【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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リクエスト第四弾、北条花奈のリスナー時代の話をお送りします。


【閑話】お酒が人生なわたくしと美味しいお酒の飲み方・前編

 

 わたくし、北条花奈には趣味がございます。お酒を飲むことはもはや趣味どころではなく人生そのものと言って過言ではないため、ここでは割愛いたしますわ。

 わたくしの趣味。それは、ダンジョン配信を見ることですわ。ダンジョン配信。それは、冒険者がダンジョンの中で冒険をしている様を配信する、ただそれだけのことではありますが、ダンジョンが世界中に発生し、冒険者という職が出来て以降、常にかなりの人気を誇っております。

 漫画やゲームの中のお話が現実としてそこにあると実感できる。そういった声が非常に多いですわね。実際、一般人の方々からすればそうなのでしょう。

 ダンジョン配信といえど、他の配信の界隈と何ら変わりはございません。個人で行っているものや企業で行っているものまで規模も様々です。まあ、悲しいことではございますが、迷惑系と呼ばれるようなものもございます。

 わたくしは、ダンジョン配信を見るにあたって、エンタメ性というものをあまり求めてはおりません。あくまでも、見ていて安心していられるのが大事なのです。

 モンスター溢れるダンジョンは危険なもの。命を失うことすら日常の光景になります。よって、当然ながらダンジョン配信とは多くの危険が付きまとうものなのです。

 つまり、ダンジョン配信におけるエンタメとは、良くも悪くもハラハラするものが多いのです。簡単に言ってしまえば、苦戦からの勝利。というような、王道の冒険譚のような展開が。

 特に、企業勢の方はこういったエンタメを好んでいらっしゃる傾向にあります。事実として、それで視聴者の獲得に成功しているわけでございますから、わたくしの趣味にはあっていないだけで、世間様からは求められているのでございましょう。

 冒険者の視点で見てしまうと、やらせに近いところがあったりするのですが……まあ、そこは配信に限らず、エンタメの中に常にあってしかるべきもの。それに、安全マージンを取ってらっしゃるのですから、文句を言うものでもございません。

 そんな面倒なわたくしですが、特に『ダンらぼ』の皆様方の配信が好きなのです。他のダンジョン配信をなさっているクランと違い、かなりエンタメを排除しているため、安心して見れるのが大きな要因ですわ。面白い配信ではなく、楽しい冒険で売ろうとしているという感じでしょうか。冒険譚を見せるのではなく、普通の冒険者の普通の冒険を配信に乗せる。そういった感じでございます。

 特に、その一番手たる桐生綾人様の大ファンでもあります。今度のライブの抽選には落ちてしまいましたが……本当に悔しいですわ。人生で一番悔しかったですわ本当に。落選メールを見て、思わずスマホを握りつぶしてしまったほどに……

 そんな、安心してみることのできる彼らの配信をツマミにお酒を飲むこと。これがもう最高なのです。

 そんなわたくしなのですが、他にも1つ趣味がございます。それは、登録者数の少ない配信者を発掘することですわ。

 何故そんなことを? と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかしながら、古参の称号はオタク的にはたまらないものがございまして……下世話な話ではございますが。

 まあ、それとは別に、見る方を分散させておかねば見るものがなくなる。という問題点がございまして。ダンジョンに潜るのは危険が伴う行為。ましてや、それを配信しながら行うなど神経をすり減らすこと間違いありません。故に、ダンジョン配信者というのは総じて、数日に一度の配信しか行わないものなのです。普通の冒険者も数日に一度が多いですから、周期的には同じに近いですけども。装備の手入れなどもございますし。

 その休みの間にアーカイブや配信をみるため、見るものがなくなり過去の配信を見るしかなくなってしまうなどという事態に……いえ、それ自体は楽しいのですけれどね。やはりここは新規を開拓していくのが冒険者らしい行動ではないかと思うのです。

 とはいえ、昨今の事情といたしまして、少々探すのが手間。という問題点が発生しつつあります。他の界隈のように、人が増えすぎて探せない。という点では一致しておりますが、ダンジョン配信者界隈では、ダンジョン配信がしたい。という方ではなく、冒険者間でのトラブルの解決や、イレギュラーの報告、救援の要請などを行うための、記録として配信を行う、所謂ドラレコとして配信をしていらっしゃる方が増えてきたのです。

 彼らは文字通りドラレコとしてしか配信活動を行っておりません。配信と呼べるかどうかも微妙なところです。ですが、彼らを責めるのはお門違いというもの。そういった配信が増えた要因として、緊急事態時に1人でも視聴者がいればその方からギルドへ通報ができたり、発生した異常について、動画を見ろ。の一言で済ませられるのが大きいです。事細かに電話で話している時間も惜しいことが多いですからね。

 また、冒険者間のトラブルも、証拠が残っていれば即解決になりますからね。録画ではなく配信のアーカイブとしてそのまま残っていればなおさら証拠として申し分ありませんし。そういった事情もあって、トラブル防止の抑止力にもなっているとのことでギルドの方でもそれとなく、配信活動等、記録の残る何かをするように誘導しているようにも見えます。

 そういった事情もあり、他の界隈と少し違った理由で配信活動をしている方が埋もれているのです。その中から原石を探す作業というのは大変ではございますが、宝石を見つけた時の達成感は格別でございます。

 さて、ワインとツマミのチーズも用意出来ましたし、早速探していきましょうか!

 

「……うーん、今日は見つかりませんわね……」

 

 探し始めて早1時間ほど。今のところ、原石すら見つからないという状況になってしまいました。完全に不作の日でございます……たまにはこういったこともございますわね……しかしながら、これでは新たなツマミがございませんし、一体どうしたものでしょうか。

 うーん、どうしたものかと頭を悩ませているとき、ふととある配信が目にとまりました。

 

「ん……?」

 

 それは、『緊急時の念の為』というまさにドラレコ配信のタイトルなのですが、視聴者数が7名いる。という配信でした。

 こういった配信では、視聴者がいること自体が稀であり、いるときは何かしらトラブルが発生したか炎上したかの二択なことが多いのです。その結果このような少数が集まる。ということは中々ございません。そして何より、配信開始したのが数分前だったのです。開始数分で視聴者が集まるドラレコ配信など、見たことがございません。

 

「これは、確認してみましょうか」

 

 内から好奇心に突き動かされ、配信を開いてみることに。それがわたくしの今後を左右するほどの出会いになるなど、この時は予想もしておりませんでした。

 

 

「さて、本日も……」

 

 いつものごとくツマミとワインを用意し、パソコンを開きます。本日はダンジョン帰りではございますが、この配信はこの時間帯から配信を開始することもあってありがたい限りでございます。

 わたくしは、あの日本当にたまたま見つけたこの配信の虜になっておりました。正直、ドラレコ配信ではございますので配信と言っていいのかは微妙でございます。配信の挨拶なども何もなく、配信開始時の確認とあとは独り言のみ。しかしながら、それはもう楽しいのでございます。

 配信の内容としては、女性らしきこの方がソロでダンジョンに潜って冒険しているというものなのでございますが……まあ、その冒険がなんと()()()()()()()()()()なのです。それはもう衝撃を受けましたわ。最初に見た時など、Mr.クマを釣り竿で釣ろうとして竿を折られ、しばらく憤慨していたかと思えば、どこに持っていたのか投網を取り出して池に放り込み、Mr.クマを引き上げて塩焼きにし、それをむしゃむしゃと食しながら、ノートにどうやって釣り竿を強化するのか書き込み続けるというものでしたわ。

 わたくしは本気で思ったのです。ああ、ここまで自由に冒険していいのか。と。そこには、ただただ、自分の出来る限りの冒険を、自由に楽しんでいる人がいたのです。

 それからというもの、わたくしはこの配信にのめりこむようになりました。他の配信と違い、夕方からの配信であり、アーカイブすら残らないとなれば、見るしかない。というのもございましたが、何よりも基本的に毎日配信している。というのが大きかったですわ。いつだって、その時間には彼女が冒険をしている。それが、どうしようもなく……

 いえ、目をそらすのはやめましょう。これは嫉妬に近いものなのでしょう。彼女とわたくしとは、何が違うのかと。そんなものの答えは分かっておりますのに。自分の夢を語り、周囲に嘲笑されたあの日。あの日から、わたくしはその夢をしまい込んで、諦めておりました。モンスターでお酒を造る。という夢を。

 経緯はどうあれ、諦めたわたくしと、諦めなかった彼女の差でしかないでしょうに。でも、どうしようもなく羨ましく思ってしまいます。

 

「……くだらないことですわね」

 

 ワインを口に含めば、その香りと味、そしてアルコールの効果で思考が麻痺していくのを感じます。ただの現実逃避になっているのも自覚しております。でもわたくしは……

 この時、わたくしは思っていたのです。この方も、どうせ誰からも理解されないのだろうと。ともに歩いてくれる誰かなど、いないのだろう。と。

 

 

 

 ある土曜日。わたくしは、いつものように朝から配信をしている彼女の配信を訪れておりました。最近、少々問題を起こしてしまった彼女は、ユキと名乗り、多少なりとも配信という体を成すようにし始めました。

 最初など挨拶すらグダグダでしたのに、今ではなれたもの。配信している内容も相まって、本人にその気があれば一気に有名配信者になれそうなものですが……節々の言動から配信者というものに対して良い印象も持っておられないご様子でしたし、そういったことはございませんわね。

 そして、その日。彼女は、突然こんなことを言い始めました。

 

『今日は、というか、今日からパーティを組むことになったので、メンバーを紹介するね。顔はモザイク入れるようにしてもらったから見えないよ』

「………………は?」

 

 わたくしは間の抜けた声を出すしかございませんでした。そこには、本日からパーティを組むと。一緒に、モンスターを食すと。彼女の夢を追いかけるとそういってくれたであろう方が、映っていたのです。

 アヤネと名乗った彼女と仲睦まじくモンスターを食し、せっかくの配信だからと雑談を始め……気付けばわたくしは唇をかみしめて、拳を硬く握っておりました。あまりにも、そこには、理想的な、冒険がありました。そして、自分の現状を思えば、あまりにも惨めに思えたのです。しばらく、そうしたまま、それでも配信を閉じることも出来ず、そのまま見続けていると……アヤネさんがおっしゃったのです。この子とパーティが組めたら楽しそうだと思った。出会いはたまたまではあったけれど。と。

 その時、わたくしは単純なことを思ったのです。自分もそうすればいいのだ。と。出会い方は同じなのだから。と。

 気づけば、わたくしは2枚の紙とペンを握っておりました。一通り書き終わったその紙には、それぞれ、『脱退届』、そして『加入申請』と書き記してありました。

 そしてその時、きっとわたくしは昨日までの自分よりもいい顔をしていると。何の根拠もなく、そう思ったのです。

 

 




サブタイトル決めるのに過去最高に悩みました。
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