がかかりすぎちゃうし、どうにか短縮できないものか……まあ、気にせず作ってしまうのもありかもしれないけど、その場合はオーブンをどう持ち込むかの話になるし……もう一人くらい収納魔法持ちが居てくれたらその人に任せたいところだけど、今は荷物の容量が足りないからしょうがないのだ。

 あ、《ガイアウォール》でのピザ窯生成に関しては、もうちょっとしたら出来そうだ。どうにも綺麗に半球にくりぬけなくてね……

 

「うーん、美味しい!」

「夢希さん、こちらはそのまま食べてしまってよいのですか?」

「うん、こんな感じで切って、そのままいって大丈夫」

「ふふふ、このような料理も自宅で作れるとは、素晴らしいですわね……」

「前に住んでた家よりもキッチンの設備が整ってるからね」

「すごい豪華だよね。使いこなせないと思うけど……」

「わたくしも、宝の持ち腐れになりそうですわね……」

 

 なんだか2人がアンニュイな感じに。いや、別に使いこなさなくていいんじゃない? 大体さ、部屋の使い方がどうこう言うなら、この私の部屋をみなよ。ソファ1個と机しかないリビングだよ? その机が小さすぎて、結局ダンジョンで使ってるキャンプ用の机取り出したくらいなのに。

 人を集めるにはいいかもしれないけどね。そんなに集まっても他の人に迷惑かかるだろうし。

 そうだ、明日の予定を2人に伝えてない。

 

「明日はダンジョンに行くからね」

「あ、どこ行くの?」

「品川。下層に行ってハイオークを食べよう」

「ハイオークですか。上位種を食べた経験は無いのですわよね?」

「うん。だから、味を比べるためにオークも狩るし、可能なら深層のオークジェネラルとオークライダーも狩りたい」

 

 品川ダンジョンは、ボスがオークキングだからオーク系がたくさんいる。渋谷はボスがゴブリンキングなので、ゴブリン系がたくさんいる。ボスと系統が似ている魔物が多めに出現しやすいのがダンジョンの不思議なところだ。もちろん、その例外のダンジョンも色々あるけどね。

 この前の冒険でオーク自体もあっさり目の豚肉であることが分かったし、オークの上位種であるハイオークたちも食べてみたいのだ。ハイオークはオークの純粋な強化版って感じで、体格が大きくなっている感じだが、深層の2体はかなり特殊、というか、深層以降のモンスターはだいぶ特殊なものが多いから、その例に漏れずってだけかな。でも、他の深層のモンスターに比べると普通って感じ。魔法とか使ってくるわけじゃないし。

 ついでに依頼のこともあるし、ブレイクレッグキングも狩らせてもらう。下層にいるしね。アンチマジックシェルとトロルは……一旦おいておこうかな。特にトロルはどうしたらいいのかわかんないし。サイズ的に。大きすぎて持ち帰れないよ。

 私の発言に2人は顔を見合わせると、眉を下げた。

 

「深層は流石に……」

「わたくしたちが完全に足手纏いになりそうですわね……」

「そうかな?」

 

 2人とも下層であれだけ余裕そうに立ち回っているのだし、深層でも大丈夫そうだけどな……もちろん、私の援護がある前提の話ではあるけども。流石に二人だけを深層に放り込んだらあっという間に死んじゃうよ。そんなことはしません。

 深層の2体と後ボスのオークキングに関しては保留することにした。深層にちょっとだけ入ってそのあとで考えてもいいわけだしね。

 

「しかし、豚肉ですか……何をおつくりになるご予定で?」

「この前作らなかったものが良いと思って、豚キムチとか回鍋肉とか豚汁とかその辺の予定」

 

 豚肉だから、結構色々出来そうなんだよね。白菜と合わせてミルフィーユ鍋とか、しょうが焼きとかさ。今まで食べたモンスターの中で、癖のほぼないものっていうとアルミラージとブレイクレッグくらいだったから、結構新鮮だし、色々料理できて楽しみなんだよね。

 

「可能ならトンカツなどもどうでしょう?」

「いいね、油も持っていこうか」

「はい! ならカツ丼食べたいな!」

「カツ丼もいいね……ふむ、お昼ご飯にカツ食べて、夕飯は中華系にしようか。前とちょっとかぶっちゃうけど」

 

 2人の提案に頷く。トンカツ、いいね。前のダンジョンブーブーの時のリベンジにもなる。あの肉と違って臭みもほぼなかったから、問題なく揚げられるはずだ。それに、カツ丼。卵とじというのはちょっと頭から抜け落ちてたなぁ。鶏肉はあるんだ、親子丼とかもいいかもしれない。

 はっ、鶏肉あるし、玉子もある。オムライスとか作れるんじゃない……!?

 一人でこれから作れそうな料理で頭を埋め尽くしていたら、花奈さんが微笑みながら楽し気に話し始めた。

 

「ふふ、また餃子も食べたいですわね。前はなんだかんだ味わいきれませんでしたので」

「あ、そうだよ! 餃子も食べたいなぁ」

「流石にそんな食べられなくない?」

「別に一度に食べなくていいでしょ?」

 

 確かに。何度も食べに行ってもいいし、持って帰ってきてもいいわけだしね。私も一応の収入源を手に入れたわけだし、これから貯金して遠征費を稼がないとね。北海道から沖縄まで、いろんなダンジョンでモンスターを食べるのだ……!

 そのあと、他愛もない話をしながら夕飯を食べて時間は過ぎていった。

 食べ終わった食器の片付けとかをしたら、いい時間になったので解散。となって、それぞれの部屋に帰るというとき、彩音さんが思い出したように私に言った。

 

「そうだ、明日楽しみにしててね」

「? うん」

「ふふ、ではおやすみなさい」

「おやすみ!」

「おやすみなさい」

 

 ドアを閉じて、1人残った部屋の中、お風呂の準備をしていたら、なんだか違和感を覚えて首をひねる。

 彩音さんの口調的に、「楽しみ」は、ダンジョンに行くことではないような気がする。だってそれは、彩音さんが用意するものじゃないからだ。それに、花奈さんも意味深に笑っていたし、何かある……?

 しばらく考えてみたけど、思いつくことがなかったので、お母さんへ今日の報告をしてから寝ることにした。

 

 




ダンジョンに行くぞー!!!
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