【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
「このカニは、結構面倒なモンスターですね!」
金守さんに体内から焼かれた可哀そうなカニの調査を終えた美弥子が、そう報告した。
「どういう特徴があるんだ?」
「はい! まずは金守さんのおっしゃる通り、背景と同化するクリスタル製のカマです! 左右で長さが違う上に、ある程度伸縮もします!」
「うげえ……」
「間合いが測りにくいどころではございませんわね……」
カマの厄介さを聞いた浜面さんと花奈さんが、本気で嫌そうな顔をした。
私も、魔法以外で相手取るの勘弁願いたいレベルだよそれ。絶対にヤバいって。だって、ただでさえ間合い測りにくい上に変わるんでしょ? 絶対に近づきたくない……
「次に!」
「まだあるの……?」
「はい! 背中にクリスタルを背負っているので、背中の強度もかなりあります!」
「正面から倒すのが一番ということか……」
「正面から、魔法で打ち抜くのがいいかと! 先ほどのカメレオンと同じく、クリスタルにはある程度魔法への耐性があるようです!」
あのクリスタルには魔法の耐性があると……まあ、それならそこ以外を狙えばいいだけだから、別にいいんだよね。
そして、カニはカニなので、これはカニと呼ぶことにした。分かりやすさ重視である。
一旦ここで調べられそうなものは調べたので、移動することにした。壁や天井のクリスタルそのものを調べるのは、行き止まりなんかで休憩するときにすることにしたんだよね。流石に今いるここだと、左右から挟まれるし。
そして、とりあえずということで、分岐があったら左に曲がるというルールを作った。これでマップ構成を調べていこうって話に。
さらに、長谷川さんがマッピングも出来るということなので、これもお願いすることに。縁の下の力持ちすぎてとても頼もしいです。
その後、何体かのカメレオンとカニを倒したくらいで、前方の通路に紫色の光の玉のようなものが見えた。
「あれなんだろうな?」
「……人魂とか?」
「急にホラーにするのやめて???」
彩音さんの発言に、目をウルウルさせる浜面さん。体のサイズに反して、挙動があざといんだよなぁ……
ともかく、《魔力障壁》をいつでも張れるようにして、慎重にそちらへ進んでいくと、その光の玉がビームのように発射された。でも、私たちには当たらない方向だし問題――
「物前君!」
「はい!」
金守さんの焦った叫びに、《魔力障壁》を3枚使って、全方位を守れるようにする。形的には三角錐みたいな感じ。
なんとそのビームは、壁のクリスタルに当たると
「浜面君、仕留めるぞ!」
「おっしゃ任せろ!!」
浜面さんが全速力でかけていくのを金守さんが追いかける。私はここで他のメンバーの護衛かな。あのビームも、今またチャージしてるみたいだしね。
しばらくして、2人は光のもとを引きずって帰ってきた。ぱっと見た感じは砲台ヤドカリがクリスタルを背負っているだけであるが、砲撃してくるのがあのビームである。今のダンジョンにあまりにも合いすぎてるよ。
再び美弥子に調査してもらったところ、やっぱり基本は砲台ヤドカリみたいである。問題はあのビーム。これに関しては数が出てこないと調査しようがないので、今のところ保留である。これはヤドカリと呼ぶことにした。
「ダンジョンにもよるけど大体3種類くらいだし、これで全部か?」
「これなら、まだ対処できそうですね」
「ええ、希望が見えますわね」
浜面さんの発言に、彩音さんと花奈さんが追随する。確かに、大体階層ごとに3種類くらいのところが多いし、これでここに出てくるのは全部かな?
周囲に擬態して奇襲してくるカメレオン、正面から来るけどカマが曲者のカニ、チャージ時間こそ長いけど、クリスタルに反射するビームを撃ってくるヤドカリ。うん、彩音さんの言う通り対処できそうだ。
「いや、まだ何かいるはずだ」
「そうですね! あと一体は必ずいるはずです!」
金守さんと美弥子は、私たちの結論を切り捨てる。何か根拠があるんだろうか?
「それはどうしてです?」
「モンスターがクリスタルに閉じ込められていただろう? あれがモンスターの仕業だとしたら?」
む。ものすごく不吉なこと言うじゃないか金守さん。でも、確かにその可能性は捨てるべきじゃないのかも。もし仮にモンスターだったら、シャレにならないし、警戒するに越したことはないかなって。
でも、あんまり気を張り詰めすぎる要素が増えるのも勘弁してほしいな……ただでさえ、《魔力探知》が使えないせいで結構神経とがらせてるのに、もっと考慮することが増えるのは本当に勘弁だ。
「ここが出来た時に巻き込まれたとかじゃないのか?」
「それは確かにありうるかもしれません! が、その場合、アレの説明ができません!」
「アレって?」
「アレです!」
美弥子が指さした先には、カメレオンがクリスタルに閉じ込められていた。え、こいつまで閉じ込められてる……?
このダンジョンが出来た時に、その上にいたモンスターたちが閉じ込められるというのは、まだ想像できるんだけど、何故、出来た後に生まれたであろうカメレオンまで閉じ込められてるんだ?
「それと、先ほどから閉じ込められているすべてのモンスターが同じ方向を向いている。まあ、何故かヤドカリだけは逆を向いているが……」
金守さんに言われて辺りを見渡してみる。言われてみると確かに、閉じ込められているモンスターが全部同じ方向に向いている。それに、なんとなく……何かから逃げているようにも見える。
となると、何かがいるのは間違いない。しかも、こいつらが逃げるような何かである。
全員が気を引き締めなおしたところで、探索を再開した。
そして、探索を再開して早々に、私たちはかなりのピンチに陥っていた。
「展開します!」
私の声に、前線に出ていた金守さんと花奈さん、彩音さんが戻ってくるのと同時に、先ほどのように周りに障壁を展開する。その直後、全方位からビームが障壁にぶち当たる。いやもうこれ本当に厄介が過ぎる!
今、私たちはカニ3体、カメレオン2体、ヤドカリ1体のモンスターの群れと戦闘をしているのだが、ヤドカリがここで本領を発揮してきたのである。
そもそも、異種のモンスターによる群れな時点で面倒なのである。普通は単一もしくは、系統が同じモンスターで群れを形成しているため、対処法が似通ってくるのだ。深層域になっても、同一系統のモンスターで組んでくることはあっても、完全な異種モンスターたちの群れはまずない。
カニが前衛として壁になっている後ろから、カメレオンの舌が飛んでくるとかいう面倒な状況なのだ。もはや、人間の冒険者パーティみたいな役割の分担である。
その上で、後衛となったヤドカリが、他のモンスターと組むと本当に厄介な特性を持っていたのだ。
それは、他のモンスターのクリスタル部分にビームを当てると、そのビームが
もう、温存していられないということで彩音さんたちまで前衛に出しているのだが、あと一手足りない。私も攻撃したいんだけど、私の防御が遅れたらその時点で崩壊しかねないので出来ないし……
もう1人前衛が居れば何とかなりそうなのだが、浜面さんは退避が間に合わない可能性がある。なので、今のところ待機してもらっている。
ビームが視界から消えたので、障壁を解除する。再び前衛3人でカニとカメレオンの連合を突破しようとしているのだが、カニの隙をカメレオンがカバーするように攻撃してきているせいで突破できていない。ここままだと、誰かが一手間違えるだけで大変なことになる。
どうしたものかと、次の手を考えていた時、横を何かが駆け抜けていった。それは、壁の水晶を蹴り砕きながら疾走し、横からカメレオンに持っていた斧を叩き付ける。
「《地砕き》!」
力任せに叩き付けられた斧でカメレオンが真っ二つになる。それに気を取られたカニのうちの1体が、金守さんに切り裂かれた。
気絶から回復した灰原さんだ。状況確認もそこそこに、一気に駆け抜けていったみたい。でも、これで大分余裕が出来た。カメレオンを切り裂き、着地した灰原さんは金守さんに向かって叫ぶ。
「次は!?」
「そのままもう1体も頼む!」
「了解!」
金守さんの指示で、カメレオンに疾走していく灰原さん。狼だからなのか、片手も地面につけての三足歩行というかなり変な体勢であるが、かなり速い。カニのカマをスライディングですり抜けて、起き上がりざまを狙ってきたカメレオンの舌を弾き飛ばしてそのまま疾走していく。ヤドカリのチャージが終わるまでにカメレオンだけでも仕留めてくれれば、一気に形勢逆転できる。
そして、問題はヤドカリの方なんだけど……ここから一気に逆転するなら、この手が一番のはずだ。
「彩音さん!」
「こっちは任せてくださいな!」
私の呼びかけに合わせて、花奈さんがカバーに入り、彩音さんがこちらに戻ってきてくれた。収納魔法を開いて、槍を投げ渡す。
槍をキャッチした彩音さんは、そのまま振り向き、槍を投げる構えになる。間違いなく、相手に隙があるならこれが一番強力な一撃だ。
「砲撃いきます!」
私の合図で、前衛の3人が横に避ける。ヤドカリへの射線が開く。そこを。
「《乾坤一擲》!」
彩音さんから放たれた黄金色の閃光が通過し、ヤドカリに直撃した。チャージしていた紫色の光が消える。これで相手の砲撃はなくなった。
その後、残ったカニとカメレオンに、それほど苦戦するでもなく勝利する事が出来た。やっぱり、前衛が一人増えると違うね。
それにしても、ヤドカリが本当にふざけてるよ。本当になんなんだアイツ……今後もこういう感じで襲ってくるなら、槍が足りなくなることも考えないといけないかもしれない。
戦闘終了後、みんなで集まったとき、突然灰原さんが勢い良く頭を下げた。
「今まで寝ててすいませんでした!」
「いやいやいや! 気にすることねえって!」
「そうだよ! 灰原君のおかげで、私たち軽傷で済んだんだから!」
「ええ、灰原さんの判断は正しかったですわ」
開口一番、謝罪を口にする灰原さんにみんながフォローを入れていく。しかし、納得がいかないのか、顔を上げてくれない。うーん、こういう時、どうしたらいいんだろうか……自分の人生経験の浅さが憎い。
「今の戦闘での活躍で十分取り戻せている。だが、もし納得がいかないなら、これから存分に暴れてくれ」
「……おす!」
金守さんの言葉に顔を上げて気炎を上げる灰原さん。金守さんが頼りになりすぎる。
灰原さんに状況の説明とモンスターの基本情報の伝達をしていたら、階層のどこかから、モンスターの咆哮のようなものが聞こえてきた。
全員で周囲を見渡すと、今私たちがいる通路に入ろうとしているカニの姿が目に入った。口から泡を吹きながら全力で走っているようで、こちらに対して気付いてすらいなさそうである。そして、この通路に入る前に、横から青い霧のようなものがカニを覆っていく。
バキバキ、バリバリと、音が、鳴る。
霧に呑まれたカニの脚が、爪が、体が、口から吹いていた泡ですらも、凍り付いていく。
「え、嘘……」
「これは……」
「……マジか」
霧に覆われたカニは、瞬く間に、壁に並んでいるようなオブジェと化してしまった。
後に残ったのは、物言わぬクリスタルと、絶句した私たちだけ。
――心臓の音が、うるさかった。
戦闘描写ってカロリー高すぎィ!!