【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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配信に興味のない私と中庭での炊き出し(?)

 

 想像よりもはるかに美味しく迷宮イモリをいただいた翌日、私は『魔女の大鍋(コルドロン)』の中庭のベンチで1人黄昏ていた。

 時刻は放課後。すでに学校も終わって、さあダンジョンだ! と準備を済ませたのだが……彩音さんは母校にちょっと用事があるらしく不在。なので、2人で行こうかと花奈さんと話していたら、蛇目さんが花奈さんを拉致していってしまった。

 結果、私は1人取り残されてしまったのである。前までだったら、別にダンジョンに行こうかなって思ったんだけど、こうパーティで行くのが日常になると、1人で潜るのもなんかなぁ……という思いが出てきてしまった。突発的じゃなかったらそこまで気にしないのかもしれないけどね。なんだろうな。これを頼むぞ! って意気込んでご飯屋さんに入って、それがなかった時のあの感覚に近いかな。

 まあ、そんなわけで中庭に1人黄昏ていたのである。何しようかなぁ……

 

「あ、物前さん!」

「はい? なんでしょう?」

 

 ボケっと空を見上げていたら、見知った顔の研究員さんに声をかけられた。

 ……もう日常だから触れないけど、爆発に巻き込まれた後は一回顔拭いた方がいいと思うよ、うん。

 

「その、もし時間があったらこの素材を……」

「ああはい……あ、そうか」

 

 手元にいくつかの素材を持って差し出してくる研究員さん。多分というか、間違いなく《錬金》による合成の依頼かな?

 それを見て思いついた。そうだよ。この機会に一気にやっちゃおう。どうせ錬金系の依頼なんて、大鍋に素材放り込んでぐーるぐるしてハンマーで少し叩くだけなんだし、流れ作業でやってしまおう。魔力が尽きそうになったら終わりってことで。

 

「あの、他の人にも、中庭に来るように言ってもらっていいですか? 一気にやっちゃうので」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 

 というわけで、他の人にも伝えてもらうようにお願いする。慌てた様子で走っていく研究員さんを見送りながら、頭の中でそろばんをはじく。ふふふ、これで一気にお金がもらえる。来月が楽しみだなぁ……

 これらの依頼は、クランの仕事とは違って、別にやらなくてもいい。仕事は強制で、依頼は任意である。大体の場合、クランにとって大事なことは仕事。クランメンバーにとっての大事なことは依頼。みたいな感じである。鬼灯の節分のやつなんかは仕事だね。私の場合は、この前の品川ダンジョンの全種類の肉の回収が仕事だった。

 なので、あの広辞苑みたいな依頼の束は、全部無視してもいいんだけど、それはそれで人間関係が大変なことになるので……こういう時にやってしまうのが吉。

 というわけで準備しよう。ダンジョンに行くつもりだったから、大抵の準備は整えてあるので、取り出すだけである。

 

「さて、大鍋とテーブルとハンマーくらいでいいかな……? む、これどうしよう」

 

 レジャーシートを引いて、コンロと大鍋、テーブルを設置。最後にテーブルの上にハンマーと依頼の束を置いて、準備完了。なんだけど……

 うーん、この依頼の束どうしよう? ここからお目当てのやつ見つけるのまで自分でやってたら流石にきついし、誰か手伝ってくれないかな……?

 

「あ、夢希ちゃんじゃないっすか。珍しいっすねここにいるなんて」

 

 と思っていたら、ちょうどいいところに来てくれたじゃないか。よし、椅子を出してっと。

 

「陽向。ちょうどいいところに」

「はい?」

「ここに座ってて。で、人が来るから、言われたものをこれの中からピックアップして」

「は、はあ……いいっすけど……? え、いや待つっす! これっすか!? これの中から!?」

 

 私の指示通りにテーブル横の椅子に腰かけ、了承してからその分厚さにびっくりしている。

 陽向大丈夫かな……将来騙されそう……

 

「後で何か作るから、お願い」

「……カオマンガイ食べてみたいっす。本場仕様の」

「肉は何がいい? ブレイクレッグキングと迷宮イモリなら手持ちがあるよ。冷凍だけど」

「うーん……迷宮イモリで!」

「わかった」

 

 よし、お礼の話も取り付けた。今日の夕飯はカオマンガイで決定である。それも、本場仕様だから、甘辛味噌だれ味だね。美味しそうだ。

 ちょうどその話が終わったとき、中庭にいっぱい人があふれてきた。

 ……みんなさ、もうちょっと身だしなみに気を遣おう? 変なにおいとかしないけどさ、せめて色々綺麗にしようよ。流石にその真っ黒な顔と服はどうかと思うよ。冗談でなく。

 そして、まず最初の人がやってくる。

 

「えっと、この依頼なんですけど……」

「ええっと……あったっす。これっすね」

「ふむふむ……」

 

 えっと何々? なるほどね、合金の作成。じゃあもう大鍋に入れて大丈夫。そして、こうやってぐーるぐる……はい、出来た。

 

「……はいどうぞ。次の方」

「ありがとうございます!」

 

 素材を受け取って走り去る研究員さんと入れ替わりで次の研究員さんがやってくる。

 うん、綺麗に列に並んでくれてるのは嬉しいんだけど、なんでそんな統率取れてるんだ本当に……

 

「この依頼です!」

「えっと……あ、これっすね」

「はい」

 

 次は……素材の濃縮。オッケー問題なし。これも、大鍋にポイ。ぐーるぐる。はい終わり。

 次から次へとやってくる研究員さんたちを、陽向と一緒に捌いていく。

 合金の作成、パーツの製作、素材の加工、素材の濃縮、特性の摘出、特性の追加……もう思いつく限りの全部をやり続ける。時たま、集中力を取り戻すための休憩だけ取らせてもらって、ひたすら鍋をかき回し、ハンマーで叩き……

 もはや何度やったか思い出せないほどに作業を繰り返していると、背後からぱからっぱからっという、馬の蹄の音が聞こえてきた。

 いや待って、なんでこんなところで蹄の音がするんだ?

 

「お? なんだ? 炊き出しか?」

「……ここでそんなのやるわけ……炊き出し……?」

「だろ?」

「……うん、びっくりした……」

 

 振り返ると、そこにいたのは……巨大な馬らしき何かだった。え、うん? 下半身が馬で上半身が人で頭が馬??? ケンタウロスっていっていいのかこれは? あと、3メートルくらいない? 結構見上げないと顔が見えないんだけど。あ、目はつぶらでちょっと可愛い。

 その隣には、マスクをつけて、背中に透明な羽が生えた女性が一人。こっちは普通のサイズだ。いや、普通か? 本当に普通か? 隣のケンタウロス的な誰かが大きすぎるせいで全然わかんない……! あと、背中の羽がやたらと綺麗なんだけど、この人は一体何の動物的な特徴が出てるんだろうか?

 目の前の光景にフリーズしていたら、さらに近づいてくる2人(?)。だ、誰なんだろう?

 

「あ、浜面さんと秋津さんじゃないっすか。ダンジョン帰りっすか?」

「うんにゃ、今日は健康診断」

「……毎度面倒……」

「そういうなよ。変に死ぬとか勘弁だろ?」

「……それはそうだけど……」

 

 あ、陽向とは知り合いなんだ。となると、探索部門の冒険者かな? 私たちの先輩にあたる人たちってことだね。

 陽向と少し話したあと、浜面さんと秋津さんがこちらにやってくる。おお、近づくと本当に威圧感がすごい……

 

浜面(はまづら)流星(りゅうせい)だ。よろしくな」

「……秋津(あきつ)羽美(うみ)。よろしく……」

「物前夢希です。よろしくお願いします」

 

 自己紹介しながら、差し出された手を握り返す。浜面さんの手はとんでもなく大きかったし、秋津さんの手はひんやりしていた。

 浜面さんは、全身の毛色? が赤の濃い茶色だ。なんだか、紅葉したモミジみたいな綺麗な感じ。足の先、蹄のあたりだけは黒い毛だ。人の部分は筋骨隆々な感じで、腹筋も割れてるし、腕とかサイズも相まって本当に丸太みたいだ。顔は……うん、馬としか言いようがない。流石に馬の顔のあれやそれやは分かんないし……それにしても、目がくりっとしてつぶらで可愛いのが、大分ギャップあるなこの人。

 秋津さんは、顔がマスクで覆われているのでそこは分からないけど、多分美人さんだと思う。髪はシルバー。それも、キラキラ輝いてるような銀色である。腰くらいまでのストレート。いいなぁ、そのストレートヘア。私くせっけだからなぁ……背中の羽は左右2枚ずつ、計4枚あって、玉虫色っていうのか、いろんな色で光っている。す、すごい綺麗だ。でも、何の動物なんだろう? ぱっと見だとトンボみたいな気はするんだけど……

 それと、身長は多分陽向と同じくらいかな。それに、背中の羽が大きい。地面につきそうだもん。

 2人の姿を観察しつつ自己紹介したら、浜面さんが腕を組んでなにやら考え込み始めた。

 

「物前夢希……あ、モンスター食べてるっていう?」

「はい、そうです」

「……食べられるの……?」

「物によりますね。美味しいものは本当に美味しいですよ」

 

 2人の質問に気負うことなく答えていく。言い方悪いけどさ。『魔女の大鍋(コルドロン)』所属の時点でモンスター食程度にびっくりするような人いないって。

 

「ブルルッ、ヒヒン! こりゃ大物だ」

「……うん、面白い子……」

 

 モンスター食べてるって言って、面白い子って言われたのは初めてだなぁ……あと、浜面さんのそれは……あ、笑ってるのね? そうなんだ。

 と、浜面さんと秋津さんと話していたら、後ろから声をかけられてびっくりした。

 

「あ、あの~……」

「は、はい!」

 

 振り返ると、依頼の紙を持って困り顔の研究員さんたち多数。あ、そうでした。今それやってる最中でした。すぐ再開しますね!

 新しく知り合った2人に挨拶をしてから、また大鍋をかき回し続ける作業に戻った。

 ……そういえば、さっき炊き出しって言われたけど、確かにこの絵面は炊き出しかも……ボロボロの服着て、顔まで真っ黒にした人たちが列をなして、鍋の前に並んでるんだもん。

 その後、魔力が尽きそうになって締め切るまでひたすらやり続け、錬金系の大半の依頼をこなしたのだった。疲れたよ……

 あ、カオマンガイはうまくできました。陽向も今日は本当にありがとうね。おかげで助かったよ。うん? 今度も手伝う? ありがとう。

 

 




ちょこちょこ他の探索部門の冒険者も出していきたい所存。
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