【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
怒涛の「完成」に対する誤字報告(4件あった)で朝から笑いました。なにしてんすかね…
美月ちゃんにおねだりされていろんな魔法を見せに見せたのち、ようやく解放された私は、彩音さんたちと奥多摩ダンジョンに向かっていた。
今日の目的は、奥多摩ダンジョンの植物系モンスターたちの実らせる木の実の類の調査である。そもそも食べられるのか、お酒に出来るのか等を調べに行くことになっている。樽の製造に関しては後回しにして、まずは中身をちゃんと用意できるのかどうかを調べることにしたのだ。
『
今日の夕飯は、普通に外食の予定である。奥多摩グルメを食べるのだ。美味しそうなお店はいくつかピックアップしてきた。釜めし屋さんとかだし巻き玉子専門店とか。他にもお肉料理の美味しそうなお店とかもあったので、あっちについてから決めることにしている。単純に、入れるか微妙だしね。時間的に。今から行くと19時くらいに着くからなぁ……
そんなわけで、今から電車に大体2時間ほど揺られていくのである。まあ、完全に帰宅ラッシュの時間と被っているので、混んでるね。とはいえ、冒険者自体の絶対数が少ないので、他の車両に比べたらだいぶ空いてる。少なくとも、4、5人のグループが、座っている組と立っている組に余裕を持って分かれて談笑出来るくらいには。普通の方の電車は、通勤ラッシュの時とか地獄だっていうもんね……冒険者用の車両は各電車に一両しかないけどこの感じだし、乗り込み口から何まで別でよかったよ本当に。下手にぶつかると危ないもん。こんなことで殺人事件を起こしたくないしね。何度か凉達と出かけるときに恨みがましい目で見られたけども。
あと、この車両は緊急時以外、他の車両につながっているドアがロックされているので、他には行けないし、入っても来れない。どっちも危ないからね。まあ、そのせいで、そのドアの窓から恨みがましい目がこっちを見ているんだけども……一応、朝の時間帯には、そもそも冒険者用の車両が付いてない電車なんかもあるので、その……うん。
心の中でそっと祈りつつ、視線を逸らすと、隣に座っている花奈さんからつぶやきが漏れた。
「それにしても、本当に夢希さんの手札の多さにはびっくり致しますわね……」
「ね。あんなにたくさんの魔法見たの初めてだよ」
ああ、さっきの実験場での話ね。少なくとも20くらいは見せたもんなぁ……ビーム、火炎放射、爆発に氷の津波や雷まで。よくもまああんなにポンポン思いつくものだよ。でもね、ちょっと悲しいことがあって。
「手札自体はそんなにないんだよ。ただ色々使えるだけで。威力もないし」
「確かに威力という点ではそうでしょうが、各々の特性だけで見るなら十分手札と言っていいでしょう」
「単純に、威力だけじゃなくて、麻痺とか毒だって十分すごいんだから」
2人の言う通り、確かに威力だけじゃなくて、麻痺とか毒とかそういうものだってある。《ライトニング》なんかがいい例だろう。でも、麻痺はともかく毒はまず使わない。だって、食べられなくなっちゃうしね。
……うん? いや待て。もしかして、今なら毒殺した上で解毒してもらえば、物凄く綺麗な死体が残って食べられるのか? だとしたら、アンチマジックシェルも……いや、そもそも毒にするのが難しいか。魔法がかき消されるわけだし。魔法じゃなくて薬品で毒にすれば何とか……? いや、そもそも薬品の毒とかどこから調達するんだって話だしなぁ……毒を持ってるモンスターが品川にいれば話は別なんだけど、いないしな。どうにか《錬金》で用意するか……? だとして、何から毒へ錬金すればいいんだ? ここは無難に使いたくないけど排泄物とかだろうか。
「ねえ、夢希ちゃん何考えてると思う?」
「そうですわね……本人の中で手札と呼べる魔法を数えているとかでしょうか? 彩音さんは?」
「多分、毒を使ってモンスター倒した後に解毒すれば食べられるのかな? とか考えてると思う」
「なるほど……」
私が毒の調合法について頭を悩ましている間に、彩音さんと花奈さんがひそひそと何かを話している。何を話しているんだろうか?
「どうかした?」
「夢希さんは今さっき何をお考えに?」
「うん? 品川のモンスターから毒を調合する方法がないかなって」
「……」
「……」
なんで2人して遠い目をしてるのかな……? なんでそのまま首を横に振るの? そこまで動きってシンクロするもの?
そして、彩音さんが思い出した。という感じで花奈さんに質問する。
「そういえばなんだけどさ、ワインって具体的にどう造るの? こう、製造過程と言うか……」
む。確かに気になるかも。なんか、ぶどうを潰して樽に入れるんだろうな……くらいの漠然としたイメージしかない。そして、発酵させてお酒になって、樽から瓶に詰め替えて、みんなの元へ。そのくらいの解像度だけど、ちゃんとモンスターでワインを造ろうとしている人から、ちゃんとした説明を聞いてみたいね。
多少長くなっても、どうせ時間はまだまだあるし。思う存分話してほしいな。
「私も気になる」
「ふふふ、どうせ長旅ですし、詳しく語らせていただきましょうか」
花奈さんが嬉しそうに微笑みながら、口を開いた。
「まず、お2人のイメージをお聞きしても?」
「うーん、イメージって言っても、ブドウを樽に入れて発酵させるんだよね? そのあと、高いワインは長い間樽の中にある……みたいな……?」
「私もそんな感じ……」
彩音さんも私と同じくらいだったみたいだ。申し訳なさそうに目をそらす彩音さんを見て、苦笑しながら花奈さんは答える。
「では、まずはワインそのもののお話からまいりましょうか。実は、ワインを樽に入れる時間は長くても2年ほどなのです。例外的に長いものもございますが、ほとんどのものはもっと短く、数か月ほどなのです」
「え、そうなの?」
花奈さんの説明にびっくりする。彩音さんも目を見開いている。
そんなに短いの? ワインってもっとこう長いと思ってたんだけど……樽の中でじっくりと。みたいなさ。
「特に白ワインは短いものが多いです。毎年出ているボジョレーなどは、そもそも樽に入れすらしないワインですわね」
「入れなくても造れるの!?」
「実は、発酵してお酒になった後に、どこに置くかの違いなのです。発酵が終わった後のワインは濁っているので、沈殿した澱を取り除き、上澄みを別の容器に入れてしばらく置くことで味を落ち着かせるのです。寝かせる。などといいますね」
「へぇ……あ、そういえば、ワイナリーの写真とかで金属のタンク? みたいなのが並んでる光景みるかも……」
「まさしく、あれが寝かせる場所ですわ。樽で寝かせるという工程が必ず必要なのではないのです」
そうなんだ……なんか意外だなぁ……あれってビールとかじゃないんだね。ワインもあれに入ってるのか。それにしても、まさか入れる前に発酵させてるなんて……ん? じゃあ、ヴィンテージワインってあれどういうものなんだろう?
「じゃあ、ヴィンテージワインってどういうものなの?」
「あれらは確かに長時間熟成しておりますが、あれは基本的に瓶の中で熟成しているのです。長時間樽の中に入れてしまうと、ほぼ木の風味しかしなくなってしまうので」
「つまり、樽の中に1、2年入れて、瓶の中に何十年ってこと?」
「そこまでの物はかなり特別ですが、それであっています。そうして熟成したワインは、口当たりが非常に丸く、香り高くなるのが特徴です。もちろん、熟成する前のワインがきちんとしていないと、美味しくならないのですが」
あぁ……そうなんだ。飲んだことがないからわからないけど、口当たりが丸いっていうのはどういう感じなんだろうか? 渋さが取れるとかそういう感じなのかな?
となると、花奈さんが造ろうとしているワインはそういうやつじゃないのかな。
「樽の中に何年も。というのは、おそらくウィスキーと混同しているのかと思われます。ブランデーなどもそうする場合が多いですわね」
「そうなんだ……なんだか、全然知らなかったなぁ……」
彩音さんが感慨深そうに呟くのを聞きながら、ふと、お父さんはこのことを知っているんだろうか? なんて考えてしまう。今度帰ったら話してみようかな。
ワインそのものについてある程度語り終えたからか、製造工程の話に移った。
「次は、ざっくりと製造工程についてお話いたしますわね。まず、果実を収穫し、それを選別いたします」
「選別って痛んでるのを取り除くとか?」
「それもございますが、それ以上に品質の見極めですわね。それがワインの味に直結いたしますので。ワイン造りの8割は畑で決まる。と言われております」
「ふんふん……」
「そして、その後白ワインなら圧搾を、赤ワインなら発酵を行います。赤ワインでは、皮や種から色や渋みが出るので、発酵ののちに圧搾を行います。発酵の期間は大体1、2週間ほどになりますわね」
「え、そんなに短くていいの?」
短っ。え、1、2週間しか発酵させないの? そんなものなんだ……いやそうか。私は樽の中で長い時間をかけて発酵すると思っていたけど、あれは熟成させているだけだから、思ったより短くて当然か。
まあ、それにしたって短いけども。
「ええ。ただし、その間の温度管理が非常に重要で、それを間違えると一気にダメになりますわ」
花奈さんが今までの中でもっとも真剣な目をして温度管理の重要性を説く。その期間に温度が変わってしまうと、酵母の働きが悪くなったり、死んでしまったりするのだという。白ワインと赤ワインでは温度が違うらしく、また使った果実の状態でも温度を変える必要があるのだという。それは思った以上に大変かもしれない……『
「そして、先ほど説明した通り、濁っておりますのでそれを取り除き、味を落ち着かせます。最後に、ろ過を行いワインを透明にして、瓶に詰めます。以上がワインの製造工程になりますわね」
花奈さんが、最後まで一気に説明してくれた。改めて説明してもらうと、結構工程踏むんだね、ワイン造りって。
それにしても……こうやって聞くと、花奈さんの夢って実現までかなり遠いというか、いろんな冒険にあふれてるね。いやあ、これは楽しそうだぞ。
「……こう聞くと、冒険がたくさんありそうでいいね」
「ね。きっと、果実の選別基準から調べないとダメだよね?」
「そっか、そこからかぁ……専用の機材とか用意するべきかな?」
「流石に舌頼りは厳しそうだよね……」
「じゃあ、『
「いや、もうあるんじゃない? 市販のがさ」
彩音さんと、今後モンスターでお酒を造るにあたっての話をしていく。機材だって必要だし、もしかしたら部屋とかなんか色々と必要かもしれない。そう思うとやっぱり『
そうやって話し込んでいたら、花奈さんが笑い始めた。
「……ふふふっ」
「? どうしたの花奈ちゃん」
「いえ、何でもございませんよ。それより、まずは食べられるかどうか。ですわよ。選別以前の話になってしまいますが」
「あ、確かに」
その話し合いは電車を降りるまで続き、夕飯は釜めし屋さんになった。久々に食べたキノコいっぱいの釜めしは、とても美味しかった。今度、ホクトで釜めしを作ってみようかな。
なお、大人2人は日本酒を飲んでいた。あのさぁ……いや、いいけどね。ダンジョン内ならスキル使えるしさ。でも、この前の泥酔と二日酔いで懲りないもんなんだね……
改めて調べたら、奥多摩が遠すぎて草
次回、いつも平和な配信に嵐が吹き荒れる!?