【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

157 / 173
感想、お気に入り登録ありがとうございます。




配信に興味のない私とダンジョン調査・秋葉原編⑶

 

「……なあ」

「なんでしょう?」

「はい」

 

 多分遠い目をしている浜面さんの言葉に、おなじく遠い目をした花奈さんとともに返事を返す。

 

「ちょっと前まで、今から死闘が始まる……! みたいな雰囲気だったよな?」

「……そうですわね」

「そうですね……」

 

 目の前に広がる光景を見ながら、そう返答するのが限界である。だって……ねぇ?

 

「何がどうなってこうなってんだ?」

「……そんなもの、決まっているではございませんか」

「……それは何?」

「ドラゴンが強すぎた。それに尽きます」

「それはマジでそう!」

 

 浜面さんの叫びがすべてである。本当に。

 目の前にある光景を説明していくと、ドラゴンに変身した金守さん。その姿に目と顔をキラキラさせてテンションマックスな彩音さんと灰原さん。押しつぶされてバラバラになったボルトアリアを、テンション高く分解して解析している調査班の2人。こんな感じである。

 先ほどまで、私は魔法の制御能力を結構奪われ、金守さんが炎の剣を作れることに疑問を持っていたし、他のメンバーも私が使い物にならないかもしれないと、結構アタフタしていた。していたんだよ。していた、んだけどなぁ……

 その後、金守さんの号令ののち、推定特殊個体のボルトアリア相手に何が起きたか。

 1、金守さんが突っ込んでいき、ドラゴンに変身

 2、ドラゴンに変身した金守さんがボルトアリアを踏みつぶして撃破

 以上である。

 冗談とかではなく、本当にそれだけだ。例えどれだけ強くなっていようが、魔法を不安定にする能力を獲得していようが。

 その全部が効かないのであればなんの意味もない。そういうことである。音の衝撃波も電撃も、何もかもがまったくダメージにならない存在相手には、何も出来ずに踏みつぶされてしまったのである。

 確かに、ボルトアリアはそもそも物理攻撃に弱いけどさ。あまりにもな展開で、流石に可哀そうになったよね……だってさ、金守さんって、変身すると高さが5メートルくらいの6肢構造のドラゴンになるんだよ? 4足歩行に翼腕があるタイプ。しかもかなり重量級の感じ。それで踏みつぶされて、グシャッ! って音とともに完全沈黙である。

 変身して、ボルトアリアの放った電流も無視、音の衝撃波も無視して、翼腕で叩き潰して一撃である。踏み潰されてひしゃげたボルトアリアが本当に無残だった。

 

「わぁ……カッコいい!」

「すげぇ……!」

 

 見てよ、彩音さんと灰原さんを。もう完全にヒーローショーを見ている子供だよ。サイズ的には、ロボットの等身大模型とか見てる子供かもしれないけども。

 

「そんな目で見られると流石にこそばゆいな……」

 

 金守さんは金守さんで、ちょっと照れくさそうである。大きくなっているからか、かなり重低音な声である。「~である」とか「~なのだ」とかの上から目線が似合いそうだ。本人があんまりしなさそうだけども。それにしても、大きいなぁ……人型の時は真っ赤だった体は、赤黒いというか、結構暗めの赤になっている。4足歩行の脚に、翼のついた翼腕が一対。首はそこそこ長くて、後ろを向くのに苦労しないくらいだ。それに、さっきボルトアリアに振り下ろす翼腕に雷をまとわせてた辺り、本当に雷も操れるみたいだ。さっきノコノコやってきたモーターライノには炎のブレスをお見舞いしてたから、両方操れるらしい。

 冗談抜きで、金守さんが人間でよかったと思う。これで本当にドラゴンとしてこの世に生を受けていたら、どれだけ強いかわかったものじゃないよ……仮にも特殊個体の下層のボスの攻撃がノーダメージなのおかしいって。

 ただ、一度変身するとしばらくの間は人間に戻れないそうなので、その時間が経過するまでの間にボルトアリアの解析をしようとなったのが今の状況である。そのまま移動しようにも、広間の中にいるならともかく通路は全く通れないからね。

 そして、ボルトアリアを倒したのだが、ネオンの光は復活していない。これは別件であるらしい。もしくは、ボルトアリアが特殊個体になった原因には関係あるのかもしれない。そういう予想もあって調査班はその解析に動いている。先ほどから、なんだかんだと考察の声が聞こえているが、何のことを話しているのかはよくわからない。

 で、まあその……彩音さんと灰原さんはただただ金守さんのドラゴン形態にテンションが振り切れてしまっているだけである。ドラゴンになった時点でもうテンションが凄まじく、踏みつぶした瞬間なんて歓声を上げていたくらいだ。

 そんなカオスな様相を、私たち3人は少し離れたところで遠い目をしながら眺めている。

 

「なるほど! これが原因でしたか!」

「ええ、恐らくはそうかと思います」

 

 調査班の方で何かわかったようなので、そっちの話を聞きに行く。花奈さんと浜面さんも一緒だ。

 

「何かわかったの?」

「はい! 夢希ちゃんの魔法の制御が乱れた原因だけですが!」

「それは、どのような?」

「これです」

「……? このちっせぇ透明な石ころか?」

 

 男性の人差し指の先にちょこんとのった、透明な粒が原因であるらしい。いったい何だというのだろうか?

 

「こちらは、魔封水晶です!」

「魔封水晶といいますと、犯罪を犯した冒険者に着ける腕輪の原料の、ですか?」

「はい。その通りです」

 

 魔封水晶は、文字通り魔法を封じる水晶である。どうなっているのか詳しくは知らないが、水晶の中に魔素(マナ)を取り込んでしまうため、使おうとしても魔法が使えなくなる。一応、熟練の魔法使いともなると簡単な魔法、それこそ《魔力の矢》くらいなら使えるようだが、そのほかの魔法はまず使えなくなってしまう。

 それは分かるんだけど、それなら、私にそれが付着させられたとかなんだろうか? だとしてもそんな気配なかったしな……

 

「全身のスピーカーにこれが入っていましたので、そのせいだと思われます。魔素(マナ)をある程度かき乱す音波を発生させていたようです。普通に戦っていたら、かなり面倒な相手だったと思いますよ」

「それで遠距離から夢希が撃墜されたのか……」

「……なるほど、夢希さんだけが乱されたのは、持続的に魔素(マナ)の操作が必要だったからというわけですか」

「でも、だとしたら、金守さんの炎の剣はなんで乱されてなかったんだろう?」

 

 《月明り(ムーンライト)》と《不退の陣》は、発動するときに魔素(マナ)を使用して、維持するのに操作は必要ないから乱されていないのは分かる。

 でも、金守さんの炎の剣って、間違いなく持続的に制御してるよね? どう考えても、炎なんて不定形の物を固定しておくなら操作は必須のはずである。

 

「あれはスキルであって魔法じゃないからです!」

「あ、そういう……」

 

 魔封水晶は、魔法を封じる水晶だけど、スキルは封じられない。だから、例えば鬼灯や彩音さんにつけたとしても、《身体強化》が使えなくなるだけで、《燕返し》や《地砕き》は使えるのでほとんど意味がない。

 とはいえ、格闘系のスキル以外は武器を持っていないと発動させられないので、武器を取り上げて魔封水晶の腕輪を付けることで、身体能力以外を封じてしまうのだ。そうやって冒険者の犯罪者は収容されているし、資格をはく奪された冒険者もそう過ごしているらしい。資格はく奪者に至っては、GPSも付けられているとのことなので、結構な処置だと思う。じゃないと危ないからね。

 そして、金守さんの炎の剣は、あくまでもドラゴンになるスキルの一部だから効果がなかった。ということらしい。

 これさ、私だけが被害を被って、他のメンバーに一切効果がないじゃないか。ピンポイント過ぎない? 何か恨まれているんだろうか私……万が一の時に戦えるように、両手剣とか用意しておこうかな。

 

「さて、元に戻れたし、下を目指そう。この停電現象の原因を調査しなくてはな」

 

 説明を聞き終わったくらいで、金守さんが人間に戻れたようなので、下層を目指して調査を再開する。道中出てくるモンスターは、出番のなかった前衛組が張り切って処理していったので、特に問題なく進むことが出来た。

 いや、ちょっとした問題はあったか。

 

「ねえ、灰原君」

「えっ、あ、なんすか……?」

「さっき、走るときにも《スマッシュエッジ》使ってなかった?」

「あっ、ああこれ、攻撃動作が対象なんで、助走も対象にできるんすよ」

「そうなの!? やり方教えて!?」

「え、えーと、斧担いだ上で、相手にまっすぐ行く時しか発動しないんで……」

 

 灰原さんの動きを見ていた彩音さんに、灰原さんが質問攻めにあい、しどろもどろになっていたのはちょっとした問題かもしれない。彼にとっては。

 後方にいた私たちは、何とも言えない目でそれを眺めていたけども。やっぱり、灰原さんは女性が苦手というか、慣れていないというか。そういう感じなのだろう。

 

「灰原さんどうしたんでしょうか!? なんだか挙動不審ですが!」

「美弥子はわからなくていいよ」

「夢希ちゃんがそう言うならわかりました!」

「それでいいのかお前……」

 

 美弥子だけはよくわかってなかったみたいだけどね。

 秋葉原ダンジョンの下層は、ネオン街にどこまでも近くてどこかズレている。扉らしき形のものはあれど扉はなく、階段はあれどどこにもつながっていない。そんな一種のバグのような世界なんだけど、ここも真っ暗だったので、余計にホラーゲーム感を増していた。その上、ここに出てくるのはアンドロイドソルジャーという、人型のロボットである。ロボットらしいカクカクとした不気味な動き方をしつつ、掠れた電子音で「イラッシャイマセ……」とか「オヤメクダサイ……」とか言いながら手にした武器を振り回してくるモンスターだ。

 もはや完全にホラーである。ホラーが苦手らしき浜面さん、彩音さんが時折悲鳴を上げる中、ボス部屋までたどり着く。

 ボス部屋の扉が壊れていたので、ボルトアリアのせいかと思ったのだが、中を見てその理由を知った。

 

「ナニコレ……」

「ぜ、全部、魔封水晶……?」

「これほどの量は見たことがありません……」

「これは凄まじいな……」

 

 そこには、ボス部屋を埋め尽くし、なお収まりきらなかったらしき、魔封水晶の山があった。見渡す限り全部が魔封水晶で埋め尽くされていて、壁が見えない。その一部だけ、人型にえぐれているような跡があった。

 これの中からあのボルトアリアは産まれ、これのせいでボス部屋の扉が壊れたのだろう。さらに、これのせいで秋葉原ダンジョン内のネオンが停電しているのではないか? という推測が出た。ネオンが光るための魔素(マナ)をこいつが吸収してしまっている。という感じである。

 魔封水晶自体はそこまで珍しい物質ではないけど、こんな状況になっているのは初めて見た。そして、この現象の解明のため、秋葉原ダンジョンは一時封鎖され、『魔女の大鍋(コルドロン)』から別途調査隊が来ることになった。

 なお、素材としてもいくらあっても困らないとのことで、回収するつもりらしい。たくましいねまったく。

 

 




ドラゴン金守の姿は、ゴアマガラとかあんな感じのを想定してます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。