【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
「今日の配信はここまで……えーと……お疲れ様でした…?」
"おつかれーw”
"合ってるから自信持ってくれwおつー”
"おつおつ”
"おつかれさまw”
私は、渋谷ダンジョンの入り口横の小部屋で配信を閉じた。無意識に緊張してたのか、ため息が出て少し驚く。このやり方、やっぱり対策としてはいいかも。そのうち慣れちゃうだろうから、別の方法も考えないといけなくなりそうだけど……とりあえず、今はこれでいい。
それと、リスナーの反応を見てる限り、良くも悪くも私の反応を求めてはいないっぽい。途中からいつも通りに無視してたけど、それならそれでって感じだ。反応してくれたら嬉しいし、反応も返すけど、基本的には自由にやってくれ。俺たちはそれ見て勝手に楽しむから。みたいなスタンス。やっぱり、スポーツ中継を飲み屋で見てる人たちみたいな感じがするな……今まで通り、彼らを気にする必要はないかもしれないけど、完全に気にしないのは難しい。だって、知ってしまったから。彼らは、私の冒険を、楽しんでくれてるということを。私は冒険譚にワクワクしながら育ってきた人間だから、自分がワクワクさせる側にいるのはちょっと嬉しいし。
それはそれとして、ちょっと価値観の違いを感じるけど…!私が変人な自覚はあるけど、こんなに違うとは思ってなかったよ。ダンジョンの配信見てるんだから、ある程度冒険者とかには詳しいだろうし、冒険者らしき発言も何度かあったから、冒険者もいるはずなのに、なんでこんなに価値観違うんだ…?なんだか腑に落ちないまま、帰路につくことにした。
時間としては結構ギリギリになってしまった。行きはともかく、帰りはショートカットがないから、そこそこかかるんだよね。ミノタウロス?あー、見つけて消し飛ばして、ドロップアイテムの革を、カッターで切ってハンマーで叩いて、ベルト作ってショートソードの柄に巻いたよ。なんなら、今身に付けてるよ。見た目も性能も、特筆するところはない、普通のやつだ。特殊効果でも付けようかとも思ったが、そもそも消耗品だから、拘ってもなぁ……ってことでやめておいた。時間もなかったし。
家に帰ってきて、さっとシャワーを浴びて汗を流し、お母さんにただいまを言ってから炊飯器のスイッチをオン。まずは汁物から。ただ、こっちはそんなに手をかける気はない。頭側の切り身を取り出して、塩を振る。多分、魚のにおい落としと同じ要領でいいはずだ。ウツボなんだから、魚だろう多分。15分ほど置いておいて、出てきた水を拭き取ったのち、熱湯をかけて冷水に潜らせる。表面の色が変わったらオッケー。あとは、普通に味噌汁作る要領でいいかな。お吸い物みたいにしようか迷ったけど、ちょっと美味しいのを作れる自信がないから、味噌で誤魔化す方向に。ちょっとくらい出汁が出ると嬉しいなと、味噌をいれる前のお湯に砂ウツボを投入。
さぁ、蒲焼きを作ろう……!3枚あるから、1枚は白焼きにしよ。2種類あったほうが楽しいし。
まずはタレを作らねば。醤油、みりん、砂糖、酒を混ぜる。醤油とみりんは同じ量。砂糖と酒はその半分くらい。これで完成。そして、切り身を鉄串に刺してー、コンロで焼く!炭火とかのほうがより美味しくなるかもしれないけど、流石にそこまではやらない。何より設備がない。
皮目にしっかり焼き目を付ける。調べたところ、身の方は7割くらいがいいらしい。で、タレを付けて再度焼くとちゃんと火が通ると。ふむふむ。タレに潜らせてー、再度コンロの上へ。あー、いい匂いがして来た。醤油の焦げる匂いっていいよね。
「ただいま……美味そうな匂いがするな!」
「おかえりなさい。もうちょっとで出来るよ」
「楽しみにしてる!」
お父さんが帰ってきた。タイミングもちょうどいい感じ。キッチンで食器類を片端から掴み取ってテーブルに並べたあとで、ウキウキしながらお酒を選んでる。お父さんは仕事で色々お酒を貰ってくる人で、消費しきれずにどんどん増えてるからね……無くなる日って来るのかな?
ふむ。炊飯器の時間からして、少しばかり時間が空くな。白焼きを先に用意して、お父さんに渡しておこう。蒲焼きは1枚出来たけど、これはあとでもう1回温め直せばいいし。というわけで、タレを付けずに白焼きに。うーむ……脂の焦げる?焼ける?匂いが食欲をそそる…………よし。これでいいね。串から外して、一口大に切って皿に盛って……わさびと柚子胡椒を添えて、と。あ、味噌汁も一緒のほうがいいか。ちょっとアクが出ていたので、アクを取り除いてから味噌を溶かして、味見をする。ちょっと出汁入れたほうが良さげだな、なので顆粒出汁を投入。味を調えて、白焼きと一緒にテーブルへ。
「お父さん、先にこれ食べてて」
「え!?……いいのか?」
「うん。ご飯炊けるのもうちょっとかかるから」
「そうか……じゃあ、いただきます!……おお、美味い!本当に美味いな砂ウツボ!!」
うむ、そうだろうそうだろう。がっつり食ってくれたまえ父よ。もう1枚分蒲焼きになるし、米もあるからな……!
「身がふわふわで、淡白な味だ……だが皮の焦げ目が良いアクセントになってる……!確かに脂が少しくどいが、それがわさびや柚子胡椒に合う…!くぅ、日本酒にも合う…!こっちの味噌汁もいい感じだ。しっかりとした出汁を感じる」
……なんていうか、流行りのグルメ番組みたいな食レポ始めたな……たまに仕事でテレビに出てるし、それの影響もあるのかな?お父さんの仕事は、ギルドーー冒険者管理組合ーーの広報というか、宣伝というか…?な仕事である。元有名冒険者として、冒険者学校で体験談を話したり、取材に応じたり、たまにテレビに出たり……日付が変わるくらいに帰ってくることも珍しくないくらい、結構忙しそうだ。だが、それはそれとして色々なところに行ってご当地グルメ食べてるのは羨ましい。お土産が美味しいから許すけど。
そんなことを考えていると、お父さんが突然キッチンに入ってきて、冷蔵庫からレモン汁を取り出した。
「なぁ夢希。これも合うと思わないか?」
「思う」
即答して、テーブルに。一切れレモン汁をかけて、2人で食べる。うーむ……あれ?そんなに合わないな…2人して顔を見合わせてしまう。なんでだろう?
「いい案だと思ったんだがな……レモンが強すぎるのか?」
「醤油とかちょっと足してみる?」
「やってみるか」
醤油をちょろっと追加してもう一口。ふむ。これはこれで美味しいけど、やっぱりレモンが邪魔に感じる。なんだろうな……砂ウツボ自体に味がほぼないせいかな?
「うーん……なんか微妙だね?」
「うーん……美味いと思ったんだがなぁ」
そんな一幕もありつつ、ついに蒲焼きが完成した。重箱はないから、ちょっと大きめの丼にご飯をもって、蒲焼きをちょっと大きめに切って乗せる。元々がかなり大きいからね。余ったタレをちょっと一回しいれて、完成。お母さんの分も作って、先に持っていったのち、テーブルへと持っていく。
「ふふふ、出来たよお父さん……!」
「おぉ……!パッと見は、完全にうな丼だな」
テーブルにうな丼ならぬ砂ウツボ丼を置いて、いざ食べようと思ったとき、私はとあることに気付いて床に崩れ落ちた。
「ど、どうした夢希!」
「…………漬物……忘れた……!」
「……っ!!」
床をぺしぺし叩いて悔しがる。なんで忘れてしまったんだ私は…!お父さんも悲痛な面持ちだ。やってしまった……買ってくる……冷めちゃうしな……うぎぎぎ……だが、無いものは無いのである。現実は非情だ…!
若干萎れながら、テーブルに着く。お父さんも若干萎れている。
「…………いただきます」
「……いただきます」
2人して、美味しそうな砂ウツボ丼を前に萎れながら手を合わせる。だが、一口食べた瞬間、そんなものは吹き飛んだ。
「「美味(し)い!!!」」
焼き加減も素人ながらうまくいったようで、皮のパリパリ感が残りつつ、タレで若干しっとりしている。脂の多さは山椒でどうとでもなるし、お米でも中和できる。どんどん入るぞ……!わさびや柚子胡椒も合うが、やはり山椒の方が合うな。蒲焼きのタレの味に合うかどうかなのかもしれないけど。そして、やっぱり漬物が欲しい……!口をさっぱりさせきる何かが……!まぁ、無くても十分美味しいし、次の時はちゃんと用意すればいい。今はこの砂ウツボ丼を楽しむのみ。ウナギと同じくらいの美味しさで甲乙付けがたいが、満足感はこちらのほうが上だ。やっぱり、一切れを大きくしたのは正解だった。砂ウツボが無料なのも大きい。この美味しさと満足感で、タレと米しかお金払ってないとか詐欺だよ。
お互い、一言も話すことなく、砂ウツボ丼を食べ、砂ウツボの味噌汁を飲み……気付けば食器が空になっていた。
「ごちそうさまでした……」
「ごちそうさま!美味かった……」
「お粗末さまです」
満腹だ。しばらく動きたくない……。2人しておなかを軽く撫でながら満足感に浸っていた。そのあと、お母さんにお供えしていた分をどちらが食べるかで喧嘩して、じゃんけんの末に私が勝ち取った。パーを出したまま崩折れたお父さんの前で、勝利のチョキで渾身のガッツポーズをさせてもらった。はっはっは。
洗い物を2人でして、大満足のままお風呂に入って寝た。なお、お父さんは負けたのが相当悔しかったらしくヤケ酒をした結果、飲み過ぎで二日酔いになっていたので、味噌汁を作ってあげた。