【書籍化】配信に興味ないダンジョン配信者は今日も配信する   作:もけねこ

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配信に興味のない私とドラゴンの肉の祝勝会⑶

 

 階段に到達した私たちは、まず拠点の作成を開始した。当たり前だがここで確実に数日は生活するので、ある程度ちゃんとしたものを作らないといけない。

 当初の計画通り、未探索領域に続いている階段には《ガイアウォール》で簡易的な防壁を築いておく。普段だと下から生やすだけにするんだけど、カメレオン対策で上にも一個生やしておく。壁に張り付いて動かれると面倒この上ないね本当にさ。

 踊り場を挟んで、上に繋がる階段に荷物を置いていく。収納魔法の中の物は全部出しておくことにする。私に万が一があったときに、何もなくなる可能性があるから念のために全部だ。これまではまだ拠点がなかったから置く場所がなかったけど、今はあるしね。

 調査班の機材なんかもこっちに置いていく。上から何か落ちてくる可能性はあるので、《ガイアウォール》で周辺の瓦礫をまとめて固めておく。崩れてくるのは勘弁してほしいし。荷物を運びこみ終わったら、踊り場にレジャーシートを敷いて、もう1枚あった機材を覆っていたシートでそれを覆ってプライベートスペースを作る。

 そのスペースの前に、《ガイアウォール》で簡易的なテーブルと椅子を作って、仮拠点の完成である。

 

「手慣れてるな……」

「ダンジョン内で生活するの、慣れてるので」

 

 大抵のことを私が指示を出しながらやったら、金守さんから呆れ交じりの感心をされてしまったので、実情をちゃんと伝えておく。

 冒険者になってからというもの、寝ている時間を除けば地上よりもダンジョン内で過ごした時間の方が長い人間である。最初はアウトドア用品も揃えていなかったので、こんな感じで色々作っていたのである。魔法って本当に便利。みんなももっと使おうよ。

 

「慣れるもんなんすか……?」

「灰原さん、夢希さんにその辺りの常識を求めるのが間違っておりますわよ」

「そうだよ灰原君。夢希ちゃんはダンジョンに住んでるんだから」

「え、ええ……?」

 

 灰原さんの疑問に、花奈さんと彩音さんがかなり誇張した答えを返して、灰原さんが困惑している。

 いや、前言撤回。誇張でもなんでもない事実を告げただけだね。うん……

 

「ブルヒィン! 随分好き放題言われてんじゃねえの夢希」

「…………」

 

 後ろから浜面さんがフォローを入れようと声をかけてくれたんだけど、目を背けることしか出来なかった。

 私が無言のままでいると、疑問に思ったのか、首をかしげる気配がした。

 

「? どうした?」

「……いえ、その、ほぼ事実なので……」

「お、おう、そうか……」

 

 ほらあ! 浜面さんも気まずくなっちゃったじゃん! でも、本当のことなんです。すみません浜面さん。

 よし、切り替えてご飯の準備しよう。

 まずは灰原さんに焼き肉の用意をお願いして、その間に私はテールスープを作ろうかな。

 

「灰原さん、焼き肉の用意をお願いしてもいいですか?」

「分かりました」

 

 灰原さんが肉の塊を切り始めるのを見て、私も自分の作業に移る。

 肉の入った大鍋から、尻尾の肉を取り出してと。

 これから作るのは、ドラゴン肉のテールスープである。先ほど食べた限り、普通に食べることも可能だが、どうせなら汁物があった方がいいだろう。骨に関しては今回は入れない。骨を入れると旨味やコクが出るけれど、煮込まないといけないからね。流石にそんな時間はないし、そもそも焼き肉でそれなりに脂っこいお肉も食べるので、あっさり目の味付けにしておきたい。

 お米もないからね。ちょっとくらい持ってくればよかったかなぁ……

 まずは、コンロに鍋を乗せてお湯を沸かしておく。その間に私は尻尾の肉をサイコロ状にカットしていく。ちょっと筋張ったところもあるけど、それもいいアクセントになるはずだ。肉を切ること自体にはそこまで時間はかからず、お湯が沸くまで時間がある。なのでその間に、にんにくをおろし、生姜をスライスし、ゴボウをささがきにし、ニンジンとジャガイモを乱切りにする。いやあ、この辺のものたくさん用意しておいてよかったね。味付けに困らないのがこんなに楽だなんて。渋谷の時は、味付けなしだったもんなぁ……なんて遠い目をしてしまう。

 そんなこんなで沸いたお湯に、切った肉をさっとくぐらせて霜降りにして、水で表面を洗い流す。これで表面のアクは取り除けた。

 次に、鍋のお湯を一回捨ててから油を敷く。そこに先ほど用意したにんにく、しょうが、ごぼう、鷹の爪をいれて弱火でじっくりと炒めていく。骨のない分、こういうところで補うと美味しいのである。

 そして、にんにくの香りが辺りに漂い、ゴボウが油を吸ってつやを帯びてきたところで、少しばかり強火にして温度を上げていく。パチパチと油がはじける音がし始めたら肉を投入!

 ジュー……という音とともに、肉の香りが辺りにあふれる。うーん、すでに美味しそう……肉の表面に焼き色を付け終わったら、水と少しの調理酒を投入。あとは一気に沸騰させて……

 

「うわ、アクの量がすごい……」

 

 凄まじい量のアクが出てきたので、せっせとアクを掬っていく。鍋から溢れそうになるアクの山をどんどんすくい続けていると、ようやくアクが出てくるのが収まった。

 

「お。もう結構透き通ってて美味しそう」

 

 アクを取り切ってしまうと、そこには透き通ったスープがあった。うん、いい感じいい感じ。あとはここにニンジンとジャガイモを入れてコトコトと煮込んで、最後に味を調えれば完成である。

 一旦こっちが落ち着いたので灰原さんの方を見れば、いつ間にやら金守さんと彩音さんが肉を切っており、灰原さんはボウルを前に何やら悩んでいた。

 

「どうしました?」

「いえその……タレ作るのはいいんすけど、皿がないなって」

「え? あ」

 

 灰原さんの困ったような声に私は思い出す。そうじゃん皿がない。一品料理しか考えていなかったから、そもそも深皿が人数分しか持ってきていない……! スープと一緒に肉を焼いても、そもそもタレを付けられる皿がないのである。

 そうなると塩コショウのみという感じに……それだと悲しいし、でも方法が……いや、あるか。

 私は、目の前にあるクリスタル製の焼き肉プレートを見て、とある案を思いついた。

 

「ねえ美弥子」

「はいなんでしょう!?」

「クリスタルでお皿作れる?」

「お任せください! 長谷川さん! やりますよ!!」

「ええ、お任せください」

 

 とても元気のよい返事を貰えたので、多分大丈夫だろう。クリスタル製のお皿なら、まず割れたりしなさそうだしね。

 いうが早いか、すでに階段の壁に取り付いて何やら作業をし始めたので、とりあえずはよし。というか、長谷川さんとクーの仲の良さがすごい。もう、何も指示されなくても動いてるじゃん。

 クーとクラーラにも、後でお肉を分けてあげよう。クーはともかく、クラーラのどこに口がついてるのか疑問なんだけど、何故か普通にお肉を食べるので、まあそういうことなんだろう。

 皿を作ってもらっている間に、こっちはタレのレシピ案でも考えようかな。

 

「灰原さん、タレどんな味にします?」

「定番の醤油、塩のタレは作ろうと思ってて、後はどうするか悩んでる感じですね」

 

 灰原さんの案は、醤油と塩の二本立てで、どちらも定番品といった感じだ。一工夫入れるとかはするだろうけど、正直それでいいんじゃないかとは思う。

 強いて言うなら、辛みそみたいなのは用意しようかなと思ったので、それはこっちでやって、その二つは灰原さんに任せようかな。

 

「ネギ塩欲しいでーす! タンの上にのってるやつ!」

 

 と、肉を切っている彩音さんからリクエストが。あー、あれかぁ……美味しいよね。塩ダレかレモン汁に合わせると大抵のものに合うし。

 ネギも持ってきたしね。土付きのやつ。洗ったやつじゃなければ、結構長持ちするのである。ダンジョンの内部は気候がダンジョンごとに一定なので、極度に熱いところとかじゃなければ問題なし。ポイントは、新聞紙か何かで包んだうえで、立てて置いておくこと。横に寝かせるとダメである。

 

「わかった、作るね」

「他にリクエストある人はいます?」

 

 灰原さんが周りの人にリクエストを求めると、特に意見が出なかったので、タレに関してはここで終わりにする。

 タレ以外だと、ご飯をリクエストされたんだけど、持ってきていませんので諦めてくださいとしか言えない。私だって食べたい。

 というわけで、灰原さん主導のタレの作成開始である。

 

「まずは、にんにくおろしてもらっていいすか」

「はい」

 

 指示通り、にんにくをおろしまくっていく。にんにく、肉料理なら何にでも使うし、何にでも合う説、あるんじゃないかと思っている。

 これから作ろうとしている醤油だれにしろ塩だれにしろ味噌だれにしろ、全部に入れる予定あるしね。あればあるだけいいだろう。まあ、本来今後のことも考えて使わないと、後で後悔しそうではあるのだが、今日はそういうのは無しで。明日以降考えよう。

 私がにんにくをおろしている横では、灰原さんがネギをみじん切りにしていた。普段から自炊しているだけあって、手際がいい。これだと早めに終わりそうである。

 

「次は鷹の爪砕いてもらっていいすか。そのあと、味噌とよく練って下さい」

「わかりました」

 

 なるほど? ピリ辛味噌だれというか、本格的にコチュジャンっぽくするつもりだね。指示通りに鷹の爪を砕いていく。砕くって言っても、そもそも乾燥した輪切りのやつなんだけども。

 とはいえ、すり鉢なんかは流石にないので、包丁でトントンやっていく。周りに飛び散らないように、ごく小規模の《グラビティ》を添える。これ本当に便利なんだよね。片手空くし。その優位性を今のところ活かす方法が思いついていないけれども。

 

「……当たり前のように魔法まで使い始めたが……」

「夢希ちゃんの魔法に常識を求めないでください。《グラビティ》で天井を歩ける子ですよ?」

「あれって、そんなことまで出来んのかあ……」

「夢希さんの魔法は、本当に魔法のようで素晴らしいですわ。まあ、少々驚きが先に立ちますが……」

 

 なんだか他の面々が何やら言っているが無視だ無視。今はこのご飯の準備の方がはるかに大事。

 砕いて粉末状にした鷹の爪を味噌に混ぜ込んでいく。よく混ぜていい感じになったら、醤油、砂糖、おろしにんにくを入れて、さらに混ぜる。

 ちょっとだけ赤みを帯びた、味噌のタレが出来上がった。うんうん、味見したけどいい感じだ。後味でちょっとだけピリッと来る感じ。

 

「物前さん、このスープ使っていいですか?」

「はい、いいですよ」

 

 灰原さんが私が煮込んでいたテールスープの方へ行くと、表面の油をさらって製作中の塩だれの中に入れ始めた。あー、それ美味しそう。

 そのあと、各たれを少しだけ温めて、にんにくの角を取って、完成である。

 にんにくと生姜で味を付けた醤油だれ、テールスープの油でコクを出した塩だれ、ピリッと辛い味噌だれの三種類のたれと、お好みの薬味ということで塩ネギが完成した。

 テールスープの方もいい感じに火が通っていたので、塩コショウで味を調え、ほんの少しだけ酢を加え、最後に醤油を隠し味的に加えて完成!

 美弥子と長谷川さんも、お皿を人数分用意してくれた。普通のお皿じゃなくて、焼肉屋さんにあるような、三つのへこみが連なった長方形の皿である。まさかこれが出てくるとは思ってなかったよ。

 

「よし、全員にいきわたったな」

 

 金守さんがみんなを見渡して確認する。みんなお肉が山積みになった皿を前に、よだれでも垂らしそうな勢いである。浜面さんには申し訳ないけど、テールスープで煮込んだニンジンを下処理したものをたくさんあげたので許してほしい。

 

「では、乾杯!」

「乾杯!」

「かんぱーい!」

 

 よおし、食べるぞー!

 

 




食べるのは次回で!!
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