【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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配信に興味のない私と調査の準備

 

 中庭で明日からの仕事の説明を受けた後、彩音さんに槍の用意をしておくか相談し、金守さんに頼みに行った。二つ返事で快諾してくれたので、これは気にしなくてよさそうだ。

 彩音さんもついてくると言っていたが、浮遊魔法で執務室前までかっとんだ方が早かったので、1人で行った。

 

「じゃあ、金守さんに頼んで来たんだね」

「うん。明日までに可能な限り用意しておくって」

「……とんでもない本数が用意されそうな気がいたしますわね……」

 

 花奈さんの呟きに、少しだけ部屋の中に沈黙が下りた。

 確かに、金守さんも『魔女の大鍋(コルドロン)』の人だし、加減を知らない可能性はあるけど……い、いやでもこれまでの印象からしてかなりまともな人だし大丈夫なはず。

 

「……まあ、少ないよりはいいよ」

「……それもそうですわね」

 

 うんうん。と頷きあってから、花奈さんが口を開いた。

 

「ところで……何故わたくしたちをお呼びに?」

「明日以降の調査の時に、収納魔法の中に入れるものの選別がしたいんだ」

「選別って……そもそも槍と食料と着替えくらいでいいんじゃないの? モンスター食べるわけじゃないし」

 

 今、2人とも私の部屋に呼ばせてもらっている。というのも、明日からの調査で必要なものと不必要なものの選別をしたかったのだ。特に、何が不要かに関しては2人の意見を聞きたい。私、収納魔法に入る限り無限に増やしちゃうからなぁ……槍も入れるなら、少しでも減らしておきたいのである。

 彩音さんにモンスターを食べるわけじゃないと言われたけど、むしろ、食べることを想定したほうがいいだろう。

 

「いや、調理器具は絶対に持っていく。最悪を想定するなら、現地で調達することを考えないとダメ」

「え、そうかな……」

「そこまで必要ですか?」

「渋谷のイレギュラーの後、一部の人から『渋谷の女神』なんてあだ名をつけられた理由を調べてみたんだ」

 

 『渋谷の女神』なんて凄まじく恥ずかしかったので、何が原因なのか気になって、鬼灯に聞いてみたのである。

 そうしたら、かなりまともで、切実な理由が出てきたのである。

 

「要約すれば、食料の取り合いで殺し合いにならずに済んだから、だって」

 

 あの時、渋谷のイレギュラーで取り残されたことが分かった瞬間、真っ先に考えたのは食糧事情なのだという。

 この世界のダンジョンにおいて、数日にわたって潜っていることというのは遠征以外まずない。基本は日帰りである。だから、潜るときに持っていくものは、昼食一食と非常食くらいだ。何日も閉じ込められることは想定していない。となると、自分が生き残るためにはどうにか食料を調達する必要がある。でも、モンスターを食べることは選択肢にないのだ。仮に食べたとして、そこに毒があれば死因がそれになるだけだ。となれば、一番安全な食料は何か? 他人が持っている非常食である。

 そんな状況になり、今にも奪い合いが発生しそうになっているような一触即発の状況で、私がのんきに、ご飯食べるなら一緒に食べましょうとか言ってダンジョンブーブーの肉を周りに配り始めたのである。しかも、ちゃんと毒見もした上でである。そりゃ『渋谷の女神』呼ばわりもされるなって納得したよね。呼んでほしくないけど。

 あの時の私は、空気がヤバかったのでどうにか和ませたいな、なんとかなれー!! くらいの気持ちだったんだけど、それで一気に食糧事情が改善したのである。Mr.クマとダンジョンブーブーという2種類のほぼ無限に取れる食料が手に入ったのだから。まあ、その代償として私はひたすらダンジョンブーブーの解体に精を出すことになったんだけどさ。《解体》のスキルが出たからいいんだけど。

 

「そういう理由だったんだ……」

「確かに、残り少ない食料をめぐっての殺し合いなど、創作の題材にもなっておりますものね……」

 

 彩音さんと花奈さんも納得した様子を見せてくれた。少なくとも、私は絶対に調理器具をもっていかないという選択肢はない。

 

「だから、これは外せない。あと錬金用の大釜も。これがあれば、何か足りなくなったらその場で作れる。服が破けたとか鎧がへこんだとかでも、その場で直せるよ」

「…………夢希さんがサバイバルに特化しすぎておりますわね……」

「無人島に取り残されても余裕で帰ってきそう……」

 

 ちょっとどや顔で言ってみたら、2人に引かれた。何でさ。

 そのあと、荷物を一旦全部出して、3人であーでもないこーでもないと意見を出し合っていく。

 

「うーん……そうなるとまず、テーブルと椅子はなくてもいいんじゃない? あれば嬉しいけど、必須だとは思わないし」

「それと、コンロも減らしましょう。流石に3台もいらないでしょう」

「確かに……あ、流石にレジャーシートはあった方がいいよね?」

「そこまで嵩張らないし、仮眠取るときにあると嬉しいよね」

「食器の類も、この深皿のみに統一いたしましょう。他のものも持っていくと嵩張りますし。あくまでも緊急時用と考えるなら、1品でもよいでしょうし」

「ふむふむ……野菜はある程度常備してたけど、これも置いてった方がいいかな?」

「何日もって考えるなら、むしろ何かしら持って行った方がよさそうだけどね。栄養的に」

「根菜の類だけある程度……というのはいかがでしょう? 人参、玉ねぎ、ごぼう辺りで」

「なるほど、いいね。あとは……炭水化物? エネルギー補給に欲しいよね。やっぱりお米かな?」

「だったら、パスタとか乾麺の方がいいんじゃない? 調理に時間かかるのも問題でしょ?」

「効率だけで見るなら、ナッツ類が良いと思います」

 

 こんな感じで色々意見を出し合ったんだけど……うん、まとまらない!!

 特に食料。なんかそれっぽいものは出るんだけど、こう、いまいちまとまらない。なので。

 

「……1回、スーパー行って実際に見てみようか」

「そうだね、災害対策コーナーとかありそうだもんね」

「では、すぐに参りましょう。時間も時間ですし」

 

 というわけで、一旦近くの24時間営業のスーパーで買い物をすることに。ちょっと面倒だけど、入り口で申請を出してから外に出る。受付が小川さんなことには触れないでおく。絶対に触れない方がいい。

 一通り見て回って、買い物を済ませて帰宅し、とりあえず収納魔法に入れられるか試してみたんだけど……

 

「アウトドア用品がなくなったスペースに食材が増えましたわね……」

「ダンジョンの中に何日もって考えると、やっぱり食料が増えちゃうよね……」

 

 うん。最初に作ったスペースに食料が入ったので、今度は槍を入れるスペースがなくなってしまったのである。

 どうしたものかと頭を悩ませ……

 

「…………よし、もうちょっと大きな空間拡張カバン貰ってこよう。それに入れれば問題ない……はず!」

 

 というわけで、こんな時間にも関わらず実験室にこもって何やら弄っていた美弥子から、カバンを貰ってきた。こういう物は美弥子の部署の管轄だしね。もしかしたら、明日からの調査班には美弥子もいるのかもしれない。

 何はともあれ、もらってきたカバンに食料を詰めると、一気にスペースが開いた。これで大丈夫だ。

 

「よし、問題ないね」

「『魔女の大鍋(コルドロン)』全面バックアップの利点がこんなところで生きるとは思いませんでしたわ……」

「大型のやつって高くなかった……?」

「まあ、それなりにするね」

 

 うん、実際それなりのお値段するやつである。が、探索部門は『魔女の大鍋(コルドロン)』の全面バックアップが保障されているので、これもタダである。あとが怖いような気もするけど、私の場合、今の時点でアレだから怖いものはない。

 明日の準備はとりあえずこれでいいかと胸をなでおろしたとき、花奈さんがふと何かを思いついたようにこうつぶやいた。

 

「そういえば……他の方々はどうするのでしょうか? 特に浜面さんは大変なのでは?」

「野菜しか食べられないって言ってたもんね。食べる量も多そうだし……」

「でも、流石に浜面さんの分まで全部こっちで負担してたら、中身が全部人参になっちゃうよ」

「それはそうですが……」

「ここで考えてるよりも、聞いてみた方が早いんじゃない?」

 

 

 

「……というわけなんですが……」

 

 浜面さんの部屋であるガレージに3人で顔を出し、浜面さんに話を伝える。話を聞いた浜面さんは腕を組んで考え込んでしまった。

 

「なるほどなぁ……確かにそう考えると、量が欲しいな……」

「どうにかなりそうですか?」

「こっちのことは、こっちでどうにかするから気にすんな。あ、それでも万が一ヤバかったら頼るかもしれんからよろしく」

 

 両手を合わせて頭を下げる浜面さんがちょっと可愛い。馬の顔ってズルいなぁ……あと、()()()()()()()()

 

「わかりました。灰原さんと金守さんは大丈夫でしょうか?」

「あの2人は食えるもんに制限ないから大丈夫だと思う。連絡はこっちで入れとくわ」

「わかりました、ありがとうございます。おやすみなさい」

「おう、おやすみ!」

 

 浜面さんが他2人には連絡を入れてくれるとのことだったので、おやすみとあいさつをして撤退する。

 部屋の前まで戻ってくると、彩音さんがボソっと呟いた。

 

「……可愛かったね」

「ね」

「まさかナイトキャップを付けていらっしゃるとは……」

 

 浜面さん、あの巨体に青と白の水玉模様のナイトキャップ被ってたんだよね。てっぺんにぽんぽんがついてるやつ。流石にギャップありすぎだよ。後ろで2人がしゃべれなかったのそのせいだよ。

 

「動きに合わせて揺れてたね」

「んふっ、思い出させないでよ……」

「ふふふ、可愛らしかったですわ」

 




灰原「兄貴がかぶってるなら俺も……いや、やっぱ流石にこれは……いやでも……」
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