【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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未成年の締め付けの強さは、結構強めにしてるんですけど、変に緩めると大人が未成年でチキンレース始めるんで、こうするしかないかな? と。
あと、法律作ったときには、冒険者夫婦から冒険者が生まれてくることを想定していないっていうのがあります。


配信に興味のない私と花奈さんの夢の始まり⑶

 

 あの後、奥多摩ダンジョンから終電までフラーラと悪魔のトゲを狩りまくり、その果実を持って帰って、依頼主に渡した。なお、門限は余裕でぶっちしたので、やはり一人暮らしは素晴らしい……

 翌日、私たちは成分分析の結果を聞きに、依頼主その人がいる研究室を訪れていた。

 

「こんにちは、蛇目(じゃのめ)さん」

「おお、夢希ちゃん、待っとったで! パーティの人らもおおきに。蛇目伊吹(じゃのめいぶき)いいます。よろしゅうな」

 

 白衣を着て、研究室で研究をしていたであろう蛇目さんに声をかける。振り向いた彼女は、片方の目に顕微鏡のようなレンズの三枚ついた奇妙な眼鏡をしている。髪は私と同じで白く、眼の色は赤色……いやこれ充血してるだけでは? もともとピンク色だったはずだ。それこそ、ローズクォーツだっけ? あんな感じの色。

 蛇目さんとは、小さい時からたまに話すくらいの距離感の研究者の人だ。『魔女の大鍋(コルドロン)』の研究者の人って大体そんな距離感だけども。初めて会ったときは標準語だったんだけど、なんか段々関西弁になってきて、今じゃこれである。

 それにしても、普段糸目の彼女が目をかっぴらいてるということは、結構すごかったのかな? そう思いつつ近づいていったら、やたらとテンションの高い彼女が、黒い液体を見ながら語ってくれた。

 

「いやー、こんなもんあるとは知らんかったわ。これで酒造るんやろ?」

「う、うん、造れそう?」

「造れそう? 何言うとんねん! これ、革命やで。ワイン界がひっくり返るくらいの大発見やわ!」 

「え、そんなに?」

「そんなことになるんですか……?」

「そこまでのものですか……」

 

 両手を広げて力説する蛇目さんに、みんなで首をかしげてしまう。

 私たちが話についていけていないことに気付いたのか、蛇目さんは慌てたように咳払いをした。

 

「ん、んん! 堪忍な! まずは、どういうことか説明せなあかんかったな。みなさん、貴腐ワインって知ってはります?」

「私は知らない……」

「なんかカッコいい名前のワインがあることは知ってます……」

 

 私は知らないし、彩音さんの……その知識は何? カッコいい名前のワインって何……?

 

「貴腐ワインとは、簡単に言えば意図的にカビを生やすことで、ブドウの実を乾燥させ、糖度を高めたブドウを使って作るワインですわ。芳醇な香りと他には珍しい甘さが特徴になりますわね。彩音さんのおっしゃっているワインはドイツの物でしょう」

「おおっと、よう知ってはる……あぁ、そういうこと? 夢希さんやなくて、自分が造ろうとしてたんや! 完全に勘違いしてたわ」

 

 蛇目さん、私未成年だからね? お酒飲めないよ。え? モンスター食べてるから、その延長だと思った? うーん、反論できない……

 

「ほんで、どういうことか言うたらな。この悪魔のトゲの実は、糖度がだいたい70度くらいあんねん。これがどのくらいの甘さか言うたら……そうやな、ガムシロップくらいやと思てな」

 

 いやガムシロップって。そりゃあんな反応になるよ。ものすごく甘かったもん。ガムシロップ並みの甘さの果物って、もうそれ意味わかんないじゃん。モンスターなんて軒並み意味わかんない連中だけども。

 

「これほどの糖度があって、しかもこのサイズやろ? そこから果汁もしっかり取れるとなれば、それはもう革命以外の何物でもないわ。貴腐ワインは、乾燥させた実を絞るから作れる量が少ないっていう、絶対的な弱点があったからな」

 

 あーなるほど。貴腐ワインのブドウは乾燥させて糖度を……つまり、ドライフルーツみたいな感じにしてから果汁を取るから、そもそも量が取れなかった。けど、悪魔のトゲの果実はそのまま絞れる。サイズもアボカドくらい。それは確かに革命が起きそう……

 

「とはいえ、これをワインにするには、そうとう研究せなあかんやろうな……」

 

 悪魔のトゲの果汁の入ったビーカーを持ち上げながら、蛇目さんは問題点を語っていく。

 ちょっと横に振ってるけど、液体にしてはドロッとしてるなぁ……

 

「まずな、毒素があんねん。これ自体は弱い毒やから、そこまで問題ないんやろうけど、これが甘みと一体化してもうてんねんな。せやから、あらかじめ解毒するんも難しいし、毒のせいで発酵させるための酵母菌が死んでまうねん。そこをなんとか乗り越えたとしても、そもそも酵母菌が動けるような濃度やないから、相当難しいと思うで」

 

 そういえば、毒もあったなあの果実……でも、甘さが毒と一体化してるのか……なんていうか、糖度をもうちょっと下げて、毒性を高めた方がよかったんじゃないのか? モンスターとしてはさ。そっちの方が食べられる相手増えそうなのに。甘すぎて、あれを食べられる生き物そうそういないと思うんだけど。

 そして、酵母菌の問題。なんと、ちょっと試しに酵母菌を投入したところ、すでに死滅してしまったのだという。一応、濃度の問題かと思って薄めてみたそうだけど、それも死滅。ということで、毒性に耐えられる菌でないと無理。かつ、糖度が高すぎるせいであんまり働かないと。

 

「それに、酸味も足りひんねんな。普通のブドウと同じくらいやねん。渋みと苦みに関しては、皮と種から持ってこれるんやけど、それぞれ主張がすごすぎるからな。これらが一体化して美味しく飲めるまで、何年熟成させたらええんか見当もつかへんわ」

 

 最後に味の問題。甘みが超強力で酸味がちょこっと。皮と種には苦味と渋みがあるから、それで調整は出来るけど、それぞれ超強烈と。

 問題山積みにもほどがない……? これ、大丈夫だろうか……

 大本の果実自体はいいものだけど、お酒にするまでに解決しなくてはいけない問題が多すぎるでしょ。私も出来る限り手伝うつもりでいたけど、何から手を付ければいいのか……

 

「そこまでのものですか……」

「せやねん。ただ、それぞれの成分的には大当たりと言ってええと思うわ。造れればな……っていう問題はあんねんけど」

「ふむ……」

 

 花奈さんが難しい顔をして考え込んでしまった。私は私でどうしたものかと考えていた。といっても、お酒造りは全然わかんないし……とりあえず、ダンジョンで酵母菌を探す方向で手伝おうかな。それなら割といけそうだし。

 そんな風に固まってしまった私たちの隣で、彩音さんはフラーラの果実の方について質問をしていた。

 

「えっと、フラーラの方は?」

「おお、フラーラの果実。これな、熟し具合でめちゃくちゃ味が変わんねん! 一遍食べてみて。これと、これ。先にこっちから食べた方がええで。逆にしたらえらい目にあうでな」

 

 蛇目さんが差し出したのは二つのさらに分けられたフラーラの果実のようだが、見た目がまったく変わらない。外側の写真もついているけど、見た目の違いあるかなこれ……? とりあえず、思考を中断して、味見をしてみることに。忠告にはちゃんと従うことにして、一個目を口に入れる。持ってくるときに食べたやつは美味しかったけどな。

 

「すっっぱ!!!」

 

 レモンよりも酸っぱい気がする!! 不意打ちなのもあるけど! お、おおう、口の中がぁ……! 2人の方を見ると、花奈さんが口を抑えてうつむいており、彩音さんは顔のパーツが中央に寄ってしまっている。えそれ、どうやってるの? 物理的に寄ってる……

 と、とりあえず、もう一個の方を口に入れる。こっちは……

 

「あまーい……」

 

 あまーい……優しい甘さだ。さっきまでの酸っぱさが嘘のような優しい甘さである。なんていうか、ぬるめのお湯につかったような気分である。すごく心地いい。花奈さんも微笑んでいるし、彩音さんは蕩けた顔をしながら、頬を抑えている。うーん、香りも前に食べた通りライチっぽい感じだ。

 見分けつかないのが本当にダメだけどねこいつ。見分け方探さないと……

 

「ふふふ、せやろ? こっちは白ワインにしたら絶対旨いタイプやねん。糖度もバッチリやし、この二つをええ感じに混ぜれば、甘みと酸味のバランスも取れるしな。種もちょろっと放り込んだら、味もバシッと決まるんちゃうかな」

 

 なんでも、蛇目さん曰く種がちょっとだけ入ると、渋みがちょっとだけ追加されて美味しくなるはずなのだとか。お酒好きなのは知ってたけど、そんなことまでわかるんだ。すごいな研究者……専門はモンスターの身体機能のはずなんだけどね。ドラゴンがどうやって火を吹いてるかとか。

 それにしても、総評を聞くと、もしかして……

 

「あれ? 割と大当たり?」

「うーん、どないやろな? もしかしたら、どのモンスターの果実もこのレベルっていう可能性があるからな。今はまだ『大当たりかも』くらいの認識でおっといた方がええやろね」

 

 あーなるほど、比較対象がこの二つしかないから、そもそもこれが平均の可能性があるのか……確かに、上層のモンスターだしな。オークキングが美味しかったように、ココナッツボムツリーなんかも美味しいかもしれない。沖縄まで行かないといけないけど。

 しばらく考え込んでいた花奈さんが決意に満ちた声を出す。

 

「こちらは、あまり熟成させず、フレッシュな白ワインにするとよさそうですわね……早速着手してみましょうか」

「お、もうやるん!?」

「もちろん。わたくしの夢ですもの。こちらはともかく、悪魔のトゲに関しましてはまずは酵母菌を探すところから。ですわね」

「せやね。この感じやと、魔素(マナ)で変質した酵母菌でも見つけた方が早そうやな」

「なるほど、確かにそうですわね……蛇目さんはお酒には一家言おありで?」

「ははは、単に好きなだけなんですわ。造るとなると素人やしな。今は成分の比較だけで言うてますから、実際はまた違うかもしれへんし……」

 

 蛇目さん、逆に成分の比較だけでこれだけ話せるんだからすごいと思うよ。確かに、好きなだけなんだろうけども。研究しながら酒飲んでるのはあなたくらいです。もしくは鬼灯。

 そして、蛇目さんは、花奈さんに一歩近づく。

 

「それで、なんやけど……この研究、ウチも混ぜてもらってええですか? 何かと1人じゃ大変やろ?」

「え、ええ……ですが――」

 

 一瞬言い淀んだ花奈さんの肩に腕を回して、顔を近づけた蛇目さんが、表情の抜け落ちた顔で静かに問いかける。

 

「なんや、北条ちゃん……こないにおもろそうな研究、独り占め……する気やったん……?」

 

 周囲の気温が数度下がった気がした。ただ、静かに花奈さんに問いかけているだけなんだけど、圧が凄まじい。彩音さんなんか、私の後ろに隠れちゃったもんね。肩に置かれた手が震えている。

 花奈さんが冷や汗をかきながら、必死に首を横に振る。

 

「い、いえ、そんなつもりはございません!」

 

 声震えてるし、若干裏返ってるよ。あとでフォローしないとだめかもしれない……『魔女の大鍋(コルドロン)』の人たち興味あることに対してはたまにこうなるからなぁ……耐性がない人には厳しいと思う。

 

「ホンマ!? よかったわー! これからよろしゅう」

「は、はい……」

 

 先ほどまでの圧はどこへやら。満面の笑みを浮かべる蛇目さん。花奈さんの肩から腕を外し、肩を何度か叩いて蛇目さんは仕事がまだあるからと、別の机に向かっていった。

 取り残された私たちは、しばらく立ち尽くしていた。いや、私は単純に彩音さんのせいで動けないだけだけど。

 

「あ、あの、夢希さん」

「うん」

「今までの人生で一番の怖さだったのですが……」

 

 花奈さんが私たちに抱き着きながら、震える声でそんなことを言ってくるけど、本当に慣れてほしい。

 慣れれば、大抵のダンジョン内のことには怯まなくなる。だってあの人たちの方が怖いもん。

 

「慣れて。『魔女の大鍋(コルドロン)』の研究者の人たちはあれが標準的に搭載されてる。ぶっちゃけ、下層のボスモンスターのよりも怖い」

「本当に怖かったですわ……」

「まだ心臓バクバクしてるよ……」

 

 しばらく、2人に抱き着かれて震えが止まるのを待っていた。なんだか渋谷のイレギュラーから脱出したときを思い出した。

 

 

 

 

 




果実を探す事じゃなくて、造ることを彼女の冒険のメイン据えたかったのでこんな感じに。これから、悪魔のトゲっていうバカみたいな難易度の果実を酒にするために、他の果実で練習しつつ……みたいな感じのつもりです。

あと、トロッケンベーレンアウスレーゼは結構カッコいいと思う。異論は認める。
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