【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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お酒飲んで気持ちよく寝落ちしましたすいません。


配信に興味のない私と未探索領域調査⑴

 

「これは、一体……?」

 

 近くのクリスタルに近づいて、よくよく観察してみる。

 ビッグイーグルは、顔が驚いた状態なのは勿論、羽ばたきの仕草も、それによって巻き上げられたであろう砂埃ですら、クリスタルの中に閉じ込められている。砲台ヤドカリも、砲撃を行おうとした瞬間に固められたのか、振り下ろしたであろう地面の破片らしきものも見える。

 まるで、その瞬間に一瞬で固められたかのようだ。何がどうなってこうなってるんだろう?

 触れようとしたところで、金守さんから止められた。

 

「やめてくれ物前君。今君に何かあったら、俺たちは全滅する」

「……わかりました」

 

 クリスタルから数歩後ずさる。彼の言うことは一理ある。いや、一理どころじゃないくらいある。少なくとも、今動けるのは私、浜面さん、花奈さん、彩音さんの4人で、花奈さんと彩音さんは今ヒーラーとして動いているし、浜面さんは調査班の防衛役だ。私以外自由に動ける冒険者は今ここにいない。よって、私に何かあったら途端に状況が悪くなる。

 目の前の光景にちょっと冷静さを失っていたみたいだ。それにしても、目の前の光景が理解できないけれど。どうしてこんな状況になってるんだろう? クリスタルで埋め尽くされたこの洞窟もわからないけど、何よりどうやってここに落ちたんだろうか?

 金守さんの上を見ると、クリスタルと岩の混じった天井が見えた。多分、上から落ちてきて、ここの天井をぶち抜いたんだろうけど……となると、あの魔素(マナ)の噴出したひびの先なのだろうか。八王子ダンジョンの谷底のさらに下が確認されたなんて聞いたことがない。つまり、ここは八王子ダンジョンの未探索領域ということだろうか?

 周囲の確認をと言われたので、《魔力探知》を――使った瞬間、凄まじい情報量が頭に流れ込んできて、めまいがした。平衡感覚が狂って、どこが地面なのかわからなくなる。目の前が全部輝いているせいで、なおさらわからない。

 倒れそうになった時、誰かに身体を支えられた。

 

「……っ?」

「大丈夫!?」

「だ、大丈夫……」

 

 声から察するに、どうやら彩音さんらしい。《魔力探知》はもう切ったから平気だけど、未だに少し頭痛がする。

 いやこれ、彩音さんの鎧に頭ぶつけたせいだな。《魔力探知》のせいじゃないや。

 

「何があった?」

「《魔力探知》を使ったら、周辺全部が反応したせいで、めまいがしました」

「このクリスタルが全部反応したのか?」

「はい」

「じゃあ、これって、全部魔素(マナ)の塊ってこと……?」

 

 困惑した彩音さんの言葉を聞きながら、どうにか頭痛を振り払う。

 事実として、ここにあるクリスタルはすべてが魔素(マナ)の塊である。今やって分かったのはその程度だ。あまりにも反応が多すぎてどうにもならなかった。故に、今ここでは《魔力探知》は使えない。慣れれば何とかなるかもしれないが、慣れる前に倒れると思う。

 

「よし、修正完了しました!」

 

 計器をいじくりまわしていた美弥子が突然大声を上げる。

 驚いてそっちをみると、マイクみたいな計測機器を持った美弥子が、こちらに来ていた。スキルのおかげもあるんだろうけど、まったくの無傷なのすごいな。

 

魔素(マナ)濃度は深層並み! ですが、周りのクリスタルから漏れているせいもあるでしょうから、多少は低く見積もっていいかと!」

 

 周辺の魔素(マナ)濃度を調べてくれていたらしい。修正していたのは、アラートが鳴る濃度だったそうだ。ここだと常になり続けるような状態だったらしい。確かにさっきなってた時も深層並みの濃度だって言ってたしね。

 ともかく、深層で動いているという意識でいた方がよさそうだなこれは。念のためにね。

 灰原さんが結構感知系スキルに近い能力を持っているそうなので、彼と連携できればいいのだが、今は気絶しているし……うん。今必要なのは、感知能力。それも、魔素(マナ)と関係ないやつ。となれば。

 

「おいで、クー」

 

 指輪からクーが飛び出てくる。クーは私が最初に作った使い魔で、サモエドそっくりの真っ白な犬である。2メートルくらいあるけど。当然、能力も犬に近い。その上、魔素(マナ)で出来ているからか、その能力も結構高めだ。においでモンスターをかぎ分けるくらいのことはしてくれるし、浜面さんの代わりに運搬役もできるから、頼りにしてるよ。

 クーは、飛び出てくるなり私にじゃれついてきて……後ろの金守さんを見て固まった。流石に大きなドラゴンそのものはびっくりしたみたい。でも、吠えるでも怯えるでもなくきょとんとした顔をしているので、多分匂いは知ってるのに姿が違いすぎてびっくりしてるんだと思う。

 

「あれは金守さんだよ」

 

 クーは、え!? みたいな顔で私を見て金守さんを見てを何度くりかえした後、金守さんに近づいて匂いを嗅ぎ始めた。

 しばらくくんくんと鼻を動かした後、本当だ! みたいな感じで駆け戻ってくる。お前は本当に可愛いなぁ……わしゃわしゃと撫でまわしていると、彩音さんと美弥子もそれに加わる。クーも満足そうである。

 

「……3人とも、何をなさっているんですの?」

 

 しばらく撫でまわしていると、花奈さんの呆れた声で現実に帰ってくる。そうだった。癒されてる場合じゃない。とりあえず、状況の確認をしないと。

 

「彩音さん、回復は終わったの?」

「私が出来る範囲のことはね。流石に骨折はどうにもならないから……」

「北条君のスキルでも厳しいか」

「わたくしのスキルは、あくまでも状態異常回復がメインですので、怪我の回復は……」

 

 彩音さんの使える《祝福の施し》は切り傷とか打撲とかは回復できるけど、骨折までいってしまうと治せないし、花奈さんの《不退の陣》も、回復効果はあくまでもおまけだ。

 他のメンバーで奇跡を使える人もいないようだし、これ以上の回復は難しいだろう。それでも、どうにもならないのは現状、調査班の男性が足を骨折しているのと灰原さんが気絶しているくらい……金守さんは無事なのだろうか?

 

「なら、仕方がないな。さて」

 

 金守さんが人の姿に戻る。負傷者の手当てが終わるまで、防壁替わりになっていたようだ。見た感じは問題なさそうだけど……と思っていたら、クーが金守さんに駆け寄って行って、わき腹辺りをぐいぐい押し始めた。金守さんは驚いたようだけど、笑ってクーを撫で始めた。犬好きだって言ってたしね。ちょっと予定外の方法で撫でまわす機会を設けてしまった。

 そんなクーに私はちょっと呆れてたんだけど、横では花奈さんと彩音さんがほっこりとした顔をしていた。美弥子は興味がないのか、計器をまたいじっていた。

 

「クーさんがいると一気に空気が和みますわね……」

「可愛いもん。仕方ないよ」

「うおっ? なんだこの犬」

 

 こっちに向かってきた浜面さんがクーに気付いたらしい。クーもクーで、興味津々なのか、浜面さんを見ながら尻尾をぶんぶん振り回している。

 そのまま浜面さんはクーに近づいていく。クーも金守さんのそばから浜面さんの元へ駆けていく。そして、後ろ足で立ち上がって浜面さんにじゃれつきに行った。そんなクーを抱きしめ、撫でていた浜面さんだったが、突然こんなことを言い出した。

 

「お前……ま、まさか、灰原なのか……!? こんなに可愛くなっちまって……!」

「んぶ」

「ふふふ」

「ふはっ」

 

 思わずみんなで、吹き出してしまった。いやそうはならないでしょ。彩音さんなんかツボに入ったのか崩れ落ちちゃったよ。

 しばらく浜面さんに撫でまわされていたクーだけど、突如としてその腕の中から抜け出して、とある方向を向いて吠え始めた。それを見て、金守さんと花奈さんが構える。

 《気配察知》を発動すると、そこに何かいるのが分かったので、声を出しながら杖を構える。

 

「そこに何かいます!」

 

 直後、壁に張り付いていたモンスターが姿を現した。いや、姿を現したというか、少しだけ体色が黒くなったおかげで見えているだけだ。さっきまで全く見えていなかった。擬態しているみたいである。

 そのトカゲのような個体は、口を開けると舌? を計器を弄っていた美弥子に向けて発射した。先端が槍のように鋭くなっている舌が美弥子に向かって突き進む。

 

「美弥子ぉ!」

「美弥子ちゃん!」

 

 浜面さんと彩音さんが急いで美弥子の元に向かおうとするけど、間に合わない。が、美弥子に関してなら心配はいらない。私は構わずそいつに杖を向ける。

 

「《無敵》!」

 

 美弥子がスキルを使ったので、彼女の体が白い光で包まれる。そして、飛んできた舌がカンッ、という間抜けな音ではじき返される。

 トカゲの表情は分からないけど、呆然としているのか動きが固まったので、《魔力の矢》を叩き込む。

 一撃で仕留めきれなかった。む。硬いなこいつ。なので、そのまま複数発叩き込む。念には念を入れ、一気に連射した。多分3発目で倒せたかな。

 魔素(マナ)の塊で出来たクリスタルだらけのダンジョンにいるモンスターだからか、魔法に少し耐性があるみたいだ。頭に入れておこう。

 光がすでに収まった美弥子に、彩音さんと浜面さんが駆け寄っていく。でも、完全に無傷の美弥子を見て混乱しているようだ。

 

「おい、大丈夫……みたいだな?」

「えっと……美弥子ちゃん、怪我はないんだよね?」

「ありません! 無敵なので!!」

 

 美弥子が胸を張って堂々と宣言する。美弥子のユニークスキル《無敵》。文字通り無敵になるスキルである。効果時間は短いし、攻撃系のスキルも魔法も奇跡も習得できないという、えげつないデメリットがあるのだが、発動しているその瞬間は本当に無敵である。攻撃にも転用でき、殴ったり蹴ったりした瞬間に発動させれば、とんでもない威力が出る。

 具体的には、あの『魔女の大鍋(コルドロン)』製のサンドバッグを爆散させるくらいの威力である。そして、計測器がエラーを吐く。

 まあ、本人が研究者だし、戦う練習もしていないので、基本的に防御技としてしか使っていない。それもほとんど、研究中の爆発対策である。

 

「とんでもないスキルですわね……」

「……一応聞いておきたいんだが、物前君ならダメージを与えられるのか?」

「無理です。効果時間中は本当に無敵です」

「ははは……」

 

 花奈さんと金守さんの顔が引きつってる。そりゃそうですよね。気持ちはわかるよ。

 美弥子のことはさておき、これは結構マズいかもしれない。これが普通だとは思いたくないけど、周囲に擬態するのが当たり前なら、《魔力探知》が使えない状態でそのモンスターたちと戦うのは厳しい。今はクーがいるから何とかなるけど、ずっと出し続けるのはかなり厳しい。灰原さんが意識を取り戻すまでは頑張らないとね。

 

 




《無敵》の女、美弥子
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