【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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配信に興味のない私と馬と蜻蛉と人間2人

 

 『魔女の大鍋(コルドロン)』の研究員さんたちに炊き出し(?)を終えた翌朝。今日は土曜日! なので、今日は朝からダンジョンだ。しかも、今日は奥多摩ダンジョンに行くので、朝も早い。

 今日の目的は、ご飯を食べることではなく、奥多摩ダンジョンのダンジョンボスであるホーネットクイーンを倒しに行くのだ。そして、アレが蜂蜜を集めているのかを確かめるのだ……! それが美味しいならなおよし。お酒にも使えそうなら、さらによし。そんな感じである。

 なかった時は……まあ、その時考えるということで。奥多摩ダンジョンは、各層一層ずつしかない代わりに、結構広いし、ボス前の下層がかなり面倒なエリアになっているので、のんびりと行きたいものである。私みたいに飛べるならともかく、彩音さんたちは徒歩だしね。

 それと、今日はボスを倒すのがメインになるので、モンスターご飯はお休みである。美味しくないだけならともかく、それで色々起きて消耗してからボス戦になるのは勘弁してほしいし。そんなわけで、いつもよりも少しだけ早起きして、お昼ご飯の準備である。といっても、ピクニックの定番みたいな感じにするつもりだ。おにぎりに唐揚げ、玉子焼きにトマトとブロッコリー、ピクルスと。

 ふむ。これでいいね。おにぎりの海苔は、直前に巻くスタイルで行く。ちなみにだが、今作ったのはおにぎりだけである。あとは全部昨日作った。冷めても美味しくなるようにちょっとだけ工夫したやつ。

 私は、夜更かしはあんまり気にならないんだけど、朝早起きするの苦手なんだよね……どうにもボケボケしてしまうというか。

 さて、ちょっと早起きしすぎちゃったな。時間までまだあるけど……まあ外で軽く準備運動でもしてようかな。どうせ電車に乗るけどさ。

 そう思って部屋を出て、階段を降りて行って寮を出たら、目の前に伸びをしている浜面さんがいた。

 

「おはようございます」

「おう? おお、おはよう。早いな」

「ちょっと早く起きてしまって。浜面さんも早いですね」

「俺はいつもこんな感じ。この体になってから、睡眠時間が短くってな。それが悪いってわけでもないんだけどな」

 

 浜面さんは腕を伸ばし、体を伸ばし。ストレッチしながら会話してくれる。大きな体だと迫力があるなぁ……私も習って浜面さんの横でストレッチを始めることにした。

 そういえば、寮の隣のガレージの扉が開いてるな。いつも閉まってるのに。

 

「浜面さん、あそこってなんで開いてるかわかります?」

「あれ俺の部屋」

「え? あぁ……なるほど」

「そゆこと」

 

 浜面さんの部屋だったのかあそこ……でも確かに納得。これだけ大きくて馬の体してたら、階段とか登れないもんね。結構不便なこと多そうだな、浜面さんも。顔も完全に馬だし。筋骨隆々なのに、やたらとくりっとしてて可愛い目がついてるけども。

 

「そういや、これからダンジョンか?」

「はい。奥多摩ダンジョンに」

「ほー……何喰うんだ?」

「いえ、今日はホーネットクイーンが蜂蜜を集めてないか調べに行きます」

「ブッ、ブルルルルッ……! ヒヒッ、そりゃまた面白そうだなおい」

 

 浜面さんが爆笑……している。慣れてないせいもあるけど、馬のいななきと若干混じっててわかりにくいところがあるなぁ。

 

「そうだ。もしよかったら、俺()()も一緒に行っていいか?」

「え?」

 

 浜面さんからの提案に固まってしまう。まさか同行を申し出られるとは思っていなかったので、結構本気で驚いている。金守さんも、個人主義だとか色々言ってたのに。でも、交友を深めるという意味では大事か……? それに、今後もそういったことがあるかもしれないしね。今までならともかく、探索部門が出来た以上、イレギュラー対応で『魔女の大鍋(コルドロン)』に出番が回ってくる可能性は大いにある。その時まで何が出来るか知りませんは流石に不味いだろうし。

 でも、私だけで判断していい問題じゃないし。とりあえずは2人が来るまで待ってもらおう。

 

「すいません、私だけで決められないので……」

「ヒヒン。そりゃそうか。だってよ秋津」

「……残念……」

「うわっ!?」

 

 後ろから声がしてびっくりした。振り向いたら、昨日と同じようにマスクをつけた秋津さんが立っていた。

 いや、確かに今は《魔力探知》切ってるけど、まさか全く気付かないとは思わなかった。『魔女の大鍋(コルドロン)』で《魔力探知》を使うと、もう本当にいろんなものに反応して頭が痛くなるので使ってないのだ。ダンジョンの中の比じゃないほどには情報が頭の中に入ってくる。そういうところだって言われてしまえばその通りなんだけどね。

 それにしても、本当に秋津さんってなんの動物なんだろうか? 羽の形がトンボっぽいのでトンボだと思っていたが……

 

「おはようございます、秋津さん」

「……うん、おはよう……」

「あの、質問なんですけど、秋津さんってなんの……?」

「……私はトンボ……」

 

 そういって外したマスクの下は、本当にトンボの顔みたいになっていた。口が完全にトンボの口である。だからマスクで隠してたのか。話すたびに縦に口が開くもんね。

 見せた後にすぐにマスクを着けなおす秋津さん。そして、疲れたようにつぶやく。

 

「……話すの苦手……」

「えっと……」

「気にすんな新人。こいつは純粋に話すのが苦手なだけで、別にこの体になったからじゃねーよ」

「……? 当然でしょ……」

「な?」

 

 体変わって色々問題あるんだなって思ってたら違ったよ。この人めちゃくちゃマイペースじゃない? あと、浜面さんは結構気さくなお兄ちゃんって感じだ。年知らないけど。

 馬の顔でにっと笑い、親指を立てる浜面さん。うーん、なんかシュール。というか、馬の顔ってそんなに表情豊かなんだ。

 

「夢希ちゃんおはよ……ケンタウロス……?」

「まあ、大きなケンタウロスですわね……」

 

 階段を降りてくる音がしたと思ってそちらを見れば、彩音さんと花奈さんが出てきていた。そして、浜面さんを見て固まっている。普段私よりもこの寮にいるであろう2人でもあったことなかったのか。いや、浜面さんは朝早いって言ってたし、そのせいかな。

 

「お、はじめましてだな。俺、馬面ってんだ。よろしく」

「え、馬面さん!?」

「おう!」

「名が体を表していますわね……」

 

 にっと歯をむき出しにして笑いながら、俺は馬面だと言い放つ浜面さん。彩音さんと花奈さんもびっくりしてるよ。

 突然のことに、思わず吹き出しそうになったので口を抑える。初手で嘘つくのはどうかと思うけど、面白いのでよし。横で秋津さんも笑ってるし。歯が当たっているのか、カチカチと小さな音がする。

 

「……あれ、浜面の鉄板ネタ。たまに馬面って呼ぶと喜ぶ……」

「そうなんですか」

 

 喜ぶんだ……まぁ、本人がネタにしてるくらいだし、もう少し仲良くなってからやってみようかな。

 

「冗談はさて置いて、改めて。俺浜面。よろしく。で、あっちは秋津」

 

 その後、改めてちゃんと挨拶をして、ダンジョンに一緒に行く話になった。

 

「えっと、浜面さんと秋津さんも一緒に、と」

「おう。邪魔だったらやめるけど」

「邪魔というか……夢希ちゃん」

「うん?」

「配信のこと言ったの?」

「……言ってない」

 

 彩音さんに言われて思い出す。そうでした、私たちの場合、その部分もあるんでした。慌てて2人に説明すると、特に反応もなく流されてしまった。

 

「なんだそんなことか。気にすんなよ。むしろネタにならぁな」

「……喋らなくていいならなんでもいい……」

 

 浜面さんは俺をネタにしろと言い出すし、秋津さんはどうでもよさげだし……ま、まあ最大の懸念点は解消されたということで。

 次に、戦い方。連携とか今のうちにある程度参考にさせてもらおう。

 

「俺は良くも悪くも突っ込んで暴れるしか能がない!」

「……私は基本的に空中から風魔法。武器も使うけど……」

 

 浜面さんが大きな槍を使ったパワーファイター、秋津さんが武器をサブに仕込んだ風魔法使い……今の発言的に、秋津さんと私は戦い方が似ているのかもしれない。私は浮遊魔法だけど、秋津さんは自前の羽で飛べるみたいだし。

 となると今日の布陣は、前衛に浜面さんと花奈さん、彩音さんと後衛が私と秋津さん。

 ……いやすごくない? 特に前衛。浜面さんに武器見せてもらったけど、彩音さんよりも大きいんだもん。2メートルくらいはある、大きな槍である。それを片手で簡単にぶんぶん振り回してたから、本当にやばいんじゃなかろうか。まさしくパワーファイターって感じだし。花奈さんを中心に一撃がとんでもない前衛が2人。うん。安心感がすごい。

 唯一の懸念点は、浜面さんが大きすぎて魔法を当てないように気を付けないといけないところかな……シャレにならないし。

 こうして、イレギュラー対応なんかの練習もかねての突発ダンジョン探索が決定した。なお、私のお弁当は3人分しかないので、浜面さんたちは自分で用意するそうだ。ちなみに、ダンジョンでモンスターを食べるつもりだったら、浜面さんは辞退したらしい。馬の体だから、野菜以外食べられないんだってさ。

 さて、これから出発だ。となったところで、花奈さんが少し言いにくそうに浜面さんに問いかけた。

 

「あの、失礼かと思いますが、浜面さんはどの様に移動を……?」

 

 確かに。大きいもんね……どう考えても電車には入らない。

 その質問に浜面さんは歯をにっとむき出しにして親指を立てた。

 

「無論、走る」

「……私は浜面に乗ってく……」

「ま、そんなわけだ。現地集合しようぜ。俺たちも準備してくる」

 

 そう言って、浜面さんはガレージに向かい、秋津さんは飛び上がって3階あたりにするっと入っていった。

 

 

 

 

 そんなこともあり、奥多摩ダンジョンの入り口で待っていたのだが、予定時間になっても浜面さんたちが来なかった。

 とはいえ、これはここまでの道中で3人で予想していたことではあった。

 

「流石に電車の方が早いよね……」

「全力で走れればあっちの方が早いんだと思うけど、流石にね」

 

 ケンタウロスになっている冒険者の全力疾走とか、道路がボロボロになる予感しかしない。というか、そもそも彼は歩行者扱いされてるのか? 馬だから軽車両?

 なんて考えていたら、花奈さんからも質問が来た。

 

「そういえば、夢希さんは飛ばないのですか? 早そうですが」

「色々制限あって面倒すぎてやってられないから、緊急事態以外では絶対やらない」

 

 確かに、浮遊魔法で飛ぶ方が早いのは間違いないんだけど、それやると本当に法律が面倒くさいんだよね。本当にさ! ちょっと低いと住居侵入とかプライバシーの問題になるし、高くなると航空路と被っちゃうし。

 そんなことを2人に説明していると、重い馬のひづめの音と金属が鳴る音がこちらに近づいてきた。予想よりもはるかに速い到着に、驚きつつそちらを見て……全員で固まった。

 

「すまん遅れた!」

「……途中で警察に止められた……」

「まったく、ちょっとくらい速度上げたって許せよなぁ……」

 

 全身鉄色のフルプレートメイルで固められた浜面さんを見て、言葉に詰まる。重装騎兵ってこんな感じなんだろうか……威圧感が2倍くらいになっている気がする。見た目だけなら、魔王軍配下って言われても信じるレベルである。

 秋津さんは秋津さんで、まるで忍者のような全身真っ黒の服だし、武器として持ってきたのは黒く塗られた両刃剣だった。あの、ロングソードが柄の先で2本くっついたみたいな見た目のやつ。銀色の髪や、光を虹色に反射している羽と服や武器の対比がとてもいい。

 いや、2人ともカッコいいなぁ……それはそれとして、ものすごくヴィラン側の見た目してるけども。見てよ、彩音さんの目がキラッキラだよ。ヒーローショーとか見てる子供みたいな目だよ。

 

「あ、ちゃんと保険には入ってるから安心してくれよな。無制限のやつ」

「そ、そうですか……備えあれば患いなしですものね……」

 

 花奈さんが圧倒されてるし。いや、私もびっくりしてるけども。でも、それよりもカッコいいなぁ……って思っちゃう。特に浜面さん。ゲームにいそうなレベルだもん。そのまま登場させてもいいくらい。

 

「……でも、速度違反のし過ぎで保険料が高い……」

「言うなよ……反則金もバカにならねぇんだぜ……?」

 

 急に世知辛い話になってしまった……まあ、確かにそれは問題あるとは思うけども……見た目が魔王軍なのに、出てくる会話が現代的過ぎる。

 そんならしい感じで、普段よりも2人多い私たちの奥多摩ダンジョン攻略が始まった。

 




浜面の見た目は、エルデンのツリーガード的な奴を想像してください。
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