【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
ついに邂逅する2人……!
昼食にカツ丼を食べ終えた後、腹ごなしに少々雑談しているときにそれは舞い降りた。
そうだ、チャーシュー作ろう。
もはや天啓と言ってよかった。どうせ夕食には2人はお酒を飲むのだ。なら、いっそ居酒屋というか、おつまみに傾倒してもいいんじゃなかろうか? という。
ブレイクレッグキングは焼き鳥や煮物に、ハイオークは薄切りの炒め物なんかにしてしまって、おつまみモードにしてしまってよいのではないか? 昼食がカツ丼で和風だったし、夕食も和風にまとめてしまっていいと思う。変に中華とか作るよりも、その方がよさそうだ。
となると、チャーシューは……煮るよりは焼きだな。煮物はブレイクレッグキングの方で使いたい。それと、揚げ物はやめよう。さっき食べたし。唐揚げもいいかなって思いはしたけど、流石に連続で食べるものじゃないよね。胃に優しいものが食べたい気分だし。
さて、そうと決まれば時間の逆算である。チャーシューを作るのに大体2時間くらいかかるはずだ。肉はあるからそのまま使ってオッケー。午後は2人のレベリングをする予定だったから、それをちょっとだけ早く切り上げさせてもらって、その時間で作らせてもらおう。その間に2人にはお酒と焼き鳥でも楽しんでもらって……遅くなってしまいそうだけど、門限がないから多少遅くなっても大丈夫! ……いや本当に、なんでないんだろうね? 不思議だ。
ま、その辺は別にどうでもいい。そうチャーシューを作るのだ。
「……というわけで、チャーシュー作ろうと思う」
「どこから来たの!?」
「というわけのわけを教えていただけませんか!?」
"唐突すぎて草”
"どうした突然www”
"2人ともツッコミに回らせるとは…”
"ユキちゃん、出来るな…”
"何の賛辞なんだよ”
チャーシューを作る宣言をしたら、2人がびっくりしたのか、大声でツッコミを入れてきた。ボケたつもりはないし、正直なんでと聞かれたら、なんか作りたくなったから。としか言えないのが若干アレかもしれない。
でもしょうがないじゃん。作りたくなっちゃったんだもん。
「作りたくなったから作ろうと思って」
「あぁうん……」
「シンプルな理由ですわね……」
"作りたくなったから作る。うむ。らしい理由だ”
"らしいのか…?”
"食べてみたくなったからゴックンチャクを食べる女だぞ?”
"限りなくらしかったわwww”
"反論の余地がなくて草”
"そもそも、釣ってみたいで釣り竿作るような子だし今更よ”
"それはそう”
理由をそのまま伝えたら、若干呆れられてるんだけど。なんで一緒に冒険をしてきたというのにそんな反応が返ってくるのか。
後半のリスナーさんたちの言う通りだよ。食べたくなったから食べる。作りたくなったから作る。何がおかしいのか。
それに、これ伝えたら2人とも諸手を挙げるだろうに。
「チャーシューってツマミになるよね?」
「それはもう。極上でしょう」
「美味しそうだね!」
「……」
"こいつらwww”
"アヤネさんもお酒が絡むとすっかりボケ側に…”
"しゃーないんだ、大変なんだから”
"それぞれ振り回し振り回すようになったもんなぁ…”
"今ではすっかりボケ集団に…”
途端に笑顔で肯定し始めた2人に若干呆れてしまった。ま、これが私たちの味ってことで。
そのあと、午後の予定について話し合っているとき、それは来た。
「ん?」
「どうしたの?」
結界の外に視線をやった私に彩音さんが当然の反応を返す。こちらに向かってやってくる一人の冒険者。この前の事件は頭によぎるが、どうやら違うらしい。
だって、その人がここまでの道中のモンスター蹴散らしながら来てるし。なんていうか、目的があってこちらに来ている。という感じだ。正直要注意人物である。そんなこと普通にしないからね。
「……こっちに一人来る」
「……背後にモンスターは?」
「いや、その人が蹴散らしてる」
"蹴散らしてる?”
"ここに来るのが目的…?”
"まさか、特定された?”
"いや、流石にそれはないと思う。人増えてないし”
"流出するならもっと前に流出してるだろうしな…”
私と同じく、この前の件が頭をよぎったらしい花奈さんに、モンスターを蹴散らしてることを告げると、盾を持ち上げようとした体勢のまま停止した。え? って顔してる。そりゃそうだ。
私は一応は敵対的な人だったときに備えて、《グラビティ》と《ライトニング》を準備しておく。同時に発動したら、まずほとんどの人は回避できないコンボだし、捕縛性能もピカイチだしね。
そんな中、彩音さんだけは準備をするでもなく、思案顔だった。
「……もしかして……」
「心当たりあるの?」
「えーっと……多分……」
"心当たりあるの!?”
"そんなことあるのか…?”
"……もしかしてwww”
"なんかわかったかもしれんw”
"あいつか?w”
なんだかすごく言いにくそうな顔で顔を背ける彩音さん。いったいどんな心当たりが……?
その間に、その推定要注意人物は、結界のすぐ外に来ている。そして……
「よお、この前はよくも除け者にしてくれたじゃねぇかぁ……!」
"お前かよぉ!(歓喜)”
"ホオズキちゃん、ホオズキちゃんじゃないか!”
"おかしい彼女は準レギュラーのはず!”
"であっちまったかぁwww”
"ついにwww”
顔を怒りに歪め、ドスの効いた声を出しながら、そいつは結界の中に入ってきた。
私よりも
今、一番会いたくない人物。童部鬼灯がそこにいた。
「げ」
「げってなんだこらぁ!!」
"げってwwwwwww”
"草”
"それはキレていいwww”
"クッソワロタ”
さらに鬼灯の怒りのボルテージが上がる。でもさぁ、しょうがなくない? 夕飯をおツマミ中心にしようと決めた直後に酒飲みが追加されたんだよ? しかもザル通り越してる鬼が。しかも肉中心メニューにしたところだしさ。
何より、ダンジョン内という逃げ場のない空間で、花奈さんと出会ってしまった……!
「はじめまして、ホオズキさん。カナと申します」
「おん? おう、はじめまして! これからよろしくな!」
「ええ、ぜひ!」
もはや初対面なのか本当に? と疑いたくなるほどの笑顔で接近する酒飲みたち。
ああ、2人がぐっと握手を交わしてしまっている! もう駄目だ、終わった……夕飯は私が地獄を見ることになるんだ……
助けを求めるように彩音さんの方に視線を向けたら、彩音さんは彩音さんで鬼灯に久しぶりーなんてにこやかに話しかけていた。味方がいないじゃん。
鬼灯はというと、彩音さんに挨拶だけしてから、花奈さんに向き直った。
「でさ、カナさんは何が好きなの?」
「ワインですわ。華やかな白が特に」
「白かー。ええじゃん。日本酒も好きでしょ?」
「ええ、香りのよいものが好きですわ」
「そりゃあ、かがち好きだわ。毎度ありがとー。あ。今年の新作美味かったよ。去年と違って香りがよくたってた」
「ふふ、こちらこそありがとうございます。今年のは渾身の出来と聞いておりましたから、家族も喜ぶと思いますわ」
"馴染むのはっやwww”
"酒飲み同士の意気投合が早すぎるw”
"カナさんってワインでも作ってんの?”
"モンスターで酒を造ろうとしてる女だぞ。何故作ってないと思った”
"確かに…”
いやもう馴染むのが早すぎる。というか、普通に実家のお酒飲みあって感想話し始めないでほしい。本当に初対面なんだよね? 実は親友だったとか言わないよね?
酒飲み同士の意気投合に圧倒されている間にも、私を置き去りにして話は進んでいく。
「で、これから何食うの?」
「チャーシューを作ってくださるとのことで」
「おん? マジで? めっちゃツマミじゃん」
「お夕飯はおツマミメインにするって言ってくれてて」
「マジか! 来てよかったー」
"どんどん話が進んでいくwww”
"もうユキちゃんが置き去りになってるw”
"解体三人娘から、酒飲み三人娘になっちゃった”
"一人抜けさせられてて草”
これからおツマミメインの夕食にすることすらも告げられてしまった。どうにもならないよこれもう。諦めよう。無理ですこれは。私じゃもう止められない。
姦しく夕飯を楽しみにしている三人を見ていると、楽しみにしてくれていることを喜べばいいのか、確定している地獄を悲しめばいいのかわからなくなってきた。
よし、切り替えよう。どうにもならないし、命の危険があるわけでもないんだから楽しもう。それに、見方によっては戦力が増えたわけだから、深層のモンスターを用意できるようになったわけだ。オークジェネラルやオークライダーを確保しに行ける。それに、鬼灯と二人ならオークキングも問題ないだろう。一気に全部狩ってしまおう。もうヤケだ。2人には悪いけど、ここで待っててもらって、それらを取ってきてしまおう。
そして、さらに美味しいであろう、上位種の肉でツマミを作りまくって、全員に満足してもらおう。文句なしに美味いものを作ってやろうじゃないか……!
今回ちょっと短めですが、次回は深層とボスに行きます(予定)