【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
いやはや、一瞬どうなるかと思ったけど、無事にオーク軍団を処理する事が出来た。ボクの幼馴染がバグキャラすぎる。
そもそも、ボク的には偵察隊を見つけるたびに処理して、本隊には見つからずにボス部屋まで行くんだと思ってたしさぁ。それに、もし見つかったら全力で逃げようと思ってたのに、当たり前のように迎撃するつもり満々なのにはちょっと引いた。しかも余裕で迎撃したしさ。なんだこいつ。
ま、何はともあれ殲滅完了したし、これでこの周辺は安全だ。こいつらは軍団ごとに領地みたいなのが決まってて、その中にいる全軍が攻撃に参加するから、軍団を殲滅した後だと、その領地内なら敵がいないんだよねー。領地の境目にオブジェクトみたいなやつがあるから、そこまでが安全ってわかるし。
それにしても、『
この辺で考え事は切り上げて、さっさとボスに行くぞ! と、夢希に視線をやったら、ボクが首をはねた三種類のモンスターを前に、防護服を着て解体を始めてた。何してんねんお前!!
「いや、ホントマジで何してんの?」
「何って、解体だよ。周りにモンスターいないんだし、今のうちにやった方がいいでしょ」
「そういう問題か……?」
当たり前のように言ってるけど、絶対におかしいからな?
確かにな? 食うって話はしてたよ。そんで、綺麗に死体が残ってるよ。でもさ、今か? 今なのか??? 帰りにやるべきじゃねーのそれは……?
とはいえだ。すでに解体し始めてるし、文句を言ったところでこいつは動きゃしないだろう。しゃーないから配信画面でも見よ。リスナーどもはどんな反応してっかなー……うん、爆笑してるかドン引いてるかの二択だな。予想通りだわ。
うーん、それにしても、夢希のことだし絶対にこんなこと考えてただろうな。
「……あのさ」
「うん?」
「アヤネさんが武器に振り回されてなかったら、ここに連れて来ようとしてたよな?」
「まあ、そうだね……」
「正気か……?」
「二人合わせてホオズキくらいにはなるでしょ」
「うーん、まー……ギリギリそう、か……?」
花奈さんの実力がどのくらいかは配信で見たことしかないから、何とも言えないんだよな。アーカイブもないから見直せねーし。でも、配信で見てた限り、ウチに欲しいくらいに優秀だった覚えがある。ユニークスキルも便利だしな。
で、彩音さん。武器に振り回されてたけど、あの武器そのものの性能がイカれてるから、一気に底上げされた感がある。たまに鍛錬の相手とかやってる感じだと、無駄が多いって感じだからなー……動きっていうか思考の。その辺を加味したとしてまー、武器込みならギリトントンくらいか?
だとしてもだ。ボクも含めてだけど、そもそもあの軍団相手に近接職がやることとかほぼないんだよな。『
「どう考えてもあの軍団相手に出来ることがないだろ」
「いや、流石にあれをどうにかするのは私がやるよ。偵察隊のオークライダーか、最後に残るオークジェネラルを相手にだったら出来るかなって」
「3対1?」
「そう」
確かに、夢希の援護込み3対1なら普通に戦えそうではあるか。オークライダーは2体だけど、それも込みで行けるだろうな。2人の連携をちゃんと見たのは配信で1、2度だけど、かなりしっかり連携できてたし、何より前衛の花奈さんがかなり優秀だからな。彩音さんも攻撃だけに集中すれば下層に行ってる冒険者の中でも上位だろうし。
「オークライダー相手に速攻出来る機動力なくね?」
「ホースサウルスって仲間呼ぶ前に攻撃すると、こっちに攻撃すること優先するからさ。だから問題ないと思った」
「あー……」
そういやそんな特性あったな……特性というか性格? ホースサウルスってめちゃくちゃ短気なんだよな。極端な話、石ころ投げるだけで目の色変えてこっちに突っ込んでくるくらいには。別に当てなくても、周辺に落ちればキレる。なら割と余裕か。確かに行けそう。
それに、夢希は自分が出来ることに関しての線引きはかなり正確だ。だから、出来ると言ったら出来る。逆もまたしかりだけどな。
そんな会話をし終わった頃、解体し終わったのでボス部屋を目指すことに。待ってろよオークキング……!
まー、そんなわけで、ボクたちの目の前にはオークキングがいる。3メートルくらいのデブの大男って感じのモンスターだ。体毛は赤。顔は豚。頭に小さめの王冠。お前それどうやって固定してんの? 右手には石製の大剣を持っている。力任せに大剣をぶん回す以外特に攻撃してこないけど、それだけでボス足り得る性能をしてるのがこいつだ。
そんで、ボス部屋までの道中で作戦会議をした結論は単純だ。ボクがひきつけて、その間に夢希が準備して倒す。まー、普通の作戦だ。夢希の準備ができるまでの間、ボクがひたすら耐えるだけ。
「じゃ、よろしく」
「おん」
軽い調子でボクに丸投げした夢希が空中に飛ぶ。そんで《魔力障壁》で床を作って空中で準備を始めた。さて、こっちもやりますか。
オークキングめがけて走る。オークキングは一瞬夢希に目をやったかと思えば、ボクに視線を向けた。よし、問題ないな。
ボクが間合いに入った瞬間、雄たけびをあげて大剣を振りぬいてきたオークキングに向かって、《縮地》を使って加速する。体の横までかっとんで攻撃をすかして、反撃、は無理だこれ。
大剣を振り戻すまでが速すぎる。今の隙じゃ反撃できない。別の隙を伺う。
「あぶねっ」
力任せにとんでもない速さで振り回される大剣の、横腹を叩いて軌道をそらし、間合いの内側に入り込んですかし、刃を滑らせて受け流す。技量もくそもない、単純な攻撃。でも、それだけで強いんだから困っちまうよ。でも、単純だからこそこの攻防が成立してるわけで。
オークキングと剣戟を交わし続ける。別にこのままでもいい。あとはこのまま維持していれば夢希が倒す。なんたって、こいつはこれ以外何もしてこない。たまにフェイントくらいは入れてくるけど、その程度だ。だから、別にボクの仕事はあと数分この状況を維持するだけ。
……でもなー。
「つまんねー……」
そう、つまんねーんだよなこれ。だってこれ
とはいえ、実際問題だ。こいつはパワーもスピードもボクより上だ。リーチだって相手の方が長いし、どっかに一撃貰ったら死にかねないボクと違って、こいつは急所に当てない限りろくなダメージにすらならないだろう。どう考えても、最初の作戦が正しい。夢希もそう思ってこういう作戦を出したんだろうし。
でもさ、マジでつまんねーんだよ。戦いってのはさ、
そんなの嫌だね。
絶対的に不利なのは承知の上で。
夢希が準備を終えるまでの間にお前に勝ってみせる。それがボクの冒険だ。楽しく戦いたいから冒険者やってんだよボクは!
「《紫電一閃》」
大剣を受け流して一瞬だけ作った隙で、首を斬りに行く。流石に首にもらうのはマズイからか、後方に飛びのいてよけやがった。でも、後手に回ってよかったのか?
攻守交替と行こうじゃねーの。
「《縮地》、《燕返し》」
空中を蹴って距離を詰め、構えなおそうとした大剣の柄をぶっ叩いてそらすと同時に首をねらう。首以外は狙うだけ無駄だ。カウンターで相打ちが関の山!
先ほどよりも一手先行したからか、同じように後方に退避されるが、薄く首を斬ることに成功した。口角が上がる。
「割といけんじゃねーか!」
わずかでも斬れるなら殺せる。100回だろうが1000回だろうが斬り続けて、最終的に首が落ちればボクの勝ちだ。楽しくなってきた!
ボクは、自分がかなり破綻しているのを自覚している。少なくとも、今の時代にこの思考が合わないことぐらい理解してる。でも、しょうがねーじゃん。
だって、憧れちまったんだから。誰よりも強くて、誰よりも楽しそうに暴れまわってた冒険者に。あの、『女帝』に。
だから、ボクはこいつに勝ってみせるよ。
《紫電一閃》と《縮地》で距離をひたすらに詰め続けて、狙うのは首首首。防御が大剣だけでは間に合わないと判断したのか、腕で殴ってこようとしてるけど無駄だ。そんな苦し紛れの攻撃なんざ当たるかっての。少しずつ、オークキングの首に傷が増えていく。
何十度目かの攻防の末、防御が不可能と判断したオークキングが、身体能力任せのカウンター戦法に切り替えやがった。胴体めがけての一閃を何とか防いだものの、吹き飛ばされて距離ができる。
さて、ここからどう攻める? カウンター戦法されるってことは、このままじゃ負けるだけだ。フェイントも織り交ぜていくか。ちょっとのフェイントじゃ無駄だし、それなりのやつを仕掛けないとな。
思考を一瞬で完結させ、再度距離をつめようとしたとき、背後で膨れ上がる夢希の魔力。あーあ、時間切れか……
「――――」
その魔力にオークキングが気付いてボクから視線を外した瞬間。そいつの肩から上を青い光線が突き抜けていった。綺麗になくなった頭の部分を見た後、夢希の方を振り返る。
空中で、今の砲撃の反動でローブや髪をわずかに揺らしながら、静かに杖を向けて残心している夢希は、ただ、かっこよかった。
ああ……やっぱあの人の娘だよあいつは。
「お疲れホオズキ」
「おん。おつかれー。で、これも今解体すんの?」
「もちろん。ボス部屋安全だし」
空中から降りてきた夢希は、また防護服を着て解体を始めるつもりらしい。確かに、ボス倒せばボス部屋ってモンスターいないから安全だけどさ。
そう思いつつ、首のなくなったオークキングに視線を戻す。そいつの手元辺りでなんか光ってる……おん?
「……ボスドロップしてね?」
「え、あ本当だ」
そこにあったのは、オークキングのボスドロップ。あいつが使っていた大剣の欠片。レアドロップじゃん。
オークキングのドロップアイテムって、アイツの王冠か大剣の欠片で、大剣の方ってあんま落ちないんだよな。いやー、マジか、運いいじゃん。持って帰ってみんなに自慢し……あ。
「持って帰れねーじゃん!!」
「……く、クランの仕事ってことにすれば何とか……」
「書類もなんもねーのにそんなん通らねーよ!」
「ええ!?」
嘘だろマジか。持って帰れねーじゃねーか! 未成年しかいねーし!! 彩音さんたちが居ようが関係ない。こればっかりはどうにもならない。クランとかギルドの依頼だったらちゃんと書類出せばなんとかなる可能性はあったけど、これは無理だ。
夢希の方は一応、肉を持って帰る依頼は受けてる(肉を持って帰る依頼ってなんだよ)らしいけど、あくまでも肉であってドロップアイテムじゃない。
つまり、どうやってもこのレアドロップは持って帰れない。以上、閉廷!
「なんかもー、すげー萎えたんだけど……」
「私も……」
もー、マジで萎えた。達成感とかなんもねーわ。ただひたすらに萎えた。これでその肉がマズかったりしてみろ。ボクはお前に何するかわかんないぞ。もう死んでるけど。
ダンジョン最下層のボスを倒して、ダンジョンを踏破したとは到底思えないどん底の空気のまま、ボクたちは来た道を引き返し始めた。
せめて、せめて肉は美味くあってくれ頼む……
どうにも締まらないのがらしいなって