【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する 作:もけねこ
間が開いてしまってすいません。
「各員、戦闘態勢」
ジャリ、ジェラリという、クリスタルが割れる音と、何かが這いずる音を聞きながら、私たちは金守さんの合図に従って戦闘態勢を取った。
あの後、偵察ドローンでドラゴンのことを観察し、ある程度の目標の情報と周回ルートを割り出した。
ドラゴンは全長4メートルくらいの四足歩行型であり、翼はない。そして、
周囲のヤドカリからの砲撃で傷を負い、反撃のブレスでクリスタル化させたのち、それを捕食することで回復している場面も見ることが出来た。そのため、少々遠目の待ち伏せ場所に行き、周辺のモンスター入りクリスタルを片っ端から砕いて回った。
また、ブレスを吐く前に、膨らんだ喉の辺りが青く光りながら膨らみ、吐き出すと同時に萎んでいったので、あそこがブレスの源であるようだ。
これらの情報によって、私たちの初手は決まった。彩音さんの一撃で、あの喉の袋を破壊する。成功すれば最高、失敗したとしても、ブレスの予兆がわかるから、溜めはじめたらそこを攻撃することで中断を狙うことになった。もちろん逃げることも同時に行うけどね。
「美空君、準備を」
「はい!」
彩音さんが、クリスタル製の槍を構える。この槍は、先ほどの休息の間にカニとカメレオンのドロップアイテムを使って作った武器である。深層域のモンスターのドロップアイテムで作った槍だ。持ってきた鉄製の槍よりは遥かに性能がいい。先ほどまでに倒せたモンスターたちの分で2本作れたので、もう1本ある。念のためだ。
後ろで、みんなが武器を握りなおす音が聞こえる。今までずっと後ろで我慢していた浜面さんの蹄の音も聞こえる。
私たちが待ち伏せをしているのは、未探索領域の端の方、入り口が2か所の広間である。片方がドラゴンの入ってくる方、もう片方が右側の壁にあり、万が一の時に逃げる方という感じだ。通路だとブレスを躱しきれないだろうということでここになった。
入り口の左右に展開して、入ってきたと同時に攻撃をすることになっている。広間の中央に行かせないくらいのつもりで猛攻を仕掛けるつもりである。左右に砕いたクリスタルを積み上げて、隠れる場所を確保したので、そこで待ち伏せしている。
ドラゴンがクリスタルを砕きながら歩く音が近づいてきて、だんだん地面も揺れ始めた。もうすぐその時である。
通路の奥から、ドラゴンの顔が見えはじめた。やはり、鱗がなくのっぺりとした印象を受ける。触れたらペタペタと手に張り付きそうだ。
顔全体が見え、首が見えてくる。こちらに気付いた様子はなく、視線は前のままだ。
そして、首全体が見え、膨らんだ袋の部分が広間に入った瞬間、彩音さんの一撃が袋に直撃した。
「《乾坤一擲》!!」
凄まじい衝撃音と、ドラゴンの咆哮が聞こえる。作戦開始だ。私は空中に飛び上がり、ドラゴンの目の前に辿り着く。袋が潰れていて、恐らくブレスは使えないだろうが、中身がこぼれだしている。青い粉状のものであり、周囲のクリスタルからの光を受けてもキラキラなどしない青黒い粉だった。
「中身がこぼれてます!」
「総員、後ろ足を狙え!」
金守さんの指示で、前衛のみんなが後ろ足の方へ駆けていく。これは、想定していたことだ。袋の中身があのクリスタル化の原因であるとすると、破壊と同時に中身がこぼれるだろうと想定していたのだ。なので、その場合、中身が当たらないであろう後ろ足を集中攻撃してもらうことになっていた。
私は当初の予定から何も変わらず、頭に攻撃を加え続けてヘイト役である。鼻とか目とかに《魔力の矢》をひたすら当て続ける。他にも、鼻を凍らせるとかも考えている。あと、口を開いて息を吸い込むなら、口を凍らせてやろうかななんて。ブレスも吐けなくなるだろうしね。
ドラゴンは、前衛のみんなのことなど眼中になく、目の前にいる私に狙いを定めたらしい。思いっきり魔力を出してこっちだぞーって誘ったからか、さっきの一撃が私のものだと思ってるのかな? だとしたら僥倖である。このまま視線をこっちに固定させて、みんなに後ろ足を潰してもらおう。
「やっぱり、見た目が結構気持ち悪いなこいつ……」
改めて正面から見たドラゴンの顔は、随分と気味が悪かった。顔をみてそんなこと考えるのは失礼だろうけどさ、でも皮膚は皮膚でも、のっぺりとして下にある血管が浮き出ているような薄い皮膚なのがちょっと……それに、近くで見るとわかるけど、粘液みたいなので覆われてるからなおさら……うん。
私の魔法に影響があるかどうかは今から確かめるとして、これ他のメンバーは武器が通りにくそうだなぁ……滑りそう。
作戦通り、《魔力の矢》を顔面に当てまくっていく。かなり鬱陶しそうに腕を振り回してくるが、そんなん当たってあげないよ。
飛べる相手ならともかく、地上の相手ならやはり空中で飛び回れるのは有利である。顔スレスレを飛びながら、目に向かって攻撃を加えると、怒ったのか咆哮しながら噛みついてくる。ギリギリまで引き付けてから《魔力放出》で加速して回避する。
私に向けてさらに攻撃を加えようとドラゴンが動いた瞬間、金守さんたちが後ろ足に攻撃を開始した。ちょうど軸足になった瞬間に攻撃されたせいで、そのまま体勢を崩して地面に倒れこむ。あのメンバーの一斉攻撃とか、どれだけ威力あったんだろうか……
倒れこんだドラゴンを見て、ふと思いつく。このまま頭を押さえつけてしまえばいいんじゃなかろうか?
「《グラビティ》!」
限界まで魔力を込めて、全力でドラゴンの頭を地面に押し付ける。これで頭を潰してやるくらいの気概でやると、腕をジタバタと暴れさせるだけで動けなくなっていた。頭の下のクリスタルがバキバキと砕ける音がする。これで、前衛のみんなに一気に叩いてもらおう。
そう思っていたんだけど、ドラゴンが徐々に重力を引きはがし始めた。目が血走り、潰れた袋からさらに粉が零れ落ちている。ヘイトを稼ぐっていうのは成功してるけど、これマズいかもしれないな。無理矢理ブレスを吐こうとしているようだ。あの袋から零れ落ちて周囲に拡散したら、前衛のみんなのほうまで届いてしまうかもしれない。
そのとき、視界の隅に何かが映ったので、とっさに回避する。その余波で《グラビティ》が一気に引きはがされてしまった。あれ尻尾か! ここまで届くのかアレ。
重力を振り払ったドラゴンが、咆哮とともに私の方に口を開ける。魔力の高まりを感じるし、喉が光っているのでブレスの準備をしているようだ。《フリーズコフィン》で凍らせにかかるが、無視されてしまった。口の半分くらい凍ってるのにこいつ……!
もはや自爆も辞さない構えのドラゴン相手に、私は声を張り上げる。
「ブレスが来ます!!」
「彩音!」
「はい!」
その声が後方に届いた直後、彩音さんがドラゴンの横に
彩音さんは空中で身をよじって着地すると、念のためにと渡しておいたもう一本の槍を構え、再び喉めがけて投擲する。
「《乾坤一擲》!」
再度直撃した瞬間、ドラゴンの喉元が爆発を起こした。ブレスの前準備をしていたからか、その魔力の制御を奪われたせいで爆発したようだ。
だが、その爆発のせいで袋の中身が周囲に拡散していく。私の方へは頭が防壁になってくれたので来なさそうだが、爆発の勢いもあり、彩音さんのところまでもうすぐ届いてしまいそうだ。間に合わない……!
「彩音さん!!」
とっさに手を伸ばすが、どうやっても間に合わない。いや、間に合わせる。何としてでも。
使える魔法をすべて使い、魔力も使い切るつもりで彩音さんの元に飛ぼうとしたとき、声が聞こえた。
「大丈夫ですわ。わたくしがおりますもの」
黄金の光が彩音さんを包む。同時に青黒い霧が彼女を覆うが、特に何も起きない。
彩音さんの隣に、いつの間にか花奈さんが立っている。浜面さんと灰原さんもいる。
あれは花奈さんの《不退の陣》であるはずだ。となると、あのクリスタル化は状態異常なのか?
「これで終わりにするぞ」
空中、私のいるところよりもさらに上から金守さんの声がした。
そちらに振り向くと、空中でドラゴンに変身した金守さんの姿が。対峙している不気味なドラゴンと違い、圧倒的な存在感を放つ赤いドラゴンが、空中から躍りかかり、ドラゴンを抑え込みにかかる。当然、抑え込まれないように暴れるものの、体格差もありまた、喉の爆発が重傷だったということもあったのか、簡単に抑え込んでしまう。
情報量が多くて混乱し始めているが、それは今は置いておく。私が今やるべきことを考える。
クリスタル化は花奈さんが完封しているため、そちらへの援護は不要。となれば、金守さんが抑えやすいように援護するべきだ。
そう判断した私は、ドラゴンの頭部に《グラビティ》を再度発動し、地面に頭を押し付ける。先ほどと違って、首を金守さんが抑え込んでいるから、ろくな抵抗も出来ていない。動きを完全に封じた以上、あとは他の4人が無防備になっている首を落とすだけだ。
「一気に行くぞお!」
「はい!」
浜面さんの背中に3人が乗り込んでの突撃を霧の中敢行し、首に辿り着く。
浜面さんの槍が、彩音さんのハルバードが、灰原さんの斧が、一気にドラゴンの首を切り裂いていく。苦し気にうめいて口から血を流してのたうつが、押さえつけている金守さんはびくともしない。
そして、その首が斬り落とされ、ドラゴンはピクリとも動かなくなったのだった。
「討伐完了だな。みんな、よくやってくれた」
人間の姿に戻った金守さんの言葉に、私たちは歓声をあげた。いや、結構な命の危機だったしね。本当に。
ちなみにだが、「私たち」の中に、調査班の2人は含まれていない。あの2人はすでにドラゴンの死体に夢中である。まったくもって、模範的な『
その後、しばらく休憩するということ(調査班の2人がどうあっても離れないだろうし)で、水を飲みながらのんびり過ごしていたのだが、ドラゴンの死体を見ていて、ふと思ったことがある。
「ねえ、彩音さん」
「ん? なあに夢希ちゃん」
「彩音さんって、ドラゴン好きだよね?」
「好きだけど……あれはちょっと、嫌かな……」
いくらドラゴン好きの彩音さんでも、目の前のドラゴンはお気に召さなかったらしい。不気味だもんね。
まあ、見た目の話はどうでもいいのである。今は。
「ドラゴン、食べてみたい?」
「うん。ドラゴンステーキ! なんて、美味し、そう……だし……」
彩音さんの言葉は途中からどんどん尻すぼみになっていった。でも、だよね。やっぱりそう思うよね。
せっかくドラゴンがいるのだ。それに、新鮮だし、鱗もないから解体も容易に出来そうである。
討伐祝いも兼ねて、ドラゴンステーキ。食べてみようじゃないか。
次回から、いつもの空気に戻ります。
今回がっつりシリアス書いてみたんですが、カロリーがヤバくて、途中で息切れ起こしてこの有様なので、次にシリアスな話書くときは、もっと短くまとめて書こうと思います……