【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
「よし、こうなったら……」
もはや私ではどうにもできない状況になってしまった以上、そういうものだとして楽しむしかない。切り替えていこう。鬼灯は戦力になる。これならオークキングも問題ないだろう。私だけだと持って帰ってくるのがちょっと厳しいんだよね。どうやっても空中から爆撃を死ぬまで続ける戦法になるせいで肉が残らないんだ……
でも、鬼灯がいるなら大丈夫だ。前衛として私が大技の準備するだけの時間を稼いでくれる。頭だけ正確に打ち抜けるかはちょっと不安だが、それでも問題ないはずである。上半身残ってればいいからね。
「ホオズキは私と一緒に深層行こう」
「突然だなぁ……いいけど。なんで?」
「オークよりもハイオークの方が美味しかった」
「おーん……つまり、オークキングが一番うまいってわけだな?」
「うん」
"そんな軽くいくところじゃないだろ深層は!!”
"ボス行く気満々で草”
"2人で行けるとこなん?”
"お前らの前にいるのは一人で品川を踏破した冒険者だ”
"前(画面外)”
"草”
鬼灯を誘ったら、二つ返事でオッケーが出た。そりゃそうだよね。断る理由がないもん。けけけ……とちょっと不気味に笑いながらやる気満々の様子である。
一方、今回誘わなかった2人に関しては、結構重要なことをやってもらおうと思ってる。
「アヤネさんたちは、ここで拠点防衛ね。たまにハイオークたちが来るから」
「それはいいけど、2人で大丈夫かな……」
「火力不足感は否めませんが……」
「ハイオークじゃこの結界壊せないから、結界から出たり入ったりしながらのヒットアンドアウェイでどうにかして」
「中々すごいこと言うね……」
「……それでしたら出来そうではありますね。もし怪我をしたら結界内で回復してから出れば良いわけですし」
"ドームファイトかぁ…”
"時間無制限で自分たちだけ出入り出来るドームとかチートよ”
"というか、多分結界の外のハイオークを結界内から殴れるよな…?”
"出来そう”
"えげつねぇ…”
結界石の性質上、結界、つまり拠点の位置を動かせないのだ。だから、ここは何としても守ってもらいたい。と言っても、極端な話をするなら結界内に引きこもっているだけでもいい。強化種のモンスターでも来ない限りは、この結界を壊せるモンスターはいない。
まあ、2人ならそもそもレベリングも可能だと思うんだよね、今日の動きを見ているとさ。危なくなったら、即撤退して結界内で立て直して再度出撃すればいいわけだし。
「トロルはどうすんだよ?」
「ここはそもそもトロルが入れない地形だから問題ないよ」
「下調べ完璧かよ。じゃあ、行くか! 夕飯までに帰らねーとな」
鬼灯からトロルについて質問が来る。確かに、トロルはこの結界を壊せるだろう。流石にあの巨体で踏みつけられたら耐えられない。でも、そもそも今いるここは、下層の中でも天井が低い行き止まりの洞窟であり、トロルがやってこれる場所ではない。入り口から手を目いっぱい伸ばして来たら触れはするだろうけど、その場合は結界を壊せないので、結局問題ない。それに、そんなことするトロル見たことないし。
鬼灯の言う通り、早くいかないとオークキングを狩って帰ってこれない。深層自体が結構時間かかっちゃうしね。広さとかでなく、モンスターの性質の問題で。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃーい!」
「どうしようもなさそうでしたら、連絡いたしますわ」
"いってらっしゃーい”
"いってらー…ん?”
"どした?”
"いや、俺たちも一緒にいくやん?むしろ行ってきます側では?”
"確かに俺たちはユキちゃんと一緒か…”
花奈さんの提案を受けて鬼灯が連作先を交換するという時間はあったものの、すぐに出発した。さて、まずは深層を突破しないとね。
「うーん、やっぱ深層って空気がちげーよな」
「わかる」
拠点を出発した私たちは、早々に下層を駆け抜け深層に足を踏み入れていた。壁や床といったダンジョンの様相そのものは大した変化はないのだが、明確に空気が違う。
下層までと違って、圧のようなものがある。それだけ
深層に到達したので、《魔力探知》を切る。そうじゃないと、
"ここが深層か…”
"画面越しだと違いが判んねーな…”
"ここって難易度ヤバいの?”
"渋谷の方が上になってるけど、踏破率はこっちの方が低い”
"おかしくね?”
"まあ、見てればわかる”
「さて、早速か?」
「偵察隊だね。仕留めよう」
「オッケー!」
警戒しながら通路を歩いていき、広間に出たところで、オークライダーがいた。オークライダーは、オレンジ色の毛並みで上にいるオークたちと違って細身なのが特徴だ。オークたちがお相撲さんだとしたら、オークライダーはレスラーとかその辺かな。
武器は槍と弓で、胸鎧や小手、脛当てなんかも身に着けている。一体どこから調達しているのやら……そして、ライダーの名の通り、とあるものに乗っている。それが、ホースサウルスという、小型のティラノサウルスみたいなやつなのである。足が早いし、顎の力が非常に強い。また、声が大きく、周りに合図を送るのだ。さらに、魔力を探知することに長けている。偵察隊にふさわしいモンスターなのだ。
こいつらは基本的に騎兵として戦ってくるのだが、別にそれぞれ単体としても連携してくるので厄介なのだ。オークライダーに至っては、普通に槍術を扱える。多分、彩音さんといい勝負ができるくらいには。
おそらく、私たちを感知したうえでここまで偵察に来たね。面倒極まりないよ本当に。他の敵を呼ばれる前に仕留めてしまわないと。
即《魔力の矢》を発動してホースサウルスを打ち抜く。頭に直撃したが、一撃で仕留められていない。とはいえ、仲間を呼ばれるのは防げた。十分。
「《縮地》」
ダンっと地面を蹴る音ともに鬼灯が加速し、ホースサウルスがふらついて体勢を崩したオークライダーに肉薄する。苦し紛れに突き出された槍をジャンプすることで回避し、空中で逆さになったまま刀を抜き放つ。
「《燕返し》」
スキルによって発生した目にもとまらぬ二振りの剣閃が、ホースサウルスとオークライダーの首をはねる。着地して、血振りをし刀を納める。鍔鳴りが静かに響くと同時に、二体の死体が地面に倒れた。
……様になってて本当にかっこいいな鬼灯は。
"か、かっけぇ…!”
"スキル込みだとあんな感じなんだ…”
"当たり前のように空中で使わないで???”
"あれ空中で使えるんだ…”
"※普通は地上で相手に踏み込みながら使うスキルです”
"ホオズキちゃんも大概だったわ”
「よし、これで――」
「ギャアアアアアアアア!!」
「は?」
最初の偵察兵を仕留めて息をつこうとしたとき、突如としてホースサウルスの方向が響き渡る。2人でそちらを振り向くと、今いる広場の外、探知範囲のギリギリ外にもう一体いた。
マズイ、仲間を呼ばれた。
"うるっさ!?”
"やっばい”
"見つかった”
"アカン!”
「どうする!?」
鬼灯が慌てているがそれもそのはず。ここ品川ダンジョンの最大の脅威がすぐそこにある。仲間を呼ぶという行為はいろんなモンスターがとる行動ではあるが、ホースサウルスの問題はその仲間の数と質である。下層のハイオークの群れなど比較にならない。
品川ダンジョンにおいて、ボスよりも脅威と言われる存在。それが、オークジェネラル率いるオークライダーとホースサウルスの軍団なのだ。規模や武装も相まって、ほとんど戦争である。
「ここで殲滅する。《ガイアウォール》」
杖で地面を叩き、《ガイアウォール》を発動する。目の前の土を使って深めの堀と勾配のキツイ坂を作る。強度という点では即破壊されるだけだが、ほんのちょっとだけ耐えてくれればそれでいい。そして、これでオークライダーの騎馬突撃の勢いさえ殺せればそれでいい。坂を壊すまでか、登り切るまでの数瞬があれば、それでいい。
前衛に鬼灯を置いて、万が一抜かれた時の保険にさせてもらう。そんなことにはならない予定だけどね。どちらかというと、矢が飛んできたときに叩き落してもらうのがメインだ。あと、最後のトドメ。
そして、坂の上に陣取った私は、開戦を前に静かに手札を切る。
「《コンセントレーション》、《オーバーチャージ》」
《コンセントレーション》は魔法の効果を上げるエンチャントとして一番使われている魔法で、純粋に一定時間魔法の威力を上げるというシンプルな魔法だ。これも熟練度が限界突破しているので、他の人とは一線を画する効果がある。《オーバーチャージ》は、魔法の発動に込められる魔力の量を引き上げるという魔法だ。
この2つで間違いなく、先ほど仕留められなかったホースサウルスを、《魔力の矢》で一撃で仕留められるようになる。でもこれで終わりじゃない。
「
私のユニークスキル《ソロモン》は、他人のユニークスキルを模倣することが可能だが、威力が非常に落ちてしまうという欠点がある。しかし、あくまで落ちるのは威力だけ。効果がなくなるわけじゃない。美月ちゃんの《
だから、この魔法みたいに、そもそも威力も何もない魔法なら、次に発動する魔法が二重に発動するというだけの魔法なら、
それに、次に使う魔法には、私が
騎馬隊の足音が聞こえてきたが、まだ時間がある。だから、魔法陣に魔力をこれでもかと込めていく。
「……なあ」
「何?」
「これ、あれか? 織田信長の三段撃ちみたいな感じ?」
「そう。大分簡易だけどね」
"三段撃ち(一人)”
"いやいや、何当たり前に準備してんの!?”
"轢き殺されるって!”
"ユキちゃんが出来るって言ってんなら出来るんやろ”
"それ。別に不安に思うことないのよ”
鬼灯が刀を抜き、正眼の構えを取る。私も、杖を正面に向けて、魔法を開放するだけの状態にする。
そして、広間に敵軍が姿を現し、雄たけびを上げながら突撃してくる。広場の地面を覆いつくし、堀を踏み越え、坂を上り始めた。そして、その速度が少しだけ落ちたその瞬間に。
「一斉掃射」
これでもかと魔力を込めた《魔力の矢》による横殴りの豪雨が騎馬隊を殴りつける。ホースサウルスの断末魔が響き、オークライダーの骨や武器、鎧の砕ける音が連続する。
込められた魔力を使い果たし、魔法陣が消えるころには、敵軍は
"ふぁーwwwwww”
"えっぐ…”
"つよwwwwww”
"これはソロ踏破出来るわ…”
"ひゅーwww”
「じゃあ、アレはボクがやるわ」
「援護は?」
「いらん」
手下が全滅して狼狽しているオークジェネラルに向けて鬼灯が疾走する。自身に向けて突っ込んでくる敵を認めたのか、オークジェネラルが武器である大刀を背中から引き抜く。雄たけびとともに鬼灯めがけて振り下ろした。
大刀が地面を砕く音がして、同時に。
「《紫電一閃》」
一筋の光と化した鬼灯がオークジェネラルの首をはねていた。
静けさの戻った広場には、私たち以外、動いているものはいなかった。
……なんで二人を連れて行っても大丈夫かな? なんて思ってたんですかねこの主人公は