【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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配信に興味のない私とドラゴンの肉の祝勝会⑵

 

 役割を分担したので、早速肉を切ろうと思ったのだけれど、灰原さんに止められてしまった。

 

「肉切るのは後でですよ」

「何故です?」

「いや、この後移動するんでしょう?」

「あ」

 

 ちょっと呆れたような灰原さんの言葉に、思い出す。そうだよ。ここボス部屋とかじゃないから、普通に危険なところだった。流石に気を抜きすぎてるな……

 ドラゴンの解体を済ませたら階段まで移動して、安全をある程度確保してからって話だったのに、ドラゴン肉の予想外の美味しさに、その話がどっかに行ってしまっていた。

 ということは、まずこの肉をシートでくるんで大鍋に入れて収納魔法に……ダメだ。大鍋の中にも荷物を入れてたせいで入れられない。

 いや、それはそうなんだよ。こんなに大きなモンスターを仕留めて食べる予定が無かったから、拠点まで持ち帰ってから解体して食べる予定だったんだよね。

 ふむ……しょうがない。普段なら燃費が悪すぎて使えない手だけど、今なら大丈夫だろう。

 

「クラーラ」

「!? お、おお、クラゲもいんのか……」

 

 クラーラを召喚する。こいつは意外と力持ちなので、大鍋を持って着いてくるくらいなら余裕である。こんな用途で呼び出したのは初めてだけども。

 もしかして、不満があるかな? と思っていたんだけど、クラーラは触手でムキッて感じのポーズを取り始めたので、大丈夫そうだ。サイドチェストらしきポーズをやり始めたけど、下半身がないから変なポーズになっている。

 そして、クラーラをいきなり出したせいで、灰原さんを驚かせてしまった。事前に言うべきでした。

 

「すみません、驚かせてしまって」

「ああいや……お、なんだ、どうした……?」

 

 クラーラに灰原さんに挨拶してーって促すと、灰原さんの方にふよふよと近づいて触手をフリフリ。うん、可愛いねぇ……

 灰原さんも、ぎこちなくはあるけど手をふりふり。途中からクラーラと握手し始めたので、大丈夫そうだ。灰原さんもちょっとぎこちないけど笑顔だし。うちの使い魔はみんな可愛いのである。

 

「……他にもいるんです?」

「いえ、この2体だけです。今は」

「今は」

 

 最後のところだけ復唱して真顔になる灰原さん。何か問題があっただろうか……?

 ともかく、やることは決まった。あとはもう少し肉を用意して撤退しよう。

 私が解体を行い、後ろで灰原さんがそれを成型、最後にシートでくるんでから大鍋に投入。この流れで行くことになったのだが、灰原さんからこんな提案をされた。

 

「可能なら、タンも用意しません?」

「タン……いいですね。用意しましょう」

 

 なるほど、タンか。確かに、焼肉では定番の部位だ。となると頭の解体もしないとだな。

 確か、タンは根元の部位が美味しいはずだから……よし、舌がどこまであるのかわからないから、一旦上顎を全部除去してしまおう。それで切り出した方がうまくいくだろう。

 顎の関節辺りにショートソードを差し込んで筋を切り、浮遊魔法で持ち上げて上顎をどかす。このショートソード、本当に切れ味が凄まじいな……このドラゴン相手でも余裕でスパスパ切れるじゃん。そのうち、ここのカニが落とすクリスタルの鎌で作ってみたいね。とっても綺麗になりそうだ。まあ、鞘どうすんだよ問題はまた再燃するかもだけども……同じ素材なら大丈夫なはず。多分。

 さて、後はここから舌を……む? 意外と舌って長いんだな。首の方にもあるのか。じゃあ、首もこう切ってしまって……

 そうやって舌を切り出そうとしている私のもとに、花奈さんがやってきた。

 

「灰原さん、夢希さんの手元をじっと見つめてどういたしましたの?」

「あ、北条さん……いやその、あれって武器なんすよね?」

「武器……? あれは調理器具ですわよ?」

「あ、そうなんすね」

「……武器ですよ?」

 

 思わず解体の手を止め振り返って反論する。何を言ってるんだ花奈さんは。これはショートソードなんだから武器だよ。確かにほぼずっと調理にしか使ってないけどさ。灰原さんも納得しないでほしい。

 ……いや、本当に、これを最後に武器として使ったのっていつだっけ……?

 そんな風に思いをはせていたら、花奈さんが笑いながら追及してくる。

 

「あら、違いましたの?」

「ちがう、よ……?」

 

 花奈さんの追及に目をそらすことしか出来なかった。今思い返しても、これを作ってから武器として使った回数なんて片手で事足りる気がする。

 おかしいな。かっこよくこの剣を浮遊魔法で振り回すはずだったのになぁ……いつの間にかずっと料理にしか使ってないな。でもしょうがないんだって。モンスターって大きいんだもん。

 これは、本格的にちゃんと大型の包丁を作ろう。前も考えてた気がするなこれ。でもさ、素材の選定が難しいんだよね。切れ味良すぎちゃうと骨まで切っちゃうし、ある程度切れて、かつ骨が切れない程度とかいう……地上に戻った後で蛇目さんに相談してみようかな。あの人だったら、モンスターの素材にも詳しいだろうし。

 よし、気を取り直して、舌を取り出して……先端を切り落として《グラビティ》で血抜きをする。うん、今度からもこうしようかな。もっと効率的に血抜きが出来るようになるしね。調整が必要だけど、これも練習すればもっとうまく行けそうな気がするので、これも練習しよう。

 なんだか、やりたいことがどんどん増えていくし、やれることも増えていくのが楽しいね。やっぱり、冒険はこうでないと。

 切り取り終わった舌を灰原さんに渡してっと。流石に他の部位は追加するのは難しそうなので、反対側も切ってくることにした。これで量も確保できるしね。大鍋に入るだけ持っていこう。食べきれなかった分は冷凍して保存食にすれば無駄がないしね。集められるときに集めておくべきなんだよこういうのは。冷凍庫がないのがアレだけどね。

 大鍋に肉を詰め終わり、クラーラがそれを持ち上げて若干ふらつきながらついてくる。

 

「大丈夫ですか、クラーラさん」

 

 花奈さんの問いかけに、一度大鍋を置いたクラーラが4本の触手でマッスルポーズを取る。そして、また若干ふらつきつつ追いてくる。

 悪いけど頑張ってね。今度いっぱい撫でまわしてあげるから。

 

「こいつ、本当に大丈夫なんです? ふらついてますけど……」

「本人がやる気なので大丈夫です。無理な時はちゃんと無理って合図するので」

「やる気の問題なんですのね……」

 

 3人で会話しながら美弥子の方に行ってみると、それはそれは大きく綺麗なクリスタルの焼き肉プレートが用意されていた。周囲の物から切り出したためか、光の加減で青にも紫にも見える不思議な焼き肉プレートである。円形で、直径1メートルちょっとくらいのサイズである。

 地上の値段に換算するといくらになるのかちょっと気になったのは内緒だ。

 

「こっちも出来てますよ!」

「たまにはこういった加工も楽しいものですねぇ」

 

 長谷川さんもニコニコしながら手を拭いている。この人も本当に多才だなぁ……ここに至るまで、偵察機なんかもパパっと作ってくれたしね。縁の下の力持ちってこういう人のことを言うのだろう。

 さあ、準備は出来たし、一応の安全地帯である階段を目指そう!

 

「金守さん、準備出来ました」

「よし、移動を開始する……その、クラーラ君は大丈夫か?」

「本人がやる気なので大丈夫です」

「……そうか」

 

 金守さんにもクラーラの心配をされてしまったが、クラーラはというと、器用に3本の腕で鍋を持ち、残り1本の腕でこっちにガッツポーズをしていた。うむ、大丈夫そうである。

 ここから階段まではそう遠くない。ドラゴンの待ち伏せにいいところを探している間に発見できたのだ。

 上の階層に繋がっている部分が岩で塞がっていて、出口としては使えないものの、折り返して踊り場があるタイプの階段だった。通路の横についているタイプだったので、正面からモンスターがやってくることもない。

 そのため、出口側に荷物を置いて踊り場を寝食の場に、今いる階層と繋がっている部分に簡易的に防壁を築く。という感じの拠点を形成する予定だ。上から撃ち下せるから強いんだよねこの作り。私しか魔法使いいないけど……

 

「あの、ご飯食べた後ってどうするんですか?」

 

 階段に移動している途中、金守さんに彩音さんが不安そうに質問を投げる。この状況だもんね、不安にもなるか。私はなんかもう慣れちゃってるからなぁ、ダンジョンの中で長時間生活することに。

 

「今後の予定を話し合う……といいたいところだが、まずは皆休息を取るべきだ。交代制で仮眠を取り、会議はそのあとでだな」

「そんな悠長に構えていいんですの?」

「緊張し続けるのは限界がある。最大の脅威が去った今のうちに、少しは寝ておかないと厳しいだろう」

「だなあ、あのドラゴンは討伐したけど、あれがどういうモンスターなのかわかんねえからなあ……」

 

 花奈さんの少々トゲの見える発言に、金守さんは冷静に返答を返し、それに浜面さんが同意する。

 あのドラゴンがどういうモンスターなのかわからないも何も、さっきまで戦ってた通りじゃないのかな? クリスタル化のブレスを吐いてきて、身体能力がそれなりに高くて美味しい。別の意味があるのだろうか?

 そう思って首をひねっていたら、灰原さんが先に質問してくれた。

 

「兄貴、どういうモンスターなのかわからないってどういう意味すか?」

「ん? いやあ、ほら、アレが例えばボス部屋から出てきたイレギュラーだったらこれで終わりだけどさ。もしかしたら徘徊型のボスだったり、レアモンスターだったりするかもしれないだろ? そうなるとまた戦わないといけないだろ?」

「そういうことだ。今回は完勝だったしある程度情報も手に入ったが、次回も同じように完勝出来るかどうかは分からない。ただでさえこちらは消耗していく一方なんだ。休めるときには休んでおかないとな」

「なるほど……」

 

 灰原さんが顎に手をあてて考え込んでしまった。でも、他の面々も同じようなものだ。私だってそうである。

 確かに、こっちは消耗していく一方だ。常に警戒は怠れないし、食事も睡眠もとりにくい。物資にも限りがある。休めるうちに休んでおかないといけないというのは、納得のいく話だ。

 ちなみにだが、私がこの話を初めて聞いた、みたいな反応になっているのは、前回の渋谷では寝る間も惜しんでひたすら解体作業をしていたからである。30人とかいたからね……寝てる暇が本当になかった。たまに休憩は取ったし、その時に寝たような気もするけど、どうだったかな……レベルである。

 今回は少数だし、貯えもある。何も問題はない。だから、私はこう言おう。

 

「……じゃあ、美味しい料理で少しでも回復しないとですね」

「ふっ。ああ、頼んだぞ物前君」

 

 

 

 




次回こそ食べる……はず。もしかしたら、料理描写で終わる可能性はあります。
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