【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
後2話くらいでシリアス部分は終わりにしたい
謎の青い霧によって、カニがクリスタルに変えられる姿を見て言葉を失った。
心臓がうるさい。
呼吸が浅い。
空気が重い。
あれはダメだ。明確に、絶対に命の危機だ。食らったら危ないとかじゃない。即死である。その上、回避方法が思いつかない。全方位に防御を張るとして、それで防げるのか?
隣にいた彩音さんに手を握られる。かすかに震えている。そりゃそうだ。
周りのみんなも多かれ少なかれそういう感情を――
「アレは素晴らしいですね! 研究しましょう!!」
「ええ、アレは実にいいですね」
響き渡った美弥子の声と、それに同意する長谷川さんの声が、遠くに聞こえる。
………………いや、あの、なんだって……?
あまりの発言に、別の意味で身体が固まり、呆然と2人を見る。
「まさか周囲のクリスタルがああいう原理で出来ていたとは!! 一体どういうメカニズムなんでしょうか!? あのカニは生きているんでしょうか!? うーん、興味が尽きません!」
「クーさん、すみませんがあのカニの前まで移動してもらえますか」
クーが長谷川さんの指示に従ってとてとてとカニに近づく。お前すっかり長谷川さんと仲良くなったね。
って違う! ち、ちょっと待ってくれないかな? 情緒が追い付かないから。
私の混乱をよそに、2人は楽しそうに会話を続ける。
「長谷川さんはあれで何がしたいですか!? 私は魔道具の素材として気になります!」
「私が長期保存ですかねぇ。もし、組成を変えずに長期保存が出来るのなら保存の革命になります」
「いいですね! 冷凍せずに運べるなら、運輸費の削減にもなりますね!」
「美弥子さんはどこに使いたいですか?」
「回路ですね! 魔力の通りがよさそうですから! あと、半導体代わりになってくれないかなと!」
「半導体! 確かに、魔道具は科学製品と比べて、複雑な動きが出来るものがありませんでしたからね」
「そうなんですよ! より複雑なものを、魔力だけで動かしてみたいです!」
「いやはや、夢が広がりますね。とはいえ、加工が大変そうではありますが……」
「それも楽しみですよ!」
「ははは、それもその通りですね。いやあ、僕も楽しみですよ」
どこまでも『
大きく息を吸い、大きくため息をつく。なんかもう、馬鹿らしくなってきた……
あのブレスは脅威だ。目の前にある『死』そのものといっていい。あれだけのことが起きて、みんなしてパニック一歩手前だった。
だというのに、『
横を向いたら、彩音さんも呆然としてるもんね。でも、彩音さんの求めてた冒険って、ああいう人たちに囲まれてダンジョンで色々やってる感じだと思うよ、うん。
そして、周囲でもため息やらドン引きの声が漏れ始めて、張りつめていた空気が戻る。
「平常運転すぎて落ち着いたわ……」
「俺もです。いや、アレは脅威だと思うすけどね……」
「わたくしもですわ……ですが、らしいにもほどがあると申しますか……」
「『
……よし、切り替えよう。これは必要なことだった。過剰に怯えて動けなくなったら、それこそ死につながる。程度な緊張は必要だけど、あそこまでの緊張は必要ない。それに、これから1週間とか過ごすことになるんだし、流石にね。
緩んだ空気を少しだけ締めなおすように、金守さんが手を叩いて注目を集めた。
「……全員聞いてくれ。俺だからわかったことを共有したい。あれはドラゴンのブレスだ。あの声は、ドラゴンのものだった」
「ブレスって……」
なろほど、確かに金守さんだからこそ分かったことだろうね。本人がドラゴンだしね。
それにしてもブレスか……いやアレモンスターが出してるの? 凶悪過ぎない……? いや確かにさ、他のところにも、えげつないモンスターはいるんだけど、目の当たりにすると、その脅威がよくわかる。
深層域の上澄みのモンスターたちって、なんでこんなに悪意に満ちているのか……モンスターだからか。
「美弥子君、長谷川君。無人偵察機はないだろうか? ドラゴンが徘徊しているのか知りたい」
「
「そうか。なら――」
元気よく返事を返した美弥子に、金守さんが頷く。まあ、ダメ元だったんだろうね。
だが、美弥子と長谷川さんは斜め上に飛んで行った。
「では、今から作りましょうか」
「はい! 少々お待ちください!」
2人とも、クリスタルの調査を中断して機材を弄り始めた。
ああ!? そんな簡単に分解とかしちゃっていいのそれって! 他にも、最初に落ちた時に壊れてしまっていた機材の破片とかも取り出してごそごそやり始める。
「………………頼んだ」
そんな2人を見て、金守さんが眉間を揉みこみながら言葉をひねり出した。
金守さん、苦労してるなぁ……本当に今度美味しいものでも持っていこう。やっぱり、オークキングを倒しに行こう。きっと喜んでくれるはずだ。本当に美味しいんだからアレ。
彩音さんが、横から金守さんの方に歩み寄る。
「……調べてどうするんですか?」
「もし徘徊しているのなら、討伐する必要がある」
え、アレを討伐するの?
一瞬、空気が張りつめた。が、そのまま金守さんは話を続ける。
「あのブレスを回避できる確信が持てない。特定の位置から動かないなら、ここが安全地帯なのだろう。来る方向もある程度絞れる。それを元に階段を探すのは不可能ではない。だが、徘徊しているなら、どこから飛んでくるかもわからないあのブレスを警戒しながら動き続けるのは限界が来る」
そう言われると、確かにその通りだ。あのブレスを防ぐのは不可能だと思った方がいいだろう。となると完全に回避するしかないんだけど……
普段だったら、《魔力探知》を頑張って広げて、位置を特定し続けるっていう手法が使えるんだけど、ここだとそれが使えないからなぁ……本当にどこから来るのか不明なブレスを警戒し続けるのは本当に厳しい。
「いくら何でも危険すぎませんか? 倒すにしても、救援を待った方が……」
彩音さんが、至極まっとうなことを口にする。今の状況じゃなかったら、それに賛成するんだけど、今は厳しい。ただ単に崩落しただけの渋谷ですら1週間もかかったのを考えると、モンスターの大量発生も起きている今はどれだけかかるか……
「渋谷でも1週間かかったんだよ。今回も同じくらいかかるとして、それまであのブレスをよけ続けるのは厳しいかな。相手の位置の特定も出来ないし……」
「……そっか、《魔力探知》使えないんだったね……」
「そもそも、今俺たちが無事なのは運がよかっただけだ。この幸運がいつまでも続くとは思えない。そういうスキル持ちでもいれば違うんだろうが……」
金守さんの言う通りである。一歩間違えていたら、それこそ今ここで戦っていなかったら、あのブレスが直撃していてもおかしくなかった。
それにしても幸運のスキル、かぁ……1人だけ知ってるな。
「《幸運の女神》みたいなやつですか?」
「ああ。まさしくそういうスキルだ。確か身近には、童部君のお母さんが持っていたな……」
「鬼灯ちゃんの?」
ユニークスキル《幸運の女神》。文字通り幸運を呼ぶスキルであり、不運が起きないとまで言われたとんでもないスキルである。何か不運なことが起きたとしても、もはやそれに起因した幸運の前振りみたいなものにしかならない。
鬼灯のお母さんが持っているスキルであり、冒険者として活動していた時には、遠征に連れて行くだけで成功が約束されるとまで言われていたスキルである。引退後も、会社の云々で結構活躍しているみたいである。
冒険者の時も、レアドロップ取り放題なスキルだったみたいで、一部アイテムの価格が暴落したなんていう伝説がある。私も欲しいよそんなスキル。
ちなみにだが、それが鬼灯にも受け継がれているのか、鬼灯も幸運体質だ。スキルになるほどではないみたいだけどね。羨ましい……
「アレが元で、クラン抜けるときにひと悶着あったくらいですし、やっぱり欲しいですか……?」
「もちろん。ここにもいてくれたらどれだけいいか……いや、すまない。これはただの愚痴だな。忘れてくれ」
何かを噛みしめるようにつぶやいた金守さんだったが、首を振って発言を撤回する。
なんていうか……管理職って、大変なんだなぁ……という感想が出てきてしまった。いつか私もこういう思いを理解するんだろうか。申し訳ないけど、嫌だなぁ……
「ふむ……その場合、どうします? 万が一討伐するにしても、そもそも近づく前に気付かれてブレスを吐かれたら終わりでは?」
花奈さんが懸念点を挙げるが、金守さんが冷静に反論する。
「その通りだ。なので、徘徊ルートを特定して待ち伏せをするつもりだ。初手で首か頭に美空君の一撃を入れ、近づくまでの時間を稼ぐ。そのあとは、物前君にひたすら頭部を狙ってもらい、ヘイトを空中に向けてもらいながらブレスを吐かれる前に討伐する……というのが理想だろうな」
私の空中戦技術がここまで活用されるとは思ってなかったなぁ……ソロで安全をなるべく確保するための技術だったんだけどね。
もちろん、自由に飛べるように練習したのは、ただただ自由に飛びたかっただけなんだけど、戦闘にあれだけ使えるようになったのは冒険者になってからだしね。
「彩音さんの全力で一撃……というのは、厳しいでしょうか?」
「それが一番の理想だが、仕留め切れなかったときに1人減るのが厳しい。当人も火力があるからな」
「サイズによっちゃ、金守に抑えてもらえばいいんじゃねえの?」
「小さいなら、それでもいいな。頭を押さえつけて、みんなに首を集中攻撃して落としてもらおう」
「斧2人だったら、首を落としやすそうですわね」
うーん、物騒。いや確かに、斧2人だったら、首落とすのは結構できそうだけどさ。それにしても物騒だよそれ。
如何にドラゴンを安全に倒すかという話をしているところで、後ろから美弥子の声が聞こえてきた。
「出来ましたよ!」
「簡易的ですが、問題ないでしょう。早速偵察していきますね」
振り向くと、何をどうやったのか、スマホをカメラとして搭載したドローンがクリスタルの向こうに飛び去って行った。
「…………なあ、偵察機ってさ」
「やめましょう兄貴。ツッコむだけ無駄です」
浜面さんの呟きを灰原さんが切り捨てる。
それがいいよ。多分、本当に無駄だよ。気にしたら負けなんだよ。
「さて……偵察機が戻るまで、ここが一時的に安全だと思って休息を取るが、各自警戒は怠らないように」