【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
昨日はやっぱり無理でした……遅刻もしてすいません!
それから、中層を進んでいく間、私と秋津さんは本当にやることがなかった。
そもそも中層には空中に飛んでいるモンスターとか、空中に待ち構えているモンスターもいないので、地上組の援護しかやることがないんだけど、地上組があまりにも安定感がありすぎる。
浜面さんは先ほど確かめた通り、まず中層のモンスターごときではダメージすら与えられないレベルだし、彩音さんたちも普段は下層を2人で冒険している人たちである。フラワーマンティスもアーマービートルも、出てきてすぐに倒されていくし、トレントも浜面さんが一撃でへし折ってしまった。
あまりにも暇だったためか、途中で武器によるバトントワリングにすら飽きてしまった秋津さんが、私の背中に取りついてひたすら髪をもふもふしていたくらいである。すさまじく絶妙な飛行速度の合わせ方をしてくれているため重さも全く感じなかったため、そのままにしていたけど、相当気に入ったらしい。
あまりにも簡単に進んだため、かなり余裕を持って中層を突破することに成功した。予定では、それなりに遅くなって中層を突破する予定だったのに、ほぼ正午に突破してしまった。まあ、それ自体はいいことだから、別にいいけども。
下層に行く前にご飯を食べるので、中層と下層の間の階段の踊り場で昼食を食べることにした。
「というわけで、こちらが今日のお昼です」
「わぁ……! 美味しそう!」
「素晴らしいお弁当ですわね……!」
"なんという理想的なピクニックの弁当…”
"おにぎりをメインにした完璧な布陣…”
"やはり女子力の塊”
"場所がダンジョンでなければなぁ…”
浜面さんたちには悪いけど、私たちだけお弁当を広げさせてもらう。見た目だけで彩音さんからも花奈さんからも好評をいただいて、気分がいい。うむうむ。
「おお、美味そう」
「……美味しそう。ユキ、料理上手……?」
横から見ていた浜面さんと秋津さんからもお褒めをいただいた。ふふふ、本当に気分がいい。なので、秋津さんの質問にもはっきり答えちゃう。
「はい」
「ブルヒヒン! そこで断言するやつ初めて見たぜ」
" は い ”
"はい草”
"断言してこそのユキちゃん感ある”
"実際上手だから文句が出ないという”
"でも、ハマヅラさんとアキツちゃん分はないのね”
「俺たちは今朝突発参加だったからな」
「……うん……」
しゃーないしゃーない。なんて言っている浜面さんと、ちょっと残念そうな秋津さん。秋津さんには今度、何か作ってあげようかな……でも、食事にどういう制限がかかっているのかを確認してからでないとダメだね。
でも、トンボって何食べるんだろうか……? イメージだと虫なんだけど、だとするなら、これは満を持してのジャンボイナゴの佃煮の布教をするべきなのでは……!? 見た目のインパクトでみんな食べてくれないんだよね。美味しいのに。
いや確かに、大鍋いっぱいの大きさのイナゴを丸々一匹佃煮にしてるんだから、見た目はかなりインパクトあるんだけどさ。
浜面さんたちもそれぞれご飯を取り出し始めており、浜面さんが先に鎧の下から、中身でパンパンに膨れ上がったリュックを取り出した。そして、その中から、オレンジ色の棒状のものを取り出す。
「そして、俺の昼飯はこれだ!」
「生のニンジン!」
「キャラを守りすぎではありませんか……?」
「いやぁ、この体になってからマジで生のニンジンが美味いんだ。野菜の美味さを知ったぜ……」
"人参ボリボリ食ってて草”
"くっそシュールw”
"鎧の下からリュック出したまではともかく、そっから無限に人参出てくるの草”
"何本入れてんだよwww”
"体でけぇからなぁ…”
ボリボリと音を立ててニンジンを食べていく浜面さん。もう完全に、牧場とかで餌をもらってる馬の絵面である。鎧姿だけど。彩音さんと花奈さんのツッコミにも動じず、当人は満足げに、次々とリュックの中からニンジンを取り出してはボリボリとむさぼっている。
秋津さんはというと……彼女の顔くらいのサイズの茶色の塊を持っていた。マスクも外して、顎も見せている。縦に開くと、食べるの大変そうだなぁ……ぽろぽろこぼれちゃいそうだ。
「アキツさんは……えっと、それは……?」
「……ミートボール……」
「顔くらいあるけど……?」
「アイツ大食いだから」
"でっかwww”
"んん? 口がなんか違うか?”
"口がトンボみたいになってんのか?”
"ああ、最高だ…好き…”
"人外萌えがいて草”
秋津さんのあの物体は、ミートボールらしい。まんまミートボールである。ソースとかは……?
浜面さんが秋津さんのことを大食いだと言ったら、秋津さんはかなり不服そうな目で浜面さんをにらんで反論した。
「……トンボはそもそも体重と同じくらい食べる。私は小食……」
「そういう意味じゃねえよ」
「トンボってそんなに食べるんだ……」
「サイズ的に考えると、結構な数の虫食べてる感じなのかな?」
「……主食は蚊とかハエ。たまにガとか蝶とか。オニヤンマとかになると、スズメバチなんかも食べる……」
"蜻蛉にめっちゃ詳しい”
"トンボ博士かな?”
"オニヤンマがバケモノすぎん???”
"オニヤンマってマジで強いのな…”
"いうてそんなに食えんやろスズメバチは”
"捕まえらんなそうだよな”
秋津さんがものすごくトンボに詳しい……! 自分の体だし、ある程度は調べてそうだけど、それにしたって、凄く詳しいと思う。
あと、オニヤンマすごいんだね……スズメバチ食べちゃうんだ……リスナーさんたちもびっくりしているし。とはいえ、彼らの言う通り、そんなに食べられないんじゃないかな? とは思う。流石にね。
なんて思っていたら、秋津さんからとんでもない情報が開示された。
「……トンボの狩りの成功率は90%以上。ちなみに、ライオンは大体25%って言われてる……」
「そんなに!?」
「トンボってそんなにすごかったんだ……」
「90%以上って凄まじいですわね……」
"9割以上!?www”
"空中戦強すぎて草”
"というか、ライオンしょぼくね…?”
"調べたら、トラ10%とかでワロタ”
"トンボの最高調べたら、97%とか出てきて草枯れた。バケモンすぎる”
"つまりアキツちゃんもハンターということ…”
え、えぇ……狩りの成功率90%以上って何それ……ライオンと比較してもとんでもない数値叩きだしてるし。というか、ライオンってそんな数値で生きていけるんだね。獲物が大きいからかな? 一頭仕留められればお腹膨れそうだもんね。
あと、コメント見てて知ったけど、トラはもうちょっと頑張った方がいいと思う。流石に、10%はまずいんじゃないかなぁ……
そんな感じで、2人の話を聞きながら、私たちもご飯を食べることに。早く食べる必要はないけど、食べないとマズイしね。
「ユキちゃん、おにぎりの具は何?」
「こっちがおかか、ここが梅干し、この辺が鮭」
「酒?」
「カナちゃん?」
「なんでもございませんわ」
"力関係がはっきりしてきたな”
"実食ネキはさぁ…”
"やらかしたときだけ使おうと思ってたのに、やらかしすぎて基本が実食ネキになってるんだよなぁ…”
"それな?w”
彩音さんにおにぎりの具を紹介していたら、鮭の単語に反応した花奈さんを彩音さんが刺す。なんて場面がありながら、私たちは昼食を食べきった。
そして、階段を降り、下層へと到着した。
奥多摩ダンジョン下層は、見た目はあまり中層と変わりがない。花の種類が増えたくらいである。木々が生い茂っているのも変わらないし、その巨大さもあまり変わりがない。少しは大きいけども。
出てくるモンスターはだいぶ変わるが。まず、アウラウネ。上半身は女性、下半身は植物というモンスター。擬態等はしていないものの、普通に会話する事が出来るので、人がいると思って近づいたらアウラウネだった。みたいなことが起きる面倒なモンスターだ。なお、攻撃方法は主に植物のツタで鞭のように叩くくらいしかないので、下層の中では一番弱いモンスターだ。
次に、ヴェノムセンチピード。3メートルほどもある大きなムカデである。名前の通り毒があり、尻尾のトゲや牙で噛まれると毒をもらう。麻痺毒などではなく普通に致死毒なので、かなり危険なモンスターだ。見た目が紫色で、まさに毒があるって感じの見た目をしているのだが、同じような色の花とか咲いてるし、地上よりも木の上にいることが多く、意外と見つけにくかったりする。私たちの場合は、花奈さんがいるのでそこまで脅威じゃないかな。花奈さんも、あれくらいなら問題ないって言ってたし。
致死毒をあれくらいって、どこからが問題になるんだろうね、花奈さんのスキルって……
最後に、キラーホーネットである。30センチくらいのオオスズメバチみたいなモンスターだ。強靭な顎と毒針だ武器で、速度もある。何よりも集団で襲い掛かってくるその連携。ダンジョンボスのホーネットクイーンの生み出すモンスターと同一で、クイーンの指示でさらに複雑な連携もしてくる厄介者。
これらを排除しながら、ボスのいる最奥の広間まで行かなくてはならないため、東京のダンジョンの中でも結構上位のダンジョンだったりする。ボス部屋である広間と下層の間に扉なんかはないため、キラーホーネットがどんどん湧いてきているのも一因だ。
「さて。ここまで散々暇してたんだろ? いっちょ暴れてやれよ」
「……そうする……」
下層を進むことしばらくして、キラーホーネットの群れの第一陣を探知したことをパーティに伝えたところ、浜面さんが秋津さんに告げる。秋津さんもやる気みたいなので、彼女に任せることにした。念のため、いつでも援護できるように《魔力の矢》の準備だけはしておく。
武器を掴みなおし、私の前に静かに佇む秋津さん。キラーホーネットの特徴的な羽音が聞こえ、その姿が見えた。
「……行ってくる……」
その小さなつぶやきの直後に、秋津さんの
「……え?」
"は?”
"ん?”
"き、消えた!?”
"はっやwww”
いや、《魔力探知》では捉えられているので、そちらを向くとすでに、キラーホーネットの群れ、その三分の一ほどが切り刻まれていた。あまりのことにキラーホーネットたちの統制が破壊されている。は、速すぎるでしょ!?
一応、そちらを見れば、ギリギリ彼女の姿は見える。方向転換の時だけははっきりと、あとはぼやけて見える。髪の銀色だけがいやに目を引く。トップスピードまでの瞬発力がおかしいし、直角だろうが逆方向だろうが自由自在。キラーホーネットたちの間を、瞬間移動染みた速度で移動しながら正確に切り捨てていく。
私は、間違いなく浮遊魔法だったら日本一の自負がある。でも、私にだってあんな挙動出来ないぞ……!? あんな挙動したら、私じゃ途中で吐く。体が追い付いていかない。
第一陣を切り捨て終わるころに第二陣が到着したものの、今度は風魔法の《ウィンドカッター》交じりの斬撃で粉々に。ついでと言わんばかりに近くにいたヴェノムセンチピードがバラバラにされ、アウラウネの首が飛ぶ。周囲のモンスターを殲滅し終えた秋津さんは、浜面さんの近くにいつの間にか立っている。両刃剣の血振りすらしない。あれだけ斬っておいて、刃に血が付いていない。
しかも、あれだけの挙動をしておいて、全く呼吸も乱していないし、無理をした様子もない。それが当然であるかのように佇んでいる。
「……歯ごたえがない……」
"何も見えなかったが???”
"勝手にモンスターがバラバラになって草”
"何が起きた…?”
"おかしい、スロー再生しても残像しか見えねぇ…”
あまりの光景に、浜面さんと秋津さん以外の面々は口が開いたままである。浜面さんもすさまじかったけれど、まだ理解できる範疇だった。秋津さんのはもはや理解不能の領域である。
3人で秋津さんを見つめる中、秋津さんがお腹をさすり始めた。そうだよね、流石にあの挙動をしたら、内臓に来るよね、そこまでおかしい人じゃないみたいで、よかったよか――
「……ちょっと苦しい。ご飯多かった……」
「嘘でしょ!? あれで本調子じゃないの!?」
「ど、どういうことですの……?」
"【悲報】アキツちゃん本調子じゃない”
"うっそだろおい…”
"コルドロンって化け物しかいないのでは???”
"研究系クランの看板捨ててこい”
"探索系クランよりも戦力ありそうで草”
……やっぱり、『
次回は、蜂蜜を味わいます!