【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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感想で正論パンチの雨を食らいましたが、その程度で止まる主人公ではない…!

金守視点でございます。


問題児のいるパーティーのリーダーの俺とリーダーとしての責任

 

 他の何もかもが目に入っていない様子の調査班の2人を眺めながら、俺――金守(かねもり)龍臣(たつおみ)は、気付かれないようにそっと息をついた。

 思い返すのは、先ほどのドラゴン討伐だ。事前に計画した作戦通りといっていい戦闘内容であり、文句のつけようがない完勝だ。ドラゴンは討伐され、こちらには怪我人すらいないのだから。

 だが、それは薄氷の上で成り立ち、かつ運がよかっただけに過ぎない。あのクリスタル化現象が、石化に近い状態異常であったためにこうなっただけで、そうでなかったなら()()()()2()()()()()()()()だろう。俺の軽率さによって。

 組んだ腕の中、他のメンバーに見えないように拳を握る。

 そもそも、あのクリスタル化現象が石化に近い状態異常であったことを知れたこと自体が偶然の産物だった。物前君にドラゴンを引き付けてもらっている間に、俺たちは後ろ足を攻撃した。軸足を攻撃することになったのはたまたまだったが、良い攻撃だったと自画自賛出来るだろう。

 だが、想定外だったのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。血液が付着した浜面君と灰原君が一部クリスタル化しかけ、それを北条君の《不退の陣》が防いでくれた。それによって、あのクリスタル化現象が対策可能な脅威であることが分かったのだ。あの光がなければ、今頃この広場に俺たちのクリスタルが並んでいたはずだ。

 そして、それが分かってなかったら、あの最後の自爆覚悟のブレスに対して美空君の槍をぶつけようとはしなかった。実際そうなったように、周囲に拡散して何もかもを飲み込んでいただろうからな。本来なら、浜面君に背負ってもらって全力で逃げていただろう。いや、そもそもそれすらできずに物前君以外のメンバーが全滅していたかもしれない。

 偵察にもっと時間をかけるべきだったし、分析も慎重に行うべきだった。俺たちには、まだ余裕があったのだ。時間も物資も、何もかもが。あの霧を必要以上に警戒した結果、軽率な判断をしてパーティーメンバーを危機にさらした。

 次はない。次こそ、誰かが死ぬだろう。それを心に刻む。俺は、ここにいる全員の命を預かっている。その重みを再度噛みしめる。

 

「おい、どうした? なんか心配事か?」

「……少し、反省をな」

「反省ねえ……何をだよ?」

 

 蹄の音ともに浜面君が俺のすぐ隣まで来た。心配の声に短く返答すると、腕を組みながら首を傾げられた。

 浜面君とはそれなりの時間をともに過ごしてきたが、彼は周りをよく見ている。犬束君とは違う、安心感のようなものがある。彼を慕うクランメンバーが多いのも納得だ。そして、俺はそれに助けられてばかりだ。統率者として、あまりに情けない。

 

「あまりに軽率だった。君と灰原君を殺すところだった」

「……ブルヒィ……」

 

 素直に、反省していた内容を口に出せば、彼は何か考え込むように溜息をつく。そして、唐突に思いきり背中を叩いてきた。どうにか吹き飛ぶのはこらえたが、変な声は出た。

 

「げふっ」

「考えすぎだぜ副部長。これが最善だった。どこから来るかもわからんブレスを警戒し続けるのは無理だ。偵察だってドローン程度じゃ限界がある。その上で、最大限今あるものを活かして掴み取ったもんだろ。そもそも、血液に触ってもアウトなんざ、実際に触れる以外で知る機会があるわけない。指示も作戦も最善だった。その上で、めちゃくちゃ優秀なメンバーだったから、俺たちは全員無事だ。そんで、そのメンバーを選抜したのはアンタだろ、副部長?」

「……」

「大体な、俺たちに『完璧な作戦』なんてものはねえの。俺たち冒険者は、未知に挑むのが仕事だからな」

「……ふっ、そうだな。俺たちは、未知に挑むのが仕事だったな」

 

 背中の痛みが、彼の言葉が、俺の凝り固まっていた思考を解きほぐしてくれた。

 俺たち冒険者は、未知に挑むのが仕事。まさにその通りだ。未知を既知に変えながら、想定外すら乗り越えて先へ進む。それが冒険者というものだった。

 反省はある。だが、それを考えている場合でもない。それは、ここから出た後でいい。まだまだ、ここには未知がありすぎるくらいなのだから。俺が視野を狭めるわけにはいかない。

 浜面君にはまた助けられてしまったな。この礼は瓶ビール1ダースで支払わせてもらうとしよう。いや、樽でも用意するか?

 

「ち、ちょっと待って夢希ちゃん!」

「――」

「あん? なんだ?」

 

 聞こえてきた声に目を向ければ、美空君が物前君の腕を掴んで何やら必死に訴えている。物前君は……いつもの無表情だ。淡々と何か言い返しているようだが、ここまでは聞こえてこない。

 何か問題でもあったのかと、浜面君と2人で近づいていけば、美空君が俺たちに気付いた。

 

「金守さん、夢希ちゃんを止めてください!」

「何かあったのか?」

 

 何やら必死に訴え来る美空君に従い、物前君に問いかけると、想定外の返事が返ってきた。

 

「金守さん、ドラゴンの肉の味に興味ありませんか?」

「……なんだって?」

「ブルホッ……」

 

 後ろで浜面君がむせている音が聞こえてくる。いや、待ってくれ、どういうことだ? いや、ドラゴンの肉の味に興味がないわけじゃない。彼女のモンスター料理に関するレポートは見せてもらった。中々に多種多様なモンスターが食用に耐えうることに驚いたが、それ以上に味が気になったのは事実だ。

 だが、なぜ今ここでそんな……いや待てドラゴンの肉の味?

 

「まさかと思うが物前君……」

「祝勝会もかねて、あれ食べてみません?」

 

 あれ。と彼女が指さしたのは、先ほど俺たちが討伐したドラゴンだった。

 ……鈍い痛みがこめかみのあたりを走る。この前の配信者の犯罪グループの事件の時もそうだが、彼女はなぜこう……いや、そうだな、あの『女帝』の娘なのだから、むしろ大人しいのかもしれない。

 それにしても、この未探索領域に閉じ込められており、いつ助けが来るのかわからない状況ですら平常運転なのは流石としか言いようがない。渋谷のイレギュラーを経験した彼女にとっては既知の事柄だからかもしれない。だが、そのいつも通りは、確実に他のメンバーに安心感を与えてくれるだろう。それが今のように悪い方向に発露しなければだが……!

 ここはとりあえず止めなくてはならない。パーティーリーダーとして。

 

「俺としては賛成しかねる。食べて安全なのかがわからないものを食べて、万が一があったらどうする」

「? 花奈さんが居れば、安全でない食べ物なんてないと思いますが」

 

 首をかしげながら北条君の方を見る物前君に、思わず頭を抱えたくなった。

 いや、その指摘は正しいのだが、そうではなくてだな……! 確かに、北条君がいて安全でない食べ物なんてなさそうだが! あのクリスタル化ですら、当たり前のように回復するほどに、状態異常の回復という点において圧倒的な性能を誇っているのだから。頭の中で、ドヤ顔をしている北条君が浮かぶ。

 ああくそ、反論が何も思いつかない! つくづく優秀なパーティーメンバーを選んだものだ、過去の俺は!

 

「……食料は十分に用意してくれたのだろう? 今冒険をする必要はないと思うのだが……」

 

 どうにもならなくなった俺は、論点をずらしてみることにした。いや、分が悪いにもほどがある戦いだが、今この状況であのドラゴンを食べるのは止めるべきなのだ。パーティーのリーダーとして……!

 ……まあ、個人的には、その味は非常に気になるところではあるのだが……断面からわずかに覗く肉は、中々に美味そうだしな……

 そして、俺の悪足掻きは彼女に簡単につぶされてしまった。

 

「十分に用意しましたが、同時に、ダンジョン内で補給することを前提にしています。それに、今のうちに確保しておけば長引いても問題なくなります。カニもヤドカリもカメレオンも後で食べます」

「……そう、か……」

 

 毅然と断言する彼女に、胃痛がし始めた。誰か助けてくれ。どうやったら彼女を説得できるんだ? そもそも、北条君がいる時点で勝ち目がないだろう。あまりにも物前君と相性が良すぎないか? 

 正直、俺個人としては、もう許可を出してしまっていいのではないかと思っている。祝勝会と称してドラゴンを食べるなんて、中々ない経験だろうし、美味かったならそれでよし、例えまずかったとしても笑い話にはなる。それもまた、冒険の一幕だろう。

 だが、ここで何もなく許可を出すわけにもいかないのだ。このパーティーのリーダーの責任として、今のところ安全かどうかわからないものを食べることを、何事もなく許可するわけにはいかない。北条君がいるなら大丈夫、などという無責任な理由ではダメなのだ。何か、ちゃんとした理由がなければならない……!

 ……そう、そうだ。もし万が一、万が一、調査班に調査させて、彼らが安全だと言ったのなら……それはもう、不可抗力というやつだろう。そういうことにしてくれ、頼む。

 

「…………条件がある」

「なんでしょう?」

「調査班の2人に調査をさせてからだ。彼らが安全だと判断したなら、許可する」

「わかりました」

「金守さん!?」

 

 白旗を挙げた俺に、美空君の悲鳴が刺さる。

 物前君が悠々と、ドラゴンの死体を調査している調査班のもとへと歩いていくのを見送りながら、俺は美空君から目をそらして謝ることしか出来なかった。

 

「……すまない、美空君」

「金守さぁん……」

「まあまあ、そんな目で見るなって彩音。ありゃ無理だろ。安全面で止めようにも、花奈がいるんじゃ止めらんねえって……」

「それは、まあ……そうですよね……」

 

 浜面君のフォローもあり、美空君も納得はしてくれたようだ。若干遠い目をしているのが気になるが、見なかったことにした。

 すると、少し離れたところで周囲を警戒していた灰原君がこちらにやってきた。

 

「……あの、話聞いてたんすけど、あの2人がまともに調査するんすかね?」

「どういうことだ」

 

 突然不穏なことを言わないでくれ。だが、そもそもあの2人は職責には真面目だ。少なくとも、今回の調査においては俺たちに有益ではない研究は控えてくれている。たまに漏れ出してしまっているが。その状況でも、俺の指示を優先してくれるしな。偵察機の時しかり。

 だが、灰原君の続けた言葉は、重みがあった。

 

「ドラゴンの肉を食べよう。って言われて、『魔女の大鍋(コルドロン)』の研究者が食べないなんて選択、とるわけがなくないすか……?」

「……」

「あー……」

「あ、あはは……」

 

 思わず天井を見上げてしまったことを許してほしい。この話は、最初から詰んでいた。勝ち目も何もあったものじゃない。妥協点すらない。食べる以外の選択肢がまったくもって存在していなかった。

 鈍い頭痛を感じながら、俺は祈ることにした。

 せめて、あの肉が美味しくありますように。

 

 




次回こそ、ドラゴン食べます。
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