【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
秋葉原ダンジョンの上層を調査し終え中層まで降りた私たちは、早速異常に遭遇していた。
「真っ暗……?」
「こんなことは聞いたことがありません……」
中層が完全に真っ暗だったのである。先ほどまでのネオンの明かりはどこへやら、何も見えない暗闇がそこにあった。《魔力探知》には特に反応がないため今のところ安全だが、これからはどうなるかわからない。まずは明かりを確保しないと。
浜面さん、金守さん、灰原さんの3人は視界がなくても動ける可能性はあるが、こっちはそうもいかないしね。
「明かりを用意しますね! 《
美弥子の声とともに、浜面さんの頭上辺りに青白い光の玉が浮かび上がる。あれが叔父さんに頼んであった、光を発生させる魔法の完成形だろうか。その名前の通り、月明りのような優しい光が辺りを照らす。
中層の景色は、上層とそう大差はない。少しだけ街っぽくはなるのだが、明確な差はないに等しい。ここから新たに十字路が追加されるので、全方位から囲まれることがたまにある。なので、そこだけは注意がいる。そして、ここからはモンスターがパワー系になってくる。巨体を生かした攻撃や突進での攻撃など、シンプルにパワー系なモンスターがたくさん出てくる。
美弥子の魔法である程度見えるようになった視界では、やはりモンスターはいない。ネオンの配管は見えるが、光っていない。もはや廃墟のような感じが出ている。普段とあまりにも違う様相に、警戒レベルを引き上げる。これは多分、本気で下の方にマズいのがいる可能性がある。
魔法の不安定さは下に行くにつれて段々強くなっているようだ。しかしながら、まだ大丈夫そうだ。それにここまでで分かったこともある。美弥子の魔法が特段そういった不安定さは出ていないのと、私もここまで使った《魔力の矢》に関しては不安定さはなかった。となると、継続して制御するタイプの魔法には問題があるけど、そうじゃないなら問題ないということだ。大規模な魔法も不安定になりそうだけど、ここにそういったものを使う人間がいないので、そこまで気にしなくていいのかもしれない。問題は、下層、ボスの攻略にあたって私の強みが一つ減ることくらいか。囮になるのにも便利なんだよね、浮遊魔法ってさ。
「かなり不気味……」
「ホラー映画見てえだ……俺苦手なんだよな……」
「……変な臭いがします。気を付けてください」
彩音さんと浜面さんが中層の様相に少々怯える中、灰原さんが武器を構えて警戒を促す。
「どんな臭いだ?」
「……1番強いのは、肉が焦げている臭いです。他にも混じっているので、断言できません」
「みんな聞いたな。警戒を強めていこう」
金守さんの一言で、みんなに緊張が走る。このダンジョンで、焦げているような臭いがするというのは、結構な異常事態である。ここには機械系のモンスターしかいない。もし肉が焦げているような臭いがするなら、大分おかしい。ありうるのは人間の死体だけど、そもそも炎を使うモンスターもいない。電撃で焼くにしても、そんな行動してくるモンスターは中層にいないんだ。
中層にいるのは、モニターゴーレムとモーターライノだ。どちらも巨体を生かした攻撃が主なモンスターで、そんな特殊能力は持っていない。モニターゴーレムは、昔のテレビが集まってできたようなモンスターで、全長5メートルほどの巨人だ。殴る蹴るが基本なのと、モニターに嫌な映像を流してくるのが面倒な感じである。モーターライノは突進してくるサイ型のモンスターだ。タイヤで突っ込んでくるので、ほぼトラックみたいな感じなのだが、頭の形状がサイなのでこういう名前なのだという。
どちらもパワー系であって、そういった攻撃をしてくるモンスターじゃない。最悪の場合、冒険者同士の殺し合いの可能性もあるけど、だとしたらこのダンジョンの異変がどういうことなのかわからない。流石に別件だとは思えないので、何かしら関係性はあるはずだ。
「でしたら、わたくしも発動しましょうか。光の補強にもなりますので。《不退の陣》」
花奈さんが万が一に備えてユニークスキルを発動する。調査するときに
「おお、こちらも結構光るんですね!」
「流石にその魔法ほど光りませんが、多少の補強にはなるでしょう。何か起きた場合の回復も出来ますし、もし仮に状態異常を発生させるようなイレギュラーが発生していたとしても対応できますので」
うーん、便利。本当に便利なスキルだよね、花奈さんのスキル。この前調べて知ったけど、範囲内なら上空にも効果があるから私が空中にいても効果を得られるのが本当に便利である。
そう思っていたら、男性陣がいつの間にか集まって何やら話し合っている。
「……やっぱこれも、結構無法なスキルだよな……?」
「正直、ここまで使いやすいスキルの持ち主が所属してくるとは思っていなかったよ……」
「俺たち、癖強いすもんね……」
男性陣がスキルについてぼやいている。本当に、花奈さんのスキルの便利さってすごいよね。
そして、男性陣は全員姿かたちが変わるユニークスキルだから、そりゃ癖強いよね……こう考えると、今のところ会った探索部門のメンバーってみんな癖強いんだな……何かとデメリットで大変そうだし、苦労もしていそうだ。
そんな彼らに調査班の2人が実に『
「はっはっは、我々にとっては皆様の方が素晴らしいですよ。研究しがいがあります」
「そうですよ! 自信持ってください!」
「……そうだな」
金守さんが何とも言えない顔をしてそれを肯定した。
「…………あれって、褒めてる……んだよね?」
「彼らの中ではね」
「そっかー……」
私の返答に、彩音さんが遠い目をする。彼らはあくまでも研究者である。倫理観とかも放り投げている人が多い。となれば、そりゃあ研究しがいがある人の方が好ましいだろう。あとは研究に有益な人。私みたいな。そう、私みたいな!!
雑談で少し緩んだ空気を、金守さんが締めなおす。
「さて、進もう。警戒を怠るな」
しばらく進んだ先で、灰原さんが嗅ぎ取った臭いの元を見つけた。
「異臭の正体はこれか……」
「確認いたします」
それは、男性と思われる冒険者3人の黒焦げの死体だった。一度地面に降り、彼らに黙祷を捧げる。目を開けると、他のメンバーも全員黙祷を捧げていた。
しばらく、死体のことを調べていた調査班の男性が、その結果を報告する。
「これは……火ではなく、電流によって引き起こされたものです」
「電流、か……」
「……あの、死体は、どうするんですか?」
その報告に、金守さんが腕組んで考え込む中、彩音さんが金守さんに問いかける。私もこのまま放置というのは正直嫌ではある。が、このイレギュラー時に持って帰れるかといわれるとかなり微妙である。持ち物だって余裕はないし、そもそも私たちだって無事に帰れる保証はない。
彩音さんに振り返り、死体を再度見た金守さんは、決断を下した。
「……持って帰るぞ。荷台に乗せたい。いいだろうか」
「かまいませんよ!」
荷台にスペースを取った後、そこに死体を並べる。機材を覆っていたシートを死体にかぶせた。
その間、浜面さん、花奈さん、彩音さんの3人がこの現象について話し合っていた。
「……このダンジョンに、電流で攻撃してくるモンスターなんかいないよな?」
「いませんわね……ショートした、とかでしょうか? むき出しになったネオンに触れてしまって……というような」
「そうだとしても、階層全部が停電? するかな……?」
「確かにそうはならなそうですわね」
「となると、やっぱモンスターか?」
みんなの話を聞いていく。確かに、ネオンに触れて感電したとかなら、黒焦げの死体もわからなくはないし、それでダンジョンの階層全部が停電するかといわれるとそうはならないだろうな。
でも、このダンジョンに電流で攻撃してくるモンスターがいない。というのは間違っている。あくまでも、いないのはこの階層に、だ。1体だけいるのだ。
「1体だけいます。ダンジョンボス、ボルトアリアです」
ボルトアリア。秋葉原ダンジョンのボスで、170センチほどのツインテールの女性型アンドロイドだ。全身のいたるところにスピーカーがついているという、結構めちゃくちゃな姿をしている。顔も、スピーカーが目と口の位置についているから、結構ホラーである。さらに、髪が光ファイバーで出来ていて、何故かそこから電流を出してくるのだ。また、歌とダンスでその電流を操作してくる上に、指向性を持った音の衝撃波まで出してくるボスである。サイズこそ小さいし、物理攻撃にめっぽう弱いけれど、それを補って余りあるほどの戦力をもっているモンスターだ。そもそも近づくのすら難しいからね。
「ダンジョンボスですって……?」
「いや待て、ここ中層だぞ!?」
「私たちがあったトロルは上層まで来ていましたよ」
「確かに、あれは上層にいたね」
そうだ。あのトロルは上層にいた。もともと下層のモンスターにも関わらずである。それに階層数でみるなら、ここの方が少ない。最悪を想定するというなら、それくらいは考えるべきだ。
話を聞いていた金守さんが指示を出す。
「物前君、《魔力探知》の範囲を最大まで拡大してくれ。この狭さでアレを相手にするなら、先手を取れないと厳しい。全員周囲を警戒しろ。報告が来たら即時対応するぞ。想定はボルトアリアだ」
「わかりました」
「了解!」
各々が一気に緊張感を高める中、探知範囲を一気に拡大する。前方に明らかにこの階層にいていい
「……見つけました。でも相手もこちらに気付いたみたいです。前方から来ます。接敵まで10秒ほど!」
「全員戦闘態勢、浜面君は少し下がれ」
「おう!」
全員が前方に並ぶ。先頭は金守さんと花奈さん、斜め後ろ辺りに彩音さんと灰原さんの陣形だ。ボルトアリアのスピーカーから流れる、電子音満載の音楽が聞こえてきたとき、私は上空で魔法を構えようとしたら、突然浮遊魔法の制御が持っていかれた。マズイ、落ちる!?
「うわっ!?」
「おいっ」
灰原さんが気付いて受け止めてくれた。あ、危ない。まさか、魔法が不安定になるのと、ボルトアリアが一緒に来るとは思っていなかった。でも、美弥子の《
「ありがとうございます」
「……お、おう……」
灰原さんにお礼を言うと、そっぽ向いてすぐに元の位置に戻ってしまった。やっぱり、女性が苦手なだけなのでは……?
「何が起きた?」
「浮遊魔法の制御が一気に持っていかれました。特殊個体を想定するべきです」
「その現象の発生源まで……!」
通路の向こうからボルトアリアが姿を現した。見た目に大きな変化はない。そのツインテールの髪の先端がこちらを向き、青白く光を放ったので、《魔力障壁》を展開し電撃を防ぐ。あのトロルと違って、貫通するような威力はないようなのでそこは安心。妨害効果のせいで何秒も持続させられるわけじゃないけど、それでもタイミングを外さないくらいはできる。分かりやすいからね。
まったく、なんで最近の私は、魔法に対して異常なほどに耐性があるモンスターとばっかり出会うんだ……!
金守さんが両手に炎の剣を作り出して1歩前に出る。
何故、あれは制御が乱されていないんだ? 持続性がある魔法が対象なんじゃなくて、何か別の理由がある……?
「目標を特殊個体のボルトアリアと推定。討伐を開始する」