【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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配信に興味のない私とダンジョン調査・八王子編⑵

 

 美弥子を背負いながら渓谷を下に降りて行く。明かりの確保もかねて《月明り(ムーンライト)》を使わせてもらう。青白い光に照らされる八王子ダンジョンの渓谷は綺麗だったが、どこまでも不気味だった。本当に、音がしない。

 そう思っていたら、なんかひゅんひゅん空を切る音が聞こえる。なんだこれ? しかも、頭のすぐ上くらい。

 ちらりと視線を向けると、コードのマイクのような機材が回転しているのが見えた。美弥子の腕も見える。何をしてるの……?

 

「美弥子、何してるの?」

「周囲の濃度を調べたいので、振り回してます! お邪魔でしたか!?」

「……ううん、大丈夫」

 

 平常運転すぎないかなこいつ……あと、それちぎれないの? ブチッていかない?

 それと、それが出来るならさ、下にも垂らしてほしいところである。どちらかといえば、下の方が問題ありそうだしさ。

 

「下に一個垂らせない?」

「出来ますよ! 少々お待ちください!」

 

 元気よく返事をした美弥子は、器用なことに片手で振り回すのを継続しながらもう1個の計測機器を下に垂らした。

 下の方に垂らしたやつと、私の頭上でぶんぶんと振り回されているやつの2つ体制で周囲の濃度を測っているんだけど……端から見たら、すっごくダサいヘリコプター的な絵面じゃないのこれ。見られたくないけど、そもそも今人もいないからなぁ……

 元からあんまりいないところに、お金稼ぎに来ている冒険者のメインの獲物なソードスコルピオがいないというイレギュラーが重なって、本当に誰もいないという状況のようだ。

 上層を抜け、中層辺りに差し掛かったので、一度美弥子に聞いてみる。

 

「美弥子、濃度はどんな感じ?」

「今のところ、まだ低いですね! 上層よりは流石に濃いですが!」

「それってさ、今どのくらいなの? 普通の上層くらいはある?」

「いえ、まだ低いです!」

「……中層まで来て、まだ上層以下……?」

「流石にここまで異常な事例は知りません!」

 

 中層まで来ているはずなのに、未だに上層の魔素(マナ)濃度にも満たないとか、一体どうなってるんだ? 周囲を警戒しつつ少しずつ降りて行くが、今のところ砲台ヤドカリが探知に引っかかってないので、特に気にしなくていいかもしれない。

 しばらく、ひゅんひゅんと空気を切る音だけが鳴る中、青白い光を頼りに下に降りて行く。どうにも嫌な感じがする。なんていうか、下に降りるにつれて何かが間違っているような、決定的に何かがズレているような変な感じだ。

 物凄く難しい間違い探しをしているような、愛依の口紅の色がわずかに変わったときに、彼女に『どこが違うか判る?』と詰められているときのような……若干の命の危険を感じるような、そんな感じである。

 あの時、アンタはファッションに詳しくなさすぎるって怒られたけど、わかるわけなくない……? ローズベージュとモーヴピンクの差とか本当にわかんなかったよ。口紅そのものを見せられたら、そこそこ違いがあったんだけど、唇に塗った途端に全然差がわかんなくなっちゃった。

 でも、他のファッションに詳しいクラスメイトは当たり前のように、口紅変えた? とか言ってたから、わかる人にはわかるらしい。凉すらわかっていたのが悔しいと思ったのだけど、凉曰く、ゲームのキャラメイクで見慣れているからわかる、だそうだ。

 いや、今がそんなことを考えている場合じゃない。場合じゃないんだけど……渓谷の底目指してひたすら降りて行くだけだし、今のところ何もないし……

 だが、何か違和感というか、疑問がたくさんある。頭の後ろ辺りがチリチリするような、そんな嫌な感じもある。でも、それがわからない。

 

「うーん……」

「どうしました!?」

「わからないことがたくさんあって、どうしたものかなって」

「そうですか! そういう時は、ひたすら言葉にしてみるといいですよ! 相手がいるときはなおさらです!」

「そうなの?」

「はい! アイデア出しみたいな感じで!」

 

 ふむ。日々研究をしている美弥子が自信満々に言い切るほどだ。参考にさせてもらおう。それに、美弥子の知識と合わせることでわかることもあるかもしれない。

 まずは、思いついた疑問を片っ端から上げていくことにした。

 

「なんで鳥型のモンスターだけ完全にいないんだろう?」

「確かにそうですね! ふーむ……完全に生態を把握できているわけではありませんが、例えば飛ぶのに一定量の魔素(マナ)が必要、とかあり得るかもしれませんね!」

 

 美弥子に質問を投げてみれば、考察まで返ってきた。しかも、結構納得できる考察である。速度とか考えると、やっぱりそれくらいのことはあり得そうだもんね。

 それにしても、いつもこの感じだったらいいのにな美弥子……

 

「次は、ほんのちょっとだけ残ってるモンスター。なんで残ってると思う?」

「それはわかりません!」

 

 考察すらない、はっきりとした断言が返ってきた。さっきまでの真面目さはどうした。

 

「そもそも、モンスターがどうやって産まれてくるのか、未だに判明していませんから! 強いて言うなら、生き残りではないかと思います!」

 

 あー、前提情報が足りないから考察しようがないってことね。なるほど。それと、生き残りか……確かに、それならいてもおかしくないか。

 魔素(マナ)の濃度の高い低いで種類が違うため、もしかしら、一気に低くなった魔素(マナ)濃度のせいで、新しいモンスターが生まれてきていないのかもしれない。今のところ、地上でモンスターが生まれていないのと同じ感じなのかも。

 地上にいるモンスターは全部ダンジョンからあふれてきたモンスターだけだからね。日本には今のところいないけれど、海外の一部ではすでにそういうところがある。この地球が本当にファンタジー世界のような環境になる日も近いのかもしれない。

 そして、最後の疑問。これが一番の疑問だった。

 

「最後に、()()()()()()()()()()()()()()

 

 昨日行った秋葉原のダンジョンでは、ダンジョンの魔素(マナ)を魔封水晶が吸い上げることで停電が起きていたのかもしれない。

 だが、それにも関わらず、ダンジョンの魔素(マナ)濃度は上がっていた。だからこことは状況が違うのかもしれない。でも、その差はボルトアリアがいたから。という可能性があるのだ。仮にも特殊個体のダンジョンボスである。その上、あれは中層にいたけど、上層の入り口周辺まで魔法の妨害効果をまき散らしていたのだ。周囲の魔素(マナ)濃度が上がってもおかしくない。

 でも、ここは違う。何もいないし何もない。ただただ、魔素(マナ)が消えている。じゃあその魔素(マナ)はどこに行った? 何がそれを手に入れた? 仮に単純になくなっているとして、それは何を意味する?

 そう思って美弥子に投げた疑問は、返ってこなかった。

 

「……確かに……」

 

 ぶつぶつと、何かつぶやき続けているのは聞こえるのだが、それだけだ。とりあえず、考えがまとまるまではそっとしておこう。

 そのまま下の方まで降りて行き、最後のつり橋を通り過ぎた。谷底が見えてくるが、やはり何もいない。ただ地面があるだけである。

 

「美弥子」

「……はい!?」

 

 思考の海に沈んでいた美弥子を引っ張り上げる。流石にちょっと相談したい。

 

「計器の様子は?」

「問題なしです! 未だに低いですが! やっと上層くらいです!」

「了解。この後なんだけど、そのまま降りて大丈夫?」

「はい、お願いします!」

 

 谷底に降りて行く。周辺を見渡すと、湧き水こそ湧いているのだが、ソードスコルピオがいない。魔素(マナ)濃度も相変わらず低いようだし、本当にどうなっているんだろうかこのダンジョン。

 そのまま、何事もなく谷底まで降りることが出来た。念のため浮いたままだけど、本当に何の音も気配もないのが、ただただ不気味である。

 

「うーん……むしろ、減りましたね……」

「え?」

「谷底の方が、濃度が低いです!」

「……は?」

 

 それはどういうことだ……? なんで谷底手前の方が高くて、ここの方が低いんだ?

 もしかして、何か見逃しているだけで、あの最後のつり橋付近に何かあったのだろうか?

 

「少し戻って――」

 

 そう思って、美弥子に提案しようとしたところで、ビキッ! という音とともに、渓谷の崖に()()()()()()()()()()。直後、空気が揺らぐ気配とともに、ひびが一気に広がっていく。

 このままでは呑まれる。明らかな異常に、急上昇を開始する。もしかしたら、上のメンバーも危ういかもしれない。最後のつり橋付近を通り過ぎた頃、上から声が降ってきた。

 

「物前君! 回避してくれ!!」

 

 金守さんの声だ。それも、ドラゴン状態の。暗くて見えないけれど、回避してくれってことは、何かが落ちてきているのかな?

 《魔力探知》で上方を探る準備をしようとしたとき、背中から警報音が鳴り響いた。今度は何!?

 

魔素(マナ)濃度が急上昇してます!」

「次から次へとなんなの!?」

「深層域と同等です!」

 

 その言葉に、思わず下を覗き込んだ。

 ひび割れた谷底から、光が見える。淡い紫色の光が、割れた穴から見えている。

 いや、違う。吹き出してるのか。魔素(マナ)が。可視化されるほどの密度のやつが。

 

「ッ!?」

 

 とっさの判断で、《魔力障壁》を張ったが、吹き飛ばされた。もはや、魔素(マナ)の奔流である。ダメージこそなかったけど、障壁ごと上に向かって吹き飛んでいく。その時、《魔力探知》に、金守さんたち上にいたメンバー全員が引っかかった。何でいる!?

 無理矢理上を向いて確認すると、ドラゴン状態の金守さんが腕の中にメンバーを抱えて落ちてきていた。そのさらに上には、どこの物かわからない瓦礫の雨とつり橋の残骸が見える。回避しろってこういうことか!

 金守さんに潰されないように回避して、逆に金守さんの腕の中に滑り込む。全員と合流する事が出来た。

 

「みんな無事!?」

「そっちも大丈夫だった!?」

「問題ないよ」

 

 とりあえず、全員無事らしい。怪我とかもしてなさそうだ。それにしても、一体何が起きてるんだ?

 

「衝撃に備えてくれ!」

 

 金守さんの声がしたので、みんなが姿勢を下げる。というか、金守さんは大丈夫なのか!? 浮遊魔法と《グラビティ》を金守さんに発動して、無理矢理落下速度を落としにかかる。重すぎて全然効果が発揮されず、少しだけ落下速度が落ちるにとどまる。

 そして、地面に落ちた衝撃とともに、金守さんの腕の中でみんなともみくちゃになる。あちこちぶつかってとても痛いが、何が起きているのかよくわからない。

 どうにかその状態が落ち着いた後、しばらくの間は瓦礫の降り注ぐ音がしていた。それがやんだころ、金守さんの声がした。

 

「……全員、無事か?」

「《不退の陣》!」

 

 その声とともに、花奈さんがユニークスキルを使ってくれた。辺りの様子が見えるくらいには明るくなった。

 全員もみくちゃにはなったものの無事である。いや、大なり小なり怪我はしてるけどね。彩音さんと浜面さんは額が切れてるし、調査班の男性に至っては脚が折れているようだ。灰原さんは……彩音さんと花奈さん庇ったときに、頭を打って気絶してしまったらしい。

 そちらの処置は奇跡の使える彩音さんに任せるとする。私じゃ何もできないしね……良くも悪くも、私は攻撃担当でしかないのである。

 

「金守さんこそ無事ですか?」

「全身に痛みはあるがそれだけだ。北条君のスキルがあれば問題ない。物前君もありがとう。助かったよ」

「どういたしまして」

 

 多少は役に立てたようで何よりである。それにしても、一体何が起きたんだ……?

 この中で、一番無事そうな花奈さんに状況を説明してもらおう。美弥子はさっきから計器を弄りまわしているので元気そうである。

 

「上で何があったの?」

「それが……突然、天井と床が崩落いたしまして……」

「……え?」

 

 花奈さんによると、突然ひびが入ったかと思うと床が崩落し、それに対処する途中で天井が崩落してきたのだという。そして、金守さんがドラゴンに変身してみんなをかばった状態で落ちてきた。ということらしい。

 途中で無理矢理横の洞窟に逃げることも考えたらしいが、万が一同じように崩落したらどうしようもないのと、私たちに伝えないとマズイということで、一緒に落ちてきたのだという。

 結果論だけど、それでよかったんだろうね。全員いるのはありがたい。安心感が違うしね。とりあえず、ここで救援を待ちたいところである。また渋谷みたいになってしまった。あとで愛依たちに連絡を入れておかないと、また怒られちゃう……

 

「……物前君、今動けるか?」

「はい」

「周囲を確認してくれないか?」

 

 金守さんから指示が出たので、腕の中から出て、周囲の状況を確認する。

 確認して、固まった。

 

「…………え?」

 

 目の前に広がるのは、大量のクリスタルだ。壁も、床も、天井すらもクリスタルである。薄く発光しているようで、青や紫の光が辺りを照らしている。表面がとても綺麗で、磨き上げたかのようだ。

 そして、そのクリスタルの中に、ビッグイーグルや砲台ヤドカリ、ソードスコルピオなど、八王子のモンスターたちが閉じ込められている。彼らは、まるで生きているまま固められたかのような、そんな状態だった。ビッグイーグルの表情は驚きに満ちていたし、砲台ヤドカリは砲撃する姿勢で止まっている。ソードスコルピオは、尻尾の剣を今にも振り回しそうだ。

 

「なに、これ……」

 

 




頑張ってシリアスやります
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