【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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配信に興味のない私とダンジョン調査・八王子編

 

 ダンジョン調査2日目。今日は、八王子と奥多摩ダンジョンの2か所を回る予定である。

 八王子ダンジョンは、踏破するのに凄まじく時間のかかる面倒なダンジョンだし、奥多摩も全域を調査するとなると途端に大変になるダンジョンなので、昨日に比べてもかなり労力が必要だと思う。帰りがいくら浜面さんによる疾走だとしても、行きが大変すぎるんだよ。特に八王子。

 これまでのダンジョン調査では、全体的に魔素(マナ)濃度が微増している。という結果以外は、秋葉原のイレギュラーくらいしかなかった。これからもそうだといいんだけど、もらった資料の中を見ると、明らかに渋谷だけ異常に増えてるのが怖い。他のメンバーも加えて行動するとのことで、渋谷と品川の深層まであるダンジョンは最後の方に回る予定だ。去年みたいなことは起こってほしくないけど、どうなることやら。

 

「本来、今日は奥多摩ダンジョンから行く予定だったが、予定を変更し八王子に向かう」

 

 トレーラーの中、金守さんが予定の変更を告げる。予定を変更するような何かが起きたんだろうか?

 

「八王子ダンジョンにおいて、ソードスコルピオの数が()()()()()()との報告が来た。早急に調査したい」

「あの、それってよくないことなんですか? 危険なモンスターですし、少ない分にはいいんじゃ……?」

 

 彩音さんが金守さんに質問を投げる。

 それはそうなんだよね。危ないモンスターが少ないのはいいことだ。

 

「それも一理あるが、原因によっては問題になるな」

「原因?」

「例えばだが……変異種のモンスターが発生しており、そのモンスターがソードスコルピオを食い荒らしている。なんてことになっていたとしたら?」

 

 金守さんの例え話が大分嫌な方向に向かった。それは普通に勘弁してほしい。もし仮にそんなモンスターがいたとして、一体どんなモンスターになっているか想像がつかない。

 まあ、空中に攻撃手段があるモンスターじゃなかったら、その時点で負けないんだけどさ。

 

「考えたくありませんね……」

 

 花奈さんの呟きに、ちょっとだけ沈黙が下りる。この仮定の場合、そのモンスターが強化種なのも確定だしね。考えたくないのは分かる。所詮中層のモンスターと言ってしまえばそれまでかもしれないけれど、されど中層のモンスターなのだ。十二分に脅威になりうる。

 空気を変えるためか、浜面さんがこんなことを口にする。

 

「そうだとして、何が食ってんだ? 砂ウツボか?」

「その砂ウツボ、最終的に鱗が剣になってそうです!」

「耐久力以外はそこまで変化がなさそうですね」

「巨大化しているかもしれません!」

「おお、それは研究しがいがありそうですねぇ」

 

 おい、調査班2人。変異種がいてほしいなぁ……ってテンションのトークはやめてくれ。倒すのは私たちなんだぞ。美弥子は目をキラキラさせるな。

 そんなことがありつつ、私たちは八王子ダンジョンに足を踏み入れていた。

 

「うーん……?」

「どうしたの美弥子」

 

 入り口付近の安全を確保し、機材で周囲を調査していると、美弥子が計器の画面を見て首をかしげていた。何かあったのか?

 

「このダンジョン魔素(マナ)()()()()()です!」

「なんだって?」

 

 美弥子の発言に金守さんが眉をひそめる。これまで、魔素(マナ)濃度はずっとわずかとはいえ高かった。それが、ここだけ濃度が低いというのは、妙な気がする。まだ計測していないけれど、多分奥多摩も高いと思う。だって、一昨日の時点で変異種のボスがいるんだから。

 パーティーに少しだけ緊張が走る。各自、武装の再確認を行い始めた。これは冒険者だからこその行動かもね。何かあったときのための確認の仕方だ。一通り確認が終わり、陣形を組む。

 昨日と同じく、基本的には私が上空から《魔力の矢》で殲滅、他のメンバーで調査である。

 八王子ダンジョンは、中央につり橋のいくつもかかった渓谷があり、その崖に迷路のような洞窟があるダンジョンだ。また、下に降りるための階段が交互にあるため、時間がかかる。また、つり橋でモタモタしていると、渓谷を縄張りにしている飛行型のモンスターに襲撃される。とはいえ、彼らは火が苦手なので、松明なんかを持っていると、ほとんど攻撃してこない。地上にいるモンスターも、ソードスコルピオ以外は、動きがそんなに早くないため速攻をかければ問題ない。

 特徴を把握していると、そこまで危険でもないが、道中が長くて面倒なダンジョン、それが八王子ダンジョンである。

 1層の洞窟を探索し終わり、渓谷に出る。相変わらず、アメリカにあるグランドキャニオンみたいな大きな渓谷だ。ダンジョンの中なので、薄暗く下まで見えないのが本当に残念だ。《月明り(ムーンライト)》に思いっきり魔力を込めたら、下まで照らせないだろうか?

 

「……静かすぎるな」

「……何も聞こえねえ。鳥どもはどこに行った……?」

 

 金守さんと浜面さんが周囲を見渡して警戒を露わにする。本来なら、渓谷を縄張りにしているビッグイーグルとかハイエナワシが飛んでいて、その羽ばたきとか鳴き声が聞こえてくるんだけど、何も聞こえてこない。ただ、静かな渓谷だけがそこにある。

 そういえば、ここまでも地上のモンスターほとんどいなかったな……いたのはスパインポルポとメッサークラブがあわせて数匹程度。明らかに異常だ。なんでこんなにモンスターがいないんだ……?

 違和感を覚えていると、灰原さんが渓谷の端まで歩いていく。

 

「兄貴、耳塞いでください」

 

 それだけ言うと、大きく息を吸い始めた。

 

「わあっ!!!」

 

 渓谷に向かって大きく叫ぶ。その声が反響した木霊が何度も聞こえるが、モンスターからの反応はない。流石にこれだけやって反応がないということは、モンスター自体がいないのか?

 

「物前君、《魔力探知》の範囲を下にのばせるか?」

「出来ます」

「可能な限り伸ばしてくれ。モンスターがどれくらいいるのか知りたい」

「わかりました」

 

 金守さんの指示通りに《魔力探知》を下に伸ばす。本来横方向に伸ばすスキルだし、床の岩盤のせいでわかりにくいけれど、それでもある程度は把握できる。渓谷の底まで一気に伸ばしてみたが、モンスターを感知したのは10匹程度である。ソードスコルピオどころか、ダンジョンのすべてのモンスターがいなくなっているといっていいだろうこれは。

 

「ほぼいません」

「……ふむ……」

「こういったことは、前にはなかったんですか?」

 

 金守さんが、私の報告に難しい顔をして黙り込む中、彩音さんが調査班の2人に質問を投げる。2人は少し考えるようなしぐさをした後、それぞれ答える。

 

「私の記憶の中では、ここまで極端に少ないのは初めてです!」

「私もです。特定のモンスターが少ないというのは聞いたことがありますが、ダンジョン全てのモンスターが少ないというのは聞いたことが……」

 

 『魔女の大鍋(コルドロン)』の調査班が知らないというのは、かなりヤバい気がしてきた。世界中から情報を集めているだろうし、それでも聞いたことがないっていうのは一体……

 

「ちなみに、その特定のモンスターが少ないというのは、何かの前兆であったりするのですか?」

「記録上では、()()()()()()()です」

「……え」

 

 男性の答えに彩音さんと私が固まる。大量発生の前兆だって?

 待て、それはまずくない? もし、これがそうなら、このダンジョン全てのモンスターが大量発生するってことなんじゃ……

 

「その場合、魔素(マナ)濃度は上がりますから、下がっている今は気にしなくて大丈夫のはずです!」

 

 美弥子の発言ですこしだけ元気が戻るけど、それでも大分ヤバいことになっていそうである。

 ここまでずっと黙り込んでいた金守さんが顔を上げる。

 

「……よし」

「どうすんだ?」

「物前君、美弥子君を背負って浮遊魔法は使えるか?」

「問題ありません」

魔素(マナ)濃度の測定用機材も込みではどうかな?」

「……美弥子が背負うなりしてくれれば」

「背負えるようにベルトがあるので大丈夫です!」

「では、指示を出す」

 

 金守さんの指示は分かりやすかった。私が美弥子を背負って浮遊魔法で渓谷を降りて行く。背中の美弥子が機材を使って周囲の確認を行い、異常があったら即時帰還する。異常には、浮遊魔法の制御異常も含まれる。そして、その間他のメンバーは上で陣地を構築しながら待機。ということだった。

 渓谷下までの調査人員を最低限にして、上層で大量発生への備えを念のためしておく。そんな感じである。

 

「2人だけなんて危険です!」

 

 指示を聞いた彩音さんが金守さんに食って掛かる。対する金守さんは冷静に反論を返す。

 

「危険なのは百も承知だ」

「だったら……!」

「だが、万が一、我々が下に着いたと同時に大量発生したら全滅する」

「っ!?」

「危険な策だが、これが一番リスクが低いと判断した」

 

 金守さんの言う通り、万が一、私たちが渓谷の底に着いたと同時に大量発生が起きたら、間違いなく全滅するだろう。浮遊魔法があるので、私だけなら何とか生き残れるかもしれないけど、そんなことは私には出来ない。金守さんも生き残れるかもしれないな。あの強さだし。

 でも、他のメンバーは間違いなく死ぬだろう。死体が残ることもなく。

 だから、この方法が一番いいはずだ。ケーブルが無限に伸びるんだったら、そのまま垂らすって手もあっただろうけど、そんなことはないしね。

 

「大丈夫だよ彩音さん。初めて会った時と一緒」

「……んふ。じゃあ、砂ウツボのカレー食べさせてもらわないとね」

「カレー粉はないから作れないかな」

「えー」

 

 初めて会った時のことを出せば、うつむいていた彩音さんが少しだけ笑ってくれた。

 美弥子を背負って、万が一にも外れないようにベルトで固定させてもらう。密着することに美弥子が騒ぐかと思ったんだけど、そんなことはなかった。

 

「行ってきます」

「行ってきますね!」

「気を付けてくれ。くれぐれも、引き際を間違えないように」

「はい」

 

 美弥子を背負ったまま、渓谷に身を投げ出した。流石にあのときみたいに加速はしないけどね。何にもないといいんだけど……

 

 

 

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