【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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お酒が人生なわたくしとルールは守るもの

 

 あの後、わたくしたちはある程度の果実を採取し、帰途に着きました。まさか、夢希さんがこれらの果実を持ち帰るために、わざわざ依頼を発行してもらっているとは思いませんでした。正直、ここまで夢を追いかけることに前向きに協力してくださるとは思ってもみなかったのです。彩音さんとも、どのようにすればよいのか真剣に話し合いをしてた様子からも、お世辞の類ではないと思えて本当に嬉しく思います。

 思うのですが……いえ、そもそも、その方法はアリなのでしょうか? 仮にも、未成年だから色々と制限がかかっているのにも関わらず、それを押し通すような……

 自分が欲しいものがあるので、依頼を出してください。がまかり通ってしまうのではないかと思います。それに、それは完全に違法の領域では……? なので、電車の中でそれとなく聞いてみたのですが……

 

「私は、モンスターの特殊な身体を研究している人に、今度モンスターに実る果実について調査するんだーって世間話をしただけだよ。私は一言も、この依頼を出してなんて言ってない」

「え、えぇ……」

「突然政治家のようなことを言わないでくださいな……」

 

 当たり前のことのように言い切る夢希さんに、ちょっとだけ引いてしまいました。いえその……確かに、確かに言っておりませんが、それはもう黒に片足を突っ込んでおりませんか? 隣で彩音さんも顔を引き攣らせておりますし。

 しかし、確かにこれで逮捕されるのか? と言われると不可能。としか言えないでしょうし。そもそも、夢希さんの行ったことは、あくまでも「今度調査するんだー」という世間話で、あって依頼を出せ。ではありません。

 今回何故そんな世間話をしてこうなったかといえば、当然その方が戦えないからでしょう。その方は素材を自分で集められない。そして、購入しようと思っても、ドロップアイテムでもなんでもないため、誰も回収しておらず市場に出回っていない。ならば、依頼を出すしかない。しかも、モンスターに成る果実についてであるならば、今回以外にも頼むかもしれないから、個人ではなく探索部門に対して依頼を出させて、それらに詳しい自分のところに割り振らせる。ここまで、夢希さんの手の中にはありませんが、最終的に夢希さんの手の中にボールが転がるようになっている。

 どれだけ手慣れておりますの……?

 

「でも、『魔女の大鍋(コルドロン)』以外じゃこんな方法通用しないよ。出すまでいかないもん」

「それはそうだけどさ……」

 

 その答えには、でしょうね。と返さざるを得ません。『魔女の大鍋(コルドロン)』だからこそ成り立つ、研究心をくすぐることで自分にとって有益に動いてもらう。おそらくですが、幼少期から『魔女の大鍋(コルドロン)』で過ごしていたからこそうまくできる方法ではある。とは思うのですが……やはり、グレーでは? という感想は消えません。

 あと、夢希さんが当たり前のようにこのような手法を取ることに驚いております。なんというか、ルールは守って当たり前。助けられる範囲で人を助ける。そういった姿を見ておりましたから、善良な人柄だと妄信していた部分があったのかもしれません。人とは多面的な生き物ですし。

 それでも……うーん、違和感が凄まじいですわね。

 

「夢希ちゃん、どうやってそんな根回しの仕方覚えたの?」

「うーん……お母さんがね。ルールは徹底的に守るものだって言ってたから」

「……? それがどうやって根回しの話に?」

 

 ふむ。言っていることは正しいのですが、致命的にわたくしの認識から外れていそうな予感がいたします。それと、彩音さんの疑問の通り、それがこのような根回しにつながるとはとても思えませんが……

 

「ルールの中であれば、他人に迷惑かけなければ何でもしていいし、ルールのギリギリをせめる分には何も問題がない。だから、ルールは絶対に守れって。それで誰かに何か言われても、そもそもルール上問題ないんだから、文句を言われる筋合いはないって」

「う、うん……」

「そう、ですが……」

 

 え、ええ、その理論は分かりますわよ? わかりますが、それはそれで問題しかないような……今回についても、誰も損はしておりませんものね……? おそらく、わたくしたちが受け取る依頼料自体はあるでしょうが、今から成分分析をお願いするときに、その分が消えていきますものねきっと。その上、その方は今後も継続的に研究材料を手に入れてくれる冒険者を得たわけですからね。

 

「でね。だからこそ、ルールの中でルール違反をするためのルールの使い方と抜け方をちゃんと考えろって。法律とかも含めて。だから私はちゃんと勉強したんだよ。その結果、クランに所属しなくてもモンスターの肉なら問題ないって」

「そこなの!?」

「最終的にそこに着地するのですね……」

 

 夢希さんのお母さまは、かなりの曲者ですわね。過去の配信でも、鬼灯さん曰く、夢希さんのお母さま以上の破天荒は知らない。などと申されるレベルですし……

 それに、わたくしは夢希さんがかなり冒険者の法律に詳しいのは知っておりますし、その抜け穴を使ってかなり好き放題しているのも知っております。

 具体的に言えば、今も持っているであろう投網(ミノタウロスの筋繊維製)ですとか、腰に下げているショートソード(ソードスコルピオの尻尾製)ですとか、釣り竿(複数のモンスターの素材を使った合作)ですとか……

 未成年の冒険者は、ドロップアイテムは持ち出せないが、ドロップアイテムの加工品なら持ち出せる。だから、ダンジョン内でドロップアイテムを加工すれば、好きなものを持ち出せる。などという抜け穴は、まず思いつきもしません。

 配信を見ていただけの当時は感心していたのですが……今こうやって聞くと、感心してはいけないことのように思えてきましたわね……! ここまで好き放題していくのはまずいような……いえしかし、本当にルールの中でやっているのが質が悪いですわね……

 流石にここは年長者として少しばかり苦言を呈すべきか? いや、今のところ問題になっていないのだから、余計なお世話だろうか? などと少々考えているとき、夢希さんがスマホを見ながら思いついたようにおっしゃいました。

 

「あ、そうだ。今度の三連休って2人は予定空いてる?」

「え、今度の? うん空いてるよ」

「わたくしも特に予定はございませんが……」

 

 なんでしょう、嫌な予感がいたしますわ……! いえ、きっとただ、ちょっとした遊びに誘われるとか、そういった類なのではないかと思います。1人暮らしになって自由を手に入れたとおっしゃっておりましたし、羽目を少し外しているだけのはず……!

 ですが、それが夢希さんとなると、ダンジョンにお泊り。という可能性がぬぐい切れないのが恐ろしいです。それはそれで楽しそうではあるのですが、一抹の不安はございます。

 

「じゃあさ、温泉旅行いかない? 泊りで。草津辺りにさ」

「え、温泉旅行? 行きたい!」

 

 お、温泉旅行? 嫌な予感は気のせい……? とはいえ、わたくしも温泉は好きです。風呂上がりの火照った体に冷えたお酒の沁みること……温泉であればなおさらです。それに、草津とは。地酒なども期待できますし、とてもうれしく思います。まさか夢希さんからそういった話が出るとは思いませんでしたが……もしこういう話を持ち出すなら彩音さんかなと思っていたので。

 いえ、そもそもなのですが、夢希さんにそんなお金の余裕はあるのでしょうか? なんだかんだと苦心しておられる印象がございますが……冒険者用の品物はどれもそれなりにしますからね。

 

「わたくしも温泉は好きですが……夢希さん、お金の方は大丈夫ですの?」

「あ、そうだよ。大丈夫なの?」

「大丈夫だよ。()()()()()()()()

「え」

 

 は、払ってもらう!? 待ってください、わたくしたちにたかるつもりで……はないですわよね。夢希さんは自分が払う分にはかなり雑なところは見受けられますが、他人からもらう分には結構シビアですし……

 わたくしと彩音さんが困惑しているのを見て、夢希さんが補足をいれます。

 

「あ、違うよ? 2人にじゃなくて、『魔女の大鍋(コルドロン)』にね。もちろん全員分」

「……? どうやって……?」

 

 ああ、やっぱり嫌な予感は当たっておりましたわ!

 そして、彩音さんがショートしておられますわ!

 

「こうやってだよ」

「何これ? えっと……モンスターの生態研究のフィールドワークにおける研究費の申請……?」

「まさか……」

 

 夢希さんから差し出されたスマホの画面を見ながら、彩音さんがその内容を読み上げます。スマホを渡してもらい、その中身を読んでいきます。

 中身を要約しますと、モンスターの生態研究という名での研究費の申請書ですわね。同行者として、わたくしと彩音さん。内容としては、フィールドワークを行うからその遠征費を研究費として出してくれ。そういう内容ですわね……

 その下には、これまでの研究内容と称して、これまで食べてきたモンスターの解体の仕方や食べ方などがとても詳しく記載されたレポートのようなものが付いております。

 

「ちゃんと研究レポートまで用意したんだから、ダメとは言わせない。それに、あれだけ私のことこき使おうとしてるんだもの。このくらいはしてもらわないとね」

「う、うん、そっか……」

「……」

 

 正直顔を覆いたい気分ですわ……確かに、『魔女の大鍋(コルドロン)』は、あくまでも研究系のクランです。わたくしたち探索部門がその中で異質なだけであり、メインはあくまでも研究です。探索部門の冒険者であろうが、ちゃんと研究の実績もしくは計画があり、かつ申請さえ行えば研究費は出るのです。それでも足りない分は自分たちで稼いでいるようですが……

 このあたりのことは、入団時に説明されました。が、わたくしには関係ないことだと思って頭から抜けておりましたわ。

 ですがまさか、これまでのモンスター食の研究から、このようなものを用意するとは……一通り読んでみましたが。各モンスターの皮や筋肉の付き方、内臓の配置や骨格に至るまで、ありとあらゆることが書いてあります。これ自体は論文などにはならないでしょうが、研究には違いありません。というか、一体いつ調べましたの……?

 そして、この研究を進めるために、草津ダンジョンに行くから遠征費出してね。と半ば確定で奪い取って、ついでに温泉旅行を楽しもうと画策するのは流石にどうかと思いますわ……! やること(研究)自体はしっかりやるおつもりなのがなおさら質悪いですわ。文句のつけようがございませんもの。

 さらに、研究の手伝い要員としてわたくしたちまで組み込むのは流石すぎますわ……実際、手伝っているのかどうかは微妙でしたが、この前解体について教わりましたから、若干の実績が出来てしまいましたし。もしや、それを待っていた……?

 

「じゃあ、今度の三連休は、温泉旅行しようね。あ、もちろんダンジョンにも潜るし、モンスターも食べるよ」

「……よし! うん、楽しみだなぁ、地元の名物とかも食べたいなぁ」

「もちろんだよ。焼きまんじゅうとか食べようね」

「いいね! よし、ちょっと調べちゃお……」

「……」

 

 わたくしが夢希さんのちょっと黒い部分に驚愕している間に、彩音さんはすでに温泉旅行の計画に参加しておりました。名物を調べつつ、どこに泊まろうかなー? なんてお話を楽し気にしております。

 彩音さんの切り替えの早さが羨ましい……! わたくしはまだその域には達しておりません……!

 その後、わたくしがなんとか切り替えて会話に参加し、ホテルなどを決めていくのでした。ダンジョン付近の冒険者用ホテルが満室だったため、少々遠くに泊まることになりましたが、これもまた楽しみですわね。

 

 

 

 




これが『女帝』の娘である。
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