【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

17 / 173
アンケートのご協力、ありがとうございました。


配信に興味のない私と食事の準備

 

 もう一匹、迷宮イモリを倒しに行く。彩音さんは、さっきの話を頭に入れたとはいえ、そうそう意識も考え方も変わるものじゃない。とりあえず、攻撃は《地砕き》以外使わないで、首を狙えないなら攻撃をしないように。と注文をつけた。さっきの戦いを見ている限り、全ての攻撃を躱す、ないしは防御出来ていたから、まずはこれで、隙を作るのではなく突くことの練習をするべきだと判断した。彼女は、自分で攻撃するという経験が足りてなさすぎるからね。目の前で、彩音さんが再度迷宮イモリと戦うのを見ながら、少し思考を回す。

 彼女が今のような状態になってしまった原因について、私の中で仮説はある。彩音さんが悪いわけじゃないし、前のパーティのせいとかでもない。彩音さんに槍系のユニークスキルが発現したのに、使えるようになった汎用スキルが斧系のスキルだったせいだ。なんでそのせいかと言うと、結構単純な話になる。

 ギルドで研修を終えて、その時発現したユニークスキルに合わせて武器と防具を揃えて、さぁ冒険!ってなった冒険者が、突然出てきたスキルに合わせて別系統の武器を改めて買うのは、不可能に近い。何故なら()()()()()()()()()

 慣れるまでケガの治療費とか装備品の修理費とかで、生活自体がカツカツになる人も少なくないんだ。そもそも初期投資でお金がごっそり減ってるしね。相当なお金持ちなら違うだろうけど、彩音さんはそうじゃなさそうだし。ユニークスキルの詳細までは聞いてないけど、使ってるようには見えないから、そこまで便利に使えるスキルじゃない。そして、火力に直結する汎用スキルは武器の関係で使えない。そんな状態で、彩音さんがパーティに貢献するなら、どうするか。

 その答えが、モンスターの隙を生み出すことに特化した戦い方だったんだと思う。そして、お金が貯まる頃にはその戦い方が染み付いてしまって、武器を買い直して火力を出せるようになったのに、自分で攻撃するという選択肢の優先順位が低いままで今に至る。というのが私の仮説。

 誰が悪いとかでもなく、ただちょっと巡り合わせが悪かったというだけの話。本当に、ただそれだけの話だと思う。

 

「《地砕き》!」

 

 お、彩音さんがとどめをさした。綺麗に一撃。最初に比べたら、時間は半分以下だし、なんなら息切れすらしていない。

 

「お疲れ様」

「ありがと……」

「実感した?」

「うん。ホントに、無駄な行動ばっかりしてたんだね……」

 

 ちょっと凹んでるな彩音さん。ただ、その実感は大事。今後の糧にしてもらおう。ちょっとスマホを取り出して時間を確認。もう一匹くらいはいけるかな。本人次第だけど。

 

「時間的にはもう一匹なら行けそうだけど、いく?」

「行きたい」

「分かった」

 

 即答が返って来る。やる気に溢れてるね。そうして倒しに行ったもう一匹は、なんと初手で倒してしまった。飛び掛かりを回避して、綺麗に首を切断。びっくりするほど見事だった。本人もうまくいって嬉しかったのか、見たことないほどご機嫌である。

 

「ふふ、やった♪」

「今のは本当に見事だったよ、アヤネさん」

「だよね!」

 

 "完璧やろ今の”

 "瞬殺だったな”

 "めっちゃご機嫌やんw”

 "可愛い!”

 

 時間も時間なので、目的地の小部屋に移動する。ミノタウロスとはまだ会ってないけど、ちょうどここから小部屋に行く途中に1頭いるみたいなので、そいつでいいだろう。こういうのを、「突撃、お前が晩御飯!」って言うんだって、凉が言ってたな。

 

 

 

 

 

 ミノタウロスを即殺し、小部屋に辿り着いた私たちは、安全であることを確認し、部屋の隅に結界石で結界を貼った。これで、今日の夜までの拠点になるんだから、本当に便利だよねこれ。収納魔法にしまっていた荷物を置いた後、私は彩音さんにとあるものを差し出した。

 

「さて、今からこいつの解体をするんだけど……」

「けど?」

「アヤネさんには、その間に今日のお昼の食材を用意してもらおうと思う」

「え……?」

「これを使って、Mr.クマを釣ってもらう」

「…………???」

 

 釣り竿である。6代目だ。改良に改良を重ね、おそらく今回でついにMr.クマを釣り上げられるはずの釣り竿である。あと、エサの鶏肉。

 彩音さんが固まってしまった……背後に宇宙の幻覚が見えるな。説明したいんだけど、大丈夫だろうか…?

 

「アヤネさーん?おーい」

「……はっ!?いや、なにこれ釣り竿!?」

「そう。自作のね」

「自作!?ま、まぁそれ置いておいて……これで何を釣るって……?」

「Mr.クマ」

「Mr.クマ……」

 

 "あ、あれは!?”

 "釣り竿、釣り竿じゃないか!!”

 "まーた作ったのかwww”

 "6代目だっけ?www”

 "まだ諦めてなかったのねwww”

 

 Mr.クマは、30センチくらいの魚系モンスターで、渋谷ダンジョンの水中にいる。どんなモンスターかというと、ピラニアみたいなもんなので、万が一水に落ちると結構危険なのだが……渋谷ダンジョンはそもそも水が溜まっているようなところはほぼなく、上層中層に、浅い川みたいなのがあるくらいであり、下層まで来てようやく、たまに小部屋の隅に池がある。川にはこいつらが潜れるほどの深さがないので、下層の池にしかほぼいない。水だー!なんて飲みに行ったりすると、ガブっとやられる。事前に雷魔法とかを池に叩き込んで殲滅するのがセオリーのモンスターだ。ちなみに、ドロップアイテムは金色の真珠みたいなやつ。ほとんど落とさない、俗に言うレアドロップなので、かなりの高級品である。

 そんなモンスターなのだが、こいつ美味しいのだ。生態がピラニアじみているだけの鮭なのである。見た目もほぼ鮭。サイズがサイズなので、串で刺して丸焼きに出来るし、塩振って焼くと美味い。他の調理法も試してみたいが、その前にまずこいつを釣り竿で釣りたい。前は失敗して投網で無理矢理捕ったからな……

 

「あのさ、Mr.クマって釣れるの…?」

「その6代目の釣り竿なら多分いける」

「6代目!?そんなに作ったの!?」

「釣り竿のパーツの強度不足が順番に判明していった結果だね……」

「……具体的には?」

「竿、糸、針、リール、リールと竿を繋ぐネジ」

「ホントに全部のパーツじゃん!」

 

 "うむ。アヤネさんはいいね”

 "染みるわー”

 "ええぞー”

 

「エサはこの鶏肉使ってね」

「う、うん。唐揚げ用……え、待ってホントに釣るの!?」

「釣ってくれないと、お昼がなくなる」

「嘘でしょ!?」

 

 事実である。お昼の用意はない。いや、一応米はあるけど、ここで食べてしまうと、ミノタウロスカレーを米なしで食べることになる。それは嫌だ。なので、彩音さんには頑張ってもらいたい。それに、自分で釣った方がきっと美味しい。

 さて、お昼の確保は彩音さんに任せたから、私は夕飯の準備をしなくては。ミノタウロスの解体である。といっても、ミノタウロス自体の解体は、なんというか……クマの解体に近い。正中線に沿って切れ込みを入れて、皮を剥いだのち、各関節を切り離してって感じである。ただ、これまでの食べてきた経験上、こいつのパーツで美味しく食べられるのは、脇腹辺りから肩甲骨のかけての部分なので、下半身には触れない。

 

「結構スムーズに解体していくね……」

「…………なんで見てるの……?」

「だって気になるし……」

「そっかー……」

 

 あの、お昼……まぁいいか。ミノタウロスを解体しながら、彩音さんと会話を続ける。私も逆の立場だったら絶対同じことするだろうし。

 

「……こういう解体も手探り?」

「手探りではあるけど、参考資料は調べてからやるよ」

「資料なんてあるの?」

「ミノタウロスの場合は、クマの解体方法を調べてからやったよ」

「クマの解体……調べる時はサイズ感とかで当たりをつける感じ?」

「だいたいそんな感じ。あとは、種族かな」

「種族?」

「例えば、前の砂ウツボは魚だから、魚の卸し方を調べる」

「なるほどねー」

「これ繰り返してたら、《解体》のスキルが発現したよ」

「初めて聞いたスキルだよそれ!?」

「うん。私も発現した時に初めて知った」

 

 ちなみに効果は、物体を解体するときの作業効率の上昇だ。お陰で前は数時間かかっていたミノタウロスの解体が、今では1時間かからないんだから、なかなかの効果である。なお、スキルの辞典には載っていた。食肉加工の人たちやマタギの人たちは、結構持ってるスキルみたいだ。

 

 "俺も初めて聞いたぞそのスキルwww”

 "そんなのあるんだwww”

 "レアスキルでは???”

 "そうかもしれん!”

 

「レアスキルだったり……?」

「マタギの人とかは結構持ってるみたい」

「あー……なるほどね」

 

 "違うんかーい!!”

 "まぁ、そりゃ持ってるか……”

 "今ネットで調べたら普通に出てきて草”

 

 ……よし、使う分の解体終了!もうあとは、《魔力の矢》で結界の範囲外の床に作った穴に放り込んでダンジョンに任せる。最初はなんか、もったいないな……とか命を貰うのに……とか思ってたんだけど、そもそもモンスターの死体とかその辺にぶん投げっぱなしなんだから、気にしてもしょうがないという結論になった。

 

「これで終わり。さて、これの下処理するよ」

「どうするの?」

「一口大に切って茹でて、大量に出てくるアクを取り除いて、その後ネギと生姜と一緒に煮込む」

「そのあとにカレーとして煮込む感じ?」

「そう。カレーはタマネギ炒めるところからやる」

「す、すごい本格的……」

 

 "めちゃくちゃ時間かける気やん”

 "くっそー、美味そうだなぁ……”

 "やらないと分かっているが、オフ会とかやらないかな……”

 "食べてみてーよなー俺もなー”

 

 コンロと鍋を取り出し、ミノタウロスの肉と水を投入。茹でていく。そして、いい加減、彩音さんには釣りをしてもらわないと困る。お昼がなくなってしまう。

 

「アヤネさん」

「なに?」

「Mr.クマ釣ってくれないとお昼が……」

「わ、分かった……あの、これ普通に釣れば大丈夫?」

「水の中に引き込まれそうになったら、釣り竿離していいからね」

「引き込まれたらどうなるの……?」

「Mr.クマに食い荒らされる。たぶんお腹辺りからこう……」

「絶対離すね!!」

「頑張って釣ってね。お昼がかかってるし、丸焼きは美味しいよ」

「!!私、頑張るね!」

 

 "こっわ”

 "まぁ、あいつら鮭の見た目したピラニアだからな”

 "つか、なんでMr.クマなの?”

 "クマの主食だからやろ”

 "いや、命名者曰く、ドロップアイテム見て思いついたらしい”

 "ドロップアイテム……?”

 "金色の真珠だっけ?”

 "くっそそういうことかwwwww”

 "そいつゲーマーやろwww”

 

 




某イカゲーが元ネタ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。