【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
遅刻しました! すいません!
腹ごしらえが終わって、奥多摩ダンジョンに入ってすぐに花奈さんの《不退の陣》で酔いを醒ましたんだけど……これ一定時間持続するタイプのスキルだから、しばらくこのままなんだよね。明るいので目立つし、時間的に他の冒険者も少ないしでモンスターがたくさん寄ってきそうである。虫系が特に。あいつら一定距離までなら、火であることにすら気付かずに来たりするからな……
奥多摩ダンジョンは、一応岩でできた洞窟があるんだけど、そのほとんどがツタで覆われて見えないほどに、草だらけのダンジョンである。ダンジョンの至るところに木もあるし、ほとんど樹海とかあんな感じだ。違うのは、地面が平坦で起伏があまりないことだろうか。
そんな環境なので、出てくるモンスターも虫か植物一辺倒である。動物とかいてもよさそうなんだけどね。熊とかさ。上層では、フラーラ、悪魔のトゲ、大蜘蛛の三種類が出てくる。三種類のうち、フラーラを除いて自発的に動くようなモンスターがいないのが、ここのダンジョン上層である。
でも、その分というか、待ち伏せの仕方がかなりいやらしい。悪魔のトゲは、壁か地面に張り付いており、かえし付きのトゲが生えたツタ状の触手を広げ、周囲の植物に擬態させている。近くを通りかかった冒険者をツタで絡めとって、牙の生えた花で捕食する。そういうモンスターだ。大蜘蛛は、クモの巣を張らずに、天井からぶら下がって下を通る獲物を待っている感じなのだが、その待ち方が結構えげつなくて、周囲の木の葉っぱをよくみたら不自然だな……くらいに集めてその後ろに隠れている。で、誰かが通りかかると上から降ってきて、毒のある牙でぶすりと刺して攻撃してくる。
対してフラーラはというと、ふらふらとダンジョン内を歩きまわり、こちらを見つけると走り寄ってきてツタ状の腕で殴ってくるだけ。だから、こいつを見てダンジョンを舐めると死ぬ。というダンジョンなのである。そのくせ、中層以降ではうってかわって身体能力任せの連中が増えてくる。下層のキラーホーネットがいい例である。高速軌道で錯乱しながら突っ込んできて毒針でぶすり。シンプルだけど強い。そういう連中が多いのだ。
そして、先ほどから触れているように、毒を持ったモンスターが多いため、状態異常の回復が必須になる。そのせいで研究されまくっているため、ここのモンスターの解毒薬ならダンジョン入り口の売店に普通に売っている。私たちの場合は花奈さんがいるから必要ないけどね。
で、今回のお目当てであるフラーラ、悪魔のトゲの果実。これらは普通に生えているというか、体についているというか……悪魔のトゲはおそらく擬態用につけているんだろうけど、フラーラはよくわからない。頭からみょんと伸びた部分の先端に花が咲いているのだが、個体によって、そこがつぼみだったり果実だったりするのである。なお、強さとかに変化はない。
何はともあれ、ダンジョンに入ったのだから、とりあえず配信をつけようか。いつも通りカメラを取り出してと……
「……映像よし。音声よし。こんばんは、ユキです」
「アヤネでーす。こんばんばー」
「カナですわ。こんばんは皆様」
とまあ、あいさつが珍しく「こんばんは」なこと以外は普通に始まったんだけど、コメント欄、リスナーさんたちの様子がなんだかおかしい。
"待ってたぜぇ…!”
"許せん、許せんよなぁ!”
"年貢の納め時だおらぁ!”
"やっぞこらぁ!”
なんか、凄い血気盛んだ……ど、どうしたんだろうか?
「ど、どうしたの……?」
"どうしたの? だとお!?”
"おま、お前なー!!”
"前回どう終わらせたのか忘れたとは言わせんぞ”
"前回あんなことしておいてすっとぼけるじゃねー!!”
前回? 前回はえっと……オークキングを取って帰ってきて、食べたら美味しかったからローストしようと思って家に帰ったんだけど……何か問題があっただろうか?
彩音さんと花奈さんがあー……みたいな顔してるのは気になるけど、とりあえず聞くしかないかな。
「何かしたっけ……?」
「ユキちゃん……!」
"はいゆるさーん”
"この配信の一番の目玉を直前で取り上げて置いて何かしたっけだとぉ!?”
"マジで何も思ってなさそうなの草”
"アヤネさんマジ焦りしてない?”
なんか彩音さんに腕を掴まれたんだけど、え、何どういうこと? 花奈さんも信じられない目でこっち見てるし。うん? なんでこんなに熱量が……というかだね。配信の一番の目玉って何さ。そもそもこの配信に目玉なんてものはないと思うんだけど、この人たちは何を言ってるの?
「いや、この配信に目玉なんかなくない……? ダンジョンでご飯食べてるだけだよ?」
「ユキさん……!」
"いやまあ、そうなんだけども”
"ご飯食べてるところが目玉だろうが!!”
"幸せそうに食べてるところが大事なの!”
"ダンジョンで飯食ってるとこが大事なんでしょうがー!”
コメントでリスナーさんたちが力説してくるし、反対側の腕を花奈さんに掴まれるし。私は一体何を間違えているんだこれは。
いや、わかってるよ? この、配信と言っていいのか微妙な配信を楽しみにしてくれているリスナーさんがいるということは。それ自体は嬉しいんだよ。楽しくもあるし。でもさ、目玉って呼べるようなことをした記憶は一切ない。
仮に、百歩譲ってこの配信に目玉なるものがあるとして。それがご飯を食べてる絵面だとしてだよ。そこってそんなに大事……か? そもそも、顔はモザイクかかってて見えてないから、多分見えてるのはご飯だけである。それでも目玉足り得ると……? あとは音声?
「えぇ……?」
「ダメだよこれ、本気でわかってないよ」
「ええ、流石にこれは深刻ですわね」
2人のあきれ果てたような声が左右から聞こえるんだけど、そこまで言われるほどなの? 私が配信についてわかってないのは自覚あるんだけど、そんなに?
"マジでわかってなくて草”
"幸せそうにご飯食べるだけのドラマがどれだけ流行ってると思ってるんだ…!”
"飯を食う系のバラエティだってたくさんあるでしょ! 大食いとか!”
"でもさぁ、ユキちゃんテレビとかあんま見なそうじゃね?”
"それはそう”
「うん。テレビは基本的に天気予報しか見ない。あとはニュースをちょっと」
リスナーさんのコメントにそのまま答える。事実として、そのくらいしか見ない。あとは愛依がCМに出たっていうから、その番組を見るくらいかな。そもそも、お母さんの時のアレでテレビというか、マスコミ全般うっすら嫌いだし……ニュース見てても、記者会見の場面になったら即切るからね。
その結果がテレビのない今の部屋である。まあ今度買うけど、見る予定はない。ニュースも天気予報もスマホで事足りるもん。だから、テレビというか、モニター? を買おうかなと思っている。
そう思って答えたら、彩音さんと花奈さんがそれぞれ引いていた。なんでさ。
「ちょっとって……」
「ユキさん、よく今まで生きてこれましたわね……」
「そんなこと言われるほど!? スマホで事足りるじゃん!」
"ボロクソで草”
"まあ、スマホで事足りるっちゃあ足りるしな”
"ぶっちゃけ、ネットの方がおもろいし…”
"ニュースはテレビ見てるわ。見てるってか聞いてるわ”
"適当に流しておく感じよな”
「いえ、友人との会話ですとか」
「……? 困ったことないけど……」
"むしろ、あるの?”
"自分だけテレビ見られなかったときとかの孤独感をご存じない!?”
"次の日一人だけ端っこにいる悲しさ…”
"そんなん知らんw”
"ネット民なんだから、ネットの話だけしてろ(過激派)”
花奈さんの言葉が本当にわからない。テレビを見ていないことで起きる友人との会話の問題……? え、そんなこと起きるの?
例えば、私が学校で凉達と話していることってその前日にあったこととか、ちょっとした雑談とかである。で、雑談の話題はみんな各々の分野から好き勝手持ってきている。私は冒険の話をするし、凉はサブカルの話だし、愛依はファッションとか芸能界の話だ。
だから、テレビの話になるとしたら、愛依が出演することになったとか、凉の好きなアニメの話くらいで……アニメもネットで見ればいいし。
次に話すのはお父さんだけど……まあ、確かにお父さんはテレビによく出ているから、それでは話すかもしれない。けど、見てないからなぁ……時間的にも見れないこと多いし。
で、最後は鬼灯とか『
どう考えても、テレビ見てないからって困ることとかなくない……?
「あの2人とホオズキちゃん……確かに困らないかも……」
「言われてみれば確かにそうですわね……」
「2人は困ったことあるの?」
なにやら納得してくれたみたいだけど、そもそも2人は困ったことがあるんだろうか?
「芸能人の話などになりますと、テレビを見ていないと厳しいものがございますわ」
「どの人がタイプなのー? とかね」
"芸能人の名前とかわかりません!!”
"芸名じゃなくて、作品と役名でお願いします…”
"マジでそれ”
"お前らさぁ…”
"一般人がお前らの声優トークに同じこと思っとるで”
"マ???”
なるほど、芸能人の話ねー……したことあったかな……なんかクラスの人が話しているのを小耳に挟んだような記憶があるような、ないような。他にはうーん、お父さんが仲良くなった人の話をしてくれるんだけど、お父さんの友達の人の話って感じで芸能人の話って感じはしないし……名前は分かるけど顔は知らない人ばっかりだ。
あと、どの人がタイプとか何その話。どういうこと?
「アヤネさんのそれはどういう話なの?」
「えっ、こ、恋バナだよ、恋バナ!」
「恋、バナ……?」
"芸能人で恋バナ…?”
"芸能人を二次元のキャラか声優か配信者に置き換えればわかるやろ”
"あっ、そういう”
"あーね”
"理解したわ。確かに見てないと厳しいな”
え、どんな芸能人が好みとかで恋バナってなんだ……? あれかな? クラスの男子がグラビア雑誌片手に話しているようなやつかな? 本人たちは小声のつもりなんだろうけど、私は冒険者なので割と普通に聞こえている。下品な話だけど、聞いていると男性からの需要がわかりやすいというかなんというか。胸が大きくて美人な人が圧倒的人気を誇ってるね。うん。
よくわからなくて固まってしまった私に花奈さんが疑問をぶつける。顔が若干ひきつってるけども。
「……ユキさんは恋バナはしたことございませんの?」
「うーん……この前の買い物の時と……友達と話したことあったっけなぁ……?」
「えっと……髪がピンク色の子とかはそういうの好きそうだけど」
「私たちがそういうのは壊滅的なの知ってるからしないよ」
「あぁ、うん……」
"友人グループ3人中2人ダメなんか…”
"その子以外ダメなんやな…”
"ユキちゃんが前に触れてた漫画やらゲームやら勧めてる友達がダメな側かな”
"なるほど、オタク女子と(おそらく)普通の女子とユキちゃんなのか”
"そのグループ大丈夫なのか…?”
確かに愛依はそういうのが好きと言うか、雑誌の端っこに恋愛相談のコラム書いてたりするくらいだから出来るんだろうけど、私たちの前ではしない。だって多分会話にならないし……申し訳ないけど。私の場合、芸能人で誰がタイプ? とか言われても、最低限冒険が一緒に出来る人って答えるから全部アウトだしね。凉? あいつは三次元の男の人に興味ないよ。
そういえば、そんなぐだぐだな会話をしているうちに、リスナーさんの怒りはどこかに行ったらしい。よかったよかった。
モンスター食ってる冒険者とゲーム配信者とモデルの友人グループ
こう並べると、本当によくわかんないですねこのグループ……