【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
品川ダンジョン下層。上層中層と変わらず、大空洞とも呼ぶべき広間が岩をくりぬいたような洞窟でつながっている。ここに出現するのは、ハイオーク、ブレイクレッグキング、アンチマジックシェル。そして、レアモンスターのトロルである。
中層までと大きく違うのは、ハイオークが大きな群れを形成しながら動いていることと、ブレイクレッグキングとアンチマジックシェルの奇襲があることだ。
ハイオークは同族で群れを成しており、連携こそしてこないものの物量で押し流してくるので、結構危険だ。最低でも10頭前後の群れだし、大きなものになると50近くなったりする。大きな群れになるほど進軍速度が遅くなるという性質があるので、見つけ次第魔法を準備して先制攻撃、数の減った群れを撃破しに行く。というのがよく見られる戦術。私は気にせず《魔力の矢》で薙ぎ払っちゃうんだけどね。
そして、ハイオークの群れ相手に戦い続けていると、それを察知したブレイクレッグキングが横から蹴りを入れに来る。なので、戦闘を極力避ける、もしくは速攻が大事な階層だ。
ただ、ブレイクレッグキングは横からの奇襲ならともかく、正面からなら突進からの飛び蹴り以外何もしてこないので、そんなに脅威じゃない。上層のブレイクレッグと違って群れを形成する習性もないから単騎だし。
アンチマジックシェルに関しては、隠れるように地面に半分埋まっていて、それに気付けるか否かが結構大事だ。気づけないとハイオーク相手に魔法が使えないなんてなりかねない。とはいえ、こいつらは基本的に動かないし、探知系スキルに変な反応として映るので、さっさと排除するか場所を変えてしまえばいい。たまにアグレッシブな奴もいるけど、そういうやつも適当に石でも投げつけてやれば問題ない。魔法攻撃には強いけど、物理攻撃にはめっぽう弱いからね。殻が壊れれば攻撃も防御も出来ないので、それで無力化可能である。
トロルに関してはそもそもレアモンスターだし、近づいてきたら足音で気付く上に他のモンスターも逃げ出すのでそんなに怖くはない。前みたいな特殊個体でもない限りはね。
総じて、ハイオークの群れを如何に迅速に排除し続けられるかが問われる階層である。そんな階層を、私たちは軽くおしゃべりに興じながら歩いていた。
「ハイオークってさ、豚っていうよりも猪っぽいよね」
「確かに、牙がそれっぽいですわね」
"確かに猪っぽい”
"オークよりも戦闘型みたいな感じするよな”
"下層ってこんなにおしゃべりできる階層だっけ?”
"前衛2人とも強いし、片方ユニーク装備持ちな上にユキちゃんがいるからまぁ…”
"それもそうか”
「それにしても、割と余裕ですわね……少人数ですし、もっと手こずるかと思いましたが」
「彩音さんの火力が一気に上がったからね。私の援護がほとんどいらないくらいだし」
「えへへ」
ハイオークの群れに対しての戦術はこうだ。最前線の花奈さんが前衛系のスキルである《挑発》を使って注意を一か所に集中させ、突進してきたハイオークに向かって《シールドバッシュ》で無理矢理足を止める。前のハイオークが突然足を止めれば、当然後ろのハイオークは詰まって混乱する。そこを彩音さんが横から一気に刈り取りに行く。という感じだ。
私は、後ろから見ていて危なそうなら《魔力の矢》で仕留めていくだけ。彩音さんの火力の上昇具合がとんでもなくて、見ていて安心感がある。武器一本でここまで変わるもんなんだね……
もちろん、本人の努力もある。明らかに動きがよくなってるし。自分で倒すことに迷いがなくなった感じだ。
「わたくしも何かしませんと、おいていかれてしまいそうですわ」
「前衛盾使いヒーラーの時点で役割果たしすぎてるくらいじゃない?」
「お二人とも怪我など滅多になさらないではありませんか」
「それはそうだけどさ」
"前衛2人はともかく、ユキちゃんがケガする状況思いつかねぇ…”
"ユキちゃんがケガする状況って、もう死ぬだろそれ”
"縁起でもないこと言うなし”
"後衛までモンスターが来てるんだもんな”
"前衛抜かれて後衛がケガするのは、死ぬ状況なのよマジで”
2人が会話をしながら歩いていくのを後ろで眺めながら、スマホを見る余裕すらあるくらいである。まあ、今確認してるのは、時間をみようと思ったついでに見ているだけだけども。
リスナーさんたちの言う通り、後衛の魔法使いのところまでモンスターが来ているのは、本当に死にかねない状況である。花奈さんみたいに意図的に後ろに送るならともかく、抑えきれずに後衛までモンスターが来ているのは、純粋に処理が間に合っていないということだ。そして、後衛は基本的にタメがいるので、モンスターが目の前まで来ていると立て直すのは非常に困難。逃げるにしたって、それは前衛を見捨てるのと同義だしね。
そんなわけで、彼らの言う状況というのは、本当に危険な状況なのである。ただ、私たちの場合は、危険になったら私が2人を抱えて飛ぶ。という手段が取れるので他のパーティほど危険じゃないかな。
私がそんなことを考えている間に、彩音さんがブレイクレッグキングが単騎で突っ込んできたのを、軽く横に避けて、そのまま首をはねてしまう。うーん、鮮やか。
「ブレイクレッグキングも、一頭だけならそんなに怖くないもんね」
「いえ、それなりに怖いはずなのですが……」
「ミノタウロスとタイマンするよりはずっと怖くないよ」
「比較対象がおかしいですわよそれは」
"アヤネさん…”
"俺たちのアヤネさんがおかしくなっちまった…”
"許さん、許さんぞユキちゃん…!”
"正当性のある怒りで草”
彩音さんの言う通りだと思うけどなぁ……ミノタウロスと違って、本当にワンパターンでしか攻撃してこないし、首が脆いから攻めあぐねることも少ないし。あいつ全身硬いからな。
そうだ、今見た時間を伝えないと。そろそろご飯だよ。
「もうちょっとで12時だから、そろそろ一回レベリングはやめてご飯の準備ね」
「わかりましたわ。さて、もうひと頑張りいたしましょうか」
「うん!」
2人とも、思ったよりもサクサクいけてるからか、大分余裕だね。実際余裕あるんだろうし、午後もレベリングに当てようかな。深層に行くのは厳しそうだしね。彩音さんが武器を完璧に使いこなせるようになってから位でいいだろう。どうしても食べたくなったら、その時は私単騎で行って、即回収して帰ってこよう。
その後も、数十分ほどハイオークの群れと戦ってレベリングをした後、ハイオークとブレイクレッグキングを2体ずつ確保して、拠点を作成した。片方は食べる用、もう片方は納品用だ。アンチマジックシェルも確保したかったんだけど、どうしてもうまいこと確保できなかったので、何か方法を考えないとね。
"うーん、相変わらずキャンプ”
"テントがあれば完璧だな”
"これよこれ。これが見たかったのよ”
"癒されるぜ…”
"画面暗転しまーす”
"あらー”
「さて、じゃあこれ捌いていくね」
「ふふ、ユキさん、少々お待ちくださいな」
「うん?」
防護服を着ていざハイオークを捌こうとしたとき、花奈さんに呼び止められた。
なんだろうと思ってそちらを見ると、私が着ているような防護服を服を着た2人の姿が見えた。
「じゃーん! 私たちの防護服!」
「これで一緒に解体ができますわね」
"まさかの解体三人娘www”
"どんどんユキちゃん化していく…”
"実際問題、みんなで解体するほど食べるんか…?”
"持ち帰りとかじゃない?”
"前は仕事って言って持ち帰ってたしな”
なるほどね、どうりで荷物が多いわけだよ。そこそこ嵩張るからね、防護服。2人に合わせたのか、赤と青の防護服だし。中々綺麗でいいと思う。私のはシンプルに白いやつだからね。
でも、一緒に解体しようとしてくれるなんて嬉しいな……食べようとしてくれるだけでもうれしかったのに。
「じゃあ、一緒に解体しよ……いや待ってナイフは?」
「「あ……」」
"あw”
"草”
"大人たちはさぁwww”
"あ、じゃねぇのよw”
"もう、素手で行けwww”
ナイフ忘れたんじゃ解体出来ないじゃん……顔を見合わせてやっべぇ……みたいな顔をしている2人に呆れてしまう。多分防護服作ってテンション上がってそこでやめちゃったんだろうね。気持ちは分かるよ。私もよくやるから。
とりあえず、予備のナイフもあるし2人にやってもらいつつ、私は横から口を出す感じで行こうかな。分かりにくいところはやって見せればいいだろう。
「…………私の貸すから、それでやろうか」
「ありがと……」
「申し訳ございません……」
出鼻をくじかれて若干しおれている2人に教えながら、ハイオークとブレイクレッグキングを解体していく。ハイオークが彩音さん、ブレイクレッグキングが花奈さんの担当だ。二体とも、二足歩行のモンスターの基本と鳥型のモンスターの基本なので、そこまで難しくはない。変なパーツもついてないし。
でもそれは、他のモンスターを体験した私だからこそ言えることで、初めての2人には中々に厳しいものだった。
そもそも皮だけ切るとか、そこから肉を分離するとか、今では当たり前にやってたけど、慣れるまでは途中で皮を切ってしまってどうしようってなったりとか、肉を残しすぎちゃってもったいないことになったりしたものである。骨が折れちゃったりとかね。
まさに2人もそんな様相を呈しており、ちぎれてしまった皮やら、肉のたくさんついた骨などがたくさん生産されていた。でも、基本的な関節の外し方なんかは一発で成功していたりと、初めての時の私よりは手際がいい。
一通りの解体が終わると、2人とも流石に疲れたようでぐったりとしていた。
「ふぅ……これ本当に大変だね……」
「ユキさんはよく、何でもないようにこなせますわね……」
「慣れだよ慣れ。あとスキル」
"いやあ、無駄な部分がたくさん!”
"ユキちゃん上手だなぁ…”
"2人はまだまだですなぁw”
"継続は力なりってこういうこと言うんだろうな”
"ここまで画面暗転中”
"何も見えてないんだよなぁ…”
"お前らさぁw”
2人がぐったりと休憩している横で、私はささっと持ち帰り用の二頭を解体してしまう。スキルの恩恵もあるから、流石に2人よりは圧倒的に早い。これに関しては完全に慣れだよね。本当に。程よく成型したのち、凍らせてから鍋に放り込んで、収納魔法へ。
そして、2人が捌いた肉を成型してから薄く切ってと。さ、味見用に焼いていこうねー。薄く切ったから、火の通りも早いね。
「……さ、食べよ? まずは味見だよ」
つまようじに刺した肉の欠片を2人に差し出し、一緒に口の中へ。
「ブレイクレッグキングもハイオークも、味は下位の物よりも美味しいですわね」
「ね、濃厚になってるっていうか」
「ハイオークが特に美味しいね。甘いし。変な臭みもない」
"お、当たりか?”
"【朗報】ハイオーク美味しい”
"やったぜ”
"上位種の方が美味いのか?”
ハイオークはまさにお高めの豚肉って感じの美味しさで、癖がなく甘みのある肉だった。硬くもないし。
ブレイクレッグキングは、肉が柔らかく、癖が減っている感じだ。味そのものはそんなに変わってないかもしれないけど、ジビエ感がだいぶ減ったので食べやすい美味しさだと思う。
この感じ、絶対に深層のオークたちはもっと美味しいやつじゃん! オークキングなんてどれほどの美味しさなのか……とはいえ、確かに2人のレベル的にも、人数的にも、危険なのは間違いないので、一旦やめる感じかな……私と同じくらいの前衛が一人いたらだいぶ違うんだけどね。
……なんだろう? なんか嫌な予感がしたような……?
ま、まあいいや、当初の予定通り、このお肉でカツ丼作るぞー!!
???「へー、品川にいんのかー……」