【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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配信に興味のない私と未探索領域調査⑵

 

「さて、今のうちに現状を確認するぞ」

 

 金守さんの言葉で、今の状況を整理していくことにした。

 現在私たちの中で動けないのは、脚を骨折した調査班の男性――長谷川さんと気絶している灰原さんだ。長谷川さんの方は現状治す方法がないため、誰かの介助が必須だ。灰原さんは気絶しているだけなので、そのうち目を覚ますだろう。

 まず、物資に関してだが、これはほぼ問題ない。壊れてしまった機材と浜面さんの荷台くらいである。他は特になくなったものはないので、大丈夫なはずだ。荷台がなくなったため、長谷川さんと灰原さんを運べなくなってしまったが、クーがいるので何とかなるだろう。そうすれば、浜面さんも戦線に参加できるようになるし、灰原さんが起きればさらに戦力が増えて盤石になる。

 そういうわけなので、クーの背中に長谷川さんと灰原さんを乗せる。灰原さんが落ちないように長谷川さんに括り付けてもらった。

 

「長谷川さん、ちょっと痛むでしょうけど、クーの背中で我慢してください」

「いえいえ、脚を引っ張ってしまって申し訳ありません。クーさん、よろしく頼むね」

 

 クーを撫でながら丁寧にあいさつした彼に、クーはわふっと返事をした。

 次に、周囲の状況。ここはクリスタルだらけの迷宮であり、魔素(マナ)濃度で見れば深層と同等の階層である。周囲のクリスタルの中には八王子ダンジョンのモンスターが閉じ込められたりもしており、またクリスタルが高濃度の魔素(マナ)を含む、もしくはすべてが魔素(マナ)で出来ている可能性がある。恐らく、未探索領域であり、マップもなければ、モンスターの情報もない。私たちが情報を集めて対処するしかない。

 先ほどすでに新種のモンスターに遭遇したしね。周囲に擬態して死角からの奇襲を仕掛けてくる辺り、かなり危険である。万が一のことを考えて、アレが標準だと思った方がよいだろう。

 そのため、モンスターの対処は私の《気配察知》による察知と、クーの嗅覚、本能に索敵を任せ、モンスターが出てきたら、とりあえずは私が対処する方向でまとまった。そもそも見えない可能性を考えると、視覚以外の方法で見ることが出来ないと攻撃できないし。

 クーを出し続けることと魔法を使うことによる魔力の懸念は、長谷川さんの収納魔法に魔力ポーションが大量に入っていたことで解決した。万が一の時に私と金守さんが動けるように用意してくれていたそうだ。金守さんも、変身を維持するのに結構な魔力を使うそうなので、本当にありがたい。

 さらに、ポーションが少しとまさかのエリクサーが1本。怪我は魔法で治せるから、ハイポーションみたいなものはまだ研究すらされていなかったりする。そして、効果は彩音さんの奇跡とほぼ同程度である。

 エリクサーは死んでいなければ本当に何でも治せてしまう。でも、素材からして高すぎて早々用意できる物じゃない。今回の調査に合わせて各班に1本ずつ用意したんだってさ。流石だよね。

 ただこれは、本当に万が一のための物なので、長谷川さんには使わないということになった。戦える人がダメになったとき用ってことだね。

 

「見える敵は私たちが対処するんですよね?」

「……いや、美空君と北条君には悪いが、基本的に俺が対処しよう。2人の実力を疑っているわけではない。が、ここは魔素(マナ)濃度からして深層域だと思った方がいい。それに2人はヒーラーだ。念を入れておきたい」

「そうですわね……それに、クーさんの防衛もしなくてはなりませんしね」

 

 花奈さんと彩音さんはクーとその上の2人の防衛に専念してもらって、アタッカーは金守さんだ。活躍の機会が減るかもしれないけど、ちょっと我慢してほしい。

 

「俺は何すればいい?」

「浜面君は中衛だ。俺が盾役と調査役をやるからな。トドメは頼む」

「……前衛じゃなくていいのか?」

「君はとっさに下がれないだろう?」

「まあ、それはそうだな……」

 

 浜面さんは下半身が馬なので、後ろに飛びのくことが出来ないそうだ。確かにそうなると前衛の少し後ろにいてほしいね。後衛の奇襲にも対処しなくちゃだし、それは浜面さんにお任せしようと思う。

 

「それで、美弥子ちゃんは何をしてるの?」

「モンスターの解析。どんなものか分かれば、ある程度対策できるから」

 

 あのモンスターの死体は今、美弥子が嬉々として調査している。彼女のことだから、結構しっかり情報を確保してくれるだろう。

 

「さて、最後に俺たちが今いるところだが……」

「谷底のさらに下。といったところでしょうか」

「おそらくそうでしょうね」

 

 最後に、私たちは八王子ダンジョンの崩落に巻き込まれ、最下層と思われていた渓谷の底、そのさらに下に落下した。

 地上への帰還の目途は立っていない。また、上に戻るためのルートがあるのかどうかも不明。落ちてきた穴に関しても、瓦礫で塞がっているため使えない。こちらからどかすのは、崩落の恐れがあるので却下である。その辺は渋谷と同じだね。

 

「長谷川君、こういった事例は他にあるのか?」

「海外で数例ほどですが、新たな階層が追加されたという例はあります。流石に、その瞬間に立ち会ったという記録はありませんが……」

「となると、新たな階層が追加されたと考えるべきか……いや、それにしては変わりすぎじゃないだろうか?」

「海外の事例にも、ここまでではありませんが、変化があったとのことなので……ダンジョンの階層が追加されるというのは、相当なイレギュラーなのでしょう」

 

 金守さんの質問に長谷川さんが答えていく。すらすら出てくる辺り流石だな……

 普段はともかく、こういう時本当に『魔女の大鍋(コルドロン)』の人たちってありがたいね。これで普段の3人で同じ状況になっていたら、どうなってたか。

 それにしても、ダンジョンの階層が追加されるなんてことがあるなんて思ってもみなかったな……とはいえだ。未だにダンジョンが出てきてからというもの、大量の未知と異変と異常が大量に発見されるわけなのだから、ありえないことではないんだろうね。

 金守さんの言う通り、上の階層と様変わりの仕方がおかしいけどさ。

 

「で、どうする?」

 

 現状の確認が済んだところで、浜面さんが金守さんに声をかける。金守さんは少しの間黙った後、結論を出した。

 

「……進むぞ。この未探索領域を探索する」

「救助を待たないのですか?」

「階層が追加されたのなら、上に戻るための階段があるはずだ。それを探す。救助が来るとしても、救助隊も階層の詳細を知らない。合流するまでに双方が壊滅しかねない。となれば、俺たちが探した方が被害は少ないはずだ。それに、俺たちも階段を拠点にできれば待ちやすい」

「わかりました」

 

 確かに、金守さんの言う通りである。救助隊も、この階層の詳細を知らないのだ。私たちを救助するには、間違いなく瓦礫を大量にどかす必要があるのに加えて、階層の突破までとなると負担が大きいだろう。

 なので、救助隊がここまでくるのを待つよりは、上に向かう階段で待った方がいい。階段で待てれば、私たちの姿が見当たらない時点で引き返してもらえばいい。

 あと、普通に私たちも階段まで到達できればかなり安全に救助を待てる。普通モンスターは階段まで来ないのである。見つかってるとかなら別だけど。それに、階段で防衛するなら一方からの攻撃だけ想定すればいいのだから、そういった意味でも楽だしね。

 物量攻めから逃げられないという問題点もあるけれど、そこは金守さんと私がどうにかする。それだけだ。

 今後の方針も決まり、いざ探索といったところで、彩音さんが思い出した。という感じでつぶやいた。

 

「そういえば、通信って……」

 

 言われてみれば、してなかったな。愛依たちに怒られたくないし、さっさと連絡だけ入れちゃおう。さ、スマホを出して、っと。あー……

 

「……圏外だね」

「わたくしのは……落としてしまいましたわね」

「俺も落としたっぽいわ」

「俺のも圏外だ」

「私も圏外です。全滅ですね……」

 

 各々スマホを取り出し確認するが、圏外だったりなくしてしまったりで誰も連絡が取れなかった。

 どうにも、魔素(マナ)濃度が一定を超えると途端に電波障害が起きるようなのである。ダンジョンが出来てから改良もされ続けて、その許容量も上がっているみたいなんだけど、ここはそれの上であるらしい。

 濃度の問題じゃなくて、周りのクリスタルが原因の可能性もありそうだけどね。

 そんなわけで、外部の連絡を諦めたのだが。

 

「自分が連絡しますよ。つながりますから」

 

 長谷川さんがスマホを取り出して操作し始める。そして、当然のように通話のキャッチ音が聞こえてくる。

 いや待って、なんでつながるの?

 

「……何故、長谷川君の物だけがつながる?」

「『魔女の大鍋(コルドロン)』の技術を結集した端末ですからね」

「希少素材をふんだんに使ったやつですね! とんでもないお値段がするやつです!」

「…………そうか。報告を頼む」

 

 こういうところでも、『魔女の大鍋(コルドロン)』は平常運転みたいだ。

 金守さんが、ものすごく微妙な顔をしていたのは、気付かなかったことにしておこう。

 

「美弥子、あのモンスターどうだった?」

 

 話題を変えるため、先ほどのモンスターを調べていた美弥子に話を振る。こっちの話題に加わっていたし、あのモンスターについてはある程度把握してくれただろう。

 

「あのモンスターは、表面についているクリスタルで擬態しているようです! 動くと見えていたのは、そのためかと思います! また、攻撃手段になりそうなのは舌と手足ですね! ほぼカメレオンだと思っていただければ!」

 

 ふむ。なるほど、カメレオンか……このタイプのモンスターをカメレオン(仮称)とすることに決まった。

 その時、クーが吠え始めたので、そちらを見ると、2メートルほどの大きなカニがこちらに真っすぐ向かってきていた。カニなんだから、横歩きしてくれないかな、君たちモンスターはさ。

 全体的に青い甲殻をしていて、そこはメッサークラブによく似ている。違うのは、カマがクリスタル製だということ。切れ味もとんでもなさそうだ。

 

「俺が行こう。一旦、手を出さないでくれ」

 

 金守さんが、カニの前に躍り出て、まずは一発と言わんばかりに蹴りを入れる。

 大きな音が響いて、カニがぐらりと揺れるが、すぐに体勢を立て直し、自分に蹴りを入れた金守さんにカマを振りまくる。が、余裕を持って回避し続ける金守さん。しばらく回避に徹していたが、右手に炎の剣を作り出すと、それをお腹の辺りに突き刺した。

 カニがびくんと震えて、脚も手もピーンと伸びる。甲殻の隙間から、煙が上がって……崩れ落ちた。仕留めたみたいだ。肉の焦げた臭いがする。

 うーん……体の内側から炎で焼かれるの、絶対に嫌だなぁ……

 

「どうでしたか?」

「ほとんど大きさが違うだけのメッサークラブだな。だが、カマがクリスタルなせいで、背景と同化して間合いが掴みにくい。相手の間合いで戦うのは避けた方がいいな。思わぬ一撃を貰うかもしれない」

 

 金守さんの評価を聞くに、確かにメッサークラブと大差ないのだろうけど、間合いが分かりにくいのはかなり問題がありそうだ。でも、あくまでもクリスタル製なのはカマだけ。腕の部分は普通の甲殻なので、まだカマを振るタイミングは分かりそうである。

 再びモンスターの分析を始めてしまった美弥子と、ギルドやクランに連絡を入れてくれている長谷川さんを守りながら、また少しだけここに留まることにした。情報は大事だしね。

 

「報告終わりました。八王子ダンジョンは、地上でも結構な騒ぎになっているようです」

「そうか……思ったよりも早く救助が来そうかな?」

「いえそれが……モンスターが大量発生しているらしく、まずはその対処からしなくてはならないと……」

 

 長谷川さんが言いにくそうにそう告げた。

 うーん、このタイミングの悪さよ。まさか、『モンスターが少ないのは大量発生の前兆』という話も正しかったとは……2つ分のイレギュラーが重なってるわけだし、これは渋谷以上にハードな冒険かもしれないね。

 

 

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