【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
陽向と楽しく料理をしていると、他の面々が帰ってきたらしい。
「ただいまー。わっ、もう美味しそうな匂い!」
「おかえり」
「おかえりなさいっすー」
最初に帰ってきたのは彩音さん。シャワーを浴びていたからか、髪が湿っている。私の場合、髪は洗ってないからなぁ……今のところ不都合はないし、寝る前に再度ちゃんと入るから問題ないはずだ。この前来た時もそうだったけど、部屋着なのか学校の体操服姿である。スタイルのせいか、それでもかっこよく見えるのがズルい……
それと、彩音さんが当たり前のようにただいまーって帰ってくるものだから、おかえりって返しちゃったけど、おかしくない? まあ、もはやそういうものとして考えた方がよさそうだけども。
陽向も順応しすぎでしょ。なんかこれからも私の部屋はにぎやかになりそうな予感がするなぁ……別にいいけどさ。
「あ、これ部屋から持ってきたんだ」
「うん? ポテトサラダだ」
彩音さんが持ってきたのは、パウチに入ったポテトサラダだった。なんでも、お酒を飲むときにちょうどいいからと、この商品をいくつも買ってあるらしい。
手作りのやつだと日持ちしないもんね。今だと夕飯は大体モンスター料理だろうし、食べる機会も減るだろうしね。
あ、そうだ。彩音さんを見て思い出した。お米炊かなきゃ。大人組+鬼灯はお酒でいいだろうけど、私と陽向はご飯で食べたいもんね。絶対に美味しいだろうし。
というわけで、引っ越してきてから初使用する炊飯器君の出番である。まとめて炊いて冷凍するために3合炊きを買ったからね。
「陽向はご飯食べるでしょ?」
「食べるっす! あ、それならレンジ持ってきていいっすか?」
「あ、そっか。うん、持ってきて」
「じゃあ、ちょっと行ってくるっすー」
陽向がいそいそと自分の部屋に帰っていく。陽向はあのレンジがないとご飯食べられないもんね。そこはしょうがないし……コンセントも空いてるから、机の近くに置けるだろう。いちいちキッチンまで行くの大変だもんね。
さ、私は私でチャーシュー作んなきゃ。お米を炊くのは彩音さんにお任せするとしよう。普段と違って炊飯器だから、すぐに終わるだろう。
それにしても、酒飲み2人が遅いのが本当に怖くなってきたな……
「2人とも遅いね……」
流石に遅い2人が心配になってきたのか、彩音さんがポツリと漏らす。
正直、正直だ。普通に考えると、彩音さんがちゃんとシャワーを浴びてきたことから、花奈さんも同じようにしていると思う。花奈さんの髪は断トツで長いわけだから、その手入れで時間がかかっていると考えるのが普通だ。鬼灯が手伝ったとしても、あの長さをちゃんと手入れするのは時間かかるだろうし。
でも、確信がある。時間がかかっているのはそこじゃないという確信が。
「彩音さん、あの2人何本持ってくると思う?」
「え、流石に両手で持てるくらいじゃない?」
「4本?」
「うん」
彩音さんとそんな話をしながら、戦々恐々としていると先に陽向が帰ってきた。
うーん、どうみても普通の電子レンジだ。これで中身は別物っていうんだから不思議だよね。
「ただいまっすー。あれ? 2人はまだなんすか?」
「そうみたい」
「陽向はあの2人がどれくらいお酒持ってくると思う?」
「え……うーん、流石に手で持てるくらいじゃないっすか? 4本とか」
陽向の予想も4本らしい。確かに、両手に持てる分って考えるとそうなるんだけど、なんだか嫌な予感が止まらないんだよね……
その辺のことは置いておくとして、レンジのセッティング場所を陽向と話し合っている頃、ようやく二人が帰ってきた。
「たでーまー」
「ただいま戻りました」
「おかえ、り……」
「うわぁ……」
「えぇ……」
私も彩音さんも陽向も帰ってきた2人にドン引きしている。いやだっておかしいんだもん。
いや、確かに引っ越し直後で段ボール箱はあったよ。あったけど、いくらなんでもそれはおかしいでしょ!! 何本入ってるのそれ!? それに、せめてひと箱にしない? ふた箱はおかしいでしょ……
「これが両手で持てる分ってことっすか……」
「うまくないよ陽向ちゃん……」
まったくだよ。何が両手で持てる分だ!! 私は認めないからね。とはいえ、もう遅いのだ。だって、料理のこととかとりあえずスルーしてテーブルの横に箱置きに行ったもん。えっと、ここから見える範囲だと、うん、10本超えてるね。もう知らない。今日の被害はともかく、明日の被害は私以外の人が受けるんだ。もう知らないぞ……!
あと、今日の被害者に陽向も追加されたと思うけど、そこはスルーの方向で。ごめん陽向。でも、私にはどうしようもないんだ。
「うわ、もう美味そうな料理が並んでるじゃん!」
「ええ、漬物、ポテトサラダ、照り焼きにサイコロステーキとは……完全に居酒屋のラインナップですわね」
2人ともにっこにこで床に腰を下ろして、これに合うお酒はー……とかやり始めてしまった。いや、いいけどね。そのつもりで作ったんだし。
私はチャーシューを焼く作業をしながら、ここでちまちま味見と称して諸々つまむ予定なので、気にせず食べてほしい。流石にこれとローストが出来たらそっちに合流するし。
「夢希ー、もう食ってていいのー?」
「いいよ。私はこっちで食べてるから」
「おん。じゃあいただきまーす!」
「え、ちょ、いいんすか?」
鬼灯が遠慮なしに食べ始めたので、陽向が慌てているけど、何を慌てる必要があるんだろうか? いつものことだし、私としては出来立ての美味しいもの食べてほしいよ。その方がお互い嬉しいでしょ?
「うん、陽向もそっちで食べ始めていいよ。何か足らなかったら言ってね」
「え、は、はあ……それじゃあ、お先にいただきます」
陽向を送り出して、彩音さんだけになった。彩音さんはいかないのかな?
「ちょっと手伝っていくよ」
「彩音さんも食べてていいんだよ?」
「……今日は、こうしてたい気分なの」
「? そっか」
よくは分からないけど、そういうことなら別に強制するものじゃないし、それでいいか。どうせだし、青椒肉絲でも作ってもらおうかな。オークライダー使って作ったら美味しいでしょ。野菜類も足りないし。
というわけで、彩音さんに肉と野菜類を渡してお任せする。彩音さんは丁寧だし、問題はなさそうだ。
私は私でチャーシューをひたすらくるくるくるくる回しながら焼いていく。じっくりじっくり美味しくなるんだぞー……
彩音さんと二人でキッチンに並びながら、何を話すわけでもなく料理をしていく。
青椒肉絲の材料を切り終えた頃、彩音さんが静かに口を開いた。
「……夢希ちゃんはさ」
「うん?」
「いつも料理作りながら食べてるけど、寂しくない?」
彩音さんは心配してくれていたらしい。まあ確かに、1人だけ料理してるわけだし、そう思うのも無理はないと思うような気はする。
でもね。そんなことはないんだよ。
「全然。だって、ほら。楽しそうだし」
背後の3人の楽し気な声が嬉しい。うまく作れたみたいだね。まあ、失敗するとは思ってないけど。それでもちょっと緊張するよね。
私は、この声を聞くのが好きだから、料理が好きなんだ。だから、別にそこに私がいるかどうかはあんまり関係ないのである。いや、確かにこの声も聞こえないくらいの遠くで一人で料理ってなったら寂しいだろうけども。
私の返答を聞いて、少しおいて、彩音さんが安心したように微笑んだ。
「……そっか」
そのあとは何を話すでもなく、料理に戻り、青椒肉絲が完成した後彩音さんも食卓に移った。楽しげな声が一つ増えて、こっちも楽しくなる。うんうん。これでいいんだよ。
さ、チャーシュー作っちゃおう。もうちょっとだぞー。
オークジェネラルのチャーシューが出来た頃、ちょうどオーブンの音が鳴った。その瞬間、鬼灯が凄まじい反応を見せた。
「お、出来たか!?」
「いや、これから休ませるからまだだよ」
「おーん……」
とはいえ、火がちゃんと通っているかは確かめないといけない。一度開けて……うわ、今食べたい……!
めっちゃいい匂いがする。正直今すぐに食べたいところだけど、ここは我慢。我慢だぞ……! 肉に竹ぐしを刺して、唇に当てる。うん、温度はちょうどいい感じ。あとはこれを15分くらいオーブンの中で休ませて完成だ。
肉を戻してオーブンの扉を閉じる。さ、チャーシューを切り分けてもっていこ……ん?
「うわっ!?」
気配を感じて後ろを振りむいたら、4人全員がぶつかりそうなほど近くまで来ていた。びっくりした……! 私も私で、誘惑に打ち勝つことに全力すぎて気づいてなかったよ。
「あれ、食べちゃダメなの……?」
う、上目遣いの彩音さんの破壊力が結構すごい……! でも、ダメなんだ、休ませないと美味しくならない。休ませずに切ってしまうと、肉汁が外に出ちゃうんだよね。
「……ダメだよ。ほ、ほら、チャーシュー出来たから!」
チャーシューを見せて、切っていく。うーん、断面からして美味しそうだ。全部切って皿に並べてしまう。いやあ、また今度作って、自宅でラーメン食べるときに乗せようかな……絶対に美味しいと思う。
ローストはもう寝かせるだけだし、他に作っているものもないのでチャーシューの皿をもってリビングへ。後ろで彩音さんと陽向がご飯よそってくれてる。ありがとうね、2人とも。
テーブルに辿り着いたんだけど……うん? そんなに食べてないな。
「そんなに食べてないね?」
「おん? 酒と会話メインだとこんなペースだろ」
へー。そうなんだ。私の身近にいるお酒飲みが鬼灯とお父さんくらいだからな……結構ガツガツ食べているイメージあったけどな。いや、あれは私がご飯食べてる間に会話をあんまりしないからか。
とりあえず着席して、チャーシューを取り皿に取る。毒見もかねて、いただきます。
「……!」
美味しいぞこれ……! 想像以上だ。しつこい感じがした脂もきちんと落ちているし、ちょっと焦がすように焼いたものだから、表面のタレの焦げの苦味と肉の甘みがちょうどいい感じだ。肉の甘みが引き立っている。
チャーシューとしては甘いと思うけど、肉が柔らかく、そして味もいいとなれば文句はあるまい。
私が黙ったまま噛みしめているのをみて、他の4人もチャーシューを口に入れる。
「わぁ……!」
「うめぇ」
「美味しいですわ」
「美味しいっすねこれ!」
四者四葉の反応を見せてくれる。うん。この反応が嬉しいんだよね。
彩音さんはチャーシュー丼にして食べているし、それを見て陽向は同じようにご飯にチャーシューを盛り始めた。鬼灯と花奈さんは、一枚一枚を少しずつかじるようにしながらお酒を口に運んでいる。
さて、私もどんぶりにして食べようかな……うん美味しい。このままでも美味しいが……ふむ。
すっと立ち上がり、冷蔵庫を開ける。ネギを取り出して、みじん切りにする。それと……あった海苔。これを細く切って……よし、これでいいかな。最後に煎りゴマの袋を持っていく。
テーブルに戻って、チャーシュー丼の上に、ネギ、海苔、ゴマを散らす。
「よし、これでいい」
パクリと一口。うーん、これこれ。ちょっとの変化だけど、これが味を引き立てるんだよ。たまらなく美味しい。目を閉じて堪能した後、目を開けると、彩音さんと陽向がそれはそれは羨ましそうに見ていたので、ちょっと笑ってしまった。
2人にも薬味を渡してあげると、顔を輝かせながらチャーシュー丼を掻っ込んでいた。
チャーシューの美味しさに舌鼓を打ったのち、本番が始まる。さあ、オーブンから取り出すぞ……!
次回は本丸。オークキングのロースト!
そして、酒飲み大暴れ……の予定。