【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
このままグダグダと話し続けていてもしょうがないので、改めて配信を始めることにした。やっぱり、配信の挨拶って意識の切り替えになっていいかも。これから冒険するぞって気には……うん。ダンジョンに入った時点でなってるな。
「さて、気を取り直して。今日は奥多摩ダンジョンで果実の収穫をするよ」
「その言葉だけ聞くと、意味わからないね……」
「ふふふ、楽しみですわね」
"果実の収穫?”
"果実なんかあった?”
"悪魔のトゲについてるぞ”
"あれ果実なの?こぶか何かだと思ってたわ”
本日の予定をリスナーさんに告げると、やはり困惑している。まあ、普通はそんなことしないしね。
今日は時間がないので、急いでフラーラと悪魔のトゲを探すことに。と言っても、悪魔のトゲはそこら中にいるし、フラーラは花奈さんの《不退の陣》の光に勝手に引き寄せられてくるしで、基本的にそこまで大変なことはない。
奥多摩ダンジョン上層の構造自体は品川ダンジョンに近く、洞窟と大広間の組み合わせだ。中層以降はお台場みたいに大広間が一個あるだけである。層も一階分しかないし。そして、通路になっている洞窟だろうが、大広間だろうが植物があるところにはそいつらはいる。だから、ささっと見つけて回収して食べるだけ食べてかえるだけ。
のはずなんだけど……
「大蜘蛛めっちゃ多くない……?」
「思わず悲鳴上げちゃったよ……」
「流石にこの量は初めて見ましたわね……」
"きっしょ!?”
"うわぁ、一面に…”
"天井の半分くらい大蜘蛛なのやば”
"アヤネさんガチで悲鳴上げてたもんな…”
カメラをつけるための行き止まりから出て、洞窟から部屋に入って上を見たら、天井の半分くらいが大蜘蛛だった。見た瞬間、彩音さんが悲鳴を上げて花奈さんの背中に隠れた。いやだってもうすごいの。奥多摩ダンジョンの天井って、地面から見ると森の中で上を見上げた時と同じ感じの視界なんだけど、葉っぱの隙間が全部黒い蜘蛛の体で満ちている。空のところが全部蜘蛛だと思ってくれたらいい。正直めっちゃキモい。
とはいえだ。所詮は上層のモンスター。全部《魔力の矢》で殲滅して終わりである。というわけで、一気に大蜘蛛めがけて《魔力の矢》の雨を叩き付ける。
天井が穴だらけになったけど、大蜘蛛は全部倒したので、広間の中にいるフラーラを2人に任せて、悪魔のトゲを私が担当する。近接職だと近づくだけで結構危ないしね。
フラーラは光に寄ってくるところをハルバードをぶんぶん振り回している彩音さんに首をポンポンとはねられているし、私は私で、悪魔のトゲの本体である花の部分に《魔力の矢》を打ち込んでいる。大広間の掃除はわずか10分程度で終わった。
「よし、この部屋に敵はいなくなった」
「やっぱり、上層のモンスターだともう弱いね」
"はっや”
"結構な広さあるけどなぁ…”
"これって焼いたらいかんの?”
"周り全部焼けて死にかねんぞ”
"火傷はともかく酸欠で死ぬ”
"あ、なるほどぉ…”
今日は上層だから、ほとんどスマホを見ながら活動できる。だからコメントを見ているんだけど、まあその発想になるよね。こんなに植物だらけなんだし燃やしちゃダメなの? って。私は、やってもいいけど消火もきちんとしてね。としか思っていない。一人で来てた頃は、《ウィンドカッター》で芝刈りしながら進んでいた。ここ、空中に飛ぶにしてもツタが結構邪魔なんだよね。だから、片っ端から切り落とすのはよかったと思う。
一回、端っこの方で《ファイアスロワー》使って焼いてみたんだけど、思った以上に燃え広がらなかった。私の魔法がそこまで威力がないっていうのもあるんだけど、そもそも枯れ木がないのが大きそう。ダンジョン内だからか、枯れてる木がないんだよね。枝すら落ちてないという感じだからね。
でも、私と違って、炎属性や魔法を強化するユニークスキルを持っているような人の強力な火だったら、燃え広がって大変なことになる。もちろん魔法の効果範囲内だけだけど、その範囲だって思わぬ広さだったりするしね。下手するとコメントの通り周りが全部火で覆われて大変なことになる。冒険者の体は頑丈だから、火傷程度はどうとでもなるけど、酸欠はどうにもならないからね……
「さ、果実を収穫いたしましょう!」
「そうだね。うーん、ちょっと潰れちゃって……あ、甘い香りする!」
「! ふふふ、幸先いいですわね」
"【朗報?】フラーラの果実、甘そう”
"報道が曖昧過ぎる”
"雑すぎるだろ”
"幸先いいのか?”
"酒にするのにある程度糖分いるから、良くはある”
フラーラの果実は甘い香りがするっていってるから、もしかしたら甘いのかもね。それにしても、あいつらの頭に生えてるあれってどういう過程で果実になってるんだろうか? やっぱり、雌雄があって受粉しているんだろうか? 葉っぱのものは確認されていないから、花の状態がデフォルトっぽいんだけど、どうなってるんだろうね? 生まれてくる瞬間に立ち会えればいいんだけど……
まあ、それはとにかく、私は悪魔のトゲの果実を収穫しなくていけない。悪魔のトゲは名前の通り、トゲが問題がある。かえしが付いてるの本当に悪意の塊だと思うんだよねこのモンスター。全然抜けないし、ほっとくと破傷風になるし。
だから、倒した後も果実を取るならかなり気を付けないといけない。果実は何故か中心の花から離れた位置に生えるのだが、大体私が背伸びして届くくらいの高さだ。そこに至るまでに触手がたくさんあって危ない。魔法で切り取るのはちょっと無謀だし、自分で行かないとマズそうだ。なので、私は秘策としてこうすることにした。
"暗転しまーす”
"防護服着んの?”
"トゲ対策か?”
"これ耐久性もあるのか…”
"冒険者が使ってるものだし、流石にあるだろ”
"汚れ防止に徹底してるかと思ってたわ。水で綺麗になるし”
そう、普段解体に使っている防護服である。なんだかんだこれにはお世話になっている。実は、折れた骨とかで怪我をしないようにってことでそれなりの強度があるのだ。そういうわけで、これを着て悪魔のトゲの果実を取りに行く。
悪魔のトゲの果実は、ぱっと見アボカドである。黒くて楕円形、表面がちょっと凸凹してる。そんな感じだ。その生態からして、ウツボカズラみたいな捕食植物の一種だと仮定すると、美味しい可能性はある。美味しそうな匂いや見た目で獲物をおびき寄せるわけだから、この果実が美味しい可能性はあると思う。
ダンジョンのモンスターにそんな地上の常識が通用するのかどうかはさておいて。いくつかもいでいくと、ある程度硬さに差があることも分かった。本当にアボカドみたいだなこれ……追熟させると美味しいとかあるんだろうか?
「取ってきたよ」
「おかえ……ユキちゃん、それ大丈夫なの……?」
「防護服がトゲまみれですわよ……?」
「うん? うわっ」
"トゲびっしりで草”
"草だらけで草”
"防護服貫通しなくてよかったな…”
"トゲってそんなにヤバいん?”
"全部返しついてて普通に抜けんから、えぐり取って回復魔法が最適解になってる”
"うげぇ…”
彩音さんたちに言われて防護服を慎重に脱いでから正面を見ると、本当にトゲまみれになっていた。え、まさかこれに刺さって……はないな。引っかかってるだけだ。水で流すと全部とれた。
さて、時間がないんだ。これをとりあえずで食べてみよう。一番耐性スキルが充実している私が毒見役だ。なので、《不退の陣》の範囲外に移動する。
なんでかというと、このスキルの範囲内で状態異常になっても、回復までが速すぎて耐性スキルが発動したかわからないという、私たちじゃなければ絶対にデメリットにならないようなデメリットがあったのだ。おかげで、すぐ外で食べて、ヤバかったらすぐに飛び込む。ということが出来るのがありがたい。
というわけで……まずは、2人が取ってきてくれたフラーラの果実から。見た目は、赤茶色でパッションフルーツみたいな感じだけど、皮が結構厚い。中身の果肉は白くて、香りは甘い香りがする。一番近いのは……ライチだろうか? 匂いだけならかなり期待が持てそう。果実の構造はモモに近いね。中心に大きめの種がある感じ。
「いただきます」
"さ、どうだ?”
"毒じゃありませんように…”
"美味いといいが…”
"見た目美味そうだけどどうだ?”
はむ。うん。お、結構甘い。普通に果物として食べられる感じだ。モモの食感のライチみたいな感じ。うんうん。美味しい。ついでに耐性スキルに反応もないから無毒。
「美味しいよ。それに、毒もない」
「じゃあ、いただきまーす」
「 実 食 」
"美味いんか!”
"やったやん”
"ええぞええぞ!”
"【朗報】毒なし”
私の発言を聞いて、2人も口にフラーラの果実を放り込む。そんなに慌てなくても……彩音さんも花奈さんも、美味しいと言いながら残りを平らげていく。さて、今のうちに私は悪魔のトゲの果実の方を……これ、本当に食べられるのかなぁ……?
悪魔のトゲの果実の方も、同じようにナイフで割って中身を取り出して……という工程を踏んだのだが……中身真っ黒なんだよね。腐ってるわけではなさそうなんだけどね、におい的に。どれくらい黒いかというと、皮の色とほぼ一緒である。まあともかく、食べてみないと始まらないので、とりあえず食べてみることに。この世界にはイカ墨とかだってあるんだ。たかが黒いだけの植物なんて、恐れる理由はない。
"色、黒っ!?”
"マジで真っ黒なんだよなぁ…”
"よく食う気になるなこれ…”
"※大体全部そうです”
"それはそうwww”
いざ、実食。はむあっまっ!? なんだこれ、ちょっ無理! あ、なんか耐性スキル発動した!
「ぷっ、ぺっ!! ああぁ!」
「だ、大丈夫!?」
「さ、お水ですわ」
「ありがと……」
"ダメだったか…”
"そんな反応するほどだったか…”
"ふふふ…やめておきます”
"そうしろ”
口に入れた瞬間から口を蹂躙しつくした暴力的な甘さにノックアウトされた。ちょっと汚いけど、全力で吐き出して、花奈さんからウォーターボトルを受け取る。水で何度かうがいをして、ようやくどんな味をしているのかわかってきた。味で近いのは意外にもぶどうだろうか。ある意味ワインづくりに向いてるのかもしれないけど……いや、甘すぎだよコレ……あと、地味に毒あるの何? ふざけてるだろこの果実。
「甘すぎて無理……」
「え、甘いの?」
「そんなになるほどの甘さ……?」
"甘い!?”
"甘くてあんな反応になることあるんだ…”
"どんな甘さしてんだ…”
「あと、地味に毒がある」
「えぇ……? どういう果実なの……?」
「と、とりあえず食べてみましょう……」
2人に伝えたにもかかわらず、私が食べたからなのか、一応は自分で確かめようと思ったのか、2人とも口に入れて……やっぱりノックアウトされた。即果実を吐き出した2人にウォーターボトルを渡す。2人とも何度も口をゆすいで、何とか話せるまで回復した。
「……いや、本当に甘い……」
「ここまで甘いとは……とはいえ、味はぶどうに近いですわね……」
"2人もダメだったか…”
"というか、スキルあるとはいえ、毒物食うなよw”
"ぶどうに近いとは…?”
"味が近いもくそもあんのか?w”
"悪魔のトゲは果実も悪魔だったか…”
とりあえず、今日の目標は達成できたし、時間も迫ってきていたので、ここで終わりにすることにした。これらの果実は持って帰って、『
ともかく、花奈さんの夢の第一歩は踏み出せたと……言っていいんだろうか……?