【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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今回から夢希視点に戻ります。


配信に興味のない私と犬束陽向

 

「陽向、大丈夫かなぁ……」

 

 登校している最中、部屋に残してきた陽向が気にかかる。本人もよくわからないみたいだったし、何が起きたんだろうか? まあ、白石さんを呼んだから大丈夫だとは思うが。

 

「白石さんに解明は出来ても解決は出来ねーんじゃねーか?」

 

 隣を歩いている鬼灯は辛辣である。というか、君はさっさとクランに帰るべきじゃないの? 説教されにさ。

 ちなみに、登校する前に一応大人2人の様子も見てきてたが、案の定二日酔いで死にそうになっていた。まあ、奇跡で治せるだろうしってことで放置してきた。私がやれることもないし。時間もないし。

 

「解明できれば対処は出来るじゃん」

「あれって強化魔法かけられて感覚バグったときみたいな感じだと思うんだよ」

「……あー、言われてみればそう、かな?」

 

 鬼灯の予想に、確かにそうかもしれないと思った。

 実際、強化魔法で身体能力が上がったときって、感覚おかしくなるんだよね。私も《身体強化》の魔法自分でかけたときの感覚は何度も練習して身につけたものだしね。

 どうせなら、脳の処理速度なんかも上がってほしいなって思うけど、まあそんなうまい話はないね。

 

「その場合、解明できたとして対処とかどうにもならなくねーか? 自分がどうにかするしかねーじゃん」

「確かに……」

 

 いや、本当にその通りである。自分の感覚が狂っているという状況なわけだから、結局のところ、自分が制御するしかないのである。

 それが魔法によるものなら効果時間が切れるか、解除する魔法でも使えばいいだろうが、そうじゃないならじぶんでどうにかするしかないわけで……陽向、大丈夫かなぁ……

 

「ところでさ」

「おん?」

「鬼灯はいつまで現実逃避してるの?」

「……はぁー……」

 

 一瞬でテンションが最底辺まで下がった鬼灯が、とぼとぼとクランへの道を歩き始めた。いきなり刺した私に対する文句を言う気力すらないらしい。どんだけ怖い人なんだその事務員さん……

 それはともかく、私も遅刻しかねない時間になってしまったので、怒られない程度の速度で走ることにした。

 

 

 

 

「……よし、これで全部だな。これで依頼は完了だ」

 

 放課後、昨日取ってきたモンスターの肉を渡すために金守さんの元を訪れた。昨日の時点で全種類のモンスターの肉が採取できたからね。

 これで、クランに入って初めての依頼は完了した。他の依頼も色々やったけど、最初にやってくれって受けた依頼だったからね。なんとか終わってよかったよ。

 ……まあ、正直オークキングの肉に関しては渡したくなかったんだけど、それはもうしょうがないので、渡した。食べたくなったらまた取ってくればいいしね。それに、保存も出来ないし。収納魔法が、漫画みたいに、容量無限で入れた瞬間から時間が止まるような魔法だったらいいのにな……まあ、そのうち出来そうだけど。『魔女の大鍋(コルドロン)』だもん。

 

「そういえば、肉は食べたのか?」

「ゴブリン2種、アンチマジックシェル、ホースサウルス、トロル以外は食べました」

「……大体食べてるな……どれが一番うまかったんだ?」

「オークキングが圧倒的に美味しかったです。今のところ、上位のモンスターの方が美味しいのかもしれません」

「ほう……これか。確かに美味そうな肉だなこれは」

 

 金守さんがオークキングの肉を眺めながらつぶやく。そうですよね、美味しそうですよねそれ。実際美味しいんですよ。

 それにしても……これ何に使うんだろうか? そもそも死体はともかく、ちゃんと解体した肉って。食べる以外何かに使えるのかな。

 

「ところで、これ何に使うんですか?」

「犬束君に食べさせるらしい」

「え」

「ほら、彼女は食べたモンスターのスキルが分かるだろう? そういった情報は有用だからな、彼女にはそういう協力をしてもらっているんだ」

 

 確かに、それはそうなのか……確かに、何が使えるとか、何のスキルがあってそれによって行動が引き起こされているのがわかれば対応もしやすくなるもんね。本人から聞いたけど、ミノタウロスのタフさもスキル由来だったみたいだし、突撃の威力もスキル由来だったみたいだし。そして本人も使えるようになってたしね。

 将来、陽向がどれだけのスキルを使って暴れまわるのか楽しみだなぁ……

 ん? ということはゴブリンとかまで食べさせられるのか陽向……あとで、無理矢理やらされていないか本人に確認しよう。無理矢理だったら止めよう。流石にね。

 それと、多分話が来ているだろうから聞いておこうかな。

 

「金守さん、今陽向ってどうなってます?」

「ああ、朝の件か。スキルのせいでレベルが一気に上がったらしい。その結果、身体能力の調整が効かなったようだ」

「……そんなにあがります……?」

 

 金守さんの説明で、今朝の陽向に何が起きていたのかは理解できた。でも、そんなにレベルって一気に上がったとして、あそこまで制御できなくなるものかな?

 私たち冒険者は日々少しずつレベルが上がっている人が多いけど、それによって起こっている身体能力の向上は、基本的に微々たるものだ。だからこそ、私みたいに毎日入り浸るような存在が普通に生活できているともいえる。

 私なんかは他の人よりもはるかに効率的にレベリングをしていたから、その誤差が大きかったはずなんだけど、それでも何とかなっていた。確かに、たまに物を壊すことはあったけど、今朝の陽向のようになったことはない。それこそ、自分に《身体強化》を初めて使った時くらいだ。

 そう思って聞き返したんだけど、金守さんがすごく言いにくそうにこういった。

 

「……レベルがほぼ倍になったらしい」

「……はい?」

 

 あまりの発言に思考が止まったのを感じる。いや、そんなことある……?

 

「昨日の時点での彼女のレベルは226だったが、今朝は406だったそうだ」

「…………ん???」

 

 さらに詳細に教えてくれた金守さんだけど、私はなおさら理解が遠のいた。

 えーっと……? 226から406だから……180上がってるのか。なるほど。確かにそれだけ一気に上がったら制御も出来なくなりそうだ。私だって、最初の頃のパワーレベリング当時の一日の最高上昇幅は20前後だったから、その9倍。うん無理だね。どう考えても制御できると思えない。そりゃあんな状況にもなろうというものである。

 ……さて、目をそらすのはやめよう。個人的に、一番理解が出来ないのはそこじゃない。

 

「……あの、陽向が入団したときってレベル72ですよね?」

「そうだな……」

「モンスター食べてるだけで406に……?」

「そう、なるな……」

 

 机の上で組んだ手に額を当てながら、非常に言いにくそうにしている金守さん。翼とか尻尾が貧乏ゆすりでもしているように細かく揺れている。

 一方の私は、金守さんから視線を外し、金守さんの後ろの窓からちょっとだけ日が傾いてきた少しだけ緑色っぽい空を見た。

 私が、いや私と彩音さんが陽向に会ったのは、大体一か月前だ。その時色々あったものの、今こうして彼女が元気に過ごしているのは嬉しい。

 嬉しいんだけど、そのレベルの上昇幅は何……? これが私と同じようにレベリングしているとかなら理解はできる。実際、私の最初の一か月はそのくらいまで一気に上がった。そこからどんどん効率は落ちて言ったけども。

 でも、陽向の場合は違う。一度もモンスターを倒さず、モンスターを食べただけだ。食べただけでこれである。確かに、私のレベルの上昇幅の感じから考えるに、自分よりも強いモンスターの方がレベルが上がる効率がいいのは間違いない。レベルが一桁の時に中層のモンスターを倒していたときと、500レベル前後の時に中層のモンスターを倒していた時では、上がり方が全然違ったのは事実だからだ。1800になってホーネットクイーンによるレベリングに切り替えた時もそうである。

 だから、陽向の適性レベルよりも遥かに上のモンスターを食べたからレベルが一気に上がった。というのは、理屈の上ではわからなくもない。わからなくもないんだけど、非常識が過ぎる。多分、お母さんも笑うのをやめるレベルだと思う。もしくは、レベリング最適解とか言ってボスの肉を山と用意するか。後者な気がして来たな。

 そして、その上できっと昨日の、それこそオークキングのスキルまで獲得するんだよね? 陽向が魔王になる日がすぐそこに迫ってる気がしてきた……

 

「……犬束君は、探索部門の冒険者として、非常にありがたい存在だ」

「……?」

 

 突然、金守さんが言い始めたことに疑問府が浮かぶ。今のところ、陽向は冒険者として活躍していないし、そもそも資格停止中だ。にも関わらず、ありがたい存在というのは、どういうことなんだろうか。

 

「前にも言った通り、ウチの探索部門は我が強くてね。それらをあの明るさでつないでくれているのが犬束君なんだ」

 

 なるほど……私から見ても陽向は人との接し方がうまいと思う。懐に入るのがうまいとでもいえば適切だろうか。初対面でも物怖じしないし、にこにこと人懐こい笑顔で接する陽向は、きっとそういうこともやっていただろう。それが意識的かどうかまではわからないが。

 

「……物前君」

「……はい」

「こんなことを未成年の君に言うべきではないと思うが、犬束君を頼むよ」

「はい」

 

 金守さんはすこしだけ悔しさのようなものをにじませながら、私にそういった。

 確かに、私に言うべきことではないのかもしれない。でも、陽向は私の友達だからね。何かあったら、助けるよ。こんなとき、お母さんと同じように《天啓》があればよかったのかもしれないけれど、そんなものはないからね。自分が出来る範囲で。最大限、彼女を助けよう。

 金守さんに頭を下げてから部屋を退室し、白石さんに連絡を入れる。きっと白石さんは陽向と一緒にいるはずだ。しばらくして、地下の実験場にいると連絡が来た。番号は12番。よし、向かおう。スマホをしまって地下に向かって歩き出す。そうして、地下への階段を降りようとして……ん? 12番?

 

「……え、そんなにあるの……?」

 

 歩いていた足を思わず止めてしまう。いや待ってほしい。地下の実験場だぞ? そんなにあるわけなくない? 流石の『魔女の大鍋(コルドロン)』でも、そんなことは……できそうだけど無理じゃない? 地下何階まであるのここ。私は一回しか行ったことないけど、その時は確か一階に4つくらいあったはず。それに、立ち入り禁止の区画とかも地下にあったはずだ。だから、最低でも地下五階くらいまではあるはずで……

 よし、考えるのをやめよう。無駄だ。今は陽向。『魔女の大鍋(コルドロン)』のおかしさについては後。

 

 

 

「……こんにちは、白石さん」

「やあ夢希。ちょうどよかった」

「ちょうどよかった?」

「まあ、見ていてくれ」

 

 しばらく歩き回って実験場に辿り着いた私は、入り口近くにいた白石さんに挨拶をした。

 タブレット端末をもって何やら操作していた白石さんはちらりとこちらを向いて返事をすると、すぐに前に向き直った。

 視線の先を追うと、サンドバッグを前に拳を構えている陽向の姿が。何をするつもりなんだろう? まあ、殴るんだろうけど……体の方は大丈夫なのだろうか? 

 そんな疑問は、彼女の右足で吹き飛ばされた。

 

「っし!!」

 

 爆発音と間違えそうになる音を出して右足がサンドバッグにめり込み、壁まで吹き飛ばす。重い音を立てて壁にサンドバッグがぶち当たった。息を吐きながら残心している陽向を見つつ、私の思考は別の方向に飛んでいく。

 …………いや、あの威力が出るのもすごいけど、壊れてないサンドバッグと壁は何で出来てるの? 特にサンドバッグ。おかしいでしょ流石に。陽向のことを見に来たはずなのに、そっちの方が気になってしまった。

 

「……うん、計測結果としては、かなりのものだ」

「どのくらい?」

 

 聞いたはいいものの、そもそも数値とか言われても全くわからないけどね。これで聞いたことのない単位とか出される可能性はあった。でも、返ってきた答えはシンプルだった。

 

「彩音の《地砕き》とほぼ同等だね。ああ、流石にユニーク装備の分は除くよ」

「……え?」

 

 さらっと当たり前のように返答した白石さんにびっくりする。

 ちょっと待ってほしい。どんな火力だそれは。ただの蹴りってわけじゃないんだろうけど、武器込みの攻撃を右足の蹴りで再現しないでほしい。しかもレベルも半分以下でしょ。どうやったらそんなことになるの?

 

「白石さーん、どうでしたー? って夢希ちゃんじゃないっすか! どうしたんすか?」

「良い感じだよ。まさにロマンだ!」

「……朝があの感じだったから、様子見に」

 

 こちらに手を振る陽向に、何とか頭を再起動して返事を返す。隣でいつものようにロマンに浸っている白石さんはスルーの方向で。

 

「あー……いまでもちょっと力加減おかしいんで、しばらくは練習しないとっすかねぇ……でも、火力は伸びたっすよ!」

「う、うん……」

 

 満面の笑みでそういわれてしまっては何とも言えないんだけど……陽向のユニークスキルって本当に化け物みたいなスキルなんじゃ……?

 

 

 

 




おかしい、この作品は夢希が周りを振り回す話だったはずなのに、どんどん周りの方がおかしくなっていっている……

今回のこれに関しては、99%お前のせいだが。
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